第52話 港が女の子で埋まっちゃうぞ!
ロウの宇宙港に赤毛猫海賊団と黒犬海賊団の船が帰還する。
まず入ってきたのは――赤。
弩級戦艦を先頭に、巡洋戦艦、巡洋艦、駆逐艦が次々とドッグへ滑り込む。
一番ドッグ。
二番ドッグ。
三番ドッグ。
全部、赤毛猫が占拠した。
その後ろで、黒犬の艦隊がもたつく。
「……おい」
ロウが呟いた。
「なんで俺の港なのに、俺の船が四番以降なんだ?」
カタリナが当然の顔で答える。
「大きい順でしょ?」
「いや、所有者順だろ普通!!」
聞いてない。
弩級戦艦が固定され、ハッチが開く。
赤毛猫海賊団の艦船から次々と人が降りてきた。
黒い制服に身を包んだ二千人近いクルーが一気に宇宙港を埋め尽くし、
ワイワイガヤガヤ騒然となる。
中には百人ほど男性クルーもいるようだが、
そのほとんどが女性のため、一気に華やいだ。
赤毛猫の団員は皆が礼儀正しく、
荷物を持ちながら整然と行動する。
「お世話になります!」
「ありがとうございます!」
すれ違う黒犬クルーに、笑顔で挨拶する。
重そうな荷物の持ち運びを黒犬クルーの男性が手伝えば、
「助かります!」
「これどうぞ、お茶です!」
差し入れまで出てくる。和気あいあいとした雰囲気だ。
ロウがカタリナの傍でそれを見て呟く。
「……海賊団っていうから、もっと荒れてると思ってたんだが」
カタリナが鼻で笑う。
「は?そんな野暮ったいのと一緒にしないで」
胸を張る。
「うちはスタイリッシュイケイケビューティ海賊団だから」
「はいはい」
ロウは適当に流した。
そのまま歩き出す。
カタリナもついてくる。
「ねぇ、ロウ」
「ん?」
「私のアジトが出来るまで、
この子らあんたのアジトと宿舎に泊めるからね」
ロウが足を止める。
「待て、何人いるんだ?」
「二千人」
「……は?」
カタリナは続ける。
「艦船増えたから、二週間後にさらに二千人来るよ」
「おいおいおい、待て待て待て待て!!」
ロウが振り向く。
「入るわけねぇだろ!!
うちにも千五百人の部下がいるんだぞ!!」
涼しい顔で聞き流して、カタリナは端末を操作した。
ホログラムが立ち上がる。
モカだ。
『モカー』
『あ、おねーちゃん。今どこ?
こっちごちゃごちゃしてて大変なんだけど』
『あー、今……わかんない。それよりさ』
さらっと言う。
『ロウが団員用にアジトと宇宙港の宿舎使っていいってさ』
「おい!勝手に話進めんな!」
「もう!うっさいな!今通話中!」
『え?何?』
『なんでもない。外野がうるさいだけ。
ミネに伝えて。部屋割りよろしくー』
『了解!伝えておくね。
でさー、おねーちゃん、聞いてよ』
通信を続けるカタリナを横目に、ロウがため息を吐いた。
近くにいた団員に声をかける。
「君、赤毛猫だよな?」
少女が元気よく返事する。
「はいっ!」
「普段君ら何やってんの?」
「え?海賊ですよ!」
「どんな?」
少女が指を折る。
「えっと、前のアジトでは――
バザーのお手伝いとか、
街のゴミ拾いとか、
公園で炊き出しとか、
孤児院に行って子供たちにお話聞かせてあげたり……」
「……海賊?」
少女が慌てて続ける。
「あ!あ!
近くに発生した野生のクラーニドラゴンを
セクター保安局の代わりに退治したり……。
それとか、惑星軌道のデブリを片付けたり……」
「……ほんとに海賊??」
「えーと……えーと……。
あ!
強欲なグラドン・ホルゲルト男爵の貿易護衛艦隊を襲ったり、
イキってるホルゴ・ガルガ海賊団を退治したり、
弱い者いじめするガルネス・ヘルガード伯爵の私設艦隊を拿捕して売り払ったり!」
「ほー……一応海賊なんだな」
「はいっ!」
ロウが記憶を探る。
「ホルゲルト男爵にガルガ海賊団、ヘルガード伯爵か。
全部聞いたことあるな。
どれも碌でもない奴らだ」
少女がにこにこしながら言う。
「はいっ!
団長って、悪人が大嫌いなんです!
でも真っ当な人には迷惑かけるなって!
だから街の掃除とかもやるんですよ」
「……赤毛猫、よくわかんねー奴らだな」
「もう行ってもいいですか?」
「ああ、引き止めてごめんな」
少女は丁寧にお辞儀をして去っていった。
宇宙港の宿舎区画に入ると、
黒犬のクルーが荷物を持って右往左往している。
「お前ら何してんだ?」
ロウが声をかけるが、その答えは別方向から飛んできた。
「えー?いいんですか?」
「良いって良いって!
