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33話『夢見る蛹虫』

 季節は秋になり、あれだけ暑かった道には冷たい風が吹いていた。


 夏休み明けの教室の空気は夏休み前に比べて少し穏やかになっていた。

 新学期に伴う席替え。夏休みを経て変化した交友関係。人間関係。


 俺と慎也はもう学校では話さない。広めた覚えはないが、いつの間にか俺達が別れたという噂はクラス全体にまで広まり、周囲はこちらの様子を伺うような目を向けてくる。


 以前だったらこの視線にも強い不快感を抱き、苛立ちを表面化させないよう取り繕うのに苦労していただろう。でも今の俺は、そんな視線なんてもう気にすることもないくらい晴れやかな心持ちだ。



「理子、なんか前より大人っぽくなったね」


「そう?」


「スカート丈とか短くなってるしリボンの結び方も変えたよね? それになんか、前よりもー……なんて言うんだっけ? なんか、表情がエモくない?」


「顔でエモを見出されることあるんだ。どういう風に受け取ったらいいのかな、私」


「ん〜〜。あれだ、儚い! 儚い的な感じに見える! それだっ!」



 友達がパチンッと指を鳴らす。



「吐かない? そりゃ人前で吐いたりはしないよ。私ゲロ吐く感覚めっちゃ嫌いだし」


「違うよ絶対に。他人に対して『ゲロ耐久上手そう』だなんて印象わざわざ抱くわけなくない? 話の流れ的にも不自然じゃんか、急に理子に対してそんなこと言うのは」



 訂正をされたので改めて考える。儚い……? 言葉としてはよく聞くけど、それもそれでどういう風に見えてるのかイマイチ分かりづらい。ずっと泣きそうな顔してるって思われてるってこと?



「まだ彼氏との失恋を引きずってる感じですか、理子ちゃんは」


「別にそんな事ないよ〜」


「あれっ? そんな事ないの? てっきり失恋のショックでキャラチェンしたのかと思ってた。あんなに好き好き言ってたのに」


「あはは。まあショックはショックだったけどさ。性格が合わないって互いに思ってたみたいだし、遅かれ早かれって感じだし? 引きずってはないよ。こんな事もあるよねって受け入れてる〜」


「へ、へぇ。そっか」



 相手が少しぎこちない愛想笑いをする。なんでだろ? 面白くもない元彼の話を振ってきたからそれに答えてあげたのに。目くらいは合わせて喋ってほしいな。


 と、今のように俺に対するクラスメートや周りの人の対応が若干変わったというか妙な違和感がある。


 自然体の時は愛想の良さを意識する。否定的なことは極力言わないしリアクションも取るようにしている。


 ただ、ちょっと話を聞くのに疲れを感じることが多くなった。

 気付けば頬杖をつき、無意識のうちに前髪をいじりながら話を聞く事も増えてきている。

 話す内容が特別つまらないわけじゃない。誰が何を話そうと退屈なのは同じだし。でもどことなく周りの子が話す内容が"幼稚"に思えてしまう。

 別に前のめりになって真面目に聞く必要もないかなって考えると、自然と体が暇を潰そうとしてしまうのかもしれない。


 話がつまらなかったか、と聞かれると自然とため息が出てしまう。間延びした喋り方で「そんな事ないよ〜」って、脱力したやる気のない返事をしてしまう。


 思ってもないことを口にする、その行為に何の後ろめたさも感じなくなっていたのはいつからだろう。俺ってやっぱり、冷たい人間なのだろうか?



