それぞれの気持ち
「後は皆さんがやって来て、ご存じの通りです」
シドから話を聞き終えた一同の反応は様々だった。ティムは楽しそうにニヤッとし、あらあらというように困った顔をしたユウリは反応が大きかった三人の様子を気遣わしげにしている。
反応が大きかった三人。その一人のキーツは眉間にシワを寄せてシドをにらむがリャッカを必死で押さえているようだった。うめくような声にこの上ない怒りの表情で、ほっておいたらシドに飛びかかるのは間違いなかった。
残る一人。チュリッシェはうつむいていてよく見えなかったが、ユウリは一番彼女を心配してるようだった。一瞬上げた顔には悲痛の色が浮かんでいた。
「皆、それぞれ思うことはあると思う。シドの話を聞いたところで皆の意見も聞きたい」
「何について話せばいーの?」
こういう時一番に話に乗るのはいつもティムだ。今日も持ち前の気安さでキーツに聞き返す。
「何でもよい。思ったことを何でも話せるように今日この場を作ってもらったのだからな。俺個人の考えは皆が話終わった後にするぞ。俺が最初に話したら皆話しにくいだろうからな」
「そっか、なんでもねー」
キーツはあらかじめ決めていたというように言った。それはティムにだけでなく全員に向けて言っていたようだった。皆が考え込む様子を見せる。
誰もすぐには話し出すことができなかった。長い長い沈黙が訪れる。
「誰も言わねぇなら俺が言う」
「リャッカ、口は出しても手はだすなよ」
「ラドウィン先輩心配はいらないっす。殴る価値もねぇ」
キーツの忠告にリャッカは静かに頷く。さっきの沈黙の間に自身を落ち着けていたのだろう。だいぶクールダウンしているような様子だった。
「俺は元々こいつを認めていない。それが今回のことでより明らかになった。自分勝手に行動をして俺達に迷惑をかけ、あげくシークレットジョブの対象者で少なくとも敵対している者のの片棒を担ぐなんてあり得ねぇにもほどがある」
シドを見ずにリャッカは言う。意図的に目を合わせないようにしているようだった。リャッカには元々睨まれていたのだ。今回のことでそれがこじれるのも分かってはいたことであった。リャッカは少しだけ周りを見渡し、続きを話す。
「それにこいつははっきり言って部外者だ。シドじゃない別人だ。退部させても退学させるのにも充分な理由がある。これ以上ここに置いとく意味があるのか?俺はないと思うぜ。俺の意見はとりあえずこんなもんだ」
リャッカはヒートアップすることなく言い終えると、腕組をして目を閉じた。
「ありがとう、リャッカ。次は…」
「私からいいですか?」
「ああ、ユウリもちろんだ」
キーツが残る三人を一人一人見る。まだ悩んでいるようなチュリッシェを見てユウリが微笑みを浮かべ名乗り出る。
「シド君、体調の方は大丈夫ですか?」
ユウリの問いかけにシドはキーツを確認する。キーツは頷いて、発言の許可をする。
「はい。もう問題ありません」
「それは良かったですわ」
ユウリが笑みを濃くして穏やかに話す。
「シド君はシド君なりにシークレットジョブを達成しようと取り組んでいましたわ。それはよく分かっていますわ。だけど、シド君がセスさんにお話ししたようにシド君もやり方を少し間違えてしまったようですわね」
シドをじっと見つめてユウリは言葉を紡いでいく。
「ですが、シド君は長い休学から戻り生徒会業務に取り組んでからあまり時間後たっていません。シド君はお仕事を立派にこなしていましたから忘れてしまいがちでしたけどね」
ユウリはそう言いながらメンバーたちを見回す。
「先輩である私達のバックアップが足りていませんでしたわ。校長先生からリャッカ君とシド君にお話しが言った時に私達は確かめもせずにお二人に任せてしまいました。本当はあの時に確かめるべきだったのです」
ユウリの笑みが曇りうつむきがちになる。キーツの憮然とした表情がちょっと緩んだ気がした。
