EPISODE1-6【残る歯車の行方など】
事件の後処理も済み、落ち着いた場所で仲間たちと情報を整理していると、レイトキは手帳に書き留めた項目を指でなぞりながら、はっきりと口にする。
「歯車の呼び名、まだ正体や所在がはっきり判明していないのは契約、革命、方舟の三つだけか」彼は視線を上げ、これまでに確認できた分を整理するように続ける。
「逆に、何らかの形で存在や役割が掴めてきたのは包括、再生、聖書、そして心臓の四つだ。これらはストレンジプレデターの計画の中でも、すでに動き始めているか、あるいは俺たちの身近に関わってきているものばかりだ」隣で聞いていた久美子は頷きながら、疑問を重ねる。
「つまり、全部で七つの歯車が揃って初めて、組織が目指す『完全なる次元の再編』が動き出す、というわけね。すでに半分以上は判明してる」レイトキは厳しい表情でそれに応じる。
「そうだ。包括は力の融合を制御する基盤、再生は因子の定着と肉体の修復、聖書は情報と法則の書き換え、心臓は全体に命を吹き込む動力源――これらが俺たちや街で起きている異変の根本にあるのは間違いない」彼は未だ不明な三つの名前を再び口にする。
「残る契約、革命、方舟が何を意味し、どこに隠されているのか。これを突き止めないことには、奴らの計画の全貌も、止める手段も見えてこない」まだ見えない歯車たちが、今後どんな動きを見せるのか。レイトキたちの探索と戦いは、さらに核心へと迫る段階へと進み始めていた。斗愛は指を一本ずつ立てながら、これまで集めた断片的な情報と文献の記述をもとに、整理するようにはっきりと語り出す。
「推測の域を出ないけど、それぞれの名前から役割を読み解くことはできる」最初に一本目の指を掲げる。
「契約はその名の通り、誓いや約束、交わされる代償、そして当事者同士の強い繋がりそのものを象徴する歯車だ。力を授ける代わりに何かを差し出す、主従関係や結びつきを法則として固定するような働きがあるんじゃないかと思う」次に二本目を立てる。
「革命は、まさに『変革』そのものだ。この世界に定着している常識や秩序、次元の壁といった既存の枠組みを根本から打ち砕き、新しい流れを作り出す力を秘めている可能性が高い。計画の中では、現在のシステムを崩す引き金になる役割を担うのかもしれない」最後に三本目を示す。
「そして方舟。これは災厄や崩壊から必要なものを守り、次の時代へと受け渡す役割を持つと考えられる。生命の種、貴重な知識、あるいは次元が再編される際に『安全な領域』を確保する機能――そんな保存と継承の働きが隠されているはずだ」斗愛は言葉を区切り、仲間たちの顔を順に見渡す。
「つまり、判明した四つが『力を作り出し、定着させ、情報を書き換え、動力を与える』という内部の仕組みなら、この三つは『誰と結びつけ、何を壊し、何を守って次に繋ぐか』という、計画の最終的な方向性を決める部分になるんじゃないか?」レイトキは黙って聞きながら、手帳の該当箇所に強く線を引く。
「なるほど……それぞれが欠けても全体は動かない。だがこの三つが揃ったとき、ストレンジプレデターの計画は単なる実験の域を超えて、この世界そのものを書き換える段階に入る、というわけか」推測が輪郭を帯びるほど、残された時間と課題の重さが、より鮮明に迫ってくるのだった。レイトキはこれまでの体験とそれぞれの変化を照らし合わせ、確信を込めてはっきりと告げる。
「すでに役割が結びついている四つについては、こう考えている」彼は指を順に立てて説明を進める。
「包括の歯車――これは間違いなく俺だ。複数の性質や情報、異なる力の流れを一つにまとめ、調和させて統合する機能。俺の件狐の力やデータを扱う性質が、まさにその役割に当てはまる」次に隣にいる久美子を見やる。
「心臓の歯車――最も可能性が高いのはお前だ。全体に力を送り出し、生命やエネルギーの循環を支える源となる存在。お前の内に秘められた力の波動が、他の者の因子を安定させ、活性化させる性質を持っているのを、俺は何度も感じてきた」続いてリジェの方へ視線を移す。
「再生の歯車はリジェだ。損傷した部分を修復し、力の消耗を回復させ、限界を超えて復活させる働き。お前の炎の力に隠された治癒と再構築の性質が、この歯車の役割そのものだ」最後にゼロを真っ直ぐに見つめる。
「そして聖書の歯車――これはゼロだ。世界の法則や情報の記録、新たなルールを刻み込む力。お前に埋め込まれた多種の神話級因子が、情報そのものを書き換え、周囲の理に干渉する性質を秘めている。これ以上適合する者はいない」告げ終わると、仲間たちは一瞬言葉を失い、自分たちが単なる実験体ではなく、歯車そのものとして組み込まれようとしている現実を改めて突きつけられる。斗愛が静かに頷き、声を落とす。
「つまりボクたち自身が、組織の計画の中核を成す部品になっているわけか……だけど、だからこそ奴らの思い通りにはさせない道も、俺たち自身の中にあるのかもしれない」レイトキは強く拳を握り、断言する。
