EPISODE5.5-3【理想とウプアト】
アハトの願いが聖堂の空気を柔らかく変えていく——。ドネイターは静かに目を閉じ、長い時間をかけて言葉を選ぶ。
「……混因人を、無闇に狙うことはしない。それが私の答えだ」その言葉に、アハトは肩の力が抜けるように深く息を吐く。
「ありがとう……。それだけでも、十分だ。命あるものが消えるのを見ずに済むのなら」だがドネイターの瞳の奥には、まだ消えない決意の炎が燃えている。
「だが誤解しないで。私が目指す理想は揺るがない。差別も抑圧もない——誰もが同じように生きられる世界。それを実現するために、今の歪んだ秩序は壊さなければならない」アハトは真っ直ぐに応える。
「理想は同じかもしれない。だけど、そこへ至る道が違う。壊すことでしか辿り着けない未来なんて、本当に望むものなのか?」周囲の幹部たちも、それぞれの想いを抱き始める。鈴丸は刀の柄に手を置いたまま動かない。ウプアトは耳を傾けながら、何かを考えるように尻尾をゆらゆらと揺らしている。
「誰もが安心して暮らせる世界——それは僕も同じ願いだ」アハトは続ける。
「だけどそれは、誰かを犠牲にして築くものじゃない。手を繋ぎ、分かり合い、少しずつでも前に進むものだと思う」ドネイターは鋭く切り返す。
「その『少しずつ』で、今までどれだけの時間が過ぎていった? 話し合いで解決するのなら、とっくにそうなっている。私たちは待ち続けた。だが何も変わらなかった」
「変わらなかったのは、諦めていたからじゃないの?」アハトは譲らない。
「力で解決する方法を選んだ瞬間に、本当の変化は遠ざかっていく」言葉は尽きることがない。どちらも自分の信じる未来を真剣に願っているからこそ、歩み寄れない。同じ理想を目指しながら、選ぶ道が正反対だった——。ウプアトがぽつりと呟く。
「面白いね。同じ場所を目指してるのに、見てる景色が全然違うなんてさ」聖堂の中、二つの理想が静かにぶつかり合う——。こうして——同じ理想、違う道! 正しさは一つじゃないからこそ難しい! 物語、選択の時——!ウプアトがサグラダ・ファミリアの大きな扉をくぐり、外へと歩み出す——。その背中に向かって、鈴丸が刀の柄を強く握り、声を荒げる。
「おい、どこに行くでゴザル! ここに留まらねばならん時に!」ウプアトは振り返らず、ジャッカルの耳をそよがせ、軽やかな口調で告げる。
「散歩がてらにさ——アヤツラにちょっかい出しに行くのさ」鈴丸は一歩踏み出し、更に問い詰める。
「アヤツラ? クロノレイトたちのことか!? 敵地に単身で赴くなど無謀ゴザル! 何のために我らのもとへ来たのだ!」ウプアトはようやく肩越しにちらりと視線を向け、にやりと笑う。
「無謀? そう見える? でもね——相手が何を考え、何を目指してるのか、直接顔を見て確かめるのが一番早いだろ? 話が通じる相手ならそれでいいし、面白そうなら手を貸すかもしれないし……」尻尾がパタリと軽く弾む。
「どっちに転んでも、退屈はしなさそうだからさ」
「敵に情報を与えるつもりか!?」鈴丸は刀を抜こうとするが、ウプアトはそれを見ても動じない。
「情報なんて何も持ってかないよ。ただ、会いに行くだけさ。それとも——それが困ることでもあるの?」そう言い残すと、ウプアトは軽やかな足取りで夕暮れの街並みへと消えていく——。こうして——ウプアト、単身でクロノレイトたちのもとへ! 彼は何を見、何を伝えるのか!? 物語、予測不能な展開——!ウプアトは砂煙のような光の帳と共に姿を現すと、目の前にそびえ立つクロノギア本拠点を見上げ、感心したように声を上げる。
「へえ、なるほどね——これがか。しかし、いい趣味してるじゃん。敵から奪った物を改造して使うなんてさ」
ジャッカルの耳をピンと立て、尻尾をゆらりと揺らしながら、建造物の輪郭や機構の跡をじっくりと眺める。
「元は誰かが作った施設を、自分たちの手で塗り替え、守りの拠点に変えてる。壊すだけじゃなく、受け継いで活かす——そういう発想、嫌いじゃないね」見張りに気づかれ、門の前からアザミとクロノレイトが駆け出してくる。
「誰だ!? 突然ここに現れるとは!」アザミは警戒しつつ問いかける。ウプアトは手を挙げて軽く挨拶する。
「おっと、驚かせちゃったかな。俺はウプアト。ジョンアイデルとアヌビスの子孫だ。ちょっと様子を見に来ただけさ」クロノレイトは眉を上げる。
「グラナディアの側にいた男……! どうしてここに? 敵側からの使者か?」
「使者ってわけじゃない」ウプアトは肩を竦める。
「たださ——グラナディアでは『壊す』ことばっかり話してたから、こっちはどうなのかなって。見てみたら、なるほど——奪ったものを壊すんじゃなく、新しい意味を与えて使ってる。それが答えなのかもね」物見るような軽い態度の裏に、鋭い観察眼が隠れている——彼は何を確かめに来たのか。 こうして——ウプアト、クロノギアに現る! その目に映ったものは!? 物語、未知の対話が始まる——!ウプアトの笑みが瞬く間に消え、身構えると同時に一気に距離を詰め、拳を振りかざしてクロノレイトに殴りかかる!
