EPISODE3-13【願いなど】
激しい対立と思想のぶつかり合い、そして血を分けた双子の真実が明らかになったその後——リュウゼツランは微かに笑みを残し、合図を送る。
「さて、ここまで話せば十分だ。続きは悪魔界で会おう」リンドウは最後までレイトキを見つめ、複雑な想いを瞳に宿しながらゆっくりと頷く。
「弟よ…また会う日まで。悪魔界で、全ての決着をつけよう」彼は二刀を収め、実験体たちを引き連れてゆっくりと後退し始める。リュウゼツランも軽やかに身を翻し、空間が歪むように消えていく——。
「待て! 逃げるのか!?」レイトキは駆け出そうとするが、リュウゼツランの残した力の壁が行く手を阻み、追いつくことはできない。
「無駄だよ、レイトキ。彼らはまだ準備が整っていない段階で決着をつけるつもりはないんだ」星玲奈が冷静に状況を見極め、諭すように言う。久美子は心配そうにレイトキの肩に手を置く。
「リンドウさん…あなたのお兄さんだったなんて。でも、いつか分かり合える日が来るよ」リジェも真剣な面持ちで続ける。
「今はまだお互いの道が違う。だけどいつか、悪魔界で全てがぶつかり合う時が来る。それまでに俺たちも、もっと強く、もっと固く結ばれなきゃいけないってことだ」レイトキは彼らの背中が完全に見えなくなるまで見送り、拳を強く握りしめる。胸の中には別れの寂しさ、家族への想い、そして来るべき決戦への覚悟が渦巻いている。
「悪魔界…歯車全員が集まる場所…。俺は絶対に行く。兄貴の、そしてリュウゼツランの本当の意味を確かめ、俺たちの手で正しい未来を掴み取る!」四人は互いに顔を見合わせ、固く決意を新たにする。敵は去ったが、旅はこれからが本番——最終決戦の地・悪魔界へ向け、新たな一歩を踏み出す時が来た。レイトキはリュウゼツランたちが去ったあと、静かに地面を見つめ、低くはっきりと呟く。
「俺が存在したから、他の歯車も集められた…。みんな、俺が引き寄せたようなものだな。俺がいなければ、ここまで事態が動くこともなかったのかもしれない」声には自責の念、重い責任感、そして運命の残酷さが滲む。自分が「鍵」であり「中心」だからこそ、周りの全てが巻き込まれ、戦い、選ばなきゃいけなくなった——そう感じているのだ。久美子はすぐそばまで歩み寄り、優しく腕に手を添える。
「そんなこと言わないで、レイ。確かにあなたは中心かもしれない。だけど誰も『巻き込まれた』だなんて思ってない。みんな自分の意思で、自分の道を選んで、あなたと一緒にいるの」星玲奈も真剣に頷き、続ける。
「そうよ。歯車は最初から存在していた。ただきっかけがあなただっただけ。みんなそれぞれ自分の答えを探し、自分の未来を掴もうとして集まってきたの。あなたが悪いわけじゃない」リジェは力強く肩を叩き、はっきりと告げる。
「それにな、レイ。お前がいなかったら、誰も何も始まらなかった。変わるきっかけすら来なかったんだ。お前は悪いんじゃない、始まりの存在なんだ。だから責任を感じる必要なんて全然ない。ワタシたちは自分の意志でお前と共にいる、共に戦うって決めたんだ!」レイトキは三人の温かい言葉を聞き、ゆっくりと顔を上げる。瞳にはまだ憂いが残っているものの、少しずつ光が戻ってくる。
「みんな…ありがとう。俺、一人で全部背負い込もうとしてた。俺がいるからって、みんなを危険にさらしてるんじゃないかって…。でも、そうじゃないんだな。俺は俺のままで、みんなと一緒に進めばいいんだな」彼は深呼吸し、決意を新たにして立ち上がる。
「よし! もう『巻き込んだ』なんて思わない。俺がいるからこそ、今こうしてみんながいる。俺たちの絆がある。だからこそ、俺たちはリュウゼツランたちの計画を止め、自分たちの未来を創れる! 行こう、悪魔界へ!」星玲奈は落ち着いた口調で状況を整理し、はっきりと道筋を示す。
「まだ急いで悪魔界へ行かなくてもいいよ。ストレンジたちがこうして動き出しているのは、まだ全部の準備が整っていないからこそ——時間を稼ぎ、歯車を集めたり鍵を調整したりしている段階なの。だから私たちも、彼らのペースに合わせる必要は全然ない」彼女は一歩前に出て、進むべき優先順位を明確に告げる。