「そうだ。歯車として使われるのではなく、俺たち自身の意思で回す方向を決めればいい。これから先の戦いは、まさにそのためにある」レイトキは手帳に記した名前たちを見つめながら、冷静に状況を整理するようにはっきりと語る。
「だが、これだけははっきりさせておく。単に歯車が集まっただけでは、何も起きない」彼は視線を上げ、仲間たちに核心を伝える。
「俺たち自身が歯車の役割を持っていたとしても、それだけでは計画が自動的に動き出すわけじゃない。おそらく、もう二つの要素が完全に揃わない限り、本当の始動には至らないはずだ」指で強調するように続ける。
「一つはビヨンダードの鍵――次元の壁に隙間を開き、異なる法則同士を繋ぐ媒介。もう一つは、それらの力を定められた順序で回し、制御するための専用の装置だ。この二つがなければ、どんなに強力な歯車が揃っていても、ただの力の塊に過ぎない」斗愛が頷きながら理解を示す。
「つまり組織は、歯車を集めるだけでなく、鍵を回収し、さらに全体を稼働させる『機械本体』も完成させようとしているわけだ」
「そういうことだ」レイトキは厳しい表情で応える。「俺たちが自分の意志で歯車の回り方を変えることができても、鍵と装置を押さえられたら、最終的には引きずられる可能性も残る。だからこそ、これからは歯車の行方だけでなく、この二つの動きも同時に追っていかなければならない」敵の計画には、まだ見えない仕掛けが隠されていることが明らかになり、戦いの範囲はさらに広がりを見せていくのだった。レイトキは過去の情報と現在の状況を結びつけ、確信を込めてはっきりと告げる。
「鍵についてだが、ストレンジプレデターはすでに必要な分を回収している可能性が極めて高い」彼は少し声を落とし、核心に触れるように続ける。
「その正体は、かつて犯罪組織クリミナルデビルに所属していたルクスリアが開発したホムンクルスだ。生体と情報体の境界を曖昧にした人工生命体で、次元の壁の波長に同調し、隙間を作り出す性質を持っている――まさに『鍵』として設計された存在なんだ」斗愛が記憶をたどるように眉をひそめる。
「確かに当時、そのホムンクルスが行方不明になったという報告があったわ。まさかストレンジプレデターが裏で手に入れていたとは……」
「ああ」レイトキは頷く。
「組織が次元の隙間を次々と発生させ、ビヨンダードの者たちが流れ込んでくる現象が続いているのも、この鍵がすでに彼らの管理下にある証拠だ。単なる遺物ではなく、生きた媒体として使われているわけだ」久美子が不安そうに口を挟む。
「ということは、鍵を奪い返すか、無力化しない限り、次元の干渉は止まらないし、奴らも計画を進め続けられるということ?」
「その通り」レイトキは厳しく答える。
「歯車だけでなく、この鍵の所在と状態を把握することが、次の段階で最優先の課題になる。奴らが何を動かそうとしているのか、その入口を抑えることから始めなければならない」敵の手の内が少しずつ明らかになるほど、阻止すべき標的と道のりがよりはっきりと見えてくるのだった。レイトキは空を見上げるように視線を遠くに向け、この世界の根本的な仕組みに思いを巡らせながら、はっきりと語り出す。
「そもそもだ、このクリプトンという世界自体が、ただ一枚の平面で成り立っているわけじゃない。いくつもの層――レイヤーが重なり合って積み重なった多層構造になっているんだ」彼は指で空中に何かを描くようにして説明を続ける。
「私たちが普段生活しているのは一番表層の領域に過ぎない。その下や隣、あるいは重なり合った別の層には、物理法則や時間の流れ、さらには存在するものの性質までが微妙に異なる空間が広がっている。まるで同じ場所にいながら、見えないだけで別の世界が隣り合っているようなものだ」レイトキは再び仲間たちに視線を戻し、状況の難しさを率直に告げる。
「だからこそ問題なんだ。歯車がどこに隠されているのか、鍵や装置がどの位置にあるのか――表層だけを探し回っても見つからない可能性が高い。どのレイヤーに何が存在し、どうやって行き来できるのか、その基本的な地図さえ私たちはまだ手にしていない」斗愛が頷き、その意味を深く受け止める。
「つまり敵は、この層構造を利用して、必要なものを見つからない場所に隠したり、あるいは層同士を繋げて新たな道を作ろうとしているわけね」
「ああ」レイトキは厳しい表情で応える。
「ストレンジプレデターが次元を再編しようという目的も、この重なり合ったレイヤーたちを自分たちの思い通りに並べ替え、一つに統合して支配しようということなのかもしれない。私たちはまず、この世界の構造そのものを理解するところから始めないと、探すことすらままならないんだ」目の前に立ちはだかるのは、敵だけでなく、自分たちが住む世界そのものの未知なる姿だった。レイトキは手のひらを広げるようにして、この世界の広がりを示しながら、はっきりと数え上げる。
