プロトネ祭終了
「ご、ごめんなさいなの」
目を開けて全員が自分に注目している情況にクラスタは状況を察したらしい。飛び起きてペコリと頭を下げた。
ムウムウが彼女の膝を前足でペチペチと叩いている。
「体は大丈夫ですか?」
彼女を気絶させた張本人であるヨシュハが心配そうに眉を寄せた。クラスタはコクンと頷いた。
「クラ?皆さんから聞きました。どうしてそんなことをしたの?」
切り出したのは中等部生徒会長のエマだ。小さな子供に優しく語りかけるような口調だ。ここは普段より仲のいい中等部メンバー達に任せた方がよい。高等部のメンバー達は無言で目配せをして成り行きを見守る。
「そ、それは…」
「あなたがなんの理由もなくムウムウの力を借り、他者を危険な目に合わせるとは思えないの。何かあったなら私たちに話して?必ず力になるから」
クラスタの手を優しく握るエマ。
「クラ!大丈夫っすよ。」
ジュドアが両手をグーにして元気よく励ます。そんな彼らを見てクラスタは小さく聞き取りづらい声だが、確かに話始めた。
「頼まれたの。あの人達を呼んだから捕まえなさいって。逃がしちゃダメって言われたの。だからムウムウちゃんに力を貸してってお願いしたの」
誰かがクラスタをだしにシェルム達がここに来るように仕向け、クラスタに彼らを捕らえるように命じていた。クラスタから語られたのは、それを意味している。
「頼まれたって、誰にさ?」
聞いたのはリウラムだ。クラスタは言葉につまって俯いた。ムウムウがみゃーっと鳴く。
「ちょっとラウ。クラちゃんをいじめちゃダメだよー」
「別にいじめてなんかないさ。言いたくないなら言わなくていいさ!」
姉のラウリムに軽く叱られて、リウラムは慌てて付け加えた。クラスタは力なく首を横に振り、更に小さな声で一言話す。
「…おじいちゃん」
その一言で中等部メンバーの間に同様が広がった。
「彼女の祖父とは、つまり校長先生だ」
情況にいまいちついていけてなかった高等部メンバーにキーツが補足する。
「そうなの」
クラスタは目に涙を浮かべていた。ムウムウの力を借りることが危ないことだと彼女自身知っているし、誰にも言い出せなくて辛かったことを泣きながらクラスタは話した。
「よく話してくれたね。気づかなくてごめんなさい。生徒会長として失格ね」
エマが泣き続けるクラスタの頭を撫でながら悲しげに呟いた。
「うーむ」
「会長?どうされました」
そんな中等部メンバーから目を離し、キーツは椅子にのけぞった。ユウリが中等部メンバーの方を気にしながらも問いかける。
「いや、彼女が言うことが事実であれば、校長先生の言動も納得がゆくと思ってな」
「ああ、なるほどですね」
チュリッシェが頬杖をつく。リャッカが面倒事になってきたなと息をついた。
「じゃあ、俺はもう少し構内を探る」
リャッカが立ち上がり、誰が止める間もなく生徒会室から出ていった。
「さて、我々もどうするか考えようか」
クラスタが落ち着くのを待ってキーツは切り出した。ラウリムがハイハイと手を上げる。
「ラウリム、どうした?」
「あのねー、とりあえず今日はやめしないー?三日間も見回りしててラウリムちゃんも疲れちゃったし皆も疲れちゃったでしょー?」
シドはラウリムがそんな提案をしたことを意外に思った。彼女のことだから今すぐ犯人を捕まえるというのかと思っていたからだ。
だが、確かに皆が疲れているこの状態でいい案が出るとはシドにも思えなかった。
「そうだな。今日は後片付けをして、この話は明日以降にしよう。エマ、それでいいな?」
「はい、異論はありません。三日間ありがとうございます。皆、私達は中等部に戻りましょう」
すくっと背筋を伸ばしてエマは立ち上がる。フォクスター姉弟がそれに続き泣きすぎてふらついているクラスタを支えて立ち上がる。ジュドアとヨシュハが後に続いた。
「ありがとうございました。では失礼します」
入口のところで皆で並んで挨拶をすると、中等部メンバーは帰っていった。最後にラウリムがちゃっかり手を振っていた。それに横に座っているティムが手を振り返す。
「我々はどうする?」
皆が席をはずす気配がないのを見てとってキーツが再度問いかける。
