はじめまして
「はっ?会長ー。何言ってるんですか?あっ、とうとうボケてしまいましたー?」
他の皆が呆気に取られているなか、突っ込みをいれることが出来たのはチュリッシェだった。相変わらず彼に対するあたりが強い。
「いや、ボケてなんかいないぞー。来てすぐには気づかなかったが、初めましてで間違いないな。確かにマイスイートハートによく似ているが、君はシド・クロウバードではないな。」
ニコニコと笑いながらシドを見ているキーツ。そんな彼を冷静に見返したが背中には冷たい汗が流れるのを感じた。
彼を見返している顔に動揺が現れないように努める。まさか、そんなことを言われるとは思っていなかったから。
まさか、こんなに早く
………気づかれるなんて
「えっと、会長すみません。どういうことでしょうか。」
聞き返す声には揺らぎはないが、この質問がいかに無意味なのかは自分がよく分かっている。
キーツは未だニコニコとした笑顔を崩してはいないが、先の言葉がジョークや思いつきではなく一種の確信を持ったものだということだとシドには理解できていたがそこを敢えて抵抗してみる。
「君とマイスイートハートは確かに似てはいるが何点か違う部分がある。だからオレは君がマイスイートハートではないと感じたんだ。」
「えーと、皆さんとは半年ぶりにお会いしてますし、ちょっとくらいは僕も変わっていかもしれません。確かに僕はシド・クローバードなんですが…」
訝しげで困っているような表情をシドはした。二人のやり取りを他のメンバーは見守っている。すると、キーツは少し考えるような顔をした。
「んーー。簡単には教えてくれぬか。まぁ、それはそうだろうな。わざわざ、マイスイートハートの真似をしてここに来たくらいだからな。だが………」
そこで始めてキーツの顔から笑顔が消えた。一度に伏せた顔をあげるに合わせ短めの金髪が揺れた。机の上で両手を組みエメラルド色の相貌がじっとこちらを見つめてきた。
黙っていればかっこいいと学内外で言われている彼だ。こんな状況でなければ見とれていたかも知れない。
「君は我が学園の生徒を語ってここまで入って来たのだ。そして、ここはオレの城だ。事と次第によっては覚悟してもらうことになるぞ。」
さっきまでの、おちゃらけた雰囲気は一切なく、彼の溢れるプレッシャーにシドは飲まれそうになった。
ごくりとなった喉。いつの間にか、チュリッシェはゲームを止めており、僕と会長の顔を訝しげに交互に眺めている。
ティムはさりげなく僕から半歩ほどの距離を開け、いつでも動けるように待機しているのが分かった。
しかしあくまでも彼は楽しそうだ。ここではどんなあり得なそうなことでも会長の話ならば絶対なのだ。それくらい彼は強い力を持っている。
「さて、どうだ?話してはくれぬか?マイスイートの真似をしてまで、君がこの学園に足を運んだ理由を。事によってはオレが力になることも出来るかもしれないぞ?」
………………仕方がないか。もはや誤魔化すのもここまでということだ。どのみち彼にはバレると思ってはいた。
バレた時には相当の処分が下るであろうことは言われるまでもなく覚悟もしていた。キーツ・ラドウィン。神に愛されし子と呼ばれたプロトネ学園の現代生徒会会長。
能力持ちではないものの、その観察眼と記憶力は能力持ちさえ上回る彼だけの特別な才能。千人近く在籍している高等部に生徒はもちろんのこと幼稚舎から中等部の生徒の顔、名前、能力、癖などをひとつひとつ間違いなく記憶している。
そんな彼相手に半年会っていないというアドバンテージのみで応対するというのは最初から無茶があった。
はぁーっと一度だけ深く息を吐き、シドは彼らに向かって話し始めた。
「分かりました。会長の言う通りです。みなさん、初めましてが正解です。正解ですが、ここから先の話しは内密にお願いしたいので……。」
チラッとシドはユウリの方をみた。彼女はそれに微笑みで答える。
手にはどこから取り出したのかたくさんの鍵がまとめられた鍵の束を持っていた。
「会長があなたに『初めまして』とお話しした時に、すでにロックしています。ご安心してお話しくださいな。」
そう言った彼女に頷きを返したシド。ユウリ・ヒイラギの能力は彼女の指定した任意の場所やものを隔離することだ。
彼女だけの別空間に空間ごと切り取って移動することができるので、こういった極秘の話をするのにかなり適した能力なのだ。
ただ、彼女の力はあまりに強力なため、スタミナの消耗が激しいらしい。今、この1部屋を隔離していることを考えると持って後二十分程度が限界だろう。シドは頭の中でそう計算し、そして話し始めた。
「ありがとうございます。では、まずは僕の自己紹介からしましょう」