「っ!」だがクロノレイトは一歩も退かず、その拳を両手でしっかりと受け止める。衝撃で地面が軋み、風が巻き起こる——。
「何のつもりだ!?」クロノレイトは力を込めて押し返しながら問う。
ウプアトはそのまま拳を押し付けたまま、瞳を鋭く光らせる。
「本気かどうか、確かめただけさ。言葉だけじゃ何も伝わらない。どれだけの覚悟で前に進もうとしているのか——その拳で、その心で、見せてみろ!」ジャッカルの耳が興奮したように立ち、尻尾も力強く揺れている。攻撃というよりは、試すような一撃——。
アザミたちが駆け出そうとするのをクロノレイトは手で制し、真っ直ぐにウプアトを見据える。
「ならば受けて立つ! 俺の想いが揺るがないことを、見せてやる!」受け止めた拳をそっと離し、構えを取り直す。一触即発の緊張が辺りを包む——。こうして——ウプアト、試しの一撃! 力と覚悟を問う闘いが始まる! 物語、真価を問われる時——!「だが——こんなに大勢いては、肝心なものが見えない! 邪魔だ!」ウプアトの全身から、突如として鋭い覇気が迸るように解き放たれる!衝撃波が砂塵を巻き上げ、勢いよく広がる——。
「っ!?」
「ぐわっ!」星玲奈、アザミ、メーミン、斗愛たちはその勢いに耐え切れず、一斉に後方へ吹き飛ばされてしまう。だが——クロノレイトだけはその場に踏みとどまり、覇気を真正面から受け止めていた。
「なっ……!」ウプアトはわずかに眉を上げる。
「他の者たちが一様に弾かれたのに、お前だけが……」クロノレイトは髪を風になびかせ、瞳を真っ直ぐにウプアトに向けたまま動じない。
「俺だけに見せたいものがあるのなら——それでいい。だが、仲間を傷つけるなら、俺が相手だ!」ウプアトの口元に、初めて本物の興味が浮かぶ。
「ふむ……。ただの強さじゃない。揺るがない覚悟が、そうさせているのか。面白い——本当に面白い」周囲の仲間たちは体を起こし、遠くから二人の様子を心配そうに見守る。今は——クロノレイトとウプアト、ただ二人きりの対峙の時。こうして——覇気で試される覚悟! クロノレイトだけが受け止めたものとは! 物語、一対一の真剣勝負——!クロノレイトは一歩も退かず、真っ直ぐにウプアトの瞳を捉え、力強く問いかける。
「お前は——この世界が本当に滅ぶべきだと思っているのか? 人間が悪だと決めつけているのか?」ウプアトは耳をピンと立て、尻尾を鋭く振り、即座に切り返す。
「人間が善だとか悪だとか——そんなものは関係ない! 奴らはただ、弱者なんだ!」その言葉には、軽んじるような冷たさが込められている。
「力もないくせに、理屈ばかり並べて、誰かを押さえつけ、都合のいい嘘を重ねる。自分たちこそ正しいと信じて疑わない——それが人間だ。弱いくせに、強い者のふりをする。だから壊れる運命にあるんだ」クロノレイトは拳を握りしめ、譲らない。
「弱者だから滅ぶのか? 弱いからって、消えていい命なんて一つもない! 弱いなら支え合えばいい。それが人の生きる道だろう!」ウプアトは鼻で笑う。
「支え合う? 綺麗事だ。現実はそうはいかない。お前もいずれ知ることになる——甘い夢は、いつか必ず壊れるって」二人の想いが、鋭くぶつかり合う——。こうして——ウプアトの真の考えが明らかに! 『弱さ』とは何か! 物語、価値観の衝突——!ウプアトは鋭いまなざしでクロノレイトの瞳を覗き込み、心の奥底まで見透かすように告げる。
「お前の深層心理にはっきり見えるぞ。愛や友情、絆——そういう温かなものを大事に抱えていながら、そのすぐ隣には孤独の闇が沈んでいる」クロノレイトは息を詰め、思わず胸元を押さえる。誰にも話したことのない、心の隙間をまっすぐに指し示されたような衝撃に襲われる。
「いつか皆がいなくなるのではないか、自分だけが取り残されるのではないか——そんな怯えが、根っこに張り付いている。だから必死になって守ろうとする。強く見せようとする。だが本当は——お前自身が一番、寂しがっているじゃないか」ウプアトの声は冷たいが、決して嘲りではない。ただ事実をそのまま突きつけているだけだ。
