嫉妬と囁き
僕の彼女はストーカーだった(衝撃)
ということで、今回はストーカー回です。
御崎川ツバキは人見知りが激しく、対人恐怖症であるため同性のクラスメイトからは不気味がられ、友人がいない。
しかし、その日本人離れしたルックスと、頭の良さと運動能力の高さから、校内の男子からはかなりの人気者であった。
「あぁ〜、やっぱり御崎川は美人だよなー。ってか胸でかくね? 」
「だよなー。日本人っぽくないもんな」
「半分ヨーロッパ系の血が混ざってるらしいぜ」
「しかも良いところのお嬢様なんだろ? 」
ブルーの瞳に銀色の長髪。
長身で無駄な脂肪のない四肢。しかし出るところは出ている。その美貌にクラスの男子は誰もが魅せられていた。
そしてその中にツバキに対して一際強い想いを寄せる男がいた。
その男子生徒の名前は村瀬 透。
中肉中背で、一般的な容姿をした男子生徒だ。
彼は授業中だけでなく休み時間も、いつもツバキの事を見ていた。
(今日もツバキはすごく綺麗だ)
トオルがツバキのことを眺めていると、不意にツバキと目が合う。
トオルは目を逸らさなかったが、ツバキは目が合ってから2秒ほど経つと、慌てながら胸を押さえて目を逸らした。
少し息苦しそうにしている。
(もしかして僕に照れてるのかな……僕も君と同じで、今すごくドキドキしているよ)
そうしてトオルは、ツバキと同じように胸に手を当てた。
時刻は17時頃。
トオルは自分の家のドアを開ける。
「ただいまー」
すぐに奥の部屋からトオルの母親から声が返ってくる。
「おかえり」
返事が聞こえたのを確認すると、トオルはすぐに自分の部屋へと向かった。
ドアを開け中に入り、電気を点ける。
するとそこには、壁一面にツバキの写真が貼ってあった。
集合写真の切り抜きだけでなく、盗撮の写真まで。
制服姿に体操服や競泳水着、私服姿など様々な服装のツバキが壁を埋め尽くしていた。
「ただいま、ツバキ」
トオルはドアの鍵をしっかりと閉めた。
ある土曜日、トオルは最寄の駅に来ていた。
改札を抜け、ホームへと向かう。
(今日はツバキとデートだ)
電車が来るまであと5分ほどある。
(今日はどんな服を着てくるのかな。そういえば先週はブラウスにハイウェストのスカートだったな……)
清楚な雰囲気ながらも強調されたシルエットは、まるで自分を誘惑しているかのようだとトオルは感じていた。
ここでアナウンスが入った。
「11時12分発の上り普通列車はまもなく到着いたします」
トオルは待ちわびたと言わんばかりにためいきをつく。
駆動音とブレーキによる摩擦の音を響かせながら列車はトオルの前で停車をした。
中に入ると、満員というほどではないがそこそこの人が乗っていた。
どうやら、座れる場所は無いようだ。
列車は2車両ある。トオルはこの中からツバキを探していた。
後部車両に入った時、目的の人物はそこにいた。
長く伸ばされた銀色の髪はやはりよく目立つ。
細く長身な体躯は、彼女が日本人離れしている事を際立たせており、周囲の人間の視線を集めるのには十分なものだった。
ツバキを見つけたトオルは、早速彼女の服装をチェックした。
黒いtシャツを着ており、胸元には猫を模したペンダントを下げている。
下はデニム生地のショートパンツにハイヒールという、もともと背の高いツバキの脚の長さがさらに引き立つものとなっていた。
手にはカーディガンを持っており、もともと着ていたが、暑くて途中から脱いだのだろう。
(猫のペンダントなんて珍しいな……猫が好きなのかな。僕も猫派だから気が会うね。シルエットや身体のラインを強調した服装は僕のドストライク。僕を意識して選んでくれたんだね)
そうしてまじまじとツバキの服装を見ていると、教室の時と同様に、不意に目が合った。
ツバキはいつものように目を逸らし、乱れる呼吸を整え始めた。
(今のは僕への愛のサインだ。僕も君を見ていると心臓の鼓動も、呼吸も速くなってしまうよ)
トオルはポケットからスマートフォンを取り出し、サイレントカメラを起動した。
電車を降りて、トオルはツバキの後ろを5メートルから10メートル離れた場所からつけていた。
ツバキは他人からの視線には敏感だが、もともと目立つ容貌をしているため、トオルの視線に毎回気づいているわけでは無いようだった。
