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偽主  作者: シュカ
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一問一答

本題に入ったのは食事があらかた終わった後のことである。食事中は雑談に花を咲かせ、テーブルの上の料理が片付きアリアが再びお茶を置いていったのを合図にセスが改まって口を開いた。

 

 「食事は満足していただけたかな?」

 

 「はい、とても美味しくいただきました」

 

 「アリアの料理は美味しいから僕らの自慢なんだぁ」

 

 シェルムが残り少ないサンドイッチに手を伸ばした。その光景にセスは目元を柔らかくしてお茶を一口飲んだ。

 

 「さて、どこから話そうか」

 

 その目をシドに向けてセスは気まずそうに笑った。

 

 「そうですねー」

 

 チラリとリャッカを窺うと彼は目を閉じ顎でシドのことをしゃくった。任せるということらしい。シドは戦闘には向いていないがこういう話し合いの場では、予想以上の働きをする。自分がやり込められたことを思いだし、リャッカはシドに任せることに決めた。

 

 「この部屋には普段からシェルムのような子供達が出入りしてるんですか」

 

 意外そうにセスは息を飲みリャッカは右眉をピクリと動かした。

 

 「そうだね、みんな気軽に遊びに来てくれるよ」

 

 「そうなんですか、楽しそうでいいですね」

 

 屈託なくシドが笑うとセスもつられて笑みを浮かべた。

 

 「ボスはねぇ、優しくてかっこいいから僕らはみんな大好きなんだぁ。だからね、みんなここに遊びに来るのぉ」

 

 口いっぱいに入れたサンドイッチを飲みこんだシェルムがキラキラした目で自慢する。シェルムの口ぶりから、ここでのセスは皆のお兄さんとして生活しているらしい。かなり慕われているようだ。

 

 「だからねぇ、シドもボスに普通に話していいんだよぉ?」

 

 シドは客としてもてなしを受けている身だ丁寧な言葉を使うのが彼は当然と思っていたが、シェルムにはそれが不思議でたまらなかったようだ。純粋で天然な彼にどう答えるか悩んでいるとセスがそんなシェルムを軽い口調でなだめた。

 

 「話しやすい言葉って言うのは相手によって変わるものなんだよ」

 

 「そっかぁ」

 

 シェルム自身もそれには経験があったのか、手をポンっと打ってうんうんと頷いた。そんなシェルムの空になっていたカップにセスはお茶のおかわりを注いでた。

 

 優しくて面倒見がいいボスと呼ばれる男性。シェルムのさっきの話に出てきたのは、彼でほぼ間違いないだろうなと感じる。

 

 「ここにはどれくらいの人がいるんですか?」

 

 「うーん、そうだな。どういう意味かによって変わってくるね。」

 

 うで組をして悩んだあげくセスはそう結論付けた。リャッカが始めて紅茶を口にし、一瞬目を驚きに光らせたのが見えた。ここのお茶も美味しいからな紅茶好きの彼も気に入ったのだろうと思いつつ、シドは次の言葉を口にした。

 

 「それもそうですね。では、ここにはどんな人がいるんですか?」

 

 「一番多いのは子供達だね。後は通いの大人と協力者達。僕らのような大人でここに住んでいる人間はそんなに多くないよ」

 

 この質問にはセスはそれほど悩むことなく答えてくれた。

 

 「子供が多いのは、孤児を保護して頂いているからですね」

 

 いよいよシドが切り込んでいく。セスの柔らかな目元が少しだけ細められた。

 

 「ああ、そうだよ。」

 

 「それはシェルムを含めてとしてあなた方も孤児出身者だからですか?」

 

 「かわいい顔して痛いところを随分とはっきりついてくるね」

 

 苦笑に近い笑みを浮かべてセスは手持ちぶさたになっていたシェルムに声をかける。

 

 「彼にその話を教えたのはシェルム。君かい?」

 

 「僕は自分のことしか話してないよぉ。ボス達のことは名前も出さなかったよぉ」

 

 「そうか。だけど僕はその話は聞いてなかったから分からないな。復習のためにももう一回話してはくれないかい?」

 

 セスに促されるままにシェルムはポツポツと話始めた。後半になるにつれ不安そうになってきた彼をセスは笑うことで安心させる。

 

 「なるほど、確かにシェルムは自分以外の名前は出していないね。彼を仲間に誘ったのなら、ある程度の事情を話すのは間違ってもいない。だけど、シェルムはそれ以上ここのことを説明するのが難しくなって二人をここに連れてきてくれたのかな」

 

 「んやー、そうなんだぁ。僕じゃあどこまで話したらいいか分かんないからぁ。シドも仲間になってくれないみたいだしぃ」

 

