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EPISODE2-19【嵐の前】

遺物回収任務は無事に終了し、数日が過ぎた。クロノギアの研究施設にて、レイトキはテーブルに並べられた遺物を見つめ、頷きながら呟く。

「遺物の研究を進めてみたが、やはり興味深い。クリプトンの魔法の痕跡と、クラリトンの歯車・回路の構造が、一つに溶け合っている。どちらか一方だけでは生まれない技術だ」

久美子も隣で解析データを確かめながら言う。

「そうだね。これらが各地に散らばっていたのは、偶然じゃない。何か大きな計画の一部として、意図的に置かれていた可能性が高いわ」星玲奈が胸のオーブに触れると、遺物が微かに共鳴して光る。

「レイトキさんの力とも、強く結びついているみたいです…。これらは、二つの世界を繋ぐ“鍵”でもあり、同時に、危険な扉を開けるものでもあるのかもしれません」リジェが窓の外を見やり、空気の変化を感じ取る。

「なんだか、静かすぎる…。まるで、大きな嵐が来る前の凪みたいだね」

レイトキは遺物を丁寧に保管し、仲間たちを見回す。

「そうだ。ストレンジが本気を出せば、この程度の静けさも長くは続かない。だが、俺たちはもう、それに備え始めている。みんな、これから来るものを覚悟してくれるか?」仲間たちが一斉に頷き、その瞳には揺るぎない決意が宿る。

「当たり前だ」「一緒だよ」「絶対に、どこまでもついていきます」嵐は、確実に近づいている。だがその中で、彼らの絆は、これまで以上に強く輝き始めていた。一方、ストレンジ・プレデターの最上階、重々しい空気に包まれた指令室。リュウゼツランが厳かな声で告げる。

「告ぐ。近々、『JOKER』を回収する。なお、相手は並外れた存在である。作戦にはマズミ、ユーカリ、アイビー、ヘリオトロープ達を投入。そして正規品全員——アハト、ズィーベン、ゼクス、ドライ、フュンフ、ツヴァイも加える。さらに、欠陥品や失敗作の実験体も、多数投入する」室内が一瞬、静まり返る。「JOKER」とは、すなわちレイトキのこと——。

ユーカリが手元のディスクを軽く指で弾き、冷ややかに微笑む。

「ついに、本格的に動く時が来たということね。正規品だけでなく、あの“捨てるはずだった者たち”まで総動員するとは…。それだけ、彼が特別だと認めている証拠だわ」マズミは静かに目を閉じ、未来の断片を見つめるように呟く。

「この戦いが、歯車の成長を決めるわね。そして、二つの世界の在り方をも変えるだろう」リュウゼツランは鋭い眼差しを全員に向け、命じる。

「いかなる犠牲を払おうともよい、JOKERをこちらの手に収めよ。これが、我々の新たな世界創造の第一歩となる——!」この宣告をもって、最終決戦へのカウントダウンが、静かに、しかし確実に始まった。 ユーカリは冷静ながら、一つの疑問点を突きつける。

「ですが、一般の人々を巻き込む可能性がありますわ。その点については、いかがなさいますか?」 リュウゼツランは一切のためらいもなく、冷徹に言い放つ。

「かまわん。目的を果たすためには、犠牲は必然だ。巻き込まれた者は、ただ運が悪かっただけのこと。その遺体は我が直属部隊に回収させ、跡形もなく処理させる——それで十分だ」その言葉に、場にいる者たちの中にも、微かな動揺や拒絶の感情が走る。だがリュウゼツランはそれを意に介さず、さらに続ける。

「我々が創り出す新世界には、そのような“不適合者”は初めから存在しないのだ。今ここで消えることも、定められた役割に過ぎない」この非情な宣告が、レイトキたちとの決定的な違い——そして戦う理由が、ますます明確になっていく瞬間だった。リュウゼツランが指令を下した後、マズミとユーカリは一瞬だけ視線を交わし、言葉なしに心を通わせる。

「(分かってるよね、ユーカリ。リュウゼツランの命令には、従う“フリ”だけでいいのよ)」

「(言われなくても、あなたの考えは手に取るように分かってる。表向きは従う振りをする。レイトキだけは、絶対に生かして逃がすつもりだから。ただし、怪しまれないように、私の直属の部下たちは本気で動かして、隙を作る)」二人の表情は依然として冷静沈着だが、その奥には、リュウゼツランの冷酷な計画とは別の、歯車の成長と未来を見据えた密約が結ばれた。表向きは最大の敵として向き合いながら、水面下ではレイトキたちを守る道を探っている——。この二重の駆け引きが、これからの戦いをさらに複雑で、そして危ういものにしていく。クロノギアの任務や研究が一段落し、日常の時間が戻ってきた朝。レイトキは廊下を駆け抜け、扉を勢いよく開けて教室に滑り込む。