俺達、外でテント張って寝るから、部屋は使って使って」
黒犬クルーが女の子に囲まれ、
デレデレしながらも自分達の部屋を赤毛猫団員に譲っている。
「えー、それでは申し訳ないので、
私達が外で寝ますよ」
「いいの、いいの。
遠慮しなくていいってば。
女の子を外で寝かせるなんてとんでもない。
俺達、訓練でテント生活は慣れてるから大丈夫だよ!」
「ありがとうございます!」
笑顔でお礼を言われて、黒犬クルー達の鼻の下が伸びる。
ロウが頭を抱えた。
「お前ら……若い子らに囲まれてのぼせやがって」
その横で、カタリナがまだ通信している。
『モカー、黒犬のやつら訓練でテント生活慣れてるんだって』
「おい」
『追い出していいみたいだよ。ミネに伝えて!』
「おいカタリナ!!」
『了解!』
モカが返事をしながら、少しだけ引っかかる。
(訓練……?)
ちょうどその時。
「あ!モカ見つけた!今から行くね」
カタリナが手を振る。
モカが歩いてくる。
「ロウさん、ありがとうね。宿舎貸してくれて」
全部分かっている顔で礼を言う。
ロウは軽く手を振って、諦め気味に礼に応えた。
「はいはい」
少し間を置いてから、改めてサクラモカにも聞いてみる。
「なぁサクラモカ。お前ら赤毛猫って普段どんな感じなんだ?」
モカはあっさり答えた。
「私ら?
悪人か、襲ってくる対賊艦隊しか狙わないよ。
真っ当に生活してる人たちの邪魔しちゃ悪いじゃん」
「義賊か?」
「まぁ、そうなるかな」
ロウの中で繋がる。
(……思い出した。
赤毛猫海賊団。
“襲っても殺さない海賊”だ。
これまでもいくつもの艦隊や海賊が襲われているが、
クルーは全員、致命傷を外されて治療され、
脱出ポッドに詰め込まれて宇宙に捨てられる。
もちろん座標は星系要塞の警邏部に送信されるから誰も死なない。
……こいつらのことだったのか!!)
「なぁ」
ロウが聞く。
「なんで殺さない?」
モカがきょとんとする。
「え?嫌なことはしたくない。それだけじゃん」
「は?」
「殺しとか嫌だよ。後味悪いし。
恨まれて幽霊とか出てきたら怖いし」
「理由そこ!?」
カタリナが横から口を挟む。
「モカってそういうの凄い苦手でね」
「ちょっとおねーちゃん、やめてよ」
「学生の頃、モカに気がある男の子がいてね。
内緒で心霊スポット肝試しを企画したんだ。
そしたらさ、入口でモカが発狂しちゃって、
拳骨でその子の鼻砕いて一人で逃げ出してきたんだよ。
あははははは!」
「やめてよ。言う必要ある?そんな話」
ロウは思う。
(……こいつも怒らせると危ない奴かもしれん)
その視線をモカが拾う。
「それよりさ」
少しの間、ロウのことをじっと見つめる。
「あんたらこそ怪しいよね。
実は軍人でしょ?」
隠しきれないと悟ってか渋々ロウが答える。
「……あ?
いや、まぁ、そうだ。
軍人出身だよ」
「じゃあ、なんで軍人やめて賞金稼ぎなんてしてんの?」
ロウが目を伏せる。
「……ルキウスに関係があるとだけ言えば良いか?」
モカが頷く。
「んー、分かった。
それならいいや」
「いいのか?」
「うん。
私たちを油断させて捕まえようとしなければね」
「しねぇよ!!」
「でしょうね」
モカが笑う。
「ロウってさ、何だかんだ人が良さそうだし」
(おねーちゃんの悪人センサーも反応してないし)
「うるせぇ」
ロウがため息を吐く。
「……で、
俺も外で寝んの?」
カタリナとモカが同時に頷いた。
やっほー!銀河一の美貌と、十万年に一人のカリスマ性を兼ね備えたカタリナ団長だよ!
第52話、見てくれた?
ついに私たちの「赤毛猫海賊団」の本隊が到着したわよ!
宇宙港がパッと華やかになったでしょ?やっぱり美少女(と、ちょっとの男手)が揃うと、空気まで美味しくなるわね。
私の物は私の物、ロウの物は私の物。
うん、分かりやすいでしょ。
一番から三番ドックまで、うちの赤い艦隊で埋め尽くされた光景は壮観だったわ。ロウの船が端っこに追いやられてたけど……まぁ、四番以降がお似合いよね!
見てよ、あの黒犬の男たちのデレデレした顔!
うちの子たちがニコッと笑って「お世話になります」って言っただけで、自分たちの部屋を明け渡してテント生活を始めるんだから、チョロすぎるわ。
でも、うちの団員たちが礼儀正しいのは、私がしっかり教育(?)してるからなのよ。掃除も炊き出しも、スタイリッシュにこなすのが赤毛猫流なんだから。
ロウってさ。
あいつ、やっぱり元軍人だったのね。
ルキウスに因縁があるってことは、私たちと組む運命だったってことよ。
まぁ、軍人さんなら野営(テント生活)なんてお手の物でしょ?
しっかりお外で星空を眺めながら寝てもらうわよ!
さあ、これで拠点は確保したし、あとはアジトを完成させるだけ!