「今回は気になることがいっぱいだねー」
「僕もそう思う。クラスタが校長先生方のお孫さんだったとはな」
ティムと二人顔を会わせてシドは話す。
「私もそれは知りませんでした」
「そうですね。名前も違いますし」
先輩方二人も初耳だったらしい。知っていたのはキーツ一人ということだった。
「クラスタのお母様がが校長先生の娘さんだ。結婚されて名前が変わったのだよ。もっとも、校長先生も孫娘をひいきしないようにされていたから、知っているものは少ないだろう。流石に中等部生徒会諸君には話していたみたいだがな」
じゃあ、いったいキーツはどこで知ったのかと思うがそこは追求するものはいなかった。
「シェルムとあの二人は仲間だとして他にも居んのかなー」
「シェルムさんとエイナさんと黒い方でしたわね。校長先生がおっしゃっていた方々でしたら、他にも仲間がいそうですね」
ティムの呟きにユウリが合いの手をいれる。シェルムは割りとのんびりとしていて新入りという感じだった。エイナの発言からそう思った。彼女は好戦的な性格の持ち主らしい。
そしてもう一人。黒衣の男。瞬間移動の能力者。校長の話で出た彼らの逃げ足の早さ。それは彼の能力によるものだろう。
それにしても、長身の男で瞬間移動の能力者か。あの時はクラスタやシェルム、エイナのことで夢中だった上、黒衣の男が現れてから去るまでは、一、二分の間だった。もしかして彼は…
「シドよ。どうかしたか?」
「ああ、いえ」
シドが考え込んでいると、キーツが微笑みながら声をかけた。シドは微笑みを返す。
「とか言っちゃってさー。何か思い当たる節でもあったんじゃない?」
冗談目かしてけたけたと笑うティムにドキッとするシド。
「あれ、図星か。シド君ほんと分かりやすいね」
「悪かったな」
「して、シドよ。それはどのようなことなのだ?何でもいい、教えてはくれまいか?」
「すみません。ユウリ先輩。能力は使えますか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
キーツが表情を変えないままシドに促す。シドはユウリに能力の使用を頼む。皆はシドのその頼みから、彼がらみのことであると察した。
「ロックしました」
ユウリが鍵の束をちらつかせる。シドはユウリにお礼をいい、勘違いかもしれませんがと前置きをしてから話し始める。
「先程の話した黒衣の男。あれは僕の使用人だった男かもしれないと思いまして。」
「それは、失踪したという十人のうちの一人ということか?」
キーツがクローバード家の話し合いを思いながら合いの手をいれる。
「ええ、もっとも性別と能力が同じであったというだけですが」
「空間系の能力者は多くはありません。可能性は高いかもしれませんよ」
自分も空間系の能力者であるユウリがいうと信憑性が出てくる。実際使用人だった彼もその能力の珍しさが父に
買われクローバード家で働き始めた過去がある。
「その話は本当だろうな」
その声はいるはずのないもう一人のメンバーからだった。シドはハッとして声がした入口付近を見る。そこにはリャッカが立っていた。
「じゃあ、なぜもっと早くに気づかなかった。相変わらずお前は甘い」
厳しめの口調でシドに詰め寄るリャッカ。ユウリが能力をかけたのは確かだ。なぜこの部屋に入ってこられたのだろう。シドはリャッカに能力を使った。が、その答えはわからなかった。
「俺に能力による干渉は効かない。」
唇の端をつり上げて挑発するようにリャッカは言う。シドは素直に謝ることにした。
「すみません。確かに僕はもっと早く気づくべきでした」
「リャッカ、戻ってくるのが早かったな」
キーツはニコニコとリャッカに話しかける。彼はああと返事をし、真っ直ぐにシドを見た。
「こいつを呼びに来たんだ」
「シドを?」
チュリッシェがリャッカを睨み付ける。それにも臆することなくリャッカは続ける。
「そうだ。俺は今、校長のところに行ってきた。理由はこいつを連れてきたら話すと言われたよ。つうことで一緒に来てもらおうか」
なぜ校長先生がとシドは思うも拒否する理由などない、真っ直ぐにリャッカを見つめ返す。
「分かりました」




