3-0【伝えたい想いなど】
放課後の教室での話を終え、三人は夕暮れの街を並んで歩いていた。風が髪を揺らし、遠くにはクロノギアの事務所の灯りが見える。レイトキは少し考え込むように前を見つめ、静かに口を開く。
「…ヘリオトロープの話を聞いて、なんだか敵の輪郭が少しだけ分かった気がする。だけど、それだけ複雑だってことだよな」久美子は隣から、真っ直ぐな眼差しで応える。
「そうね。ただ斬って済む相手ばかりじゃないってこと。でも、それがレイのやり方でもあるんでしょ? ちゃんと相手の想いにも向き合って、それでも自分の道を貫く」星玲奈も小さく頷き、柔らかく付け加える。
「私は…レイトキさんがどんなに大きな存在になっても、今まで通りでいてくれるのが一番嬉しいよ。誰かを想い、誰かを守ろうとする心——それが、レイトキさんの一番の力だと思うから」レイトキは二人を見て、少しだけ表情を緩ませる。
「ああ。俺がネオヒューマノイドに進化しようと、何になろうと、俺は俺だ。そして、お前たちがいるからこそ、そうでいられるんだ」夕日が三人の背を赤く染め、新たな章の始まりを告げていた。嵐は来る。だがその前に、この絆が確かなものであることを、三人は改めて確かめ合った。レイトキは歩みを止め、ポケットから宝珠が蒼く輝く腕輪を取り出し、星玲奈の前に差し出す。
「あっ、そうだ。星玲奈にこれ、渡しておく」
「こ、これは…?」星玲奈は瞳を瞬かせ、受け取った腕輪をそっと手のひらに乗せる。宝珠の奥で、微かに歯車が回る気配がする。
「戦闘になったら、内蔵された回転刃が展開する護身用の武器だ。お前の力とも共鳴するように調整してあるから、いざという時は自分を守れるように」久美子も隣から覗き込み、柔らかく笑う。
「レイが自分で調整してたやつね。玲奈がいつも“守られてばかり”って気にしてたから、わざわざ作ってたんだよ」星玲奈は耳まで赤らめ、腕輪を大切に握りしめる。
「ありがとう…! これを使って、私も自分の身を守り、そして、レイトキたちの力にもなりたい!」レイトキは少し照れくさそうに頬を掻きながら、真っ直ぐに告げる。
「ああ。だけど、一番は無事でいることだ。俺たちはお前を守る。だが、お前も自分の力を信じてくれ」
夕暮れの光の中、腕輪の宝珠が三人の絆を映すように、優しく輝きを放った。三人は街の分かれ道で足を止め、互いに無事を確かめ合うように頷き合う。
「じゃあ、また明日な」
「うん、また明日。何かあったら、すぐに連絡してね」
「はい! おやすみ、レイトキ、久美子!」星玲奈は腕輪を大切に胸に抱え、嬉しそうに笑顔を浮かべて歩き出す。久美子もレイトキに軽く手を振り、別の道へと進む。レイトキは久美子とともに、自宅へと歩きながら、今日の出来事を胸に刻んでいく。敵の本当の姿、幹部たちの思惑、そして何より、それでも変わらずそばにいてくれる仲間たちの存在——。静かな夜が街を包み、それぞれの家の灯りが、明日への力を蓄えるように、穏やかに灯っていた。朝、目を覚ましたレイトキが端末を開くと、星玲奈からのメッセージが届いていた。
『今度の休日、よかったら一緒にどこかへ行きませんか? ゆっくりお話ししたいこともあるので…』レイトキは思わず頬が緩み、少し考えてから返信を打つ。
「『ああ、いいぞ。どこか行きたいところはあるか? それとも、一緒に考えるか?』」すぐに返事が来る。
『本当ですか! 嬉しいです! では、レイトキさんの行きたいところに、私を連れて行ってください!』レイトキは笑みを浮かべ、最後に送る。
「『分かった。じゃあ、休日に楽しみにしてる。お互い、学校も任務も頑張ろうな』」胸の奥がぽんと温かくなる。戦いの日々の中で、こうした何気ない約束が、次への力になっていく——。レイトキが返信を打ち終えたところで、今度は久美子が廊下から声をかけてくる。
