話し合いの結論
リャッカはロックオンするかのように人差し指をセスに向ける。
「差別をなくしたいという心意気は見事なものだ。孤児を保護し教育を施しているのも善行だ。だが、人の意識を無理やり改変させると言うのは危険な思想だろう」
リャッカがシドを睨み付ける。分かっていて言わなかったのがバレていたようだ。ばつの悪い顔をリャッカに向けた。その先はお前が話せと彼に促される。
「人々に能力は個性だと認識させ差別をなくすという考えは、はっきり言って無理です。今度は個性で差別が始まるだけです」
セスはなにも言わず、うっすら笑みを浮かべシドの言葉に耳を傾けている。
「セスさんも当然その考えには行き着きましたね。だから、思い付いたんです。能力持ちを作ることを」
「能力持ちを作るだと?」
リャッカが眉間にシワを寄せ片眉をピクリと動かした。シドに何か考えがあるのは分かっていたが、そんなことだとは思っていなかった。
「さっき、セスさんは強い願いを持てば能力を得られるという可能性の話をしました。それはもう可能性の段階ではなく実験して証明済なのではないでしょうか?」
「どうしてだい?」
セスはテストの採点をする教師のようにシドに答えさせていく。
「話が核心的すぎるからです。リャッカ先輩が能力とは何かの質問に答えた時、あなたは言いました。よく知っていたね、見たことがあるのかいと。それはもう現場を知っている人の反応ですよ」
「そうか、そんなところで気づいかれたのか。けど、他にも理由はあるんだろう?僕だったらそれだけでは決めつけたりはしないよ」
セスは確かに実験をしていたことを認めた。だけど、試すようにシドに話の続きをさせようとする。
チラリとリャッカを見ると彼は腕を組んで目をつぶっていた。
「その実験をしていた施設に心当たりがあるからです。強い願いを持てば能力が生まれるというのが分かるまでには、色々な実験をして検証しないといけません。その施設は孤児院を脅し、子供を実験台として電流を流し脳に刺激を与え、強制的に能力の発動を行わせる実験をしていました」
セスが顔を歪める。その光景を想像したのだろうか。
「そういえば、少し前にとある研究所が潰れ、研究者達が捕まった話を聞いた。そこのことかな」
シドは研究所があった位置をセスに伝える。ああ、やっぱりとセスは静かに頷いた。
「そこの子供達は今どうしている?
」
身を乗り出してくるセスに施設の子供達を心配する色が見えた。
「信頼できる施設や里親の元で暮らしています。そこまで気にされるとは少々意外でした」
シドがそう述べるとセスは心外だなと苦笑した。
「シドの言う通り能力についての実験は確かに行っていたよ。いくつかの施設でそれ自体には僕は関わらず、配下のものに任せていたんだ。その結果あんなことになってしまって本当に心を痛めていたんだ」
「だとしても、確認不足はお前の落ち度だろう」
「そうだね」
辛辣なリャッカの言葉は真実でセスの心に突き刺さる。
「過ぎたことは仕方ない。それで僕が能力についての実験が済んでいるとどうなんだい?」
シドはお茶で喉を湿らせて再び口を開く。
「あなたはいくつかの施設で行われていた実験結果をまとめ、願いを持てば能力を得られることに行き着いた。僕の知っている孤児院のデータも中にはあったでしょう。それで、次の実験に映ろうと思った。」
シドはナタリーのことを思い出す。いつも笑顔で無邪気な彼女は自分の仲間や家族を守りたいという意思が強い。彼女はみんなを守るために被験者になることを望んだ。みんなを守りたいという意思が能力を発動させたのかもしれない。
「その実験の進度のほどは分かりませんが、そんなある時見つけたんですね。あなたが望む能力を持った孤児を。それがクインスです」
「君は全部たどり着いているんだね。本当に驚いた」
シドがそこまで言うと、セスが彼を見据えていた目をスッと細め立ち上がった。
リャッカが彼を警戒し軽く腰を浮かす。セスは壁際の本棚から一冊の本を取り出して再び腰かけた。リャッカももう一度座り直す。
「シドが言ったことはほぼ当たりだ。実験の最中にクインスを見つけたこともね。だけど一つだけ言わせてほしい。実験は同意を得た上で危険性の低いものしか行っていない。君の知っている施設のようなことは行わせていない」
セスが信じてほしいという表情でシドを見つめる。シドは神妙な顔で頷いた。
