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ネフィリム・エスカトロジー  作者: 弓チョコ
最終章:旅の終着点
118/120

第118話 終末明けの新世界

「ここだ」


 11人居る『家族』の為に、仮設住宅は4棟建てたらしい。その内ひとつを、『ふたり』の為に用意した。


 翌日。

 シレークスの案内で文月が連れてこられたのは、そのひとつだった。


「母さん……っ」


 並べられた布団がふたつ。愛月とカエルムが、静かに眠っていた。


「『長さ』は、何かに比例してるらしい」

「何か?」

「アルティミシアとセレスティーネの予想だ。オレには詳しく分からねえ。そもそも『気を失った』のが、お前ら3人とこのふたりと、アレックスだ。それ以外はずっと意識があるぜ」

「!」

「……『御座』に座ったと同時にな。だから俺らは、『それ』が失敗したと考えた。実際、何も変わらなかったからな。オレ達はお前らの無事を確かめようと部屋に入った」


 あの時、カエルムが同じく倒れたのなら。あの場に立っていたのはシレークスだけだ。


「その時に声がした。恐らくは、『神』のな」

「えっ」

「罰や代償は、我々の定めたルールではない。つってな。どこから聞こえたのは分からねえが、確かにそう言った」

「それって」

「オレらが、『神』だと思ってた奴等も、実際はその上を行く『大いなる何か』に支配されてたのかも知れねえ。あの『御座』と、その上にあった『光の玉』は、それに関係してるんじゃねえかと思うがな」

「…………」

「まあ結局、その後は引き上げだ。兵達を呼んで、お前らを運び出す。うかうかしてたら神々がやってくるからな」

「で、戻ってきたのか」

「いや。その手前で、また声が聞こえた」

「!」

「女の声だった。多分だが、戻ってきた神々のひとりだ」

「……なんて?」

「『これからは相互不可侵です』つってな」

「!」

「天界は、地獄やルールを通しての『下界』、つまり太陽系惑星の支配を放棄した。そりゃ、もう使えねえからな。そうするしかねえんだが。だがあいつらも、もうここまで攻めてくることは無くなったと考えられる。……神にとっても、今回の侵攻は相当堪えたらしい」

「…………『御座』を使える3神が死んだからか」

「だろうな。そのお陰で、『ルール』は一新された」

「えっ」

「お前、自分で気付いてるか知らねえが、『奇跡』無くなってるぞ」

「!!」


 自分の手を確かめる。何も変わった様子は無い。だが。


「昨日現場でした怪我だ」

「!」


 シレークスの腕を見る。軽い擦り傷だった。そこに触れる。


「…………治らない」

「お前が寝てても発動する奇跡だったらしいな。すぐに分かったぜ」

「そんな……!」

「それだけじゃねえ。リーの奇跡も無くなってる。魔術もだ。誰にも使えなくなっちまってる」

「!」

「オレもな。……『人間』に戻ってやがる。本来ありえねえんだけどな。カエルムを見てみろ」

「えっ」

「翼がねえだろ。こいつも、『人間』になってる」

「なっ……! 本当だ……!」

「因みにウゥルペスもな」


 カエルムの背中を見る。確かに、翼があった筈の場所は、普通に肩甲骨だった。


「『奇跡』『魔術』が無くなった。『天使』『悪魔』も消えた。アルティミシアが普通に歩いてたろ。『罰』や『代償』も消えてんだ」

「そういえば!」

「忘れてたのかよ」

「ぅ……」

「つまりだ。本来死者なんだが、愛月の死因は『代償』だろ。魂が消滅した筈のきさらぎも生き返った。だから、このふたりもいつか起きるんじゃねえかとオレは思ってる」

「!」

「少なくとも、今のこいつらは死体じゃねえ。息もしっかりある。そして、点滴も無しに、飲まず食わずで健康状態は悪くならねえ。……これはお前らもそうだったがな。いつか、起きるんじゃねえかと」

「…………ソフィアさんは」

「……なんとも言えねえ。オレはもう地獄へ行けねえから確認もできねえ。愛月と条件は同じだろうが、もう肉体が無えからな」

「…………そっか」

「途中、金星や月に寄って、悪魔や月の兵を降ろして。魔術で地球まで帰ったがな。それから魔術が使えなくなっちまって、もうオレらは宙を飛べねえ。……おっと。悪いが時間だ」