「クリプトンという一つの世界の中だけでも、層ごとにまったく性質の異なる領域が分かれている」彼は一つずつ名前を挙げていく。
「力と暴力、混沌に満ちた魔獄界。高次の規律と光の法則が支配する天獄。創造の根源に近く、最も安定した力の流れを持つ神界。欲望と闇の理に基づいて成り立つ悪魔界。死後の行き着く先であり、過去の情報や記憶が集積する冥界。自然の精霊たちが住まい、生命の循環が濃密な妖精霊界……そして、今俺たちが生きている、物質と時間が最も安定した表層の世界――物界がある」レイトキは言葉を区切り、その複雑さを強調する。
「それぞれが重なり合いながらも普通は干渉せず、独自のルールで動いている。だがストレンジプレデターは、これらの境界線を次元の鍵と歯車の力で引き裂き、自由に行き来しようとしているわけだ」久美子が驚きを隠せずにつぶやく。
「こんなに多くの領域が同じ世界の中に隣り合っていたなんて……他の層には、俺たちの想像もつかない力や存在がいるのね」
「ああ」レイトキは頷く。
「だからこそ、彼らの計画が成功すれば、それぞれの法則が混ざり合って、今ある常識も秩序も完全に崩れ去る。俺たちが探している残りの歯車や装置も、これらのどれかの層の奥深くに隠されている可能性が極めて高いんだ」こうして彼らは、自分たちの戦いが単なる地上の事件ではなく、世界そのものの層構造全体に関わる壮大な闘いであることを、改めて突きつけられるのだった。与太郎は腕を組み、これまでの話を整理するように、はっきりと口にする。
「ビヨンダード自身が『平行世界』だと言っていたのを思い出した。つまり、さっき挙げたクリプトンの中の魔獄界や神界といった界域・レイヤーとは、根本的に種類が違う存在らしいな」彼は指で区別するように続ける。
「クリプトンの各層は、同じ一つの世界の枠組みの中で重なり合った領域に過ぎない。元々は同じ根源から分かれ、いつかは影響を及ぼし合えるように作られている。だがビヨンダードは、まったく別の始まり、別の法則、別の次元軸を持つ完全に独立した並行世界だ」レイトキもその点に納得するように頷き、補足する。
「その通りだ。だから普通の方法では行き来することが不可能で、『鍵』のような特別な媒介がなければ隙間さえ開けられない。クリプトンの中の層同士の壁は薄いが、ビヨンダードとの間には、もっと厚くて越えがたい『世界そのものの境界線』があるんだ」斗愛が理解を深めるようにつぶやく。
「つまりストレンジプレデターの狙いは、クリプトン内部の層同士を繋ぐだけでなく、さらに外側にある別の世界――ビヨンダードまでもこの枠組みの中に引き込み、一つに融合させようということなのね」
「ああ」与太郎は重く頷く。
「そう考えると、奴らの計画の規模がいかに大きく、常識をはるかに超えたものかがよくわかる。俺たちが直面しているのは、世界の内側だけでなく、世界同士の関係そのものを書き換えようとする試みなんだ」こうして、敵の目的がさらに壮大で危ういものであることが、はっきりと浮かび上がってくるのだった。空間がほのかに闇色の光を帯びてゆっくりと歪み、レイトキたちの前に一人の女性の姿が現れた。優雅でありながら圧倒的な存在感を放ち、その瞳には深い知恵と底知れない力が宿っている。彼女は柔らかく微笑みながら、はっきりと自己紹介を始める。
「どうやら、あなたたちがジョンアイデル様のおっしゃっていた存在らしいわね」一歩前に進み、自らの正体を明かす。
「アテチの名はアスモディン。神格の一柱にして、このミクスタッド皇国の皇配の一人でもあるの。それから……昔はクリミナルデビルに所属していたルクスリア、それがアテチの過去の名前でもあるわ」その言葉を聞いた瞬間、レイトキたちは息を呑んで身構える。
「ルクスリア……! あの次元の鍵となるホムンクルスを開発した張本人が、まさかこんな形で現れるとは!」アスモディンは彼らの警戒など意に介さない様子で、ゆっくりと手を広げて続ける。
「驚くのも無理はないわ。過去に犯罪組織の一員として暗躍し、禁忌の技術に手を染めたのは事実。だけど今はもう、その道からは足を洗い、この国と民のために生きているの」
彼女の周囲には、悪魔的な力と神聖な波動が奇妙に調和して漂っており、まさに「元悪の快楽の科学者」から「国を支える神格」へと変貌を遂げた存在であることが、肌で感じ取れた。
「ストレンジプレデターの計画、次元の鍵、七つの歯車……あなたたちが追っているすべてのことに、私は深く関わりがあるのよ。だからこそ、直接会いに来たの」緊張感が一気に場を包み込む中、過去と現在を繋ぐ重要な人物が、ついに彼らの前に姿を現したのだった。アスモディンは表情を少し沈め、肩の力を抜くようにして深く頭を下げた。先ほどまでの威厳に満ちた雰囲気が和らぎ、心からの後悔が言葉ににじみ出ている。
「まずは謝らないといけないわ」ゆっくりと顔を上げ、真摯な瞳でレイトキたちを見つめる。