「危ねえ、あと五分遅かったら遅刻するところだった!」額に汗をにじませながら席に着くと、隣の久美子が呆れたように笑う。

「相変わらずギリギリなんだから。昨日も遺物の解析で夜更かししてたでしょ?」向かいの星玲奈も、はにかみながら小さく言う。

「おはよう、レイトキ。…朝、ちゃんと間に合ってよかった」リジェが後ろから声をかける。

「でも、こうしてみんなで教室にいると、やっぱり普通の日常っていいなって思うよね。だけど、それも長くは続かないのかもしれないわ…」レイトキは少しだけ表情を引き締め、頷く。

「ああ、そうだな。だからこそ、今こうして過ごす時間も、大切にしなきゃいけないんだ。そして、この当たり前の日常を、絶対に守り抜く」嵐は確実に近づいている。だが今は、仲間と共に、ほんの少しだけ平和な時を刻む——。教室の扉が再び開き、タンジーが入ってくる。

「えっと、みなさんにお知らせします。今日から臨時の教師が着任します」彼女の隣に、穏やかな笑みを浮かべたヘリオトロープが姿を現す。

「どうも、│我夢がむ希望のぞみっす。よろしくっす!」明るく飾らない挨拶に、教室は一瞬ざわめく。だがレイトキは、その気配に微かな違和感を覚えて身を固くする——この男が、ストレンジの計画に名を連ねていた者だと知っているからだ。久美子もそっとレイトキの袖を引き、視線で確かめ合う。

「この人が…?」ヘリオトロープ——我夢希望は、そんな緊張を気にも留めず、にっこりと笑い、教卓の前に立つ。

「あっ、堅苦しいのはナシでいいっす。みんなとも、普通に仲良くやりたいだけなんで」だがその瞳の奥には、何かを探るような光が、確かに宿っていた。嵐は、もうすぐそこまで来ている——。レイトキは小さく唇を動かし、久美子たちにだけ聞こえる声でつぶやく。

「ヘリオトロープ…。幹部自らがこんな身近に来るとは、思ってもみなかった。これは厄介だ」久美子も顔を上げ、教卓の男を見据えながら応える。

「わざわざ教師として潜り込むなんて、何か確実な目的があるはずね。レイトキ、気を抜かないで」星玲奈も不安そうに肩を寄せ、小さく頷く。

「敵が、一番近い場所にいる…ということですね」レイトキは拳を軽く握り、平静を装いながらも警戒心を最大限に高める。

「ああ。だが、奴が何を企んでいようと、この平和な時間を、そしてみんなを、絶対に渡さない。」ヘリオトロープ——我夢希望は、そんな緊張を知ってか知らずか、にこやかに黒板に名前を書き始める。水面下の闘いは、すでに始まっている。ヘリオトロープはにこやかな笑顔を浮かべたまま、落ち着いた口調で告げる。

「皆さんに先に伝えておきましょう。最近各地で起きている怪異の正体が、ようやく分かりました。あれは『ビヨンダード』——いや、正式名称は『クラリトン』という別の世界から来た存在たちが引き起こしている事件なのです」彼は少し声を柔らかくし、注意を促す。

「ですから、もし何か怪しい、おかしいと感じたら、決して近づいたり、一人で確かめに行ったりしないでくださいね。安全が一番ですから」教室中がざわめき、生徒たちは不安そうに顔を見合わせる。

レイトキは表情を変えずに聞いているが、心の中では鋭く疑問を巡らせていた——。

「(わざわざこんな形で、情報を流すのはなぜだ? 警戒させているのか、それとも…特定の誰かを、あるいは俺たちを、何かに誘導しようとしているのか?)」久美子も横から、その言葉の裏を探るように、ヘリオトロープを見つめていた。敵は、最も日常に近い場所から、静かに糸を引き始めている。放課後、誰もいなくなった教室の隅で、レイトキは真正面からヘリオトロープを捉え、鋭く問い詰める。