「シド君が拐われなければ今回のようなことにはなりませんでしたわ。シド君を誘拐させてしまい危険な目に遭わせたのは私達の責任でもあるのに、シド君だけを罰するのはどうかと思いますわ」
ユウリはそんな風に言いきって話を終えた。ユウリの意見はリャッカとは対照的だったように思う。彼がシドの責任とし、シドを追放しようとしたのに対し、ユウリは皆の責任とし、シドを守る考えを示した。
「次は俺かなー?」
「ああ、よいぞ」
ティムが間延びした感じで話始める。
「しょーじき、俺はさどっちでもいいよ。リャッカ先輩が言うのもユウリ先輩が言うのも分かる気がするかんね。でも、シド君はいつも何かやらかしてくれるし、シド君がいた方がこれからもたのしそーだから、ユウリ先輩の方にびんじょーするよ」
「ティム、便乗ではなくお前自身の考えも知りたいのだが」
キーツが眉を潜めたが、ティムはケラケラと笑った。
「いやいや、これが俺の意見だってキーツ先輩。俺はいつだってたのしそーな方を選ぶよ」
「…そうか」
ティムが物事を決める基準はいつだって楽しいかそうじゃないかだ。彼はそう定めているからこそ、いつだって迷うことがない。キーツは苦笑しながらもティムの意見も聞き入れた。
「最後に…どうだ?チュリッシェ。何でもよいぞ、思ったことを言えばよい」
ずっとうつむいていたチュリッシェにキーツは優しく声をかける。チュリッシェはゆっくりと顔をあげるとキーツではなく、シドの方を見た。
仕出かしてしまったことの重大さなどシドにもきちんと分かっている。今さらなにを言われたところで文句など言えるわけもない。シドは彼女が話しやすいように微笑みかけて見せた。チュリッシェが意を決したように口を開く。
「私は…シドに生徒会に残ってほしいと思う」
チュリッシェは一旦そこで黙ってしまった。先を急がせたり、反論意見を出したりするものもいない。リャッカでさえ、目を閉じて腕組をしたままチュリッシェが話すのを待っていた。
「シドは暴走もするけど、仕事も出来る。やっと、生徒会の一員になってきたのに、このまま終わりなんて残念すぎる。会長、シドを追い出さないで!」
チュリッシェは真摯に訴えた。その相貌は微かに赤くなっている。それには皆が大なり小なり意外そうな顔をした。チュリッシェは誰よりも仲間思いだ。彼女にそこまで言わせるほどシドはもう生徒会の一員となっていたのだった。
「落ち着け、チュリッシェ。俺は別にシドを退部させるつもりも退学させるつもりもない」
「真面目に言ってるんですか?ラドウィン先輩!」
キーツですらチュリッシェの反応は以外だったらしく、慌てて付け加える。だご、その言葉に今度はリャッカが噛みついた。シドはパチパチと目を瞬かせその様子を見ていた、
その後は皆が言い合いを始め、場ご落ち着くまでの数分間、当事者であるはずのシドは完全に空気になっていた。
言い合いをする皆を呆然と眺めているとアルベルトにトントンと肩を叩かれた。振り替えると静かに首を横に振る彼の姿。シドにしか聞こえないように彼を嗜めた。
「坊っちゃん、ボーッとしてないで、彼らをお止めになったらどうです?」
「そ、そうだな」
シドが返事をするとアルベルトは澄ました顔で再びシドの後ろに控えた。
「皆さん!」
シドの発した声に皆は言い合いを止めてシドの方を見た。シドは特に話す言葉を持っていなかったが、注目された以上は言葉を紡ぐ。
「色々と意見をもらって、僕のことを考えてくれてありがとうございます。だけど、まだキーツ先輩の話を聞いてません。僕はキーツ先輩の話も聞いてみたいです」
「そうだな、反論意見ももちろん聞くが、まずは俺の話も聞いてもらえないだろうか?」
リャッカが不承不承に頷き、他のメンバー達も居ずまいを正す。
「ありがとう、では聞いてほしい」




