俺は旅行中でも油断しない!!~4日目 その3~
5月とは言え、観光名所である弓ヶ浜には少なくない数の人がいる。あんなに騒ぎまわったら周りの目も凄いことなっている。
これ以上いたら警察を呼ばれそうだったんで一旦、車に戻ってきた。
車にはもう既にマーキュリーの代わりの日本人らしきボディガードがいて、俺達が近づくと車の扉を開いて待っていてくれた。
う~ん、一つ一つの所作が綺麗で繊細だ。出来る男って感じがするね。ボディガードよりも執事と呼んだ方がしっくりくる。
まったくもって、素晴らしいボディガードだ。
車に入ろうとした時、俺の尻を撫でてきやがったマーキュリーの奴とは大違いだ。
仕事とはいえ、受けた親切にはお礼を述べるべきだろう。
もちろん、マーキュリーの奴には感謝の気持ちなど一片も起こりはしないけどね。逆に謝れ。
「ありがとうございます。」
「仕事ですから…」
俺が笑顔で感謝を述べると、彼は女性と見間違えてしまうほどの端正な顔を1mmも動かさず、男性にしては高い声を出し淡々と答える。
これだよ!!仕事の出来る男は無駄口叩かず、仕事とプライベートをちゃんと分けられるんだよ!!
クール!!ベリークールだよ!!
「紹介するわ。マーキュリーと同じで私の専属ボディガード、コードネーム『タカラヅカ』よ。勘違いしてそうだから言うけど、女性よ。」
「マジですか!?」
そんな…俺の中で出来る男の見本として俺の尊敬出来る男ランキング1位になってたのに…
てか、タカラヅカって…マーキュリーの時も思ったけど、単なるファミリーネームなんじゃないのか?
「女性と知って失望しましたか?」
表情を動かさないまま俺に尋ねてくるタカラヅカさん。
「いいえ。ただ、俺が見た中で一番出来る男性だと思ったんで少し残念だっただけです。俺の周りには尊敬出来る男がいませんから…だからタカラヅカさんが女性でも変わらず尊敬していますよ。」
そう言うと、タカラヅカさんは驚いた顔をする。
「…」
タカラヅカさんは無言で俺をじ~と見ている。
「あの、どうしましたか?」
「……」
俺に近づいてまたじ~~と見てくる。
「あの、なんで近づいてきてるんですか?」
「………」
鼻と鼻がくっつく程の距離まで近づいてじ~~~と見ている。
「あ、あのっ、近いんですけど…」
「………っ!!」
今の自分の状況に気づいたのか、ハッ、として俺から大きく距離を開ける。
顔は咲いたバラのように真っ赤だ。
「…タカラヅカ。次の場所に行きたいから早く準備をしてくれないかしら?」
「も、申し訳ありません、お嬢様!!」
愛理に窘められ、あたふたしながら車に乗り込むタカラヅカさん。
タカラヅカさんの意外な一面を見れたのはいいが、今の姿はドジっ子メイドには見えても出来る人には決して見えない。出来る人のイメージとかけ離れているその姿に少し残念と言うか何と言うか…
☆★☆★☆★☆★☆
テンパリンなタカラヅカさんの運転は酷いもので、いきなりエンストしたり、一方通行の所を逆走したり、車体の幅ギリギリの道を走ったりと気が気じゃなかったがど~にか落ち着いて、今ではブレーキをかけても一切揺れを感じないくらいだ。
「タカラヅカは男に興味なんて無いって言ってたからてっきりレズだと思ってたけど、見た目とは裏腹に乙女だったのね。意外だわ。」
「タカラヅカさんの事については俺も意外だったけど、とりあえず、今はもっと大事な事があるんじゃないか?」
「わかってるわ。子供は男女2人ずつがいいのよね?お互いがんばりましょう。」
「ちっっげーよ!!誰が子供は何人欲しいかなんて聞いたよ!!」
「わっ、私は男の子が欲しいですっっ……きゃ!、言っちゃった!!」
「あなたもですか、タカラヅカさん!?あなたのような人が無理にこんな下劣な下ネタに乗ってくることはないんですよ?」
「タカラヅカったら、仕方ないわね…特別よ?」
「ありがとうございます、お嬢様!!」
「聞けよ、お前ら!!愛理、次はどこに行くんだ?今のままじゃ、せっかく観光地に来たのに意味ないぞ。」
「そうね…圭人君、私思ったんだけど圭人君と一緒にいろんな所行くなら圭人が普段行けないような場所がいいと思うの。」
「確かにそうだ。せっかくの旅行なんだし。」
「だから圭人君には一般人じゃ行けないような場所に連れて行くのがいいと思うの。」
「一般人が行けない場所?」
ディ○ニー○ンドの控え室とかカリフォルニア州サンタバーバラ近郊にある夢の国とかか?
