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うなぎの団子入りクリームシチュー2

 アリシャはただ頷き、ボリスはニッコリ笑いかけてくれてから、カゴの蓋を開けた。ウナギがうねうねしながらカゴの中で暴れている。かなり太めで食べごたえがありそうなのが、十匹はいるだろうか。


「お金を払うわ」


「ああ、じゃあ一日分の宿代を引いてもらうのでどう?」


「もちろんそれでいいなら私は構わないわよ」


 ボリスはカゴを閉じるとそのままアリシャにカゴを渡した。


「落とすと拾うの大変だから気をつけて」


 ズッシリとしたカゴを両手で持つと「お金の件はアヴリルに伝えるわ」と告げた。帳簿をつける仕事は金銭が発生しないが、宿や一角で店を開く場所代だということで皆が納得している。


「アヴリルか。アイツ最近俺にあたりがキツくてさ。兄を労らないと痛い目をみるって言っといて」


 アヴリルがボリスにツンツンするのはジャンヌのせいだと言いたくてウズウズしたがそれは言わずに堪えた。女たちはジャンヌに鬱憤が溜まっているし、そのジャンヌに甘い顔をする男たちにも腹を立てているのだから仕方がない。


「アヴリルはボリスの事を信用しているからこそ当たるんだと思うわ」


 言いながら歩き出すと「信用されるのも大変だな」とボリスの声が聞こえて、笑ってしまった。


 宿屋にやっと辿り着くと木こりのルクに扉の所で会った。


「アリシャ!」


 ぶつかりそうだったのもあるが、それにしてもあまりにルクが驚くので気になった。


「なにかあった? 凄く──驚いてる?」


 ルクは慌てて「イヤイヤ、驚いてないよ。いや驚いたけど、ほら突然現れたから」と、しどろもどろだ。


「そう? 何か御用?」


 食事は皆済ませているし、この時間に宿屋に来るのは用事がある以外に考えつかない。


「あ──いや、なんでもないんだ。じゃあ仕事に行くから」


 そばかすを散らした素朴でおっとりとしたルクがこんなに焦っているのはなかなかないことだ。しかもいつもは話がしたそうな空気を醸し出すのに今はどうにかして話を終わらせたがっていた。


 逃げ出すような勢いで去っていくルクに疑問を感じながら宿屋に入り、料理部屋でウナギの蓋を開けた。


「さて、どうしようかな。焼くのは芸がないし、忙しくて時間が作れない時にそれは取っておくとして──」


 アリシャの部屋のドアを掻く音がして、アリシャは立ち上がりココを部屋から出してやった。客が居るときに宿屋を離れる時は荷物を見張らせる為に部屋にココを居させたほうがいいと最近レオに言われたのだ。


(確かにジョゼフの一件で痛い目に遭ったけど)


 アリシャは横でブルブルと震えてから体を掻いているココを不憫に思っていた。なぜならアリシャは用があって宿屋を離れることがかなりあるのに、ジャンヌがずっと宿屋に居るわけで、そうなるとココは閉じ込められっぱなしになってしまうのだ。


「窮屈で退屈な思いをさせるわね。部屋用の鍵を強固にしてもらおうかしら」


 ふと防御(カライズ)の力を部屋に張っておけば侵入されないのではないかと過ぎったが、すぐにその考えは捨てた。


(みんなが黙っていてくれているから平和に暮らせているのに、便利だからといって使うのは良くない、良くない)


 まだ体をくねらせているウナギをカゴの中で頭を落としていく。


「おお、怖いこと。野蛮だわ」


 声で誰かわかった以上、アリシャは振り返りたくもなかった。今日も豊満な胸を突き出してジャンヌが勝ち誇ったように立っているだろうから。


「食べるためには殺さないと。それとも生きたまま食しますか?」


 ウナギの頭を次々に落としていく。


「考え方が野蛮なのよ!」


「ではあなたは果実でも齧って生きていくのがいいでしょうね。無理して食べていただかなくてもなんら問題ありませんから」


「そんなこと言ってきっちり宿代はとるのでしょ? 野蛮でがめついなんて信じられないわ」


 アリシャはスクっと立ちあがって振り向いた。


「宿代の話が出たから言わせて頂きますが、既に頂いた銀貨一枚では足りないと言いましたよね? 先払いしてくださらないなら出ていって欲しいのです」


 今は宿屋にアリシャとココ以外居ないのだ。ジャンヌの泣き付く先はない。


「払わないなんて言ってないわ。従者が到着したら払うわよ」


 それは初耳だった。一人でフラリとやってきて、目的も告げずにダラダラ居続けてどういうつもりなのか首を傾げていたのだが、その従者とやらを待っていたということなのか。


「いつ到着予定なんですか?」


 従者を待つとしても既に十日以上ここに滞在している。


「わからないわよ。一日遅れで来るものだと思っていたんだから!」


 それなのに使いを出すわけでもなく、怠惰な日々を送っていたのかとそれはそれで呆れてしまった。


「事情はわかったけれど、それでも払えないなら出ていってもらいます。私もあなたをタダで養えるほど余裕があるわけではないので」


 毅然と言い切るとジャンヌが「ギノスめ!」と吐き捨てた。聞いたことのない言葉でも悪意が込められているのは伝わる。顔を顰めたアリシャを置いてジャンヌは回れ右をして部屋から出て行ってしまった。


 すると広間の方で何か話し声がしたのでアリシャは料理部屋から顔を出した。ボリスが水車小屋から移動して宿屋の暖炉を作りに来ていたらしい。


「おっと、ジャンヌ。俺は仕事で忙しいから悪いが話は後にしてくれ。寒くなってきたろ? 作業を急がなきゃならない」


 泣き付こうとしたところをボリスに断られたらしく、ジャンヌはそのまま外へと飛び出していった。

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