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偽主  作者: シュカ
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プロトネ祭を遊び尽くせ

恋人とのことは気の毒だったな。それにうちの生徒が気分を害してしまい申し訳なかった」

 

 謝られると思っていなかったエゴルは驚いたようだった。つられて彼も頭を下げる。

 

 「あんなことしてすみませんっ」

 

 本当に最初とは全然違う態度と口調だ。あれは興奮していたゆえのことだったのだろう。だが、それでも起こしてしまったことは起こしてしまったことだ。

 

 「ああ。いくら腹が立っていたとはいえ流石にやりすぎだ。だから、この調書には君がやったことの顛末を残すことになる」

 

 シドはまだ白紙にしていた調書をエゴルに見えるようにした。それは薄い赤色のついた調書だ。赤色の調書は校内でトラブルを起こし、周りに被害を与えた者を記録するためのものだ。

 

 不注意でガラスを割ってしまったとか軽いものだと薄い黄色。落とし物をしたなど本人が困っているときに使うのが薄い緑色等用途によって使い分けられる調書だが、赤はその中でも人を害した時に使われるものだ。ちなみにその次だとグレーの用紙で犯罪が起きたときにつけられるものになる。

 

 サヒトナの国では公共機関でも警察署でも学校でも同じように使い分けしているので、エゴルにもその意味は分かる。

 

 「知っていると思うが、この調書は一定期間町で保管される。要注意人物という扱いになる。一定期間を平静に過ごしていれば、これは破棄される。今回のようなことを起こさないように、これからは過ごしてくれ」

 

 「……はい」

 

 「まぁ、エゴル君は若いし、そんなこともあるよー。結果的にだけど誰も怪我しなかったし、学校には報告しないから、そんなに気を落とさないでー」

 

 まだ若いって僕らもそんなに歳は変わらないだろう。と思いながらもティムの言葉には同意だ。学生だし人に怪我をさせたわけでもない、加えてうちの生徒にも人を煽るような問題があった。体は大きいが心は年相応の少年らしく口はともかく聞き分けも悪くない。

 

 注意人物としてマークされてもせいぜい一ヶ月程度のことだろう。だが、あえてそれは言わずにシドはエゴルからの返事を待った。

 

 「分かりました。すみません」

 

 ここで異議を唱えずに頭を下げることができるなら彼はまだ大丈夫だ。シドとティムは顔を見合わせて頷いた。

 

 「よーし、じゃあこの話は終わりねー。んじゃーエゴル君行こうかー。」

 

 「はい」

 

 ティムとエゴルは立ち上がり、生徒会室を出る。シドが調書を片付けてから、そこに合流すると少し意外な展開になっていた。

 

 

 「じゃあ、シド君も行こー。エゴル君の失恋慰め会だからパーっとね」

 

 シドは思わずエゴルの方を見る。彼はうつむいていたが、落ち着いている様子だった。シドとしてもこのまま彼を帰すのはもったいないような気がしていたので、ティムの提案を飲むことにした。

 

 「ああ、そうだな。プロトネ祭はまだまだこれからだ。せっかくだから、君も一緒に楽しもう。」

 

 それから三人は校内をくまなく練り歩き、食べ物屋により、かたっぱしから軽食を食べ、イベントをやっているとこに顔をだし、プロトネ祭を満喫していった。

 

 シドとティムは片手間に見回りの役もこなしていたが、プロトネ祭自体は充分楽しむことができた。

 

 エゴルも最初は遠慮していたようだが、だんだん二人と打ち解けて最初に会ったときのような口調と敬語が混じった中途半端な話し方をし始めた。

 

 「あっ、レレイムさん。クローバードさん。喉乾いてねぇっすか。俺飲み物買ってきますぜ」

 

 「エゴル君は気が利くねぇー。じゃあ、俺とシド君はここで待ってるから買ってきてねー。紅茶とコーラ一つずつだよー。後君のは好きなの買いなーいい?」

 

 ティムはエゴルに三人分の飲みものを渡す。

 

 「了解だぜ!」

 

 威勢いい返事をし駆け足で飲み物を買いにいくエゴルを二人は見送って、廊下の隅によった。

 

 「いいのか?あんな、パシリみたいにして」

 

 「んー?エゴル君が好意で言ってくれたんだからいいんじゃない」

 

 「そうだが…」

 

 「お待たせしましたぜ!」

 

 あまりにも到着が早いエゴルにシドはびっくりしたもののティムは普通に出迎えた。

 

 「お帰りエゴル君。どうだったー?」

 

 「はい。これがレレイムさんでこっちがクローバードさんっす。」

 

 エゴルが二人に渡したものは間違いなく届けられた。エゴルもポケットから自分の分の飲み物を出して飲み始める。

 

 「うん、間違いないねー。お疲れさん」

 

 「すまないな」

 

 受け取った二人も飲み物のプルタブを開けた。

 

 「お安いご用だぜ」

 

 嬉しそうに言うエゴル。あの一件のせいで彼は二人を(主にティムを)兄貴分のように慕うようになった。

 

 「もう一日目も終わりだねー」

 

 しみじみとティムが言う。確かにもう夕暮れ時だ。プロトネ祭一日目も後一刻もしないうちにお仕舞いとなる。一般のお客さんが出ていった後、出し物をする有志の生徒が明日の用意をするのでシド達はまだ学園に残るものの、エゴルとはそろそろお別れだ。

 

 「じゃあ、エゴル君ー。またねー」

 

 「気をつけて、帰るんだぞ」

 

 ジュースを飲みながら、二人はエゴルを校門まで送る。彼はどこかスッキリしたような顔をして二人に挨拶をする。

 

 「世話になりました。レレイムさんもクローバードさん、あざーした。俺これから、ちゃんとやってこの学校を目指すぜ!」

 

 「そうか、頑張れよ」

 

 「うんー。また遊ぼーね」

 

 エゴルはにかっと笑って二人にもう一度お礼を言って学園から去っていった。

 

 彼が一年後のプロトネ学園の高等部編入試験を受けるかどうかはまだ分からないが、少なくとも道を踏み外すような真似はしないだろう。

 

 「さて、僕らは後片付けだねー」

 

 「ああ、そうだな。」

 

 そんな彼を見送り、ティムは頭の上で手を組んで、シドは回収した三人分のジュースの空き缶を手に校内に戻った。

 

 それから一日目の後始末をし、他のメンバーと合流してお互いの成果を話す。他のメンバー達も順番待ちの列での争いや、迷子の世話など多少のトラブルがあったものの、校長が心配していた事態は起きていなかった。

 

 二日目も似たような調子で、シドとティムは二人でプロトネ祭をまわっていた。この日はエゴルの件のようなトラブルもなく、和やかに一日が終わった。

 

 「いやー、平和だねー」

 

 「それが一番だろう」

 

 事態が動いたのは三日目の午後。後半日でプロトネ祭一般公開も終わるという時であった。フォクスター姉弟から連絡が入ったのは。

 

 

 

 

 

 

 

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