「先にすべきは二つ。一つはアブラハム由来の土地へ向かうこと。もう一つは聖遺物を手に入れること。多分だけど、聖遺物の一部、いやそれ以上は既に敵の手に渡っていると思う。でも全部奪われたわけじゃないし、彼らが完全に使いこなせているとも限らない——だから今でも十分チャンスはあるわ!」レイトキは話を聞き、頭の中で計画を組み立て直しながら頷く。
「なるほど…! 向こうが準備中だからこそ、こっちも先に必要な手を打てるってことだな。アブラハムの地、聖遺物——どちらも俺たちが進む道の鍵で、敵より先に押さえておかなきゃいけない場所だ」久美子も真剣に考えを巡らせ、補足する。
「聖遺物が一部敵に渡っているとしたら、取り返す必要も出てくるわね。それでも手遅れじゃないってことは、まだ状況は動かせるってことだ!」リジェは覚悟を決めるように拳を握る。
「だったら尚更、無闇に突っ込まない。確実に一つ一つ目標をクリアしていく。アブラハムの地で情報や手がかりを得つつ、聖遺物を確保——それが今の最善の道だな」星玲奈は皆の理解を確かめ、最後に強く締めくくる。
「そういうこと。悪魔界は最終目的地。そこへ行くまでに、私たち自身も準備を整え、力と材料を揃えておかなきゃ、向こうの土俵で戦うことになっちゃう。今は『備える時期』なの。だからしっかり地盤を固めて、万全の態勢で最後の決戦へ向かおう!」レイトキは迷いを吹っ切り、新たな決意で顔を上げる。
「分かった! 星玲奈、ありがとう。俺、焦ってた。だけどそうだ、急ぐことが全てじゃない。今やるべきことを確実にやる! アブラハム由来の土地、聖遺物——この二つを中心に進もう!」こうして突発的な悪魔界直行の案は一旦棚上げされ、より確実で戦略的な道筋=アブラハムの地+聖遺物確保ルートが全員の共通認識となった。彼らの旅路は、計画的かつ着実に核心へと迫る形へと転換されたのだ!レイトキは心の中でそう思い、静かに星玲奈の横顔を見つめる。
「(しかし、星玲奈、結構落ち着いた考えできるようになったな。前なら不安がったり慌てたりしてたのに…)」 そのつぶやきは、彼女の成長を嬉しく思いつつ、共に過ごし時間を重ねてきたからこそ感じる感慨だ。以前は新しい状況や予想外の展開に直面すると、心配そうにしたり、どうすればいいか迷ったりすることが多かった星玲奈——だが今は状況を冷静に分析し、優先順位を見極め、みんなに明確な道筋を示せるまでになっている。星玲奈はふとレイトキの視線に気づき、少し首を傾げて柔らかく微笑む。
「どうしたの? 何か変な顔してる」
レイトキは少し照れくさそうに笑い、正直に言葉にする。
「いや、なんでもない…ってわけじゃないんだ。ただ、星玲奈のこと、前よりずっと落ち着いて頼もしくなったなって思って。前はもっと不安そうにしてたのに、今ではみんなの道を示してくれるんだからな」星玲奈は少し頬を染めながらも、誇らしげに胸を張る。
「それは…みんなと一緒にいるからだよ。レイ、久美子、リジェ——あなたたちと経験を積み、色々なことを話し、支え合ってきたから、私も少しずつ強くなれたの。一人だったら今でもきっと慌ててたり、どうすればいいか分からなくなってたと思う」彼女は続け、真っ直ぐにレイトキを見つめる。
「私はまだまだだけど、あなたたちの役に立ちたい。私の知識や分析力が、少しでもみんなの安全や正しい道を選ぶ助けになれば——それが私の一番の願いなの」レイトキは心からの感謝を込め、笑顔で応える。
「星玲奈がいてくれて本当に助かってる。冷静に状況を見極め、計画を立ててくれるから、俺たちは闇雲に進まずに済むんだ。ありがとう。これからも頼りにしてるよ」久美子とリジェも隣に来て、温かく笑みを浮かべる。
「そうだね、星玲奈は本当に頼もしくなった!」久美子は嬉しそうに言う。
「でも、それはお互い様だな」リジェが穏やかに付け加える。
「俺たちみんな、一緒にいるから成長できてるんだ。一人じゃ気づけないことも、一緒なら見えてくる」四人は互いの成長と絆を感じ合い、その温かさを胸に、次なる一歩を踏み出す準備を整える。——不安も困難も、みんなで分け合い、支え合いながら乗り越えてきたからこそ、今の自分たちがある。その事実が、何よりも強い力となるのだ。星玲奈は地図や情報を頭に浮かべ、整理しながらはっきりと順番と要点を説明する。