 女子の輪に入るとすぐに声が飛んでくる。

 こういう時、各々が自分の楽しかった体験話なんかを語り合えばいいのに話題は俺に関することが多かった。



「髪伸びたね〜理子ちゃん! 似合ってる!」


「ありがと〜」



 見た目を褒められる。髪が伸びた人なんて他にも居るのに、わざわざ俺を指して言ってくる意味が分からない。どうでもいいのでテキトーに喜んでおく。



「理子、夏休み中外に出た? なんか肌白くない?」


「一緒にプール行ったでしょ」


「日焼けケアガチった?」


「さあ。日焼けしにくい体質なんじゃない? 焼けにくい代わりに皮膚真っ赤になるしめちゃくちゃ痛いし」


「へー。皮膚が弱いんだ? でも美白を維持できているなら全然アリだよねー!」



 アリじゃないでしょ。服着るだけでのたうち回れるんだけど。普通に日に焼けた方が絶対いいでしょ、四季のある日本に住んでるんだからさ。


 てか肌の色なんて気にしたこと無かったな。外国の人じゃないんだからそんな所一々気にする理由がないし。


 そういえばお母さんも年中肌が白かった記憶あるな。そこも遺伝したんだ。顔とか体の形以外に、体質なんかも引き継いでるんだなぁ。

 本当にお母さんの劣化コピーなんだ、俺。男親の遺伝要素は一体どこにあるのやら。



 慎也と拗れた別れ方をしたのが原因なのか、最近男への嫌悪感や拒否感も増して抱くようになった。


 目を合わせられない。

 会話は出来るけど笑顔が作れない。微妙な表情になってしまう。



 女子に対しては投げやりな対応をし、男子に対しては愛想を保てない。そんな奴、関わりたいと思えるはずがない。

 それなのにクラスの連中は多少近付く頻度が減っただけで、いまだに俺のことを『可愛い女子』のポジションで扱ってくるし前にも増して絡み方がだるくなってきている。ボス猫に群がる子分猫というか、金魚が出した糞みたいな感じ。




「瑠璃川。悪いんだけどこのプリント束を職員室の俺の机まで持って行ってくれないか? 急用が出来てな」



 放課後、女子と歓談している中に割って入ってきた担任が何故か俺だけを見据えて頼み事をしてきた。

 ……夏休み前にもあった流れだ。他にも生徒はいるのに何かあれば俺に頼む。断らないことをいいことに利用されてる。苛つく。



「ちょっと〜、理子とこれから遊びに行く予定なんですけど〜」


「空気読めよ大人なんだからさ〜」



 俺が睨みつけるより先に他の女子が担任に向けて援護射撃してくれた。

 女子からの集中砲火を食らって苦笑いしながらも邪険に扱う言葉を口にする担任。なんとなく彼の今の気持ちに共感してしまう、用のない奴にやいのやいの言われるの鬱陶しいよな〜。



「まあまあ。……はぁ。分かりました、机に置いとけばいいんですね」



 騒ぐ周りの女子達に「ごめん」と平謝りし、担任の感謝の言葉を素通りしてさっさとプリントの束を抱え込む。


 ……重っ。女子一人に頼む仕事か? これ。


 力仕事って体が女になったことをこれでもかというくらい感じさせられるから大っ嫌いなんだよなー。

 先に帰ってて、と言ってしまったせいでいつも引っ付いてくる女子連中はもう居ないし、女の子を真面目に演じてた最初の頃のように男子に「手伝って〜!」って声を掛けるのもなんか気が引けるな……。一人で運ぶかぁ。



「お、瑠璃川さん。なに、担任にパシられたの? 手伝おっか」

「大丈夫ー」



 一人で運ぶかぁって気合い入れた矢先、教室のドア付近でたむろっていた坊主男子が声をかけてきたので即断る。背中の方から坊主男子をからかう楽しげな声が聞こえてきた。そんな事で盛り上がれるなんて羨ましい、箸が転んでも大笑いしそうだなーこの人達。



 じろじろ。チラチラ。廊下をえっさほいさ歩いていたら男女問わず視線を向けてくる。流石にもう慣れたけど、ただ歩いている人を目で追ってしまうってどんな心理なのだろう? 誘蛾灯に集まる蛾みたい。人間って実は虫と近縁種だったりするのかな。