「これは僕らの活動のレポートだ。見てもらって構わない」
スッとシド達の方に茶色の革表紙の本を差し出す。一言断ってリャッカがその本を取りパラパラとめくる。
一通り見終わったのか、リャッカはずいっとシドに本を差し出す。
シドは本を開くと最初のページから見始めた。ほとんどは実験のレポートと出会った孤児のデータだった。
実験はセスが言っていたように危険性の低いようなものなのは分かる。シドはある所でページを捲る手を止めた。
「それが、クインスと会った日のことだ」
身を乗り出してシドがみていたばかりページを覗き混んだセスがそう言った。
レポートによると、小さな教室にいた子供達はセス達の組織が発見した時から、あの場所で四人でかたまって過ごしていたらしい。その後に四人についての詳しいプロフィールが記されており、求めていた力が見つかったとの言葉がある。
「それであなたはクインスをどうするつもりですか?」
全てを読み終え、本をテーブルに置いたシドの口調が些か鋭くなる。親のない子供を利用し、自分の望み通りの世界を作るというのはシドも感心しない。
「今のところはどうもしないよ。彼らがあの場を離れたがらないから、当分の間はナシャを派遣し、小さな教室で暮らしてもらう予定だ。クインスの能力は確かに貴重だが、当人の気持ちの問題もあるからね」
セスはシドとリャッカの顔を見比べる。
「彼を含めあの場にいた子供達は能力の関係で孤児になった。それを彼等も分かっている。能力についてそんな感情を持つ子達に能力を使えとは言わない。彼らの意思で使う分には歓迎するけどね。第一、まだ小さい子供に強力な能力を使わせ何か起こったら大変だろう。重い副作用に悩まされることなど、ボスとして仲間として許すわけにはいかない」
そう言ったセスの顔からは仲間に対する思いやりと彼らを守らなくてはいけない気持ちが溢れでている。
「彼がもっと大きくなって、自分の能力について理解し使えるようになるまでは見守っていくつもりだ。そして、あの子達のように幼い子供達が安心して暮らせる未来を僕らは作り出す」
確信に満ちた声の力強さ。組織の先導者としての風格にふさわしいものがある。シドがごくりと喉をならす横でリャッカが憮然とした態度で言う。
「で、結局どうすんだ?」
カップの中が空だとリャッカはシドに見せつける。さっさと終わらせろと言外に言っている。
「セスさんは能力持ちとそうでないものの差別をなくしたいと考えています。その心意気は見事なものですが、その方法が危険な思想だと思われています。人々の意識を無理矢理変えるというのは確かにまずいですし、今まで行われている行動でも罪に問われるものがあります。」
それはセスも理解しているだろう。穏やかで落ち着いた様子で聞いていた。
「だけど、セスさんは歩み寄りたいと言いました。僕も出来ればそうしたいです」
リャッカが機嫌悪そうに舌打ちをし、セスは目をキラリと輝かせた。
「だから、やり方を変えましょう。危険な思想と思われないやり方を考えましょう」
「そんなことが出来るのか?」
シークレットジョブは組織を潰すこと。それに背いて行動することは校長の意見に歯向かうことになる。学生の身で校長に逆らってまで組織をかばう必要があるのか。リャッカはシドを睨み付ける。
「やります。この組織を潰してしまうのはもったいないです。やり方がまずいだけで、方法を変えれば、今まで誰も出来なかったことをやりとげるかもしれない」
シドはすでにあらゆる方法を脳内で考え始めていた。
「そこまで買ってくれるのは嬉しいけど、大丈夫なのかい?君が何か言ったとしてあのじいさんが考えを変えることは難しいと思うよ」
「あのじいさん?」
セスには依頼人が誰かまでは知らせていないはずだが、その口ぶりは相手が誰なのか知っているようだ。シド達がプロトネ学園の生徒だとい所から検討を着けたのかもしれないが、随分親しげに呼ぶものだ。
「ああ、失言だった。さて、悪いけど僕は今から予定がある。今日の所はお開きにしよう。また、近いうちに君達とは話がしたい。帰りはシェルムに送らせるよ」
「今日はありがとうございます」
「僕の方も話を聞いてもらえて良かった」
セスは立ち上がり、シドとリャッカに握手を求めた。二人はそれに答える。
「じゃあ、またね」
笑顔のセスに見送られ、シェルムの案内のもと二人は帰還した。




