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宇迦真途(ウカマド)組のメンバー達

 浮遊する超弩級(ちょうどきゅう)の瓦屋根の下には、複数の人影があった。

 白の足場の奥には、仏壇を豪華にして大きくしたような、神々しい金色の建造物が見える。

 

 その小振りな建物の手前には、籤引(くじびき)で手伝いをしていた二人と同じ服装をした、巫女風の女性達。そして、烏帽子(えぼし)っぽい紫の被り物をした、たっぷりと布を使った紺の和服に身を包んだ、初老の男性。

 それから、金の建物の正面へと彼らを挟んで縦に並んだ、ウカマドの一味数名の姿があった。


 トヨに急き立てられながら、俺達は土台の側面に掛けられていた階段を駆け上がる。

 息せき切って駆け寄ってきた俺達を、縦長の神棚を背にした、狩衣姿の男がジロリと睨む。


「少し、悠長(ゆうちょう)に過ぎまするぞ、トヨオゲヒメ様。こちらもいよいよ、お部屋へと遣いを出そうかと思案しておりましたところ。刻限の約を違えても、貴殿の組座には利となりませぬぞ」

「ええ、ご、ごめんなさい……遅れているのは、分かっていたんだけど……。でも、あの、(うち)の一人が少し、調子が悪くなっちゃったらしくて……あ、もう今は別に、大丈夫みたいなんだけど―――― 」


 低い声音で注意をする彼に、トヨは乱れた息を抑え、早口で弁明をする。

 額に汗を滲ませ、たどたどしく言い訳をする彼女を、ウカマドは(あざけ)りを帯びた微笑で愉しげに眺めていた。

 

 ほくそ笑む彼の横には、三人の男達がいた。

 稜雲殿の前で引き連れていた他の取り巻きは、近くには見当たらない。

 どうやら、組頭と共に試合会場へと足を踏み入れている彼らが、ウカマド組のスタメンのようだった。


 ワカメ頭な組頭の横には、和装をだらしなく着崩した、大柄の中年男性が立っていた。

 彼は無精髭に覆われた骨太の顎を(さす)りながら、胡乱(うろん)な目つきで俺達を見比べる。

 間を置かず、その半眼に気怠そうな光を()ぎらせると、興味を無くしたように視線を虚空へと逸らしていた。


 一方、その右隣に立つ男は、こちらを執拗(しつよう)に睨み続けていた。

 歪めた表情から(ガン)を飛ばす禿頭(とくとう)の彼には、俺も見覚えがあった。

 確か、今回の組座戦の開催が決まった日、俺と拳を交わす寸前までいった、バンテツとかいう名前の奴だった。


 あの時のことを、未だに根に持っているのだろう。

 前と同じく、剃り上げた頭を真っ赤に上気させた彼は、主に俺へと怒りの熱視線を向けている。

 斜向(はすむ)かいから刺される殺意の光線は、しかし、ほとんど俺の目には入らなかった。

 茹でダコとなっている彼の、更に右隣。

 居並ぶウカマド組の最後尾には、先程トイレで俺に猛烈なアタックを掛けてきた、あの金髪野郎が付けていた。


 仄暗い眼差しを浴びせる俺を、奴はふと気が付いた風に視界に入れる。

 退屈そうな眼つきのまま小さく鼻で笑うと、そいつは視線をすぐに元の位置へと戻す。

 鬱陶(うっとう)しさを隠そうともしないその横顔は、さながら小うるさい犬にでも吠え掛かられているような、そんな気配に満ち満ちていた。

 

 露骨に相手を見下す態度に、俺の頭には瞬く間に血が昇る。

 ほとんど無意識の内に詰め寄りかけた俺は、(かたわ)らに立っていたいろりに、強引に上着の裾を引き戻される。

 踏み出しかけた左足を揺らしてふらつく俺に、隣にいた玄月が低い呟きを漏らす。


「浮足立つな、馬鹿が。詰まらない私闘から、お(とが)めでも食らいたいのか? ただでさえ、恵まれない見込みの強い出場の機会を失いたいのなら、勝手にすれば良いかもしれないがな」

「はっ……だったら、俺が満足して試合で勝てるように、お前がさっさと負けてくれてもいいんだぜ」


 感情のない声で釘を刺す彼に、俺は軽口と合わせて皮肉を返す。

 棘のある返事を口にしながらも、俺は前のめりとしていた体を、ゆっくりと元の姿勢へ戻した。

 

 玄月の冷めた物言いも態度も、気には食わない。

 だが、彼の苦言はもっともで、思考停止に陥りかけていた俺の方に非があるのは明らかだった。


 小声で言い争う俺達を前に、金髪野郎は素知らぬ顔で無視を決め込んでいる。

 あいつの澄ました顔は、試合の時に殴り飛ばせば良い。

 もし、組座戦が最終戦まで回らなくても、エキシビションマッチにでも引きずり出してやる。

 俺は自分へとそう言い聞かせると、ひとまずは溜飲を下げ、不愛想なチームメイトの注意に従うこととした。


 そうして場外乱闘の危機が過ぎた直後、試合の準備が始められた。

 組頭の二人を引き連れ、狩衣姿の老人は黄金の祭壇の前へと進み出る。

 そこで、彼は紙紐の付いた短い棒を振りながら、何やら呪文めいた言葉の群れを放ち始めた。

 

 辺りへと響く、抑揚の効いた渋い声へと、トヨとウカマドも頭を垂れながら追従する。

 お世辞にも上手くはないトリオの歌声に、周囲の見物人達は一斉に片膝を折って(うずくま)る。

 既に、事の展開と流儀を知り得ているらしい他の面々に、俺も慌ててその仕草を真似し、隣できょとんとしていたいろりも同じようにさせた。


 その後も謎の儀式は、延々と続いた。

 意味も目的も不明なそれらの儀礼を、俺は見よう見まねで、どうにかやり過ごしていく。

 

 やがて、二人の神様達が互いに宣誓を終え、それぞれの組座へと戻ってきた。

 そこで、ようやく面倒な前準備は全て(しま)いとなり、組座戦は遂に本番を迎えたのだった。

 

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