しばらく歩くと、つい最近新しくできたデパートへとたどり着いた。
ツバキはデパートの中へと入っていくので、トオルも続いて中に入った。
やはりツバキの容姿は人目を引くようで、すれ違う人が皆振り返り、2度見をしている。
(だけど君は僕だけのものだよ。ツバキは誰にも渡さない)
しかし、ある時事件が起きた。
その日はツバキが登校してからずっとため息を吐いていた。
ツバキは朝食をとる時間が無い時は、学校にフルーツグラノラを袋ごと持ってきて牛乳をかけずに食べることがある。
その日はフルグラを一口食べては「はぁ」とため息。手元に置いた牛乳を一口飲んでは「はぁ」とため息。
そんなツバキを見て、トオルは不審に思っていた。
(今日は登校してからずっとため息ばかりだ。どうしたんだろう)
すると、朝のホームルームを告げるチャイムが鳴り、教室に担任の藤原が入ってきた。
「全員いるかー。ホームルーム始めるぞー」
藤原は教壇で中間テストが近いことやテストの後に身だしなみ検査があることを伝えた。
その間、トオルは藤原の話を聞きながらツバキの方を見ていた。
しかしツバキは相変わらずため息を吐いている。
「それと、今日からこのクラスに新しい仲間が増えるぞ」
その瞬間、教室がざわめいた。
「もしかして転校生⁉︎ 」
「男子かな女子かな」
「かわいい女の子がいいな」
周囲の生徒が騒いでいるが、ツバキはほとんど意に介していないようだった。
(ツバキには僕がいるから興味ないんだね。僕もツバキがいるから転校生なんてどうでもいいよ)
「いいぞ、入ってこい」
教室の戸が開かれ、中に1人の生徒が入ってくる。
「男子か……」
「イケメン! 」
などと言う声が聞こえるが、トオルには関係ない。
トオルにはツバキしか見えていないのだ。
「転校生の真道くんだ」
「真道 功です。よろしくお願いします」
その瞬間、ツバキの反応に変化があった。
それまで周囲の情報を完全に遮断し、自分の世界に閉じこもっていたツバキが、その転校生の声を聞いた瞬間に現実へと戻ったのだ。
さらに、生き別れた兄弟と再会したかのような目でコウと名乗った転校生を見ているのである。
(ツバキが転校生に興味を持っている⁉︎ 馬鹿な、そんな筈は……)
コウがツバキの席へと歩いて行く。
隣まで来ると、
「昨日ぶりですねツバキさん」
そう言ってツバキに握手を求めた。
ツバキはその手を取り。
「えぇ、これからよろしく」
話題は一気に広まった。
ツバキと普通に会話ができる奴が現れた。
しかも、様子を見る限りツバキと以前面識があるようだ。
特に、昼休みに2人で昼食を食べる姿はクラス中から目を引いた。
トオルも弁当を食べながら2人のことを見ていた。
(僕のツバキなのに……どうしてあんな奴が)
そこに、トオルの友人が買ってきた学食を手に、トオルの隣の席へと座った。
「どうした? 御崎川と例の転校生見てんのか? 」
「まぁね」
「意外だよな。御崎川が誰かと普通に話すのって。だけど、真道って悪い奴じゃなさそうだし」
「お前、あいつと話したの? 」
「あぁ、体育の時に一緒のペアになったんだ。その時に少し話した。言葉遣い丁寧で、気配り上手で聞き上手な奴だったぞ」
トオルは内心で舌打ちをした。
その日は午後から授業がなくなった。
校内で死人が出たからだ。
トオルは家に帰る途中、イラついた様子で石ころを蹴った。
「クソッ! どうしてあんな奴が……ツバキは僕だけのものなのに。もしかして、脅されて無理やり一緒に居させられているのか? なら、ツバキを助けないとでもどうやって……」
そんなトオルの前に、黒いローブを着た1人の女現れた。
「どうやら、お困りのようね」
トオルは女の方に向き直る。
「誰だ? 」
女はフードを被っていて目が見えないが、薄っすらと笑みを浮かべる口元だけは見えた。
「私の事はどうでもいいの、それよりも貴方の方に興味がある。真道 コウから、大切な女性を助けたいのでしょ? 力を貸してあげる。真道 コウは何十人もの人間を殺した大量殺人鬼なの。そんな奴を野放しにはできない。貴方が真道 コウを止めて、彼女を助けるしかないのよ」
「……具体的にどうすればいい? 」
トオルは女の提案を受けることにした。
(僕がツバキを護るんだ)
僕の好きなキャラが登場する回がまだまだ先だー。