「今度の休日、一緒に出かけない? あっ、もちろん星玲奈ちゃんも一緒にだよ!」レイトキは少し驚きつつも、頬を緩ませて答える。
「おう、ちょうど星玲奈からも誘われてたところだ。三人で行くのも、なんだか新鮮だな」久美子はにっこりと笑い、軽く肩を組むような仕草をする。
「せっかくだし、みんなでゆっくり過ごそう。任務の疲れも、こうして和らげるのが一番だからね」こうして、休日の約束が三人の絆をもう一つ強く結びつけた。戦いの日々の合間に過ごす、かけがえのない時間——。休日の朝、三人は門の前に立ち、広大な敷地を見上げる。
「ここがマタラアトラクパークか。プラネタリウムに水族館、動物園、カフェまで一つの中にあるんだな」久美子は頷きながら補足する。
「併合型の複合パークってわけね。隣にはマタラミュージアムも併設されてるらしいわ」星玲奈は目を輝かせ、レイトキを見上げる。
「レイトキ、すごい! こんな素敵な場所を選んでくれるなんて…!」レイトキは少し照れくさそうに頬を掻きながら笑う。
「いや、星玲奈が星の力を持ってるし、久美子はいろんなものに詳しいから、二人が楽しめる場所をと思ってな。さあ、行こう!」三人は並んで門をくぐり抜け、普段の任務や戦いを忘れ、穏やかな一日が始まる——。二人の想いが、それぞれの胸の奥で、静かに、だけど強く灯る。久美子は隣を歩くレイトキの横顔を見ながら、心の中で決意を固める。
「(よーし、ここで、ちゃんとレイに伝えるんだ。いつも守られてばかりじゃなく、私も同じように、あなたの側にいたいって)」星玲奈も、腕輪をそっと握りしめ、頬を少し赤らめながら心に誓う。
「(私も…レイトキさんに、自分の気持ちを伝えよう。守ってもらうだけじゃなく、私もあなたを支えたい、そう思ってるって)」レイトキはそんな二人の心の内を知らず、楽しそうに園内を見回して言う。
「まずは水族館から行くか? それとも、星が好きな星玲奈はプラネタリウムが先がいいか?」二人は同時に顔を上げ、視線が一瞬交わる。そして、この穏やかな一日が、三人の関係を大きく変える一日になることを、誰もまだ知らない——。久美子は少し照れを隠しながら、はっきりと提案する。
「じゃあ、まずは動物園を見て回ろう!」レイトキは笑顔で頷く。
「おう、いいぞ。ゆっくり見て回ろう」星玲奈も嬉しそうにはにかむ。
「はい! 小さい動物たち、きっと可愛いですね!」三人は並んで歩き出し、心の中にそれぞれの想いを秘めながら、穏やかな時間を刻み始める——。三人はアニマルエリアへと足を踏み入れる。檻や広い放飼場の向こうには、猛々しく佇むライオンや、穏やかに草を食む鹿、そしてちょこちょこと動き回る兎など、様々な生き物が息づいている。
「すごい…! こんなにたくさんの種類がいるんだ」レイトキは目を細め、それぞれの動物の姿を見つめる。普段は戦いの中でしか力を使うことがないからこそ、こうした生命の営みが、とても愛おしく感じられる。久美子は小動物のコーナーに足を止め、柔らかな笑顔を浮かべる。
「みんな、それぞれの生き方を持って、一生懸命生きてるのね。強さも、優しさも、どれ一つ無駄じゃない…」
星玲奈は兎に手を振り、はにかみながら言う。
「私たちも、こうして一緒にいられることが、本当に幸せなんだなって思います…」三人の心は、この穏やかな時間の中で、少しずつ本当の想いへと近づいていく。日差しが高く差す頃、三人は園内の木漏れ日が差し込むレストランへと入り、テーブルを囲む。窓の外には緑が広がり、普段の緊張感がすっかり解けた穏やかな空気が流れる。
「いただきます」三人が揃って手を合わせ、料理を口に運ぶ。レイトキは少し大柄に頬張りながら、笑顔で言う。
「こうしてゆっくり飯を食うのも、本当に久しぶりだな。任務の時は、いつも何かに追われてたから」久美子はグラスを持ち、柔らかく頷く。
