生徒会室へ
「待っていたよ。我がスイートハート!この半年間、どれだけ心が痛み苦しんでいたと思う。君に会えるこの瞬間を、どれ程待ちわびていたことか!」
ティムと一緒に午後の授業を抜けて、生徒会の部室にシドはいた。意外なことに、そこは無人ではなく三人の先客がいた。
そのうちの一人、部室の一番奥にあるデスクの椅子に座していた人物が、シドが部室に現れた瞬間、幸せを顔ににじませた笑みで、そう言った。
「お久し振りです、会長。ご迷惑おかけしました。」
その人物に向けてシドは挨拶をする。
「ノンノン。会長であるが会長と呼ぶでない。忘れたのか?僕のことはお兄様と呼ぶんだ。いいか?お・に・い・さ・ま・だ。……って痛い!」
ヒュンっと音を立てて飛んできた雑誌が、ハイテンションで話し続ける彼の顔面にクリーンヒットした。
「うるっさいわ。この変態会長!いい加減にしろ!」
そう捲し立てたのは、部室に備え付けのソファーセットにのびのびと寝転がりながら世話しなくゲーム機を動かしている少女だ。
彼女が変態生徒会長…キーツ・ラドウィンに恐るべき速度で雑誌を投げつけたのだった。
「…いててて、なんだね。せっかくかわいい後輩が半年ぶりに来てくれたんだ。これくらいの歓迎をしたって良いではないか…あっ、そうか…そうだったのか?それならそうと言ってくれれば良いのに。」
「ああ?」
なにか、思い付いたような素振りをしたキーツは雑誌を投げつけた少女、チュリッシェ・ユースフォルトに愛おしそうな視線を向けた。
チュリッシェはドスの聞いた声で答えるが、猫のようなくりっとした目とふわふわした茶色の髪、小柄な体という少女というより幼女よりの見た目のせいで、どうにも迫力にはかける。
「混ぜてほしかったんだね…。親密なやりとりを行う僕らに焼きもちを焼いてしまったのだね!すまない、僕が悪かった。お詫びにお兄様が抱き締めてあげよう。さぁ、僕の胸に飛び込んでおいで!」
「バカ、死ね、変態会長」
芝居がかった大袈裟なしぐさで椅子から立ち上がり、両手を広げたキーツを一瞥もすることなく、淡々とゲームをしながら暴言を吐くチュリッシェ。
そんな二人のやりとりに割って入ったのは、今まで事態を静観していたもう一人の人物だった。
「まあまあ、お二人とも、そのへんにしてください。会長はシド君が今日から復学するのを聞いて朝からここに来るのを待っていたのですから。お気持ちは分かりますが、チュリッシェちゃんの言う通り少し静かにしましょう。今は授業中なのですよ。」
人差し指を立てて、静かにするようにというジェスチャーをした彼女は、そう言ってキーツとチュリッシェに微笑んだ。
会長、朝から待っていたのか。その事実に軽く寒気を覚えた。ちなみに他の二人はそんなキーツの見張り役だそうだ。
「シド君が復学されるのを聞いた会長が1日教室で大人しくしているわけがありませんから。放っておくと暴走してしまいそうだったので私は見張り役ということで来てました。」
とは、後で彼女から聞いた言葉だった。チュリッシェはシド達より少し前に昼ごはんを食べに来てそのままいついたらしい。
「むーー。確かにそうだな。ユウリの言う通りだ。」
クールダウンしたキーツに優しげに微笑んだユウリ・ヒイラギは、シドとティムがいる入り口の方に向き直った。
「お久し振りです。シド君。さっ、そんなところで立っていないで、中で休んでください。ティム君も今日の授業お疲れ様です。」
長く艶やかな黒髪を後ろでひとつにまとめ、眼鏡の奥の黒目はどこまでも優しい彼女。留学生の身で生徒会副会長という立ち居ちにいるのは、一重に彼女の人柄と真面目さによるところだろう。
二人が午後の授業をサボっていることはお見通しの上スルーしてくれた。お互い様でもあるけども。
「んじゃ、そうしますか」
頭の後ろで手を組んでニヤニヤとしていたティム。彼はチュリッシェが独占しているソファーと対になっているものに座った。それを見てシドも彼の隣に座った。二人が座ったのを見計らってユウリが再び口を開いた。
「改めまして、お帰りなさいシド君」
「シド、お帰り。」
ユウリに続いて、チュリッシェもシドの復帰に歓迎の声をあげた。
相変わらずゲームを動かしたままだったが…。
しばらく休学していたので、正直ここに来るのにも少し不安があったが、暖かく迎えてもらったことに感謝した。
「ええ。ありがとうござ…」
「…いや、初めましてかな?」
そんなシドの言葉を遮ったのは、首をかしげ、シドの顔を不思議そうにまじまじと見つめていた変態会長。キーツ・ラドウィン。その人だった。