 そこまで説明して、シレークスは時計を見た。仕事の時間らしい。あのシレークスが普通に仕事をしていることに、少しだけ違和感を覚えた。


「戦争は、勝ったか負けたか判断つかねえ。勿論この結果に満足してねえメンバーも居る。……だがボスはお前だ文月」

「!」

「『どうするか』考えろよ。これから」

「……分かってる。状況を整理して、近い内に皆を集めるよ」


 最後にそれだけ残して、町へ降りて行った。


——


「お兄さま」

「アルテ」


 シレークスを見送ってから、アルテがやってきた。


「今日は、アルテはお休みを貰いました。……お兄さまに大事なお話が、ありますので」

「ああ。聞くよ。もうどこにも行かない」

「…………はい。お兄さま」


 外に用意された折り畳み式の椅子にふたりで向かい合って腰掛ける。やはり、アルテの脚はもうなんとも無いようだった。


「お兄さまとアルテ、セレネは当然。お母さまとカエルムさまと、アレックスは。この『一連の事件』の首謀者だと、判断されたのだと思います」

「首謀者? 判断?」

「はい。この、宇宙の歴史に対する『クーデター』と言いますか。それの首謀者と、実行者です。お母さまは計画の発端です。そして、その作戦の要となる『ネフィリム』という古代兵器を産み出し、しかも『ブラックボックスの術』で隠していた。その主犯、という扱いでカエルムさまとアレックスが」

「……姉さんや神奈ちゃんは、『知らなかった』からお咎めなしなのか」

「だと思います」

「……古代兵器」

「あっ。気を、悪く、したら。ごめんなさい。そういうつもりでは」

「いや。大丈夫だよ。もう俺は『人間』らしいし」

「…………はい」

「いつ頃目を覚ますんだろうか」

「分かりません。これが、最後の『罰』。もしくは……『試練』なのではないかと、セレネとも話しました」

「試練?」

「最初に目を覚ましたのは、セレネです。1日遅れでアルテとアレックスが。……セレネは結構早い段階で『気付いた』らしく。『以前のルール』に於いての『罪の重さ』で、期間が決まるのではないかと」

「罪の重さ」

「アレックスは、計画と関係なく『代償』を払っての隠蔽でしたから。それを利用したお母さまとカエルムさまが一番、重いのだと思います」

「罪。罰。代償。試練……」

「もしくは、以前月で、『ツクヨミ』様が仰っていた『刑』というものかもしれません」

「…………なる、ほど。じゃあ結局、『全知全能』は」

「失敗、ということになりますね。アルテ達は自らの意思で、『この世界』に戻ってきたので」

「…………そう、か」

「自らの意思で、『全知全能』を手放したということでもあります。あのまま身を委ねていれば、『世界』は少しずつ理想に近付いて、最終的に『何もかも思い通りの世界』に辿り着いていたのだと思います」

「…………」

「お母さまが嫌っていた『ルール』のある世界の、最後の『刑』でしょう。ルールの破壊自体は、達成できたと思います」

「そうか……」


 なんとなく、把握はできた。

 地球に戻ってくると地上はめちゃくちゃで、生き残りによる復興が始まっていた。地形も気候も変化したようで、今居るここは偶然被害の少ない所だったようだ。


「そういや、堕天島と月影島は大丈夫なのかな」

「……分かりません。確認する術もありませんから。ただ、アルテ達が帰ってくるまでは魔術が機能していたので、恐らく無事ではあると思いますけど」

「……ディアナちゃんの祖父母が」

「そうです。それに、美裟お姉さまのご両親も探さないといけません」

「確かに!」

「ここは、日本列島の関西地方があった場所らしいです。神奈川までは、ちょっと距離がありますね。地形も変わって道路も無くなっていますし」

「行こう。俺、探しに行くよ。神奈川と、イギリスまで」

「…………お兄さまなら、言うと思っていました」

「へっ」


 アルテはにこりと笑っていた。兄を心から慕う表情だった。文月は、少しこそばゆい。


「今、その計画を皆で考えています。けれど今は——」

「文月ーっ。ちょっと手伝ってーっ」

「!」


 美裟の声がした。仮設住宅のひとつに居るようだ。

 アルテがまた、くすりと笑った。


「今は、赤ちゃんの方が大事ですから。あとは、これから冬も来ますし。……行ってあげてください。アルテからの話は大体、以上です」

「……そうだな。分かった。ありがとう」

「はい」

「もっと話そう。セレネも一緒に。いっぱい時間、取れるだろ。めっちゃ面白い『アルテ』が居る世界とかあったぞ」

「えっ。……ふふ。こっちもですよ。変な『お兄さま』が沢山居ました」


 立ち上がり、美裟の元へ向かう。もう、アルテは寂しそうな顔はしていなかった。


「……なんだかんだ。『今、ここ』が一番ですよ」


 遠ざかる背中に向かって。


「まあ少しだけ、『アルティミシアさん』が羨ましいですけどね」


 聞かれないように呟いた。

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