「かつてルクスリアと名乗っていた頃の私の愚かな行いが、こんな事態を招いてしまったこと、心からお詫びする。本当に……ごめんなさい」彼女は指先を組み合わせ、遠い過去を思い返すように続ける。
「当時は力と知識だけで快楽を追い求め、次元の壁を越えることに何の躊躇いもなかった。『鍵』となるホムンクルスを作り出したのも、ただ未知の領域に手を伸ばしたいという身勝手な好奇心と野心からだった。まさかそれが、ストレンジプレデターの手に渡り、世界の秩序を崩す道具として使われるなんて……想像すらしていなかった」レイトキたちは身構えたままだったが、敵意ではなく後悔だけが伝わってくることに、次第に警戒の力を緩め始める。
「自分の作り出したものが災いの種になっていると知った今、私もその責任を負わないわけにはいかない」アスモディンは再び強い意志を込めて言った。
「だからこそここに来たの。過去の過ちを償うためにも、これからはあなたたちに協力し、鍵の力を制御し、奴らの計画を食い止める道を共に探したいの」場に流れる緊張の空気が、少しずつ新たな展開へと変わり始めていた。レイトキは背筋を伸ばし、真っ直ぐにアスモディンを見据えながら、はっきりと力強く言葉を返す。
「俺はあなたを恨んだり、怒りの対象だとは思っていません。自分の過ちを認め、こうして頭を下げて謝る姿を見れば、当時の意図と今の気持ちが違うことぐらいわかります」
彼は拳を軽く握り、怒りの矛先をはっきりと示すように続ける。
「そもそも俺が本当に腹を立てているのは、ストレンジプレデターの連中のやり方そのものです。彼らは世界の法則や境界線を自分たちの都合だけで踏み越え、数えきれない生き物に危害を与え、運命を狂わせている。それだけでなく、他人が作り出した技術や成果を奪い、まるで最初から自分たちのものだったかのように利用して、破滅への道具に変えている」レイトキの声には、仲間たちや多くの被害者の思いが込められていた。
「たとえ始まりがあなたの開発したものだったとしても、悪用して災いを広げているのは奴ら自身の選択です。責任の所在を履き違えるつもりはありません。だからこそ――今から共に動いてくれるというのなら、その力と知識を、奴らの計画を止めるために使ってください」その言葉に、アスモディンは緊張していた肩を下ろし、安堵と決意が入り混じった表情で深く頷いた
「……ありがとう。その言葉を聞けて、本当に救われる思いです。私の知識も力も、これからは全部あなたたちと共に、正しい方向へ向けます」こうして、過去の遺恨を越えて新たな協力関係が、静かに始まろうとしていた。アスモディンは少し困ったような、苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。
「だけどね、私には皇配という立場があるものだから、下手に頻繁に外を出歩くわけにもいかないのよ」指先で髪をかき上げながら、事情を補足する。
「それに娘もすでに嫁いで別の立場になっているから、私の行動が国全体や周りの者たちに影響を与えやすくてね。自由に動き回れる時間や機会には限りがあるのが正直なところ」彼女は少し考え込むように視線を落とし、続ける。
「もし私と同じように、この世界の理や次元の仕組みに通じていて、かつ身分や制約に縛られずに動ける者がいてくれれば……こうした連絡や現場への対応も、もっとスムーズにできるんだけれど」レイトキはその言葉を聞いて頷き、現実的な課題を理解する。
「なるほど、地位が高いことが逆に足かせになる場合もあるわけか。無理に表立って動いて国との関係に亀裂が入っても困る」アスモディンは力なく微笑みながら答える。
「ええ。だからこそ、私は情報や技術、これまでの知見で全面的に支えることはできるけど、実際に現場に入って動く役割は、誰か別の者に任せる必要がありそうね」こうして、協力の形は「直接行動」ではなく「後方支援と情報提供」を中心に調整されることになり、彼らの戦いには新たな役割分担と連携体制が加わることになった。アスモディンは指を顎に当て、慎重な表情で言葉を続ける。
「それから、もう一つ重要なことを言っておくわ。現在判明している歯車は全部で7つとされているけれど……本当にそれだけなのか、今では疑わしく思えてきているの」彼女はゆっくりと視線を巡らせ、これまでの知見と矛盾する点を説明する。
「私が設計した次元理論や、ストレンジプレデターの残した断片的な記録を照らし合わせると、7つの歯車だけでは『世界再編成』という大きな計画を完璧に動かすには、どこか構造的な穴が生まれるの。力の流れも情報の制御も、完全に閉じたループにならないのよ」レイトキは眉をひそめて問い返す。
「つまり……まだ発見されていない歯車が存在する可能性がある、ということですか?」
「そう考えるのが自然ね」アスモディンは頷く。
「あるいは、『7つ』という数字自体が意図的に流された偽情報で、本当はもっと多いのかもしれない。あるいは逆に、7つの中にさらに小さな『副次的な歯車』が隠されている可能性もある」斗愛が記憶を整理するように口を挟む。
