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ネコと、魔法使い  作者: 夜斗
第1章  《冒険王女》
9/15

【クロエの秘密】

 数時間ほど遡った、ネコとホウキの魔法店。

 グレアは店の裏庭で偶然出くわしたサヴリナに傷の手当をしてもらっていた。


「ビックリしたわホント。起きたら血塗れのグレアちゃんが裏庭に転がっていて、しかもゴーレムの攻撃を生身で受けたですって? そりゃ骨も折れて当たり前よ。ゴーレムってアレよね? 石の身体で出来たおっきな巨人でしょう? そんなモノが暴れてる鉱山じゃ、ギルドがダンジョン指定するのも頷けるわ」

「かたじけない、サヴリナ殿。それでその、ダンジョン……指定とは具体的にはどういうことをするのじゃ?」


 包帯に包まれた左腕の具合を確かめながらグレアが訊ねる。お店の薬のお陰で痛みは引いたが、思うように動かせず少々不便だった。


「鉱山とか地下道とか、そういう場所って不意に魔物が発生したり棲み付いてしまうことがあったりするの。そうなると普通の人とかそこで働く人が危険にさらされてしまうでしょう? だからギルドは人々の安全を守るために、そういった場所を“ダンジョン”と指定して結界を張って一般の人から遠ざけるの。ギルドはダンジョン指定を受けた場所に冒険者を送り込んで危機を取り除いてもらって報酬を支払うの。分かった?」

「そ、そうなのか……ふむ、勉強になった」

「やぁねぇ。冒険者を目指すなら、コレぐらいは常識でしょう? ふふッ」

「う……」


 手当てを終えたサヴリナは立ち上がると小さな欠伸を一つこぼして救急箱を閉じる。空が白み始め、遠くから金色の光が差し込んで来ている。


「じゃあ、私はお店の仕込みがあるから戻るわね。グレアちゃんも、あんまり無理しちゃダメよ?」

「……恩に着る」


 ひらひらと手を振り店に戻るサヴリナを見送り、グレアはその場でパタリと仰向けに転がり小さく息を吐いた。


「……なぁ、マルク殿」

「わお、いよいよボクにまで“殿”付きか。それで何? 聞きたいコトでも出来た?」

「さっき、クロエ殿のことを聞きたければなら自分に聞けと言っていたじゃろ」

「クロエのこと、知りたくなった?」

「彼女は、その……何者なのだ? それにデネブと言ったか。クロエ殿の母親といっていたが本当なのか?」


 鉱山で耳にした言葉の中で特に印象的だった“失敗作”と“人間モドキ”という二つのキーワード。グレアの知っている“母親”という存在からは、普通そんな非人道的な言葉が連想されることはまずない。デネブの言う失敗作という言葉は、どういう意味なのだろうか。身勝手な好奇心と自覚はしつつも、グレアはどうしても気になって尋ねざるを得なかった。


「デネブがクロエの母親ってのは事実だよ。文字通り、クロエを創り出した生みの親さ」

「創り……出した……?」

「そ。クロエは創られた人間、所謂人 造 人 間(ホムンクルス)ってヤツだよ」

「…………何を馬鹿な事を。嘘を吐くのなら、もう少しマシな嘘を……」


 見上げる緑色のネコ目は一切揺るがず、彼が何ら嘘を吐いていないということが知れる。


「本当だよ。クロエはデネブに創られた人造人間なんだ」

「……仮にそれが本当だとして、いったい何のために創ったというのじゃ?」

「兵器。魔法を自在に操れる人型兵器の実験体さ」

「魔法を操れる兵器……!? まさか、クロエ殿が……!?」


 にわかには信じられないような話がネコの口からぽんぽんと冗句かのように軽快に飛び出し、グレアがどう答えるべきかと悩む傍らでマルクは語りを止めなかった。


「実はさ、クロエの体はあらゆる魔法を行使するために様々な改造や魔法による強化が施されてるんだ。本来ならデネブの手の上で自由自在に踊らせられる、完璧な兵器として運用されるはずだったんだけど……実験の途中、クロエにある欠陥が生じたんだ」

「欠陥……」


 デネブがクロエに対して何度も何度も言っていた“失敗作”の意味が繋がった。彼女の“欠陥”とは、いったい何だろうか。グレアは黙って、ネコの言葉を固唾を飲んで待つ。


「実験に選ばれたのは遠く南の果てにあった小さな島国。出来上がって間もないクロエに、デネブはその島の殲滅を命じた。空から炎を降らし、大地から雷を奔らせ、その身に宿した無尽蔵な魔力をやたらめったら振りかざして……結果、国は一夜にしてぺんぺん草も生えないような更地へと早変わり」

