エピローグ
山々は春の息吹に満ちていた。茶色一辺倒だった山肌は直ぐに緑色に染まり、蝶々が飛び回る様になったいた。
スリの背に乗るアリシャとエドは丘の下に広がるドナ村を眺めていた。
イライザ一向に破壊されたのか、建物の一部は扉が土の上に放置されたり、壁の一部に穴が開けられたりしている。
「片付けと修理が必要ね」
アリシャの言葉に、隣で馬に跨がるボリスが「回復の力で建物はなおせないのかな?」と、言った。
「直せねぇよ」
エドが即答したので残念とボリスは肩をすくめていた。
「直してから行きたいけど……」
既に森を抜けようとしているストルカ国の兵士たちを見渡した。
「俺はもう行かなきゃならないらしい」
背後で馬が嘶いた。その馬にはドクとレゼナが乗っている。
「大仕事が待っているからな。ボリス王としてやらねばならんことは国の立て直しだ」
ドクの言葉にボリスは目を回して見せて「王になんかなりたくないのに」と言ったが、もう観念していることは皆、知っていた。
イライザがなくなりボリスに回復の力が転生すると、ストルカ国の兵たちは歓声を上げて喜んだ。圧政からの解放され誰もイライザを弔う気持ちがないのは明らかだった。中には遺体を踏み付けたりしようとしたものまでいて、アリシャが力を使いそれを止めたほどだった。
「寂しくなるわね……」
アリシャは感傷的になっていた。ボリスをサポートするため、ドクとレゼナがストルカ国に戻ることになったのだ。元々王宮にいた二人はボリスに付き添うには適任だとレオに諭されてのことだった。そのレオはアリシャを手伝うと言って残ってくれることになっている。
「私達は敵対しているわけじゃないでしょ。会えるわよ」
レゼナは明るく返すが、その目には涙が光っていた。
「さぁ、王がのんびり最後尾にいたらおかしい。行きなさい」
レオの一言で、ボリスたちはストルカ国へと旅立っていった。ボリスはルクを連れてストルカ国に行く。アリシャを刺そうとしたのだから村には置いておけないという判断だった。ルクは精神を病んでしまっていてどのみち村で働くのは無理なのだ。ボリスが世話をしてくれるならとナジも同意していた。
「村の人が減ってしまいましたね」
去っていくボリス達を見送りながらアリシャが呟いた。レオは「うむ」と短く返す。
「ほら、アリシャ。見てみろよ」
アリシャの背後でエドが橋の方を指さした。今まさに橋を渡ろうとする人々の姿があった。隣村の住人たちもドナ村に移住することになっている。アリシャが防御の主だと聞いて、自ら移ってくると言った人々だ。
「あ、最後尾見てみろよ。ウィン。あいつ、いつもちょっと間が抜けてんな。ドクたちが行っちまってから来るとか……ほら、アヴリルが何か抱いてるぞ」
アリシャがスリの体に手をついて伸び上がって川の向こう岸に目を凝らした。
「え? ねえ、赤ちゃんじゃない? エド、スリを走らせましょう!」
エドが背後からアリシャの頬にキスをして「村はすぐに賑やかになるさ」とスリの横腹を軽く蹴った。
「そうやってみんなが見てる前でエドってば!」
良いじゃないかとエドの明るい声がした。
「なぁ、イライザが女のふりしてた理由知りたいか?」
イライザの話はしたくないが、それには少し興味が湧いて「なぜなの?」と、馬の足音に負けぬように声を張った。
「俺と結婚するためだ。正式な王子と結婚すればイライザが王座につくのは容易いからな。回復の力だけじゃ足らないと思っていたらしい」
「エドとイライザが……」
「だから俺たちはストルカを出たんだ。これ以上アイツに振り回されたくなかったしな」
スリの後をココが楽しそうに追いかけてきた。ココの足元には冬の寒さに耐えた小麦が青々と茂っている。
「アイツがおかしなやつで良かった」
なだらかな坂を辿って橋の近くまで下りてきていた。相変わらず元気そうなリリーがアリシャたちに手を振る。
「アリシャや皆に会えて感謝だな。アイツのことは死ぬほど嫌いだけど」
アリシャもイライザに言いたいことが山ほどあるが、その点ではまるっきり同意だった。
「宿屋を再開しなきゃ!」
元気よく宣言すると「その前にさ……」と、エドがスリの歩みを落としながら囁く。
「邪魔者も消えたし子供を持つか」
一気に頬を染めたアリシャにエドが笑う。
了
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