「ということは、俺たちが今追っている『契約・革命・方舟』が最後の3つではなく、さらに別の未知の要素が隠れているかもしれない、ということですね?」
「ええ」アスモディンの声は厳しく響く。
「敵の計画の全貌が、まだ表面の半分も見えていない可能性が高い。これからは『7つだけを探せば済む』という前提を捨て、どんな未知の要素が出てきても対応できるように備えておかないと、思わぬ落とし穴に落ちるわ」この言葉によって、彼らの探査と戦いの見通しは再び不確かなものとなり、未知の領域がさらに広がっていくのだった。ゼロは記憶をたどるように少し目を閉じ、それからはっきりと言葉を紡ぎ出す。
「そう言えば、以前ストレンジプレデターの断片的な資料の中に、こんな一文を見たことがあります」
彼は指を一本ずつ立てながら、書かれていた内容を正確に再現する。
「『最低でも7つは必要であろう。全てを統べるもの、循環させるもの、原動させるもの、真理に近づくもの、代償を払ってでも制約するもの、進化という名の変革を起こすもの、保存して未来に進むもの――これらは必ず必要だ。だがそれだけでは…』」ゼロはここで言葉を区切り、眉を寄せて続ける。
「文面はここで途切れていました。最後の部分が何らかの理由で削除されているか、あるいは別の記録に移されていたようで、肝心な『それだけでは何なのか』が読み取れなかったんです」 レイトキたちは互いに顔を見合わせ、これまでの推測と見事に一致することに驚きを隠せない。
「なるほど……」アスモディンが低く呟く。
「『統べるもの』が包括、『循環』が再生、『原動』が心臓、『真理』が聖書。そして残りの『制約』が契約、『変革』が革命、『保存』が方舟――まさに俺たちが割り出した7つの歯車そのものだわ」だが同時に、最後の未完成な一文が新たな疑問を投げかける。
「『だがそれだけでは』……ということは、資料を書いた本人自身も、7つだけでは不十分だと考えていた証拠です」ゼロは確信を込めて言う。
「つまりアスモディンさんの疑いは正しい。彼ら自身が、何か足りない要素があることを認めていたんです」場に再び緊張感が走る。7つの歯車の先に、まだ見えないさらなる鍵が隠されている可能性が、より現実味を帯びて浮かび上がってきた。レイトキは唇を引き締め、心の中で強く願いを込めながらはっきりと呟く。
「情報を得られる手段があればな……。どんな形でも、スキルでも何でもいい、手がかりを探る力が欲しい」その瞬間――周囲の音が遠のき、レイトキの頭の中だけに、澄んだ落ち着いた女性のような声が、まるで直接心に語りかけるように響き渡った。
「《個体名:レイトキ。強い願望と適合素質に反応し、ユニークアルティメットスキル『ウィズダム』を獲得しました》」レイトキははっと息を呑み、自分のこめかみに手を当てる。
まるで霧が晴れるように、これまで断片的だった情報同士が自然に結びつき、曖昧だった理屈や関係性がクリアに浮かんでくる感覚が全身を包み込んでいく。
「これは……何だ?」彼は驚きながら、新たに得られた力の性質を探る。頭の中には、これまで知り得た事実、聞いた話、推測される可能性が、整理された図のように並び、不明な点には仮説が浮かび、矛盾する部分には警告のような光が灯る。まさに「知識を統べ、真実への道を照らす」力そのものだった。アスモディンたちもレイトキの周囲にほのかに青白い光が漂い、空間の情報の流れが彼の元へ集まるように変化したのを感じ取り、目を見開く。
「まさか……歯車の一つ『包括』の性質が、強い願望をきっかけにさらに進化し、固有の究極スキルとして覚醒したの?」レイトキは一度深呼吸し、頭の中の声に応えるように心を落ち着ける。これは敵の計画を読み解き、未知の要素を探り出すために、まさに今必要とされた力だった。レイトキは自分の頭と体の感覚を確かめるように瞬きを繰り返し、驚きを隠せない声ではっきりと呟く。
「なんだ? これは……!?」心の中に浮かんだ疑問が、次の瞬間には自然と解きほぐされていくのを感じる。これまで複雑に絡まっていた次元理論や歯車の役割、敵の行動パターンといった情報が、まるで自動的に整理されるかのように頭の中に流れ込んでくる。
「計算が驚くほどスムーズにできるし……目に見えない情報の流れまで、はっきりと感じ取れてる?」彼は周囲を見回しながらさらに試すように集中する。これまで推測するしかなかった事柄にも、複数の可能性とその確率、矛盾点、つながりが次々と浮かび上がり、曖昧だった輪郭がクリアになっていく。
「まさに今得たスキル『ウィズダム』の力だわ」アスモディンが感心したように頷き、説明を加える。
「情報の収集・解析・統合を極限まで高める力。お前が持つ『包括の歯車』の本質が、願望と適合によって形を得た結果よ。単に知るだけでなく、隠された関係性や見落としていた可能性までも浮き彫りにしてくれるはず」レイトキは手で額を押さえながら、次第にこの新しい感覚に慣れていく。混乱はなく、むしろこれまで以上に冷静に全体を見渡せるようになっているのを実感する。
