危険な組織
シドとリャッカの反応を見ていたセスがほっと息をついた。見透かされるような思いを感じていたが、セスはシドが回答するのを待っていた。
「……そうです」
鉛を飲み込んだかのように胸の辺りが重くなる。はぁーっというリャッカのため息が部屋に響いた。
「違うな。正確には非常に危険な思想を持っているこの組織を壊滅させることが依頼だ」
そうして口を開いたリャッカは、カップに残っていたお茶を豪快に飲み干した。
「そうか、正直に話してくれてありがとう。」
ただ穏やかに寂しげな微笑を浮かべて自分達にそう言ったセスにシドは言葉をかけずにはいられなかった。
「リャッカ先輩の言う通り、僕達はそう言った依頼を受けて調査しているうちにここにたどり着きました。だけど、僕はシェルムに会って、あの小さな教室を見て、そして、ボスであるあなたと話して見て、そんなに危険な組織だと思うことができないんです」
「町で暴れたり文化祭を台無しにされたりしたことは忘れてないか?」
シドが気持ちを打ち明けるとリャッカは皮肉げに笑い、ポットからお茶を注いだ。
「それはもちろん、許されることではないです。だけど、それはそれに見あった償いをすればいいはずです。少々の怪我人は出ましたが死人はいません。組織の全員が関わっているのかも分からないのに壊滅なんて依頼は、やっぱり変です」
最初は知り合いがここにいると言うことだけで首を突っ込んできた後輩が言うじゃねぇかとリャッカはシドを睨むが、それだけではシドはもう動じない。仕方なしとため息を吐いてリャッカは空になっていたシドとセスのカップにもお茶を注いだ。
驚いたように目を見開いた二人から注目を浴びて居づらくなり頭をかいた。
「これで最後だ。これが飲み終わる頃には話を終わらせろ。」
トゲのある言葉でリャッカはシドに言う。微笑んだままに頷かれた。まったく嫌な後輩だ。
「では、僕の方からもはっきり聞きます。セスさん、あなたの組織の目的は何ですか?」
微笑みを浮かべていたセスがスッと真顔になった。膝の上で軽く手を組みやや前屈みの姿勢になる。
「僕の野望は、この世界から能力による差別をなくすことだ。」
真剣な表情で語ったセスの迫力にシドは気圧された。
「そ、それはどういうことですか?」
あまりにも大きな野望に絶句すると共に、差別をなくすことが危険な思想なのか?と疑問に思う。
「質問は交換で行うのではないのかい?」
セスが茶化すように言ってきてシドは「あっ」と声を漏らす。再び口を開く前にセスは片手をあげ笑ってそれを制した。
「いいよ、話させて。君達の周りにも能力持ちと能力を持っていない人間がいるよね。」
シドもリャッカも頷いた。それを受けてセスは続ける。
「能力があるか能力がないかで差別がされる、そんな世の中を僕は変えたい。さっきシドは小さな教室を見たと言っていたね。ということは孤児達にも会ったのかい?」
「はい、詳しくは省きますが、そのお陰でシェルムに会い、ここに来ることが出来ました」
「ああ、それならナシャの所か。あそこにいる子供達のことはシェルムが話したかな?」
頭の中で思い出しているのか、やや上を見た状態でセスは言った。
「ええ、皆それぞれ事情が合って孤児になったようですね」
「その事情を知っているのなら思い返してほしい。彼らの事情は全て能力に関するものだったことを」
強力な能力を恐れられた子供。そんな弟を守るために自ら孤児になった兄。能力を授からなかったため孤児になった子。逆に親が望まぬ能力を持ったゆえに孤児になった子。一人一人の顔と共に思い出された事実はシドの顔を曇らせる。
「……孤児になる理由は必ずしも能力が原因な訳でもない。それでも能力が原因で差別される子供が多く存在するのは事実だ。僕はそんな子供達と、理解を得られた協力者を集めてこの組織を作った。」
