30帰還者とその後の未来
皆さま、いつもお世話になっております。
これにて「蟻が侵略者達を食らい尽くすまで」の最後になります。
次回の新しい作品に向けて集中していきますのでよろしくお願いいたします。
ユートとリアが故郷である島から離れて1年が過ぎた。
大陸に巣くう悪意を撲滅し大地の神の信仰を広げたこの大陸は生まれ変わることができた。
「出航!!」
蟻人間たちが船と港につなげられた縄を解いて一隻の船が港から離れていく。
船内にはかつて船乗りだった蟻人間達が休むことなく船を進めていく。
船の看板には大量の黒蟻達がおり二つの人間の形を作り出す。やがて船は2,3日の航海でとある小島にたどりつく。
島の者は一年前の惨劇を思い出し木の槍や弓矢を織り出し船から出された小舟に警戒していた。だが、小舟に乗っている二人の若者の姿をみると武器を捨てて島の者達に喜びの声が広がった。
小舟に乗ってきた二人の若者が帰還した翌日、島中で結婚式のお祝いが行われていた。
「ユート…」
白黒の混じった花嫁衣裳を着こんだリアが隣に立つユートの腕によりかかる。
黒蟻達により新たな体を与えられリアの体にはグリーンから受けた傷はなく清らかな体で式を迎えられて嬉し涙を浮かべていた。
「リア…」
白黒交じりの婚儀用の衣装を着たユートはリアの瞳を見て一年前の惨劇を振り返る。
略奪者たちにより一度は殺され地の神により再度命を与えられた。リアを奪われて島の外の世界に行きそこで人間の悪意を知った。
人間の悪意との闘いを終えて故郷に戻ることができた二人は島中の人間と地中深くにいる黒蟻達に祝福されながら結婚式を迎えることができた。
時が過ぎて二人の間に何人もの子度が生まれ地の神の教えを習い健全に育っていった。子供たちは定期的に島を通る船に乗りかつて自分達の親が大地の神と共に統治した大陸へと旅立つ。
地の神により統治された大陸には圧制者は一人もおらず飢えや差別もない理想的な社会を作られていた。子供たちは広く新しい世界を知りその知見を次の世代にと託していく。
さらに時が流れてユートとリアも年を取り孫たちも立派に自立した頃。
「ユート…」
島の小屋にて老婆となったリアがベッドに横たわる老人となったユートに寄り添う。
「リア」
互いに名前を呼び合うだけだが二人の間にはこれまでの出来事が振り返られていた。
少年少女だった時に略奪者たち襲われユートは命を失いそこで地の神に選ばれて同化して略奪者たちを滅ぼした。誘拐されたリアはどんなに苦しくても最後までユートが来てくれるのを信じ最後は地の神とユートと同化して大陸に巣くう人々の悪意と戦い平和を勝ち取った。
二人は島に帰還してから一度も外の世界には出ず、そのまま一生を島の中で暮らしていた。二人にとって生まれ故郷のこの島こそ世界だった。
やがてユートは息を引き取り動かなくなった。島の人々はかつて島を救ってくれた英雄が亡くなり悲しみに満ちていた。やがて後を追うようにリアも息を引き取り二人の遺体は丁重に島の人々の手によって黒蟻達の巣の近くに置かれた。巣から現れた黒蟻達により二人の遺体は骨の欠片も残さず食べられたが、これが島での亡くなった者への葬儀の方法だった。
大地に生まれた者は死した後にその肉体を大地に還すことで次の命へつなげることができる。二人が亡くなった後、数年の時が流れると大地の神の信仰は他の大陸にも伝わり世界の半分以上にも信仰が広まっていた。やがて島に聖地巡礼で多くの船がたどりつき多種にわたる人間の行き来が盛んになってきた。
そんな中、二つの家で同時に男の子と女の子の赤ん坊が生まれてその二人の赤ん坊にはかつて島を救った男女と同じ名前が名付けられた。
二人の子供はやがて大きくなると外の世界に興味を抱くようになり、かつてユートとリアが統治した大陸に向かいそこで新しい人生を歩むのであった。




