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偽主  作者: シュカ
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シドを守る作戦

「皆、深刻にさせてしまって申し訳なかった。先ほども言ったが俺としてはシドを退部させるつもりも退学させるつもりもないのだ」

 

 キーツはいつもヘラッとしている彼にはあまり似合わない焦った顔でみんなの顔を見渡した。

 

 「ユウリの言うように今回の件は俺の確認不足も原因だからな。シドだけに責任を追わせるつもりなどない。だが、リャッカの言うようにシドにも少々いきすぎたところがあった。それについてはペナルティを課すことにする。なに、学園生活に影響を及ぼすものではないから、そこは安心してほしい」

 

 キーツは自分の判断をシドに向き合って話した。シドは口を開く。

 

 「僕が勝手な真似をして、皆さんに心配と迷惑をかけたこと、改めてすみませんでした」

 

 「よい、我々にも落ち度があった。…リャッカよいか?」

 

 先ほどから黙っていたリャッカにキーツは優しい視線を向け彼が話すのを待った。リャッカは器用にも腕組をしたまま片目を開ける。

 

 「こいつを残すことには俺は反対だ。次はないと思え。ラドウィン先輩がいいっつっても俺がお前を排除する」

 

 厳しい言葉は彼からしたら当然だ。だが、彼もバディを組んで仕事をしていた。後輩を止められなかった落ち度を自覚し、今回限りのチャンスを与えたつもりだった。それを悟れないでキョトンとしたシドを察して、キーツはやっとのこと普段通りの表情に戻り笑顔を見せる。

 

 「リャッカもシドの残留を認めてくれたことだ。今後のことを話そう」

 

 「あの!本当にそれでいいんですか?」

 

 ホッとした顔をした女子メンバー、そっぽを向いているが大人しくしているリャッカ。ティムは最初から変わらない様子でニヤついていたが、シドの処遇は決まったと言わんばかりの和やかな雰囲気にシドは思わず制止の声を上げた。

 

 「なにがだ?」

 

 リャッカはとぼけるように首をかしげる。それにごまかされてしまうシドではない。

 

 「僕をこのまま生徒会に残すことがです。僕は先ほどお話しした通り、とんでもない過ちをおかしました。生徒会どころか学園を追放されてもおかしくなかったはずです。それをこんなに簡単に僕を残してしまうことを決めていいんですか?」

 

 身を乗り出してやや早口で話すシド。自分でも僕が言うことではないと分かってはいたものの口に出さずには入られなかった。背後からのアルベルトの視線が「やめなさい」と突きささるように感じるが今はあえてそれを無視する。後で怒られる材料が増えたことは確定だが。

 

 「終わった話を蒸し返すではないぞ。シド、お前はペナルティを課されそれをなし終えたら、今まで通りプロトネ学園生徒会として活動してもらう」

 

 「ですが…」

 

 なおも納得していないシドに向けキーツは諭すように話しかける。

 

 「シド、我々生徒会は生徒を守るために存在しているのだ。お前もプロトネ学園の生徒の一人だ。我々はお前のことも守るぞ」

 

 「僕は…さっきリャッカ先輩が言いましたけど部外者とされても当然だと思いした」

 

 うつむきかける顔をうつむかないようにシドは意識する。アルベルトの視線が鋭くなったのか、さっきより後頭部に向けられる視線の存在感が増している気がする。だけど、シドにとってこれは無視できない問題であった。

 

 キーツはなにをいっているんだ?というように顔をしかめた後、ふぅと息を吐いた。

 

 「シド、つまりお前は自分が部外者だとプロトネ学園の生徒ではないと言いたいということか?」

 

 キーツは確認するようにシドに問うた。その迫力にシドは思わず息を飲む。沈黙を肯定とキーツは受け取ったようだった。

 

 「リャッカが本気でそう言っているとしたらお前はすでに学園からいなくなっている。リャッカは行動力に優れた男だからな」

 

 視界の済にチュリッシェがリャッカの脇腹を強めに肘でついた光景が写った。リャッカは痛そうに顔をしかめたがシドが見ていたことに気づいたのか、ばつが悪そうにそっぽを向いた。

 

 「俺を始めとして生徒会の者達はシドのことを仲間だと思っているのだ。もう部外者だと簡単に切り捨てることはできないと俺は思う」

 

 リャッカは真剣にシドを見据えてそう言った。誰もそれに違うという意見をぶつけない。シドが皆を見渡す。

 

 ユウリの優しいお姉さんの微笑みで頷き、チュリッシェの猫のような相貌が当たり前のことを聞くなと物語る。ティムが首をかしげ、ああと納得したように呆れ顔に変化し、リャッカは一瞬だけ目があったが、先ほどまでの敵対心はそこにはなかった。

 

 シドは本当にこの人達はお人好しだと思いながらもにっこり笑って見せた。

 

 「本当にありがとうございます」

 