ここまでするのに彼はどんな経験をして来たのだろう。覚悟を秘めた目が言葉が力強さを与えてくる。
「そこまでの考えならば、当然その差別をなくすための手立ても考えてるんですよね?」
続けざまの質問にセスは頷き二人に聞き返した。
「ああ。もちろん。そもそも能力とはなんだと思う?」
今までとは毛色が違う質問にシドは少し首を傾げてから自分の見解を述べた。
「人が持つ何らかの特殊な力のことだと思います」
「君は?」
セスはリャッカにも水を向けた。リャッカはさほど考える様子もなく嘲笑を浮かべる。
「まるで魔法のように自分や他者を翻弄する特別な力」
「なるほど、二人はそう感じているのだね。じゃあもうひとつ。能力とはどこから生まれてくるのだろう。」
シドは口ごもる。今までそうな風には考えたことがなかったし、聞いたこともない話だった。今度口を開くのはリャッカの方が早かった。
「何かを強く願った時、能力は生まれる」
滔々と言ったリャッカ。ここではない遠い昔を思い出しているような表情をしていた。シドに見られていることに気づき、すぐに顔をしかめたからほんの一瞬だけだったが、その眼差しは悲しげだった。
「よく知っていたね。君はもしかして見たことがあるのかい?」
セスが目を丸くして言った。その質問にはリャッカは睨みを効かせたまま答えなかった。
「個人の資質にもよるんですかね。家族で似たような能力を持っている人もいますし」
空気を変えたくてシドはセスに問う。
「それもあるだろうね。遺伝ではないことだけは証明されているけど、同じ能力を持った家族はそれなりにいる」
リャッカからシドに視線を写したまるで専門家のように答えた。
「強い願いを持てば能力を得られる。もしそれが本当なら……」
考え込むシドにセスは軽く笑った。
「シド、人間が願いを持たずに生活をしていくのは不可能だ。そうではないよ」
セスはシドの考えを見透かしたようだ。能力を生む要因をなくすことがセスの言う手段かと思っていたシドは方向修正をする。
「その逆も無理ですね。皆が強い願いを持って生活するのも不可能。」
「そうだね」
「だけど、多くの人がその可能性を知らずに生活している。その事実が明るみに出れば能力持ちではない人にも能力が持てるようになるかもしれない」
能力が持てない人からの嫉妬による差別はそれで改善はされるかもしれない。だが……
「うん、そうだね。方法のひとつはそれだ。だけど、それだけじゃ弱い。」
シドが頷いた。セスがお茶を一口飲む。
「また、質問だ。能力と個性はどう違う?君らの周りにも能力持ちではないが能力持ちかと疑うほどの力を持った人はいないかい?」
そういう人ならすぐに思いつく。卓越したコンピューター化技術を持つチュリッシェ。類いまれなる記憶力と洞察力を持つキーツ。そして、能力による干渉が効かない体質のリャッカ。
「います。個性か能力かは脳波しか思い付かないです」
「そうだね。能力持ちかそうでないかは脳波でしか計れないことなんだよ。むしろ、そこしか違いがないとも言えるね」
それはあまりにも極端な話だなとシドは顔をしかめた。
「そうでもないですよ。火を出したり、水が出たり、無から有を生み出す能力持ちもいますから」
「それはもっともだ。でも、それは個性とは受け入れられないものなのか?誰もが持つ個性のひとつだと、当たり前のことだと、人々に思ってもらえれば差別は減るんじゃないかと思ったんだ」
「あまりにも無理がありますね」
興奮しているのかセスは先程より早口になり饒舌になっている。シドは苦言を呈する。
「その無理を通す考えが僕にはある」
確信を持った言い方をするセスが話を続ける前にリャッカが口を開いた。
「依頼人が危険な思想を持つ組織だと言う意味が分かった気がするな」
その目はまっすぐにセスを見据えていた。




