最強の海軍 1
シスリー連合王国は、特に島国であるため伝統的に海軍が強い。
「既にシスリー連合王国は、共和国の沿岸に向かって公海上から二個艦隊に護衛された輸送艦を派遣しております。数時間後には上陸が開始される見込みです」
先ほどまで勝利を確信して、騒がしかった司令部内に怪訝な空気が立ち込める。誰もがその衝撃的な事実を理解しようとしているのだ。
「海軍は何をしていたのだ!」
近衛第十七歩兵旅団長が真っ先に口を開いた。
この場の誰もが思ったことを口にする。公海上であったとしても戦争当事国間の領域に中立国の軍艦、しかも艦隊がいれば近海で監視をするのが常である。
「ローゼニア王国海軍とて何もしなかったわけではないようですが、規模からして仕方のないことかと…」
「シスリー海軍の護衛はたったの二個艦隊だろう! それごときに対応できないなどもはや何もしていないのと同義ではないか!」
近衛第十七旅団長が言っていることにも一理あるとクルトは思う。しかし、旅団長は一つ見落としていることがある。それは、シスリー連合王国の海軍規模だ。
クルトが考えていたことをヘルダー大佐が説明を始める。
「ご指摘はごもっともなことではありますが、シスリー連合王国の海軍規模は、一個艦隊で我が海軍全体と渡り合える規模なのです。その艦隊が二つも護衛しているのでは、致し方ないことかと」
そう、シスリー連合王国の海軍は次元が違うのだ。元来、大陸の国家であるロ―ゼニア王国は、陸軍の強化に多額の予算を割いてきた。海の向こうの国よりも国境を陸地で通ずる国家に対する備えの方が重要だから当然のことである。
しかし、海洋国家のシスリー連合王国はそもそも海上で敵を止めてしまえればいいため、海軍力に力を注いでいるのだ。さらに、世界中にいくつも植民地を持つシスリー連合王国は、遠く離れた植民地が攻撃され本国から増援が間に合わない場合に備えて、艦隊単独で他国との交戦ができるように一つ一つに艦隊規模がとてつもなく大きいのだ。
ローゼニア王国の陸軍と海軍の仲が悪いわけではないが、完全に陸は陸、海は海と割り切られているため海軍事情に第十七旅団長が詳しくなくても仕方のないことだ。
「近年、海軍力の増強に力を注いでいたというのに、まだそこまでの差があるのか」
今度は、戦車連隊長が半分呆れたつぶやきを吐き出す。
「そうだな。よく新造艦の進水をよく耳にしていたのだが…」
「皆様の言う通りに我が海軍も増強をしていますが、連合王国海軍には今のところ全く歯が立たないのです。参謀本部は、海上での侵攻阻止をあきらめ上陸直後に殲滅することに決定しました」
クルトは、ヘルダー大佐の口調からあまりよろしくない命令が出ることを予期する。
「その命令に基づき上級司令部から近衛第八師団には、上陸を阻止せよと命令が来ております。何か質問はありますか?」
クルトの予感通り、最悪の命令が下されたようだ。
上陸阻止を行うのは一見簡単なように見える。敵は隠れるところのない洋上を小型のボートで向かってくるのだから一方的に攻撃ができそうなものである。
しかし、大艦隊が沿岸にいる場合上陸を援護するためにこちらの砲撃が届かない所から艦砲射撃が実施されるのである。戦艦の主砲は陸上の砲とは比べ物にならないほど大きく、さらに自動化されているため速射性も極めて良好だ。制海権が完全にとられている状態での上陸阻止は、塹壕戦突破よりも難しい作戦だ。
「大佐殿よろしいでしょうか?」
「ベッシュ大尉の発言を許可する」
「それでは、恐悦至極ではありますが今回の作戦について意見を述べさせていただきます。制海権のない状態での上陸阻止など自殺行為だと小官は考えます。水際での阻止よりも、内陸部に誘引してからの殲滅戦を具申いたします」
クルトは、この会議で初めて発言をする。集まった高級将校の目がクルトに集中する。
「ベッシュ大尉の意見は至極まっとうな意見だが、参謀本部は今回のシスリー連合王国の参戦は上陸とは別の意図があると推測している」
「別の意図とは何でしょうか?」
確かに共和国支援だけのために自国の近海を守っている艦隊を出撃させるなど大げさすぎる。
「参謀本部の推測では、今回の艦隊派遣は共和国軍の輸送ではないかとのことだ」
「それは、シスリー連合王国に共和国軍を運ぶという認識で間違いないでしょうか?」
「そうだ。陸軍が乏しいシスリー連合王国としても練度がある程度保証できる陸軍を確保することができ、共和国としても連合王国の海軍力に保護された安全な場所に退避できるwin-winなことなのだ」
連合王国は陸軍力を格安で手に入れ、共和国は国家を存続できるということになる。
「上陸の阻止というよりは、合流の阻止と考えた方がいいのでしょうか?」
「そのように認識してもらって構わない。二国の協力を阻止するための作戦になる。他にお集まりの方も理解いただけましたでしょうか? 他に質問がなければ説明を終わらせていただきます」
最悪の事態に近づきつつあるとクルトの思考が警鐘を鳴らしている。
現状、神聖ローゼニア王国は、北と南で列強と戦っている。元々予期された事態であるため戦争の主導権は握れているが、相当な無理をすでにしている。
工業地域では、常に工場をフルに稼働させていると聞く。さらに戦死者の穴を埋めるために予備役の国民を順次戦地に投入しているのだ。
共和国との戦争を素早く終結させ、共和国に対して投入されていた戦力を北に移動させることが王国にとって唯一の勝利の条件だと参謀本部に聞いている。何より今回の攻勢作戦もその考えを体現するための作戦だ。
「ほかに質問はないようなので、私からの説明は終わらせていただきます」
ヘルダー大佐がゆっくりと腰を下ろす。集まった高級将校の顔は、いつになく暗い雰囲気だ。もちろんクルトも例外なく、重たい雰囲気を全身から放っている。
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