トリの柔らか煮込み4
エドはなんとか落ち着き眠りに落ちたアリシャを、スリにつけた荷台に寝かせた。寝心地は良くないだろうが暫し辛抱してもらうしかない。
アリシャが起こした火に土を掛けて消し、スリを伴い先ずはアリシャの採っていたベリーのカゴを回収した。
その後、不思議な風に押されて倒れた草の上を歩き回る。低木は根ごと掘り起こされているし、きっと逃げ遅れた鳥だろう、野鳩が数羽死んでいた。それらも荷台の端に乗せ、最後に息絶えた猪の元に辿り着いた。
矢を引き抜くと、やはり傷はさほど深くない。猪がアリシャに狙いを定めていたのを遠目で見つけ、慌てて矢を放ったので急所を外してしまったのだ。
見た目がキレイでも内蔵が潰れたりすると死ぬことがある。解体してみないとハッキリはわからないがきっとそれだとエドは踏んだ。
黙って猪の足を一括にすると、引き摺って荷台まで運び、板を使って上へと乗せた。死んだ猪と添い寝は不憫なので、アリシャの身体に布を通しエドは自分の背にしっかりと固定した。こうしないと意識のない人間を馬上に引き上げることが出来ないのだ。
(二度目だ)
前回もアリシャは気を失って声をかけても目を覚まさなかった。
スリの背になんとかよじ登ると、これまた苦戦してアリシャを自分の前に移動させる事ができた。
アリシャを抱き抱えつつ、手綱を取る。扇状に草が薙ぎ倒されている光景をジッと見つめた。まるで竜巻の通った跡のようだ。スリに歩くように合図を送った。スリは素直に歩き出す。
(奇跡が起こって一方向に風が吹いたなんて、そんなわけあるわけないしな……)
アリシャの顔を覗き込むと眠っているのに涙が止まらないままだった。
(こんなことが出来るのは……この世に三人だけ。いや、回復の主以外の二人だけか。とにかくレオさんに報告しなきゃな)
手綱を片手で持って、アリシャを抱きしめた。
(もし、レオさんがお前を追放すると言ったら……俺がついて行ってやるよ)
エドはどうせ次男だしなと呟くとゆっくりとスリを歩かせていった。
やっと日が真上に昇り、夏の太陽が川を照らしつけ、強烈な光を放っていた。
村に入るとそのまま家畜小屋へと向かった。するとガチョウの世話をしていたレゼナが「早かったのね」と驚きながら近寄ってきた。エドの胸の中に居るアリシャに気がついた時、顔中に広がっていた笑みを引っ込めた。
「どうしたの?」
「気を失ってる。父さんかウィンを呼んでくれないか? アリシャを下ろさなきゃ」
「わかったわ。ウィンは畑に。ちょっと待ってて」
ザルで餌を撒いていたレゼナは、ザルをその場に置いて走り出した。ガチョウたちがザルを目掛けて我先にと首を突っ込んでいる。
「アリシャ。村に着いたぞ。聞こえないのか?」
声を掛ければ瞼は痙攣したように震えるがハシバミ色の瞳を覗かせることはなかった。
まもなくしてウィンが先に走ってやってきた。その後をレゼナが息を切らせながら追いかけてくる。
「怪我をしてるのか?」
スリの横まで来るとウィンはアリシャを下ろすために両手を差し伸べた。エドは慎重にアリシャをその手に託した。
「いや、怪我はしてない。アリシャをベッドに運んでおいてくれ。俺はレオさんを呼びに行く」
「じゃあ私が荷を下ろすわ……って、この猪は無理だわ」
レゼナは荷台にいる大きな猪に驚いていた。
「母さん、それは僕が下ろす。ジャンさんに手を貸してもらうから。それよりスリを戻して、猪以外のを片付けておいて」
ウィンに抱えられたアリシャの頬を涙が伝う。エドはここまでの移動で何度か水筒を口に充てがってみたが、アリシャは飲むことはなかった。干からびてしまうのではないかと心配したが、どうしても飲ませることができなかった。
「レオさん呼んでくる!」
馬から飛び降りたエドはそう叫ぶとレオの家を目指した。ウィンに抱えられたアリシャをレゼナが心配そうに撫でていた。
レオを呼んで戻ってくるとアリシャの部屋には寝かされアリシャの他にドクがいて、エドが試みたように水筒の飲み口をアリシャの口に当てていた。部屋の隅にはリアナが青ざめた顔で佇んでいた。
「リアナ、心配だろうがレゼナの手伝いをしておいで」
レオに言われるとリアナは頷くが固まったまま動けなかった。さぁとドクにも言われると、ギクシャクと手足を動かして出ていった。
アリシャの愛犬ココが、アリシャの枕元でずっと尻尾を振ってアリシャに撫でてもらうのを待っている。エドが代わりに撫でると顔は向けるがまたアリシャを見て尻尾を振り続けていた。
「気つけ薬を飲ませよう。エド、器とスプーンを持ってきてくれ」
エドは言われたとおりその二つを取ってきて、その後ドクから言われて三人が座るための丸太を部屋に運び入れた。