「そうね。だからこそ、こうした時間を大切にしなきゃ。戦いはいつだって待ってくれないけど、今この瞬間だけは、私たちのものだもの」星玲奈も少し照れながら、嬉しそうに料理を見つめる。
「はい…。とても、幸せです。こうして三人で過ごせるなんて」食事が進むにつれ、それぞれの胸の内に秘めた想いが、少しずつ言葉になろうとしていた。昼食を終え、三人はアクアリウムエリアへ。青く透き通った水槽の中を、色とりどりの魚たちが優雅に泳ぎ回り、光が水面でゆらめいて壁を染める。星玲奈は思わず手をガラスに近づけ、目を輝かせる。
「わあ…まるで別の世界に来たみたいです。水の中にも、こんなにたくさんの命が輝いているんですね」久美子もゆっくりと歩きながら、静かに頷く。
「クリプトンにもクラリトンにも、それぞれに海や水の世界があるけれど、こうして間近で見ると、どれも同じように、一生懸命生きているんだなって思う」レイトキは、水の揺らめきが二人の横顔を照らすのを見て、穏やかな気持ちになる。
「ああ。どの世界にも、守るべきものはちゃんとあるんだ」そうしてゆっくりと見て回り、時計が午後三時を指す頃、三人はパーク中央の広場エリアへと移る。木漏れ日が心地よく、ベンチや花壇が並び、まもなく夕暮れが近づいてくる——。ゆっくりと上昇し始めた観覧車のゴンドラの中。外の景色がだんだんと小さくなり、三人だけの静かな空間が広がる。レイトキは、これまで抱えていた戸惑いや迷いを振り切るように、真っ直ぐな瞳で二人を見つめ、覚悟を込めて口を開く。
「俺、二人に対して抱いてる気持ちが、やっとはっきり分かったんだ。仲間としての『好き』を超えた、『愛』っていう感情——俺は、久美子と星玲奈のことが、心から好きだ」突然の言葉に、久美子も星玲奈も一瞬目を見開いて驚く。だが次の瞬間、それぞれが胸の奥に秘めていた想いが、素直な言葉となってこぼれ落ちる。久美子は頬を少し赤らめながらも、真っ直ぐにレイトキを見つめ返す。
「私も…レイのことが好きだよ。守りたい、そばにいたい——それが、恋愛としての『好き』だって、ちゃんと分かってる」星玲奈も目に涙を浮かべながら、嬉しそうに微笑む。
「私も、レイトキのことが好き。いつも気にかけてもらって、守ってもらって…それだけじゃなく、私もあなたを支えたい、あなたと共に歩んでいきたい——そう、心から思っているわよ」観覧車が頂上に差しかかり、窓の外にはマタラシティ全体が見渡せる。空は夕焼けに染まり、三人の想いが一つになったこの瞬間を、優しく照らしていた。
「ありがとう…」レイトキは二人の手をそっと取り、静かに誓う。
「俺は、二人を絶対に守り抜く。どんなに厳しい戦いが来ても、この絆を手放さない」こうして三人の想いは通じ合い、これからの道が、より強く、より温かいものへと変わっていく——。レイトキは胸を張り、真っ直ぐな想いを言葉にする。
「こんな俺でよければ、恋人として付き合ってほしい!」久美子は首を振り、優しくも力強く告げる。
「こんな俺で、なんて言わないで。レイだから、私はいいの。一緒に歩もう、付き合おう」星玲奈も頬を染め、はにかみながら笑う。
「私も…これからは『レイ』って呼ばせてください。レイだからこそ、私はそばにいたいんです。これからも、よろしくお願いします!」二人が同時にレイトキに抱きつく。観覧車はちょうど頂上に達し、茜色の空が三人を包み込むように輝いていた。レイトキはそっと二人を抱きしめ、心の底から湧き上がる温かさを噛み締める。この絆が、どんな嵐も乗り越える力になる——そう、確かに感じた瞬間だった。夜のホテルの部屋、三人は並んでソファに腰を下ろし、穏やかな笑顔で語り合う。レイトキはふと思い出したように言う。
「そういや、リジェたち仲間にも、ちゃんと伝えないとな。それと、いずれは住む場所も、ゆっくり考えていかなきゃならないな」星玲奈が少し前のめりになって、嬉しそうに提案する。
