助けに来たよ
はぁ……クレープ食べたい。
自動ドアを抜けると、聞こえてくるのは軽快な音楽と人々の行き交う足音。
新品の服の匂いや食欲を掻き立てられる料理の匂いも漂っている。
服屋、雑貨屋、食べ物屋と様々な店が1つの建物へと収まっている。
デパートとはここまで五感への刺激で溢れている場所なのかとコウは思った。
「どうしたの? そんなにキョロキョロして。もしかしてデパートは初めて? 」
コウはツバキの後ろをトコトコと付いて行きながら答える。
「初めてです。去年まで〈擬人化〉を使えなかったので、一般的な公共のお店や施設を利用したことがあまりなかったんです」
そこで、ツバキはふと疑問に思ったことを質問する。
「コウは今年で何歳? 」
16歳であるツバキの同級生なのだから、16歳か17歳だと考えるのが常識だろうが、猫であるコウにはその常識は当てはまらない。
コウは口籠りながら答える。
「……4歳です」
「えっ⁉︎ 」
「4歳です」
「どうやって高校に入学したのよ! 」
猫にとって4歳とは、立派な大人だが日本の法律上4歳で高校に入学など不可能である。
「魔術師たちが人間の社会に紛れ込むために戸籍を偽装してくれる人がいるんです」
「魔術師も大変なのね」
そうこう話しているうちに、目的の店の前に着いたらしく、ツバキが歩を止めた。
「洋服屋さんですか」
「コウは服とかは普段どうしてるの? 」
「服を買ったことがないですね。欲しいものは何でも複製できちゃうんで。それに、最近は少しお金が少なくて……」
「ネコカフェでアルバイトでもしてみたら? 」
冗談を言いながらツバキは服を見て回っている。
こうしてお喋りをしながらお買い物をするのは楽しいが、コウは少しだけ居心地の悪さを感じていた。
その原因は視線である。
ツバキと歩いていると、すれ違う人からチラチラと見られるのである。
それはツバキの日本人離れした容貌が招いたものだった。
腰まで伸ばされた銀色の髪に白い肌、整った目鼻立ちにブルーの瞳。
見られるだけでなく、ヒソヒソと会話も聞こえてきた。
「あの子凄い美人だな」
「外国人かな」
「隣のやつは彼氏だろうか」
見られているのは自分ではなくとも居心地が悪く、コウはツバキの陰に隠れた。
ちょうどツバキは、白いブラウスを手に取っていた。
そのまま腰部がコルセットになっている、かなりハイウェストな黒いスカートに手を伸ばす。
「ツバキさん、その組み合わせって……」
ツバキはコウに振り返り、首を傾げた。
「童貞を嬲り殺す服だけど? 」
「嬲らないでください! 普通に童貞を殺す服ですよね? 」
ツバキはブレザーを見て「うーん」と唸っていた。
「これと同じような服をすでに持ってた気がするからやめるわ」
次にツバキが立ち寄ったのは女性用下着店。
「ツバキさん、ここは……」
「どうしたの? ただの下着屋さんよ? 」
「いやいやいや! 女性用ですよね。流石に僕は外で待ってますよ」
ツバキはクスクスと笑いながら答える。
「コウに選んで欲しいのだけど……」
「からかわないでください! 」
ツバキは意地悪な笑顔を浮かべていた。
ツバキが下着を買っている間、コウはクレープ屋へと来ていた。
店へ入ると「いらっしゃいませ」という愛想のいい声が響いた。
手早くメニューを確認し、店員に注文をした。
「ミックスフルーツクレープ。チョコレート抜きで」
「チョコレートを抜くことはできるのですが、お値段をお下げすることができません。よろしいですか? 」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました」
注文された内容を素早くメモし、店員は厨房で調理を始めた。
クレープが出来上がるまで席について待つことにした。
(デパートなんて来たことないから、やっぱり落ち着かないな)
コウにとっては何もかもが初めてのことばかりだった。
コウは去年まで人間の身体を持っていなかったので、人間の高校生としての生活はとても新鮮だった。
コウが注文を終えて5分くらい経った頃、クレープよりも先にツバキがコウの座っているテーブルにやってきた。
ツバキが通ると、周囲の人間は最低でも2度はツバキに視線をやる。
やはりこの人は目立つようだ。
「お待たせ。最近また大きくなったみたいで」
そう言ってツバキは自己主張の激しい胸を両手で押さえてみる。
その発言と仕草はコウにとっては心臓に悪く、視線のやり場に困っていた。
ツバキの表情はというと、してやったりと言った様子だった。
困っているコウを見てクスクスと笑っていた。
そうこうしているうちに、コウの元へ注文したクレープが届いた。
焼きたての生地から香ばしいバターの香りが漂ってくる。
生地の中には色とりどりのフルーツが待っているのだと思うと、すぐにでもかぶりつきたくなる。
コウはペットと一緒に入店できる喫茶店で、ペット用のケーキを過去に一度だけ食べたことがある(猫の状態で)が、クレープを食べるのは初めてである。
コウは手元のお手拭きで手を拭くと、クレープの包み紙の上部を手で破いた。
そしてクレープを一口。
口の中で生クリームの甘さと、フルーツの酸味が舌を刺激する。
ケーキと比べると、スポンジよりも生クリームの量がとても多い。
さらにスポンジがケーキよりも固くできている。
ケーキは猫でも食べられなくはないがクレープは歯の構造上、猫の時には食べられないだろう。
そんな、クレープに美味しそうにかぶりつくコウをツバキはジーッと見つめていた。
その視線にコウが気づく。
「一口ちょうだい」
「えっ⁉︎ 」
突然の要望に頭が真っ白になる。
対してツバキは口を開けて待機しており、その表情は早く早くと急かしているようであった。
(一口って、僕が食べさせるの⁉︎)
コウはまた、先ほどとは違った理由で周囲の人間の視線が気になった。
だが、周囲の視線よりもツバキの視線の方が強く、クレープが食べたいという思いを視線だけで鮮烈に伝えてくる。
観念したコウはクレープをツバキの口元へと運ぶ。
口の近くまで運ばれたクレープにツバキはハムっと噛み付く。
もぐもぐと咀嚼するツバキの表情からは満足さが読み取れた。
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コウがクレープを食べ終え、さて帰ろうかと言っていた時、突然、ドカンとどこからか爆発音が聞こえた。
どよめく周囲をよそに、コウは魔術を唱える。
「〈魔術痕の探知〉」
爆発音の聞こえた方向を確認する。
すると、一回の入り口付近の服屋から煙が上がっていた。
さらに、その場所からコウは魔術痕が残っていることに気がついた。
「このデパート内で魔術師が攻撃を行っています」
「どうするの? 」
「敵の場所がわかりません。逃げるべきだと思います」
そこで再び爆発音。
今度はさっきよりも近い場所から聞こえた。
周囲の人々は、流石に危険だと感じて散り散りに逃げ始めた。
コウとツバキも、それに合わせて逃げようとする。
「ツバキっ! 」
ふと背後から何者かに呼び止められ、ツバキは振り返る。
そこにはツバキ達が通う高校の男子用制服を身にまとった男がいた。
「助けに来たよツバキ」
そう言ってトオルはツバキに歩み寄ってきた。
次回はやっと待ちに待ったバトルですよ