 声が震えないように気を付けていたが、それも見抜かれてしまったんだろうか。キーツが穏やかな顔つきでそれを見守り受け入れた。

 

 「分かってくれたようで良かった。だが、喜ぶのは早いぞ。問題はこれからなのだからな」

 

 シドが落ち着くまでの少しの時間がすぎ、リャッカは再び表情を引き締める。

 

 「かいちょーがシド君をこのまま置いとくとすんならさ、それを学園では話せないから、わざわざシド君ちに来たってこと?」

 

 「ああ、そう言うことだ。そしてこれが一番の難関でもあるが、皆も理解しているようだな」

 

 皆の表情も自然と引き締まったことで、キーツはそう理解したらしい。ティムが楽しそうにこっちを見た。

 

 「学園側で…というよりも校長先生ですね」

 

 シドが少しだけ重い気持ちで口にする。キーツが頷く。

 

 「ああ、シドが例の組織のものとの関わりを持った。それも自分の会社の下部組織としての契約を結ぶという深い関わりだ。それが学園側に漏れるのも時間の問題だ。そうなった時に組織を潰すという校長先生のシークレットジョブにシドのことも含まれる可能性が高い」

 

 「でも、シドは生徒ですよ。いくら校長先生とはいえシドに何かをするのは難しいんじゃないですか?」

 

 質問したのはチュリッシェだ。キーツは苦い顔をして、それに答える。

 

 「今は確かにな。校長先生が本気を出したらシドを退学にするなど簡単なのだ。シドの立場が危ないことはなにも変わっていない」

 

 「じゃあ、何でさっき私達に確認したんですか」

 

 「それは、シドをかばうことによって我々も少々危険な橋を渡ることになるかもしれないからだ。限りなく低い可能性だが、意思の確認はしておきたかったのだ」

 

 キーツの言葉にチュリッシェははっとした。ユウリがそんな彼女を安心させるかのようにキーツに問う。

 

 「会長がそうお話ししたのは何か考えがあるからでしょう?」

 

 「ああ、皆が協力してくれれば難しくはないぞ」

 

 キーツはそれに力強く即答をした。

 

 「特にシド。当然だがお前の働きが一番重要なのだ。組織を抱え込んだお前の采配で結果は変わる」

 

 シドはそれにすぐさま返事をする。

 

 「僕のことです。皆さんが生徒会にいるのを認めてくれるなら、僕は全力を尽くします。けど、協力してくれる皆さんにとってなるべくリスクが低い方法をとりたいです」

 

 それだけは譲れないとシドは主張する。リャッカとティムが相反する言葉を口にした。

 

 「俺もこいつの巻き添えはごめんだ。リスクは低くてなんぼのもんだ」

 

 「俺としては、そんなのいーけどね。危険なことって燃えるじゃん」

 

 二人は顔を見合わせた。チュリッシェがクスッと笑って間に入る。

 

 「あんた達言い合いを始めないでよ。止める方が大変なんだから」

 

 つっけんどんにチュリッシェは言うが表情は明るい。

 

 危機を脱したと言うわけではないのに、先ほどまでの重苦しい雰囲気は完全になくなっていた。

 

 それは、生徒会メンバーの目的がはっきりし、団結したことが大きな要因なのだろう。シドの後ろに控えたアルベルトは全体の様子からそう察した。

 

 坊っちゃんにこのような仲間ができたことは悪くない。

 

 「では、シドを守るための作戦会議だ。まずシドにはセスと話をしてきてほしい。内容は…」

 

 「校長先生とのご関係ですね」

 

 「そうだ、それにより我々の動きが変わる。後は彼らにはなるべく目立たないように行動させるのだ。校長先生にお前との関係がバレてはならない」

 

 「はい」

 

 キーツの話はシドにとっても予想がついていた内容だった。校長先生との関係については「選別」が終わってから聞くつもりだ。恐らく二、三日の間だろう。

 

 「組織の者は今、セスさんの選別を受けています。目立たないように気をつけてもらってますが、校長先生はどの程度把握しているんでしょうか」

 

 この二日間シドが休んでいた間のことが彼は知りたかった。それに反応したのはリャッカだ。

 

 「俺は毎日放課後に校長と会っていたが特に何も言われなかったな。ラドウィン先輩から口止めされていたから俺も当たり障りのないことしか言っていない」

 

 「シドが保護された後、組織内でいざこざが起きているとこまでは知ってそうだな。だが、シドがそれに関わったことは知らないはずだ」

 

 キーツは補足の説明をした。他の三人のメンバーは初耳だったのか黙って聞いていた。

 

 「俺達は校長先生の耳に入るまでになるべく時間を稼ぐようにはするが、先生の能力もまた強いものだ。あまり時間がないと思ってくれ」

 

 「校長先生の能力?」

 

 キーツの言葉には誰も心当たりがないのか首をかしげていた。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

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