「まずはっきりさせるわ。アブラハムの生誕の地は《メルトキア》なの。だから最初に向かうべきはここ——起源に触れ、聖遺物の手がかりやアブラハム由来の力・記録を確保するのが先決よ」
一呼吸おき、続けて目的地を並べる。
「次に《アブラムニア》へ向かうの。これも外せない場所。それからもう一つ、転移前のスペインに位置する《グラナディア》が非常に重要なポイントだとわかったわ。ここには今、謎のエネルギー反応が検出されていて——何かが隠されている、または聖遺物・関連施設がある可能性が極めて高い」レイトキは順番を咀嚼し、確認するように言う。
「つまりルートは《メルトキア(アブラハム生誕の地・最初の鍵)》→《アブラムニア》→《グラナディア(謎の反応・重要拠点)》って流れだな。生まれた場所から辿るのは理にかなってるし、道筋も自然だ」久美子は眉を少し上げ、気になる点を訊ねる。
「グラナディアの謎の反応って…敵が先に手をつけてる可能性もあるの? それとも聖遺物そのものの反応なの?」星玲奈は真剣な表情で応える。
「今の段階ではまだ断定できないわ。聖遺物そのものが発している可能性もあるし、敵が装置や実験施設を設置している、あるいは両方が重なっている場合も。だからこそ最後に、状況を整えてから向かうのが安全かつ確実なの。いきなり未知の反応地へ飛び込むより、情報と力を蓄えてからの方が対処しやすい」リジェは腕を組み、計画を固めるように頷く。
「なるほど。順番は《起源→関連地→最重要・未知ポイント》。これなら道中で得た知識や聖遺物の力も次の地で活かせるし、段階的に謎に迫れる。完璧だ」レイトキは決意を新たに、三人を見回す。
「分かった! ルートは決まった! 最初にメルトキア、アブラハムの生誕の地へ——俺たちの旅の原点にして、新たな始まりの場所だ! そこで全ての手がかりを掴み、アブラムニア、そして謎めくグラナディアへと進もう!」レイトキは周囲の状況を把握し、はっきりと優先事項を述べる。
「行く前に、まず絶対にやるべきことがある。ストレンジの部隊を撤退させることだ。まだ奴ら、町の中に残ってるんだ」
久美子はすぐに辺りを警戒しながら頷く。
「そうだった! リンドウたちは去ったけど、配下の実験体や兵たちがそのまま残ってる。住民たちはまだ危険にさらされたままだわ!」
リジェは拳を握り締め、決意を込める。
「先に旅立つなんてことはできないな。俺たちが行った後で暴れだされたら、守るべき人たちが無事じゃない。ここは俺たちの手できっちり片付けていく!」
星玲奈も状況を確認し、作戦を整理する。
「敵の主力は既に撤退しているから、残っているのは指揮系統が乱れた部隊ばかり。だけど数は多いし、制御が外れていたら尚更危険——一箇所に集めて一気に制圧、または誘導して町の外へ追い出すのが最善ね」レイトキはトーフーとボーフーを構え直し、仲間たちを見回して指示を出す。
「よし! 作戦を立てる。久美子、風の力で敵たちの動きを封じたり、一箇所にまとめてくれ。リジェ、君は炎で退路を塞ぎつつ、町の外へ誘導する。星玲奈、状況全体を見ながら俺たちの位置や敵の配置を教えてくれ。俺は直接話しかける——もし聞く耳があるなら、戦わずに済ませたい」四人は一斉に頷き、それぞれの役割を受け入れる。
「了解!」「任せて!」「わかった!」レイトキは前に進み出、声を張り上げて町中に響かせる。
「ストレンジの部隊の者たちよ! リンドウもリュウゼツランも既に去った! もう戦う理由なんてない! 抵抗しても無駄だ! 今すぐ町から退け! 俺は誰も傷つけたくない——だが町の人たちを守るためなら、俺たちは全力で戦う!」呼びかけと同時、久美子は風の渦を生み出して敵たちをまとめ上げ、リジェは炎の壁で町の外への道を示すように誘導し始める。星玲奈は的確に位置を知らせ、漏れなくカバーできるように導いていく。残された者たちは指揮官がいないことで動揺し、レイトキたちの力と態勢を前に、次第に戦意を失い——一人、また一人と町の外へ退いていく。
「よし、これで一件落着!」レイトキは周囲を確認し、安堵の息を吐く。「町の人たちも安心して暮らせる。これで心置きなく、俺たちの旅に出られる!」住民たちは安堵の声を上げ、彼らに感謝しながら道を開く。こうして後顧の憂いを断ち、彼らは本来の目的地——メルトキアへと向かう準備を完全に整えたのだった!