「…………」


 国を一つ滅ぼす内容とは裏腹にその口調は軽い。そんな強大な魔力が彼女の内に存在しているとはやはり信じ難いが、ゴーレムとの戦闘の最中、それを信じさせる片鱗をグレアは見ている。四方八方に飛びまわっていたあの光だ。鉱山の岩盤を易々と貫き、並々ならぬ破壊力を感じさせた。


「……命じられた通り国を滅ぼしたのに、失敗作とはどういう意味じゃ。クロエ殿に、何の欠陥があったというのじゃ」

「国を滅ぼした後、クロエは泣いちゃったんだ」

「泣いた……? まさか、ただそれだけか?」

「デネブが創ったのは、何の感情持たない無慈悲で無感情な殺戮兵器……だったはずなんだけどね。クロエは国を滅ぼして誰もいなくなった後、一人で泣いてたんだ。理由はとてもシンプル。自分が人を殺してしまったこと、何の罪も無い人を悪戯に殺してしまったことに恐怖と絶望したんだって」

「……クロエ殿が失敗作と言うのは、つまり……」

「そ。クロエには感情が出来ちゃったんだ。しかも、兵器なんて運用目的からは縁遠い“優しさ”を持ってしまった。人を殺すことや傷付けることを強く拒否したクロエは、デネブにとっては何の得にもならない“失敗作”。クロエはそのままそこに捨てられちゃったんだ」


 軽口のまま「とりあえず、そんな感じだよ」と締めくくられグレアは言葉を失った。

 グレアが想像していた以上に、いや、その範疇を優に越える重く切ない話に、どう反応すべきか困惑していた。


「今じゃ、クロエ自ら魔法を使うことは絶対に無いんだ。その日以降、自分の魔法で誰かが傷付くのを恐れて、自分で自分の魔力が恐くて拒絶してる。使えないってコトもないだろうけど……自発的に使うことは暫く無いんじゃないかな」

「……」

「その一件以来、僕たちはこの街でお店をやり繰りしながらのほほんと過ごして……っと。別にお姉さんが気に病む必要はないからね。お姉さんにあったのもデネブにあったのも全部偶然、誰が悪いって話でもないんだからさ」

「しかし、結果わらわが無理やり連れ出したのが……!」

「それも偶然だって。偶然に偶然が重なって、偶然こういう結果になっちゃった。ボクとしては、ちょっとした冒険出来たし割と楽しんでたんだけどね。お姉さんは何も気にしなくていいよ。クロエが起きたら、また星詠石のコト考えないと――」

「それには及ばない」


 立ち上がったグレアは鞘に収まった両手剣を握りしめると、自由の利く右腕だけで握りしめ肩に担ぐ。そのまま店と店の間の路地へ歩き出していく。


「クロエ殿を、これ以上巻き込むわけにはいかない。ここから先はわらわ一人で行く」

「一人で鉱山に? まだ多分デネブがゴーレムと一緒にいるし、止めておいた方がいいと思うよ? もし出くわしたら、言うまでも無く攻撃されると思うんだけど」

「構わぬ。わらわ一人で、どうにかして見せる」

「折れた腕と、ヒビの入った剣で? そこまでしてお姉さんが頑張る理由って何なのさ?」


 一度だけ足を止め、首だけ動かしてマルクを振り返る。ネコ目に映った彼女の瞳は、遠くに見える朝日のような輝きを湛えていた。


「理由……か。ふむ、そうだな。わらわが無事に帰還できた暁にはお前たちに教えてやろうか」

「……それは死亡フラグ? それとも生還フラグ?」

「さぁな」


 不敵な笑みをこぼし、グレアは路地の奥へと消えていく。空が白み始め、夜明けの風が吹き込みマルクの毛をふわふわとなびかせる。


「さてと、クロエの様子でも見に行こうかな」


 半開きになった店の裏口にその身を潜らせ、マルクはペタペタとのんびりとした歩調で階段を上っていく。ベッドに横たわるクロエは規則正しい寝息を立てて眠っていた。シュルフの上の水差しの隣に腰を落とし、彼女の無防備な寝顔を見つめる。


「でもクロエが“失敗作”でなかったら、こうしてボクや先生(、、)と出会ったりすることはなかったんだろうなぁ……その点だけはデネブに感謝しないと、ね」


 彼女が目覚めるまで、と。

 心の中で勝手な目覚まし時計をセットして、マルクはしばし眠ることにした。

マ「やれやれ。競泳水着の次は戦艦かい。移り気が過ぎるんじゃないかなぁ作者は」

ク「…………荒波に、揉まれてる……」

マ「弾が無いって口癖のように言ってるけど……ま、ボクはちゃんとお話書いてくれれば別にいいかな」

ク「…………じゃあ、また……ね」

マ「お、クロエもちゃんと仕事出来るようになったか。偉い偉い」

ク(……早く、行かなきゃ)

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