「……あっ」



 しかし今日はあまりにも下半身への目線が多いな、なんて考えてふと脚を見たらプリントの束を寄せて持ち上げた際にスカートの前側が上に引っ張られていた事に気づいた。



「誰一人指摘する人いないのは何故なのか……」



 廊下の曲がり角で立ち止まり、束を持ったまま小指でスカートを引っ掛け下にずいずいとズラす。


 ムズいな。重い書類束を持って体に押し付けて支えてるせいでうんともすんとも言わないや。ちゃんと床に置いて服装整えるか。



「いてっ」



 スカートの位置を戻し、改めて床に直置きした書類束を持ち上げようとしたら紙の端で指先を切ってしまった。皮膚がぱっくり破れて血が出てきちゃっている。


 このままプリントを運んだら我がクラスで殺し合いが起きているのではと職員の間で噂になるかもしれない。なにそれめっちゃおもろいな、丁寧に1枚1枚血をつけてやろうかな。


 なーんて邪な考えは排して傷口を舐めて止血を試みる。……止まんない。紙で切った時って唾つけても中々血が止まらなくて困るよね。

 どうしよ、絆創膏なんて気の利いたもの今は持ってないんだけれども。


 仕方ない。切った指の腹を握りこんで血がつかないように気をつけながら運ぼう。

 自由に指を開いてない分バランスが取りづらいし外側の皮膚を切ったりしたら詰みだ。諦めて、うちの担任にはデスゲームの主催者の疑いをかけられてもらおう。



「わっ!?」

「いって!? ごめん、大丈夫か……?」



 プリントを持ち上げて景気よくスタートダッシュを切ったら曲がり角の向こう側に居た男子と勢いよく衝突した。

 よろけて転びかけるが壁に手をついてなんとか転倒を回避する。しかし手を離してしまったばかりにプリントが気持ちいいくらいバサーッと床に散らばってしまった。


 相手の男子が慌ててしゃがみ込みプリントを拾い始める。咄嗟の出来事だったのに反応が早いな、こっちはいまだに心臓がびっくりして騒ぎが収まらないってのに。



「あ、えと、ごめんありがと! 拾わなくていいよっ、私がミスっただけだし!」


「ぶつかったのは俺からだったしこれ集めるのは手間でしょ」


「急いでたんじゃないの? 私は大丈夫だから、ほっとい」「え!? なんで出血してるの!?」



 男子が俺の手元を見て声を上げる。俺の左手は切り傷が出来た指を握りこんでいたせいで真っ赤に染め上げられている。さながら人を刺し殺した後のような感じだ、そりゃビビりもするか。



「違うよ! これはそのっ、誰かを殺傷した後の返り血とかではなく自分の血だから安心して! デスゲームは未遂だから!」


「デスゲーム……? 自分の血だから安心してってどういう……? それ、紙で切ったんだろ? え、違う???」


「う、うん。当たり」


「そんなんになるまで放置する人初めて見た……流石にその出血量はなんてことはなくても見栄えがエグいって。手、洗ってきなよ」


「え? でも……」


「大丈夫。こんくらいの束なら俺が持つから。てか場所さえ教えてくれたらそこまで運んどくし先に帰っていいんじゃない? どこに置いときゃいいのこれ」


「それは流石に悪いよ! 持ってくれるのは嬉しいけど、せめて半分は持つ!」


「手を切ってる上に今から洗ってびしょ濡れになる手で?」


「拭くよ! そのまま持つわけないだろ!」


「濡れた後の皮膚って柔らかくなるし余計切れやすいだろ」


「親切は有難いけど別クラスだよね? 知り合いじゃない相手の作業を代わりにやったげるのはお人好しが過ぎる、ので……は……」


「? 俺の顔に何かついてる?」



 ……卜部?