「これなら……断片的な資料だけでなく、『7つでは足りない』という謎の先にあるものまで、探り当てられるかもしれない」希望と覚悟を新たに、彼はこの新たな力を、これからの道を照らす羅針盤として受け入れるのだった。アスモディンは目を丸くし、驚きを隠せない様子ではっきりと言葉を発する。
「まさか……ジョンアイデル様が持つ『ソフィアス』と同じ系統の、真理を読み解く能力にまで目覚めるなんてね」その直後、レイトキは新たな力によって次々と解き明かされる情報を整理し、鋭く明瞭な声で告げる。
「この『ウィズダム』が示すところによると――歯車の正体は、次元のゲートを開き世界同士を繋ぐための要因そのものだと判明しました」彼は指を立て、必要な要素を順に説明する。
「機能させるためには二つの条件が必須です。一つは『鍵』となる人工生命体――つまり私が設計したホムンクルス。もう一つは、それらの力を安定させて次元の通路を形作るゲート作製機の完成です」そして、最も重要な結論をはっきりと打ち出す。
「そして……これまで言われていた7つという数字は仮の枠組みに過ぎません。計画を完全に稼働させるために必要な歯車の総数は、13個だということが明らかになりました」場に一瞬静寂が訪れ、それぞれがこの衝撃的な事実を飲み込もうとする。
「13だって……」斗愛が息を呑む。
「7つでも手に負えないほどだったのに、実際にはさらに6つも未知の歯車が隠されていたなんて」アスモディンは厳しい表情で頷き、理解を示す。
「だから資料に『それだけでは……』と続いていたわけね。7つは最低限の起動条件に過ぎず、13が揃って初めて、次元を再編し別世界まで統合する『完全体』として機能する……まさに奴らの計画は、想像以上に大掛かりだったということよ」レイトキは静かに拳を握り、決意を込めて続ける。
「見えなかった分が明らかになった以上、これからの探すべき標的もはっきりする。残り6つの歯車が何で、どこにあるのか――この力を使って、一つずつ突き止めていくだけです」レイトキは「ウィズダム」の力で次々と解き明かされる情報をまとめ、はっきりと言い放つ。
「そして、これまで隠されていた残り6つの歯車の正体も判明しました」彼は一つずつ名前を挙げていく。
「終焉、混沌、時空、創世、審判、そして夢幻――これらが、計画を完全に稼働させるために欠かせない、残りの歯車です」その名前を聞いた瞬間、場の空気が一気に重く張り詰める。アスモディンは息を呑み、低い声で確認するようにつぶやく。
「終焉に創世……時空に審判まで。これらは単なる機能ではなく、世界の根本を成す法則そのものだわ」
「ええ」レイトキは厳しい表情で頷く。
「最初の7つが『力を生み出し、運び、定着させる』内部の仕組みだったのに対し、この6つはその力を使って世界そのものを書き換えるための根本的な要素です」彼はそれぞれの意味を簡単に補足する。
「終焉は古い秩序を終わらせ、混沌は再編のための空白を作り出す。時空は次元と時間の流れを操り、創世は新たな形を生み出す。審判は不要なものを選別し、夢幻は現実と虚構の境界を曖昧にして法則を上書きする……まさに、世界を作り変えるための全過程がここに揃っているわけです」斗愛が震えるような声で言う。
「これらが全て揃ってしまったら、今あるクリプトンもビヨンダードも、彼らの思い通りの姿に作り替えられてしまうのね……」
「だからこそ時間がない」レイトキは強く断言する。
「7つだけでも危険だったが、13が完全に集まってしまえば、もはや手の施しようがなくなる。隠されていた歯車の正体が明らかになった今、次はそれらの所在を突き止め、奴らより先に抑え込むことが最優先事項になります」レイトキはウィズダムの力で導き出された関連性を整理し、はっきりと告げる。
「これら6つの歯車について、関係する存在や領域まで見えてきました」
一つずつ順を追って説明する。
「夢幻――これはおそらくアスモディン様と深く関わっている可能性が極めて高い。神格としての性質と、次元の境界や虚実の操作に通じた知識、過去に手がけた技術のどれを取っても、この歯車の本質と重なる部分が多い」次に続ける。
「時空は名前の通り、時間と空間の流れを司る存在――クロノス神との関連が強く示されています。次元の層を自由に行き来するには、この法則を制御する力が不可欠だからです」
「創世は世界の根源を形作る力に関わるため、最高神そのもの、あるいはその力の断片や継承された領域と結びついていると考えられます」
「審判は秩序の正しさを定め、不要なものを選別する役割。これは秩序の神が管轄する法則の領域に存在する可能性が高い」
「混沌については二つの可能性が浮かんでいます。世界が生まれる前の無秩序な力――カオス神に由来するか、あるいは古くから異形の存在や未知の法則と結びつくクトゥルフ神話体系に関わる領域に隠されているか、どちらかの線が濃厚です」最後に最も危うい場所を指摘する。