「所謂、セレブ御用達の場所ってやつね。」
「ちょっとだけ気になるけど堅苦しい場所はちょっと嫌だなぁ…」
「大丈夫、私に任せといて。」
愛理の任せては不安しか起こらんわ!!
車に乗っている以上、俺に逃げ道はない。どの道、拉致られた時点で逃げられないのは確定だから仕方ない。
俺はドナドナを歌いながら外を眺めることにした。
☆★☆★☆★☆★☆
「着いたわ。」
「ここって愛理が泊まってるホテルじゃん。」
「そうよ。このホテルはただのホテルじゃないの。ついてきて。」
ついてきてとか言いながら、愛理は俺の腕を奪って腕を組みながら歩いていく。
「いかがなさいましたか、お客様。」
「下を使いたいから私達の服を用意して。」
「畏まりました、こちらへどうぞ。」
ホテルマンに連れられて、俺達は一階の奥にある部屋に入った。
部屋には様々なスーツやドレスが所狭しと置かれていた。
愛理と一時別れ、服を選ぶことになった。
「お客様にはこちらのスーツが似合うと思いますが、如何でしょうか?」
「如何じゃねぇーよ!なんだよこのスーツ、後ろだけ生地がねぇーじゃねーか!!俺は貧坊○ゃまかっ!!」
「似合うと思うのですが…」
イカれたスタイリストの言葉を全て無視して俺は無難な黒のスーツを選んだ。
服を選んだ後、時間が余ったので髪型などもいじくられ、最終的にはオールバックにされた。マーキュリーと同じだから嫌だと言ったのに…
暫くすると、愛理の準備も終わって俺のいる控え室にやってきた。
薄く化粧を施した顔や赤いスリットの入ったドレスから見える太もも、長い髪をアップにして露出したうなじは愛理をより大人っぽく、より色っぽくしている。
「どう、惚れた?」
「誰が惚れるか。俺はもう雪達に首ったけなんだ、惚れるわけがない。…惚れはしないが、」
「ん?」
「……綺麗だ…」
「…ありがとう、圭人君。嬉しいわ。」
愛理は見るもの全てを狂わさずにはいられなくするその笑顔を惜しげもなく向けてくる。
…俺は愛理に惚れる事は無いと思う。そう、惚れる事は無いだろう。
けど、今日見た愛理の姿は心の底から綺麗だと、俺は思った。
☆★☆★☆★☆★☆
準備を終えた俺達はホテルマンに案内されてある一室の前まできた。
扉を開けると地下に続く階段があった。
「こちらを降りてもらうと地下の会場に繋がります。会員証はお持ちですか?」
「これでいいかしら?」
愛理がカバンから取り出したのは光をも吸収してしまうんじゃないかと思うくらいの真っ黒なカードだった。
「確かに。では、お楽しみ下さい。」
そう言いながらホテルマンは去っていった。
「この地下には何があるんだ?」
「ここはセレブしか入れない裏の観光地よ。」
「裏の観光地…」
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。さぁ、行きましょう。」
愛理が階段を降りるように促してくる。
俺は階段を降り始める。その際、愛理の手を取って階段を降りるのを補助する。
「気が利くわね、圭人君。そういう気遣いはモテる男の第一歩よ。」
「別にモテたいとは思わないな。でも、雪達は大切な人だから自然と気を使うようになっただけだ。」
「てことは私にも気を使ってくれたから私も大切な人の中に入ってるのかしら?」
「ただの癖だ。勘違いするな。」
そう言って会話をやめると、愛理は何が嬉しいのか終始ニコニコしていた。
階段を降りきると大きく、
豪奢な扉とその前に門番のように佇む黒服が2人いる。
「失礼ですがここは会員以外立ち入り禁止です。お引き取りを。」
「これでいいかしら?」
「…確かに。大変、失礼いたしました。風雅院愛理様、心ゆくまでお楽しみを。」
そう言うと黒服達は扉を開け始めた。
「圭人君、ここがセレブ御用達の裏の観光地…」
開き始めた扉の中からは喧騒が溢れ出してきている。
そして、完全に開ききると中には…
「これが大人のアミューズメントパークよ。」
テレビで見たラスベガスのようなカジノがそこにはあった。