「よかったら…私の家で一緒に住みませんか? 久美ちゃんも一緒で全然構わないよ! 広いし、みんなでいれば寂しくもないし…」久美子は柔らかく微笑んで頷く。
「それはいいわね。三人でなら、どんな場所だってきっと温かい場所になる。それに、いざという時も、すぐに駆けつけられるし」レイトキも二人の言葉に、心からの安らぎを覚え、優しく頷く。
「ああ、そうだな。みんなで一緒に過ごせる場所を、これから作っていこう。二人とも、これからもずっと、よろしくな」窓の外には星が瞬き、これから始まる新しい日々と、三人で紡いでいく未来を、静かに照らしていた。翌日、マタラシティ協会で手続きを済ませ、レイトキと久美子は荷物を運び出す。その様子を見て、リジェが駆け寄ってくる。
「レイトキ、引っ越すんだ。そっか…。星玲奈ちゃんと久美子のことが、ちゃんと好きなんだね。なんとなく、前からそんな雰囲気は感じてたよ。だけど、これからも私たちは仲間だ。その絆が変わることなんて、絶対にないんだからね」リジェの言葉に、レイトキは胸が熱くなり、頷く。
「ああ、当たり前だ。お前たちは、俺が一番信頼してる仲間だ。何があっても、それは変わらない」続いてアルビテトが前に出て、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべながら告げる。
「久美子、レイを絶対に幸せにしてあげなさい。そしてレイ、二人のことを全力で幸せにするのよ。本当は、私も選んでほしかった…。だけど、そんなわがままを言って、あなたたちを困らせるわけにはいかないから」彼女は一歩近づき、はっきりと言い添える。
「だけどね、これから先も、友達で、そして何より仲間であることは、絶対に変わらない。だから、いつでも頼ってほしいし、私も頼るから」レイトキはアルビテトの肩をそっと叩き、真剣に応える。
「ありがとう。アルビテトは、いつも俺のそばにいてくれた。そのことを、俺は一生忘れない。これからも、ずっと一緒に戦って、一緒に笑ってくれるか?」アルビテトは涙ぐみながらも、いつものように凛と頷く。
「もちろんよ。だから、三人とも、幸せになりなさい」こうして新しい門出を迎えても、クロノギアの絆は、さらに深く、強く結ばれていくのだった。新しい家こと星玲奈の家の二階へ上がると、星玲奈が窓辺を指し示す。
「こちらが西側のお部屋で、その隣がもう一つの空き部屋です。日当たりもいいし、夜は星もよく見えますよ」三人で話し合い、西側の部屋を久美子、その隣の部屋をレイトキが使うことに決まった。運び込まれた荷物がそれぞれの部屋に置かれ、壁にはお気に入りの小物や、戦いの思い出の品が少しずつ並べられていく。
久美子は窓を開け、風を入れながら微笑む。
「ここからなら、いつでもレイの部屋も、星玲奈の部屋もすぐだね。安心する」レイトキも自分の部屋を見回し、二人のいる場所がすぐそばにあることを確かめ、心からの安らぎを感じる。
「ああ、ここが俺たちの新しい拠点だ。ここから、また一歩ずつ進んでいくんだな」星玲奈も柔らかく頷き、三人の新しい日常が、静かに始まった。レイトキは二階の廊下で間取り図を見て、納得したように呟く。
「なるほど。俺の部屋は、久美子と玲奈、二人の部屋のちょうど真ん中の部屋なのか」事前に間取りを渡しておいたおかげで、引っ越し業者は手際よく荷物を運び分け、それぞれの部屋へとスムーズに運び入れていく。音だけが響いていた室内も、やがて荷物の配置が進み、新しい生活の気配が少しずつ広がっていく。レイトキは真ん中の部屋の扉を開け、左右に並ぶ二人の部屋を見渡して、穏やかな笑みを浮かべる。
「これなら、どちらにもすぐに駆けつけられるな。これから、よろしくな」




