↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝道師と為った、新撰組隊士 結城無二三伝  作者: 大野 錦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/18

其の八 One Of A Kind

8話目です。よろしくお願いします。


 結城無二三の牧畜は順風満帆に進む。

 彼は同じく牧畜をしたい者には、丁寧に教えたり手伝ったりする。


 又、他の産業を興したい者は、先ず無二三の元に相談に行くのが常で、無二三は嫌な顔一つせず、地域の相談役の様な立場へと為って行く。


 とは云え、当初は牛乳に抵抗を感じる者も居て大変だったが、博覧会を成功させた無二三の「牛乳は美味い飲み物だ」との説得がすんなりと届き、毎日の搾乳高はほぼ売り切れ状態であった。


 処が、程無くして山梨県庁の勧業課が、同じ牧畜を大掛かり遣り始める。

 民業圧迫で次々に民間の牧畜は縮小されて行く。


 恐らく県庁の方では、民間で新規事業の牧畜が繫栄し、自分たちは何の成果も出していないことに対して、中央政府から叱責されることを恐れたのだろう。


 遂には潰れる民間の牧畜が出て来ると、無二三の怒りは爆発した。

 主に薩長で構成される中央政府に対してだ。


「薩長の何処が勤王なのだ! あの賊徒共は平然と禁裡に鉄砲を打ち込むことを遣っていたぞ! 真の勤王とは俺たちだ!」


 更に「文明開化」と称して、やたらと開明の事業。つまり西洋の事業を推し進めることにも腹が立つ。


「奴らこそ攘夷の急先鋒だったではないか! 何時から其の看板を下ろして『開明』等とは! 恥と云うものを知らぬのか!」


 無二三も若き日に、尊王攘夷論者の大橋訥庵の私塾に通っていたが、京に行き、其の考えを改め、維新後は自ら進んで沼津で西洋の学問を学んだ。


 だが、無二三には明治政府への怒りは在っても、天下を引っ繰り返す行動力は、あの「大小切騒動」の終焉で捨て去った。


 彼は自分の間違いを悟る。


「今の政府に対する忠誠心は一切無いのだから、其の政府下で何か仕事をしようと云うのが、抑々の間違いなのだ。俺は今の世に関りを持たずに生きて行くべきなんだ」


 世を絶つべく、無二三は色々と調べた結果、御代咲の山の中の大積寺へと家族と牛二頭と猫を連れて、引き篭もってしまう。

 途上で作男を一人雇う。


 この大積寺のある山々は御料地なのだが、荒れ果てた処だったので、結城家の無料借地が許された。

 開墾でもして貰えれば有難い、との県庁側の判断だったのだろう。


 それから数年後に長男の禮一郎が生まれ、あの一家全滅の危機を免れた奇跡までを、無二三はチャールズ・サミュエル・イビーに述べ終えた。



 イビーは、無二三の半生を聞き終え、嘆息する。

 これ程に激動の生涯を送った者が居ただろうか。

 これ程に天から見放された者が居ただろうか。


 イビーもこの日本が数年前まで、二つの勢力に分かれて、争っていたことは当然知っている。

 そして、この目の前にいる男は敗軍の側の者。

 勝者の世で、さぞ辛い目に合っただろう。


「結城サン、私にはあなたの今までの出来事は神の御心で、今日この様に私の元に来たのは神の御業だと思われます。若し神にこれからの一生を尽くす、と云うのなら、私に出来ることは何でもお手伝いをします」


「イビー牧師、私の長々としたお話を聞いて下さって有難う御座います。この結城無二三、今直ぐにでも神の為に働きます!」


「分かりました、結城サン」


 其処で無二三はイビーに注文を付けた。


「イビー牧師、私のことは『ムニゾウ』と『ふぁーすとねーむ』で呼んで頂けますか? 『無二三』とは『おんりーわん』と云う意味です。私が自ら名付けたのです」


「オォ~、ムニゾウ……。Your name means "One Of A Kind"! あなたの生き方を現わした素晴らしい名ですね、ムニゾウ!」


 結城無二三とチャールズ・サミュエル・イビー。

 これが二人の出会いである。

 其の関係は師と弟子なのだが、殆ど「親友」と云っても変わらない程の、両者の厚い友情と信頼関係は終生続く。



 明治十二年(1879年)四月六日。

 結城無二三と妻のマツ、そして長男の禮一郎は、イビーから洗礼を受ける。

 こうして結城一家は元の甲府の桜町に戻り、無二三は毎日イビーの所に通っては講義を聞く。


 時には妻のマツも禮一郎を連れてイビーの所へ共に赴くが、マツはイビーの妻ネリーと気が合った様だ。

 ネリーは親切な人柄で甲府の人々から慕われていた。

 特に焼き菓子やパンを作るのが上手く、日曜礼拝の後には、信者たちに好く配っていた。

 マツは何時しかネリーから焼き菓子作りやパン作りの手ほどきを受け、程無くマツが作った焼き菓子やパンが信者たち配られる。


「マツさん、今日のパンは美味しかったよ」


「今日の菓子はイマイチだったなぁ。やっぱりネリーさんじゃないとね」


 そんな声が笑顔の信者たちから出て来る。


 イビーの元で学ぶだけで無く、手伝いも始めてから、無二三はこう思い始めてくる。


「本格的に神学を学ばねば。これではイビー牧師の助けが出来ぬ」


「ムニゾウ、東京へ行ってみるのは如何ですか?」


 イビーに相談した無二三は東京の麻布に在る「東洋英和学校」を紹介され、無二三は妻子を残し単身東京へと移る。


 時に明治十三年(1880年)の春。

 結城無二三はこの年で三十五歳。

 又も彼は学びの日々に入るのであった。


其の八 One Of A Kind  了

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■これらは発表済みの作品のリンクになります。お時間がありましたら、よろしくお願いいたします!

【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
甲府という土地が、結城無二三を牧畜へと向かわせ、イビーとの出会いが、人生を転換させた感じでしょうか? あぁ、日本のコメ作りって、この道を辿るかもしれませんね。 山梨県庁の勧業課が大規模畜産を始めるので…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。