236 お風呂
ウィルの事は『生まれてからどちらかに決めても良かったのに』とは思ったけれど、それが自分にも当てはまるかと言えばそうではない。
前世の記憶を持ったままの僕は、あのまま王室で育てられて、いずれはどちらかに『王位を譲る』と言われる未来は耐えられなかったと思う。
そういう意味では僕は今では捨てられて良かったと思えるのだ。
捨てられて良かったって言うのもなんかちょっと癇に障るな。
そんな事を考えていると不意に「プッ」と噴き出す声が聞こえた。
はっと我に返って目線を上げると握りこぶしを口元に当てているオーウェンが目に入った。
どうやら今噴き出したのはオーウェンだったようだ。
だが、その隣のヴィンセントはニヤニヤと笑って僕を見ていた。
「えっ、何?」
何故二人が笑っているのかわからずに二人の顔を交互に見つめた。
「いや、失礼。エドアルド君の百面相が面白くて思わず笑ってしまいました」
そう言いながらも尚もオーウェンは笑うのをやめない。
もしかしてオーウェンって笑い上戸なのか?
いや、それよりも考えていた事をそのまま表情に表していたなんて、僕も相当ヤバくないか?
気恥ずかしくなって顔を赤く染めていると、隣に座っているウィルが僕の顔を覗き込んできた。
「エドアルドって色んな顔が出来るんだな。僕にも教えてくれよ」
予想外のウィルの言葉にオーウェンとヴィンセントは大笑いをしている。
「…まぁ、そのうちにね」
僕にはそう返すのが関の山だった。
その後、僕達は食事を終えると、二手に別れてベッドルームへと向かった。
「ウィル、お風呂はどうする?」
ベッドルームに入ってウィルに尋ねると、ウィルは「お風呂?」と首をかしげた。
あれ?
ウィルはお風呂を知らないんだっけ?
昨日はクッションの上に寝たウィルをそのまま運んできた事を思い出した。
「お風呂っていうのは、服を脱いで裸になってお湯に浸かる事だよ。身体を洗って綺麗にするんだ」
するとウィルは人間の姿からドラゴンへと変身した。
ウィルが変身するたびに思うのだが、着ている服はどこから来てどこに行くんだろう?
「身体を綺麗にするんだったらこれでも大丈夫?」
そう言うなりウィルはクリーン魔法で身体を綺麗にした。
ウィルのウロコが一段とツヤツヤと輝いている。
いや、まあ間違ってはいないけどね。
だけど僕はちゃんと湯船に浸からないとお風呂に入った気がしないんだよね。
「ウィルがそれでいいなら構わないよ。それじゃ僕はお風呂に入ってくるからね」
僕はベッドルームに備え付けられた浴室へと入っていった。