 俺にぶつかってきた相手は小学校の頃に交流があった元転校生の『卜部』という男子にそっくりだった。


 相手は俺が誰なのか気付いていない様子で、じーっと見ていたら気まずそうに視線を逸らした……ような雰囲気を感じ取る。


 中学生になってバンドにでもハマったのか、昔と同じ痩せ身のまま髪が伸びてなんだか地味な見た目になっている。でもなんか鼻や口の形があいつにそっくりで、好奇心が湧いてつい相手の前髪に指をスッと差し込んでしまう。



「やっぱり卜部だ」



 分かれた前髪から懐かしい顔が見えた。

 卜部は急激に顔を赤くし、俺から離れる為に身を引き手の甲を自分の鼻に当てながらしどろもどろな声を出す。



「なんですか急に!? 俺の知り合い!? 俺、女の子で仲良かった知り合いとか居なかったと思うんだけど!?」


「ほう。仲良かった女子は居ないと? 本当に? 一時期だけでも仲良くしてた女子は居るんじゃない?」


「居たには居たけどそいつとはもう小学校以来疎遠だしっ…………え? 瑠璃川?」


「誰ですかそれ」


「その場合真相は闇の中なんだけども。えー誰だ……? 鶴舞先輩ではないし、他に絡んだ事ある女子……?」


「ヒントは元男」


「じゃあ瑠璃川だなぁ!? なんで一回フェイント仕掛けたの!? 正答者にバツつけちゃダメだろ!」


「あはははっ!! マッシュなり損ないの不完全ぶなしめじに成り果ててるのにツッコミの勢いは昔のままだ!! キャラミスってるねぇ! 見てみて、さぶいぼ立った!」


「久々の再会で浴びせる罵倒の密度ではないよ? なんでそんな天真爛漫な笑顔で人を馬鹿にできる? そんでもって腕見せてくるフリしてふつーに殴ってきたのは何???」


「急に無視した過去の私怨パンチ!」


「本来であれば言及を避けるか事情説明のエピソード挟まってもおかしくない議題じゃないかそれ!? 勢いに任せてテンプレートぶっ壊していくなよ!」



 まさかの旧友との再会に喜びが堪えきれず口が回る回る、パンチまで繰り出してしまった。久しぶりな感覚だな〜自分の思いの丈を抑えずに相手にぶつけるの!



「あれ?」



 しばらく卜部と立ち話をしていたらふとあることに気付く。


 俺、お父さん以外の男の人に強い拒否感を抱いてなかったか?

 幼馴染であり彼氏でもあった慎也ですら、手を繋ぐのを躊躇うくらい強い感情で拒絶していたはずなのに、なんで卜部に対しては自分からベタベタと触っていけるのだろう?



「瑠璃川? どうした、体調悪いの?」


「体調はすこぶる絶好調なんだけど、ふむ。なんで私、普通に卜部と会話出来てるんだろう?」


「一応言っとくと俺、宇宙人でもなければ外国人でもないんだよね。日本語使ってはいるよ? 会話できる理由について謎めいてることが謎でしかない」


「日本人は頭にキノコ乗っけないよ?」


「乗っけてないよ??? こういう髪型なだけだよ」


「もうマッシュは廃れてるよ?」


「まだギリ廃れてないわ! 俺以外にもいるだろこんな頭の人!」


「意識してその髪型にしてるんだ? ちょっとおもろ」


「なっ!? ち、違うわ!! 切るの放置してたら勝手にこうなっただけで俺は決してかっこつけのつもりでこんな髪型にしてるわけじゃないから! 変な誤解招いて馬鹿にするなよ!?」


「切るの放置してそうなってる時点で馬鹿にできる対象ではあるんだけどもね。髪くらい切りなよ」


「どっちに転んでも馬鹿にされる……くそっ! 今日は偶然髪が膨らんでるからキノコに見えるだけなのにっ!」


「ヘアゴム貸してあげよう。じっとしてて」


「やめてね。どうせロクな事にならないから」



 持っていたヘアゴムを指で広げ迫ったら俊敏な動きで卜部が距離を取る。懐かしい、子供の頃に犬のうんちがついた棒を持って卜部を追いかけ回したことがあったっけ。その時の再演というわけか。