 やや拗ねたように頬を膨らませるシェルムにシドは苦笑した。

 

 「考え方は人それぞれだ。我々の考えと彼らの考えが違ったとしても仕方がない」

 

 「そうだけどさぁ」

 

 意味は分かるけど、納得はできないという様子のシェルム。

 

 「だけど歩み寄ることは出来る」

 

 セスの様子が今までと変わった。確信じみた様子に悲しげな雰囲気が溢れているようだった。

 

 「シドだったね。君の言う通りだ。僕らは孤児を保護しているし僕も孤児だよ。」

 

 セスは隠すつもりはないというように両腕を軽く広げるようにする。

 

 「僕らと君らとでは考えが違うけど分かり会えることが出来るかもしれない。だから、君達の質問には僕は正直に答えるよ。何でも聞いてくれ」

 

 その表情は真剣でとても嘘をついているものとは思えない。覚悟がこもった先導者の目だ。

 

 そんな目をする彼が校長の言っていたような危険な組織を先導する男にはシドは見えなかった。

 

 「分かりました。遠慮なく思いつく限りの質問をさせてもらいます」

 

 「ああ、ありがとう。話を聞いてもらえるだけでも嬉しいよ。さて、その前に…」

 

 セスが優しい視線で空いた皿をテーブルの端にまとめていたシェルムを見た。

 

 「シェルム、僕は彼らとしばらく大事な話をするから、皆のところで待っていてくれるかい?」

 

 「分かったよぉ。アリアの所にこれ置いてくるぅ」


 聞き分けよく返事をし、空になった大皿やスープ皿をバランスよく持ってシェルムは退室した。

 

 「ありがとう。気をつけて」

 

 シェルムの後ろ姿に声をかけたセスはシド達に向き直る。

 

 「ここから先はさすがにシェルムにはまだ早いからね。気をとり直して何でもどうぞ」

 

 シド達にそう促した彼は優雅に紅茶のカップを手に取った。

 

 「いえ、それでは不公平でしょう。分かりあうのなら一方的なのは良くないです。僕らとセスさんで質問を交互にしませんか?」

 

 「いいのかい?」

 

 シドの言葉にセスは目を細めてシドとリャッカの反応を見た。

 

 シドはともかくリャッカも構わないという姿勢を崩さないのが意外にも嬉しかった。

 

 「それなら次は僕の番だね。さっきはエイナ達の手前、ああ言ったが二人はシェルムの友達ではないのだね?」

 

 それは質問というより確認に近いものだった。シドは頷いて答える。

 

 「そうですね。友達と言うほどではないのは確かでしょう。知り合いというには間違いないですが」

 

 「そうか、あの子が自分からここに連れて来たいと言ったのは君達が始めてだったからね。本当にシェルムの友達だったら良かったなと思ったんだ」

 

 分かっていたんだけどねとセスは残念だというように眉を寄せた。それには追及することなくシドは話題を変えた。その空気に居たたまれなくなったから。

 

 「次は僕らの番ですね。さっき、シェルムが話していた、当事ある野望を持っていた少年はあなたですか?」

 

 「多分、そうだろうね。僕自身は自分をそうは表さないけど、シェルムの目からはそんな風に見えていたんだろう」

 

 セスの頬にほんのりと朱が差した。自分が仲間からそう表されたことに照れているのかもしれない。

 

 「君達はあの日文化祭にいたあの学園の生徒さんだよね」

 

 「はい、そうです。僕らはあの学園の生徒会です」


 付け加えるとやっぱりねと言うようにセスは目を細めた。シドもセスもまずは知っていることを相手に確認をすることから始めた。だが、徐々にシドの方が突っ込んでいく。

 

 「あなたの野望は孤児を救うことですか?」

 

 考えつつ言葉を出していくシド。それにセスは即答をする。リャッカは口を出さないものの話はしっかり聞いて考えを張り巡らせている様子だ。

 

 「いや、それは違う。孤児を保護しているのは、活動の一つに過ぎないんだ。君らの目的は?」

 

 シドの答えと共にさらっと聞いてきた言葉にシドは口ごもった。組織を潰すことが目的だと、この場で正直に話すのはリスクがある。リャッカも口を開かないのでシドは首を横に降った。

 

 「そうか。じゃあ、今の質問はノーカウントでいいかな」

 

 「はい」

 

 答えられなかった質問はノーカウントでいい。どちらにせよ、セスは隠すつもりはないらしいので聞きたいことは教えてくれそうだ。セスはやや迷ったみたいだが、次の質問をぶつけた。

 

 「シドが言いにくいようだから、はっきり聞くよ。君らの目的は、この組織を解体すること。もしくはそれに近いことだね?」

 

 確信を持って放たれた言葉にシドは息を飲んだ。

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