「そして終焉――これは既存の秩序を完全に終わらせる力。最も適した環境として示されるのが、力と破壊の法則が渦巻く魔獄界の神域です。そこに眠っているか、あるいはすでに呼び起こされつつある可能性が高い」レイトキの言葉を受けて、アスモディンは神妙な面持ちで頷く。
「なるほど……いずれも一筋縄では近づけない相手や領域ばかりだわ。神格や神域に関わるとなれば、ストレンジプレデターが手を出すだけでも大きな波乱が起きる」
「だからこそ先手を打たなければなりません」レイトキは強く断言する。「これらの歯車が敵の手に渡る前に、それぞれの居場所と守り方を確かめる。道のりは険しいですが、手がかりが見えた今、進む方向だけははっきりと定まりました」場面は一転し、どこか深い闇に包まれた指令室のような空間へと移る。壁面には次元の歪みを映し出すような不規則な光が走り、低く冷たい声が重々しく響き渡る。一方、ストレンジプレデターの拠点――幹部たちが集まる暗い会議の場で、中心に座る者が重々しく口を開く。
「本来の目的は明白だ。13の歯車、ゲート作製機、そして次元の鍵――これらを完全に安定して稼働できる状態に整えることにある」声の調子には苛立ちと焦りが混じる。
「だが現状はどうだ? 歯車の大半は脱走して制御を離れたか、そもそも所在すら突き止められていない。力を体内に定着させるための仕組みだけを整えても、それだけでは世界の法則を書き換える段階には至らない」彼は机の上に置かれたデータ端末を強く叩き、続ける。
「これからは定着の問題だけでなく、根本的な書き換えに必要な要素まで探し出さなければならない。計画を完遂するための道のりは、まだ半分も進んでいないということだ」
別の幹部がため息交じりに応じる。
「その上、現在実戦と探索に投入できる幹部はわずか8人に過ぎない。領域も対象も多岐にわたる中、この人数では手が回らない場面が次々と出てくる。明らかに人手が足りん……」
中心の者は目を細め、闇の中で冷たい光を宿らせる。
「だからこそ、これからは優先順位を厳しく定める。脱走した歯車の追跡、未発見の歯車の探索、鍵と装置の調整――これらを並行して進めつつ、余った力で新たな戦力の補充も進める。どんな手段を使ってでも、計画の進行を止めさせるわけにはいかない」彼らの側でも、見通しの険しさとリソースの不足が深刻な課題となって立ちはだかっていた。レイトキたちと同じように、時間との勝負が始まっているのだった。暗い会議室の奥、これまで黙って座っていた一人の人物がゆっくりと身を乗り出し、口を開く。中性的で柔らかい輪郭の顔立ちに、流れるような刺繍が施された中華風の衣装をまとい、声は澄んでいながら底知れない重みを含んでいる。
「やはり、そういう状況になりましたか」周囲の視線が一斉に集まる中、彼――あるいは彼女は静かに微笑み、胸元に手を当てて宣言する。
「今ある7つの歯車以外、隠されていた残りの要素に関する捜索と確保――これはこの私、ホオズキにお任せください」幹部たちの間に小さなどよめきが走る。中心に座る者が鋭い眼差しを向けて問いかける。
「ホオズキ、お前にそれだけの見通しと手段があるというのか? 創世から終焉まで、いずれも神域や未知の領域に眠る代物だ。容易に手を出せる相手ではない」ホオズキは優雅に首を傾げ、指先で衣装の裾をなぞりながら答える。
「私の力は『縁を探り、道を繋ぐ』性質にあります。どんなに隔絶された領域にあっても、歯車同士、法則同士の微弱な結びつきを糸のように辿ることができるのです。神々の領域であろうと、混沌の彼方であろうと、行くべき道と在り処を見つけ出すくらいは造作もないこと」その言葉には、単なる自信を超えた確信が込められていた。
「人手が足りない今、この分野を一任していただければ、余った戦力は既存の歯車の追跡や装置の調整に集中させられます。計画全体の速度を落とさずに進めるためにも、最善の選択だと思いますが?」幹部たちは互いに顔を見合わせ、最終的に中心の者がゆっくりと頷く。
「よかろう。ホオズキ、その任務を命じる。だが決して無理はするな――もし歯車を抑えられなくても、少なくともその正確な位置と守りの構造だけは報告せよ」
「承知いたしました」ホオズキは静かに頭を下げ、闇の中で瞳に冷たい決意の光を宿らせる。こうして敵陣でも、未知の歯車を巡る探索が新たな段階へと動き出すことになった。幹部の一人であるマズミが、机の上に置かれた四枚の薄い石板状のメモリー媒体を丁寧に取り上げ、ホオズキの前へと差し出す。それぞれの表面には、特殊な紋様と共に意味深い図が刻まれていた。
- 一枚目には、中心が闇に吸い込まれるようなブラックホールを具現化した模様。
- 二枚目には、羽根ペンが一冊の大きな書物に触れる姿、つまり真理と記録を象徴する図。
- 三枚目には、円の輪郭全体に細かい亀裂が走り、崩れかかっている様子が描かれている。