「お前、偽名まで使ってここに潜り込んで、一体何をしようというんだ?」


ヘリオトロープはわずかに苦笑いを浮かべ、隠し立てなく答える。


「すぐにバレるものだな。安心していい。私が忠誠を誓っているのは、マズミさんただ一人だ。ストレンジ・プレデターに所属しているのも、ただ彼女がそこにいるから、それだけのこと」


彼は真剣な眼差しで続ける。

「レイトキ。マズミさんも、そしてユーカリさんも、頭ごなしに敵対する相手ではない。話せば分かり合える、そういうお方たちだと、私は思っている」レイトキは警戒を解かないまま、拳を緩めずに問う。

「だったら、リュウゼツランが下した『JOKER回収』の命令はどうする? あれは、俺を捕らえるための作戦だろう」ヘリオトロープは静かに頷き、その先の真意をほのめかす。

「命令には従う“ふり”をするだけだ。彼女たちが何を望み、何を隠そうとしているのか——それは、いずれお前自身が確かめることになるだろう。ただ一つだけ言えるのは、私は、お前がただの“駒”として消されるのは、本意ではないということだ」教室の窓から夕暮れが差し込み、敵とも味方ともつかない、複雑な関係の糸が、また一つ絡み合っていく。レイトキは胸のつかえが一気に落ちたように、はっとして呟く。


「じゃあ…今までマズミやユーカリが、俺たちの前で見せてきた態度や、裏で手を回してたことも、全部そういうことだったのか…!」


これまでの出来事——アルビテトやエピデンドラムを逃がしたこと、研究施設を手配したこと、そして何より、完全に敵になりきらなかったあの曖昧な立ち位置——が、一つの線で繋がっていく。ヘリオトロープは静かに頷く。

「彼女たちは、表向きはリュウゼツランの計画に従いながら、心の奥では別の未来を描いている。歯車が壊れるのではなく、自らの力で成長していくことを、望んでいるのだ」レイトキは拳を強く握りしめ、複雑な想いを噛み締める。

「だが…だとしたら、あの非情な命令を前に、彼女たちはどこまで自分の意思を通そうとしているんだ?」その問いに、ヘリオトロープは真剣な眼差しで応える。

「それを確かめるのは、他でもない君自身だ。そして、彼女たちが君に何を託そうとしているのか——その答えは、これからの戦いの中で、必ず明らかになる」夕闇が教室を包み込む中、レイトキの中には、新たな疑問と、それでも前に進む決意が、同時に湧き上がっていた。ヘリオトロープは一つひとつ、はっきりと告げていく。


「まず、大幹部の中でも、マズミさんとは腹を割って話す価値がある。ユーカリさんも同じだ。クラッスラさんは交渉次第で道は開ける。だがリンドウさんは——完全に話が通じない。あいつは、リュウゼツランに心から忠誠を誓っているからだ」


レイトキはその言葉を噛みしめ、幹部たちの立場と思惑が少しずつ輪郭を帯びていくのを感じる。

「…つまり、一枚岩じゃないってことだな。それぞれに、譲れないものと、従わざるを得ないものがある」


「そういうことだ」ヘリオトロープは静かに頷く。

「だからこそ、戦い方も一つじゃない。力でぶつかるだけが答えじゃないことも、覚えておいてほしい」窓の外はすっかり夜になり、これから向き合う相手たちの複雑な姿が、レイトキの前に浮かび上がってきた。レイトキは真剣な面持ちで問い直す。


「じゃあ、歯車を担当している幹部たちは、味方につけられる可能性があるってことなのか?」


ヘリオトロープはゆっくりと頷き、確かな口調で答える。


「ああ、十分にある。なにしろ、マズミさんもユーカリさんも、そもそも『歯車の成長』そのものを目的として動いている。リュウゼツランのやり方がその邪魔になるのなら、いずれ立場を変える時が来る」


彼は続ける。

「ただし、それは君が、君自身の言葉と行動で、彼らの信じる『成長』を示せるかどうかにかかっている。力で脅したり、理屈で説き伏せたりするだけではダメだ。君が本当に何を目指し、何を守ろうとしているのか——その姿を見せ続けることが、何よりの鍵になる」レイトキは胸に手を当て、強く頷く。

「ああ、分かった。俺は俺の道を進み、そして必要なら、ちゃんと向き合って話してみせる。」この瞬間、敵の構図は単純な善悪の対立ではなくなり、それぞれの想いと選択が交差する場所へと変わり始めた。

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