「その闇がある限り、誰かを救うことなんてできない。自分の心さえ満たせない者が、どうして他人の未来を守れる?」クロノレイトはうつむきかけた頭をゆっくりと上げ、それでも真っ直ぐに応える。
「……その闇は確かにある。消えない。だけどな——その寂しさがあるから、俺は誰かを独りにしない。同じ想いを知っているからこそ、手を伸ばせるんだ。闇があっても、それが絆の色に変わることだってある!」ウプアトは一瞬、瞳を細める。その答えが予想外だったかのように——。
こうして——心の奥を見抜かれてもなお揺るがない想い! 孤独を力に変えるとき! 物語、真の強さとは何か——!ウプアトは口元ににやりと笑みを浮かべ、それまでの鋭さを緩めて告げる。
「フッ——気に入った。お前、実に面白いな」ジャッカルの耳が嬉しそうに軽く動き、尻尾もゆったりと揺れる。
「どうだ、俺と来い。一人が嫌なら——友達や恋人を一緒に連れてきても構わない」その言葉に、クロノレイトは少し驚いて眉を上げる。
「いいのか? 今まで敵として向き合っていたのに……」
「敵か味方か、それはまだ決まってないさ」ウプアトは軽く肩を竦める。「ただ、お前の話をもっと聞いてみたくなっただけだ。どんな道を選ぶのか、その目で確かめてみたい」
遠くで見守っていた星玲奈たちも、その言葉に息を飲む。敵からの誘い——だが悪意のないものだと感じ取り、クロノレイトの返事を待つ。クロノレイトは一度頷くと、力強く応える。
「ああ、行く。俺たちの想いを全部見せて、話して、そして分かり合ってみせる! みんなを連れて、必ず会いに行く!」ウプアトは満足げに笑う。
「待ってる。グラナディアでな。その時が——本当の始まりだ」そう言い残すと、彼は砂煙のような光に包まれ、その場から姿を消した。こうして——ウプアト、正式に誘いをかける! グラナディアでの対話が決定! 物語、心強き一歩——!ウプアトは砂煙のような転移の光に包まれ、サグラダ・ファミリアの最上階へと戻ってきた。
「あそこまで面白いとはな……。まったく、退屈しないぜ」ジャッカルの耳を嬉しそうにそよがせ、尻尾を軽く弾ませながら呟く。その表情は、出かける前の軽い気まぐれから、本当に心を動かされた者の輝きに変わっている。すぐに駆け寄ってきた鈴丸が、刀の柄を強く握りながら問い詰める。
「戻ったか! いったい何をしてきたのだ!? 敵地に単身で赴き、何を話してきた!」ウプアトは肩を竦め、にやりと笑う。
「話をしてきただけさ。クロノレイトって奴、見かけ以上に面白かったよ。真っ直ぐで、それでいて心に闇を抱えていて——それでも前に進もうとしてる。なかなか捨てたものじゃない」ドネイターが冷ややかな視線を向ける。
「敵を褒めるとは……。手を結ぶつもりか?」
「そうじゃない」ウプアトはきっぱりと答える。
「たださ——どっちが正しいのか、この目で確かめてみたくなっただけだ。お前たちの言う『未来』も、クロノレイトの言う『絆』も、両方見極める。それが俺の流儀だ」聖堂の窓から差し込む光が、彼の姿を二つの方向に引き裂くように映し出す——。こうして——ウプアト、両方の道を見極める! クロノレイトに興味を抱き、中立の立場から静観する! 物語、風向きが変わり始める——!どこか遠く——時空の歪む場所、あるいは古き記憶の彼方で、アルビテトがふと目を開く。風の気配、魂の輝き——それを捉えた瞬間、瞳がわずかに強く光る。
「ウプアト……か」低く呟かれたその名に、記憶の糸がゆっくりと紡がれる。
「アタイと同じ時期に生まれた男。同じ時代を駆け、同じ星の下に在った——そういうことだね」指先に力が込められる。単なる気配ではない。血の系譜、時代の刻印、そして運命のような繋がり——その全てが感じられる。
「確かめる必要があるね。何を想い、何を選ぼうとしているのか。同じ時を生きる者として、見届けなきゃならないことがある」アルビテトは静かに立ち上がる。その決意は、揺るぎないものだ。
「彼が向かう先に、何が待っているのか——アタイの目で確かめてくる」こうして——アルビテト、同世代の絆を感じて動き出す! 神話の時代から続く繋がりが、物語に新たな風を運ぶ! 物語、歴史が交差する時——!




