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サーモンやソーセージの手巻きクレープ5

 体調が悪いと言えばエドは来てくれるかもしれないとも考えたが、そんな仮病まで使って何を話したいのか自分でもさっぱりわからないアリシャだった。


 仕方なく歩き出そうとすると、エドがアリシャと声を掛けたので振り返った。


「手を切ったのか?」


 エドの視線を追うと、アリシャの右手の指に行き当たった。そこでやっとさっき手を切ってしまったことを思い出した。横に一本赤い線が引かれたようになっている。痛くもないし、出血も止まっていた。


「あ、うん。でも浅いから」


 そこでドクが「仕事が終わってから塗るように軟膏を用意しよう。食事時に渡す」と言ってくれたので礼を言って料理部屋に入っていった。


「さて、ウィンとエドよ。君たちにやって欲しいことがあるんだ」


 アリシャが姿を消すとレオが二人に声を潜めて言った。エドは眉根を寄せ、ウィンは不安気な表情で頷いてみせた。


 料理部屋に戻ったアリシャは残りのパン生地を焼くために火かき棒を取り、炉の中の薪を動かしていた。


 やっと暖炉も完成し、夕飯は祝の席と決めて張り切っていた昨晩の気持ちはどこに行ったのかとボンヤリ考えていた。確かに寝る前は心が逸り朝になるのが待ち遠しかったはずだった。


(ザライム……綺麗な人だけど、なぜ私はあんなにも目が離せなかったのか)


 アリシャはエドが好きだ。そこは揺るがないのに、ザライムに恐ろしいほど惹きつけられアリシャに罪悪感を与えていた。エドへの裏切り行為な気がして落ち込んでしまう。


 火が大きくなってきたので火かき棒を置くと、自室の扉を開けてココを出してやった。


「ココ、今夜は抱き締めて寝かせてね。なんだかちょっと……」


 その先は言わずにココを撫でると薄いパン生地を焼いていく。これまでの礼だと言ってリリーが持たせてくれたソーセージを茹で、さっき捌いたマスも焼かなければならない。ジャムも今ある全ての種類を個々の器に持って出す予定だ。皆が薄いパン生地にそれらの具材を好きなように巻いて食す。思いついた時は楽しみでならなかった。


 料理を用意している間、ココがいつもに増して所有無げに部屋の中をウロウロと忙しなく動き回っていた。


「ココも落ち着かないの? 嵐が来たりするのかしらね……レオさんがずっと天気ばかり気にされてるし」


 ジャムを壺から出して器に盛っていく。ベリージャム、リンゴジャム、洋ナシのジャム。同じようにハチミツも壺から出して小さな器に入れておいた。


 一口大にしたマスの切り身を焼きながら、隣の鍋でソーセージをボイルしていく。


 出来上がった料理をテーブルに並べているとドクとレゼナがやって来て、ドクがそれとなくアリシャに「エドを頼むよ」と小声で囁くと二人は席についた。そんな二人に少し遅れてレオが部屋から出て来てドクを呼び、何か二人で話し込んでいた。


「はぁ、暖炉があるっていいわね」


 一人になって手持ち無沙汰なレゼナは立ち上がり、アリシャと一緒に食器を並べ始めた。


「あったかい! わ、アリシャ。今日のご飯凄いね」


 手を洗ってきたようで濡れた手をエプロンで拭きながらリアナが歓声を上げて広間に来た。続いてアヴリル、ジャンも雑談しながらやってきた。


 次々にやって来る村人達と会話しながら準備を終えるとエドとウィンを続いてナジ一家が入って来て、場が一瞬凍りついた。


 まさかルクとジャンヌまで来るとは誰も思ってもみなかった。久方ぶりに宿屋にやってきたルクは気まずそうだがジャンヌは堂々としたものだった。


 そこに少し遅れてボリスがやって来てチラリとルク達を見たが、普段通りにこやかに「俺、最後かな?」と扉を締めていた。


「お客様をお呼びしなきゃ」


 忘れていたわけではなかったが、アリシャはあの二人に再び顔を合わせることに気乗りせずにいた。もちろん客である以上、呼ばないわけにはいかないが……気が重い。


 意を決してドアをノックし「お食事の用意が整いました」と声を掛けた。


 扉は直ぐに開かれ、ザライムの部屋からまずはイザクが出て来て、扉を押さえたままザライムが出てくるのを待つ。ザライムは悠々とした足取りで広間に登場すると自分に視線が集まっていることなど一切気にも留めず上座の空いている席に座した。


 ザライムは隣のイスを見下ろして、顔だけアリシャに向け「ここに座るといい」と指示をした。


 客に隣に座るように言われた事などなかったので驚くアリシャにイザクが後ろから「座りなさい」とそっと言葉をかけた。


「私がお相手いたします」


 ルクの隣にいたジャンヌがこれ以上ない笑みを浮かべ腰を上げた。ザライムはジャンヌを一瞥し、素っ気なく答える。


「それには及ばん。娼婦を求めているわけではない」


 ザライムのあまりに容赦のない言葉にジャンヌが顔を赤らませて怯んだが、直ぐに立て直し怒ることなく微笑んでみせた。


「娼婦ではございません。魅惑的だという褒め言葉と受け止めさせていただきます」


 転んでもただでは起きないジャンヌに感服したが、あまりの強さに僅かに怖いとすら感じていた。


「面倒な空気になる。座りなさい」


 再び小声でイザクに言われ、アリシャは渋々ザライムの隣に座る。それでやっとイザクもザライムの右隣に座した。



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