- 四枚目には、針も文字もゆがみ、時間の流れ自体が捻じ曲げられたような歪んだ時計の絵が刻まれている。
「これを使うがいい」マズミは低い声で告げる。
「それぞれ、これまで断片的に捉えられた『混沌』『審判』『終焉』『時空』の歯車が発する波動の痕跡を記録した媒体だ。微弱な共鳴を増幅し、位置を追跡する道標になる」ホオズキは指先で一枚ずつ表面をなぞり、それぞれに流れ込む力の性質を確かめる。指先に微かな痺れのような反応を感じ取ると、満足そうに口元を緩めた。
「なるほど……これがあれば、ただ縁を辿るだけでなく、より正確に狙いを定められますね」彼は四枚のメモリーを中華風の衣装の懐にしっかりと収め、胸元を押さえるようにして頷く。
「情報の断片が道を照らし、道が次なる手がかりを呼び込む。任務の開始には、これ以上ない準備となりました」闇の会議室の中で、敵の探索の手が、次なる未知の歯車へと確かに伸び始めていくのだった。マズミは無駄なくはっきりとした口調で言葉を続ける。
「ドリームメモリーとリブラメモリーについては、どうやら既に君の手元に渡っているようだね」彼女はホオズキの懐のあたりを一瞥し、確認するように頷く。
「前者は『夢幻』、後者は『審判』の歯車に対応する波動データが記録された媒体だ。これまでの経緯で自然に引き寄せられ、入手できていたわけだ」そして視線を真っ直ぐに向け、任務の全容を明確に告げる。
「これで手がかりのあるものは揃った。残る6つの歯車――『終焉』『混沌』『時空』『創世』『審判』『夢幻』の探索と、必要ならば力の顕在化・生成までを、全て君に任せるわ」ホオズキは静かに胸元に手を置き、余裕を含んだ笑みを浮かべて応える。
「承知いたしました。歯車はただ存在を探すだけでなく、それぞれの法則に適合する形で呼び覚まさなければ意味がない。探索から安定した力の発現まで、一貫して進めてみせます」マズミは最後に冷ややかな調子で付け加える。
「手間取っている暇はない。レイトキたちも新たな力を得て情報を読み解き始めている。先手を取られる前に、確実に手に入れること――それだけは忘れないように」
「心得ておりますとも」ホオズキはゆっくりと席を立ち、衣装の裾を翻しながら闇の出口へと向かう。彼の背中には、歯車の行方を左右する重い任務が、静かにのしかかっていた。会議室の奥から、低く落ち着いた声が響く。リュウゼツランが腕を組み、冷静に状況の妥協点を口にする。
「最悪の場合、歯車そのもの――つまり器となる存在や媒体が協力してくれなかったり、完全な形で入手できなくても構わない」彼は視線を手元のデータ端末に落とし、淡々と続ける。
「その根源となる因子さえ手に入れば、それで御の字だ。完全な器がなくとも、歯車の本質を成す法則の断片、力の元となる因子があれば、我々の技術で代用構築や再現、あるいは他の適合者への移植まで可能だからな」周囲の幹部たちは静かに耳を傾け、その現実的な判断に頷く者もいる。
「完全体にこしたことはないが、計画の根幹を揺るがすほどの欠陥にはならない。因子さえ確保できれば、後は時間と調整次第でどうにでも形にできる――そういうつもりで動け、ホオズキ」ホオズキは振り返り、柔らかくも確かな口調で応じる。
「ご忠告、承りました。『完全な形』にこだわらず、まずは根源に至る道を探る。因子の痕跡でも力の断片でも、手がかりさえあれば繋ぎ合わせて目的に近づけてみせます」こうしてストレンジプレデター側は、「完全な歯車」だけを狙うのではなく、「力の根源」を確保するという、より柔軟かつ執拗な方針へと舵を切ったのだった。リュウゼツランは話を続け、計画のもう一つの核心部分に触れるように、はっきりと口にする。
「それと忘れてはならないのが、装置の完成だ。次元を安定させ、歯車同士の力を正しく循環させるには、クロノ・アークプログラムが絶対に必要になる。このプログラムの実装から装置全体の調整まで、担当を誰にするか決めなければならない」彼の問いかけが終わらないうちに、会議室の脇の暗がりから一人の男性がゆっくりと進み出てくる。着ている上着には複雑な唐草模様が縫い込まれ、手先は細かい作業に慣れているかのように整っている。彼は軽く頭を下げ、落ち着いた調子で宣言する。
「その役目でしたら、私が請け負うでマス」リュウゼツランはその姿を見て、わずかに頷き、了承の言葉を返す。
「アイビーが請け負うか。お前なら次元理論と古いプログラム体系の両方に通じているから、適任だ。その任務、正式に任せる」アイビーは再び深く頭を下げ、懐から薄い設計図のようなものを取り出して指でなぞる。
「お任せください。クロノ・アークの基盤設計は既に予備段階まで進めてありマス。歯車の波動データと鍵の安定値が揃い次第、最終調整に入れる体制を整えておきマス」こうしてストレンジプレデター側では、探索班だけでなく装置開発の担当も定まり、計画の両輪がそれぞれ動き出すことになった。