「待て、瑠璃川。プリントをどっかに届けなきゃなんだろ?」


「あ、そうだったそうだった」



 卜部の言葉で本来行うべき作業を思い出す。書類束は卜部が抱えているので、それを上から取ろうとしたら卜部が体を返して俺の手を躱した。



「どうしたー? 追いかけっこは嫌だけど物取り合いっこは挑戦受付中って話? 普通に尻とか蹴っちゃうタイプだぞー私」


「受け付けてないから。お前指怪我してんだろって。運ぶのは俺がやるから、配送指定頼む」


「なんじゃそれ。配送指定って、場所だけ言って私が帰ったら意味分かんなくない? 仕事押し付けられたいの?」


「そういうわけじゃないけど」


「ならせめて一緒に行くのが筋というか道理じゃない?」


「俺この後用事あるんだけど」


「そうなんだ」


「うむ」


「……」


「……」



 ……?


 用事あるんだけど、で会話が途切れたけど。だからなんだ? 何を伝えたいのかよく分からなかった。



「……用事あるならやっぱ貰うよ?」


「渡さねー」


「どういうこと??? え、用事あるからの先は何に繋がるんださっきの」


「え? あぁ。いや、用事あるから駄弁ったり一緒に帰ったりは出来ないよっていう、そういう……」



 言ってるうちに卜部の鼻先が赤くなり、彼は小さな声で「なんでもない」と言った。


 一緒に帰る、か。


 別にそんなこと微塵も考えてなかったな。中学に入ってから、男と一緒に帰るって行為が楽しかった覚えないし。だからもう一人で帰るか女子連中と帰るのが俺の中でのスタンダードになってたや。



「ふーむ」


「な、なんだよ」


「別にー」



 隣を歩く卜部の横顔を何度もチラチラと見る。


 不思議だ。卜部は男なのに、自然に会話できるし顔も見れる。目を合わせるのも苦に感じない。

 卜部側からも俺を邪な目で見る感じしないし、下心とか全く抱いてなさそうに見える。俺が瑠璃川だって判明する前から卜部の接し方や反応はごくごく自然な物だったしなぁ。



 ……もしかしたら、卜部はお父さんと同じで他の男とは"別枠"の存在なのかもしれない。それをどういう名称で定義するべきなのかは今の所まだ分からないけど、卜部と居て感じるこの感覚は、限りなく希釈したお父さんのソレに似通っているような気がする。



「今度一緒に帰ろうよ。卜部」


「えっ?」


「久しぶりに卜部んち行きたい。また対戦しようぜ、ブランクが空いてるから絶対私下手くそになってるけど。そこはちゃんと手加減してね?」


「瑠璃川」


「なにさ?」


「……怒ってないのか? 昔の事。俺、急にお前のこと避けただろ」



 足を止めて卜部の方を向く。目が合わない。

 卜部の方に一歩近付き、前髪の下から彼の顔を覗き見る。



「近いぞっ!?」


「やっぱり平気だ。変なの」


「変ってなんだよ」


「急に無視してきた時の事についてはムカついてる。理由も分からず卜部と離れ離れになって寂しかった」



 そう口にした途端胸の奥が少し苦しくなる。当時のあの出来事から今に至るまで、溜め込んでいた感情が少しずつ漏れ出すかのように口が震え始める。なのに俺の顔は勝手に笑顔を作り出した。



「でも卜部とまた会えた! またこうして話せた! その嬉しさの方が勝ってる!!」



 嘘偽りのない表情でそう言い放った後、急に恥ずかしくなって顔を下に向ける。



「……なんか恋愛漫画でも読んできたの? すっごい恥ずかしいこと言ってたぞ、お前」


「うるさいな! 今後その話ほじくり返したらぶん殴るから!」



 一撃殴ってから歩き出す。卜部は空々しい声音で「いて〜」と言いながら隣に着いて歩いてくれる。


 また表情が綻び笑顔になる。俺って、お父さんといる時以外でこんな自然に笑顔になれるんだ。それにこの頬の熱さは……。

 いや、これに関しては気の所為か。気にしないことにした。

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