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世界偉人伝★えらいひとのはなし!  作者: 拝 印篭 
第一章 立志編
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 第十八話 必殺大車輪

「結構、大変だぞ! これ!」


 みんなの目が俺のほうに向いた。


「貞夫! お前、一回の漁でいくつくらい万円クラスの烏賊揚げられる?」


「え? あ、そりゃ、2,3本ありゃいい方だよ。なぁ?」


「そりゃ、そんな大物ばっか揚がる訳がないでヤスが……」


「この方法でクリアするとなると毎日450本以上の大物を揚げる必要がある。が、そんな数の大物がどこにいるんだって話だぜ!」


「そりゃ」


「不可能でヤスな」


「つまり、大物以外である程度勝負できるようにしないといけない、というわけね」


「それなら~、かんこうのおきゃくあいてにやたいやるのはどうかなあ~」


「おおっ! それなら通販用と屋台用二つの事業を同時にやる訳でヤスな!」


「屋台なら、うちの蔵にあるわよ! 貞夫ん所にもあるでしょ。二つ並べて競争させるのよ!」


「なるほど、競争の原理ね! 売上も倍になるかも!」


「売るものは何にしようかしら? 別の物の方がいいわよね?」


「それこそ、イカにこだわらず、浜焼きとか、焼きそばとか、においの出る物の方が喰いつきはいいはずだよな! その辺、上手い奴がいるから、屋台はそいつに投げた方が早いかな?」


「貞夫んちのタケさんね。あの人なら心配ないわ」


「それと、ある程度金額が溜まったら、どっかに投資しとかないか? 短期間だけと割り切ってするなら、そういう投資方法もあるから。そっちはまりの担当ってことで!」


「お~け~。おまかせ」


「委員長は、経理だから、まりといくら投資するかを相談して決めてくれ。大体利益の半分は投資してもいいかもな」


「え? ちょっと多すぎないかしら?」


「大丈夫。まりなら心配ない。むしろ、できると思ったら全部使っても構わないから」


 そうまで信頼する根拠は一応俺の中にはある。難しい表現になるけどな。


「まりなら大丈夫よ。あきらさんの授業の優等生ですもの」


 璃々も同じように感じているようだ。


「とりあえず、今回は、まりの口座から取引してもらうことになるかな? こうして、資金を回転させて、より多く稼ごうというのが、今回の作戦の肝だな」


「ふむ、こういう場合、日本の証券会社も連名口座をやっていればいいのだけれどね。日本では、課税の問題であまり積極的にそういうことを証券会社がやりたがらないからねぇ」


 弥弦氏はやっぱ、俺らの知らないそういう知識が凄い。まだまだ、色々教えて欲しいな。


「それから、出来れば、ばあちゃんを巻き込もう。やっぱり、あの烏賊は商品になる。あれのレシピなんかも含めて商品化したら絶対欲しい人はいるはずだ。レシピを伝授するのも、複数居た方がいい。できれば、さなえねぇとまり、璃々の三人が出来た方がいい。


「わたしも、それ知りたいけど、無理よね?」


「委員長は、多分教えてもらえないと思う。一応、一子相伝の秘術だから」


「じゃあ、そっちは任せるとして、私も、何か考えておくわ」


 大体、結論のついたところで、夕食にお呼ばれした。




「本日の前菜は、小田原から取り寄せました鈴廣の蒲鉾【古今】でございます」


 和の平皿に盛られた蒲鉾を切り方の判らない幾何学模様なカッティングで飾った何とも言えない逸品である。それを、わさびと醤油だけで食す。


「「「「「「「うまー!」」」」」」」


 俺達七人の心がシンクロした。山葵自体も、天然のものらしい上に、醤油が尋常ではない。


「土佐の生醤油を利用して作った出汁醤油です。レシピは秘密ということで」


 二皿目は、また、以外なものが出てきた。垂直に立った卵焼き? その頂上にやたらと丸い卵黄がトッピングされていた。


「これ、どうやっていただいたら宜しいのでしょう?」


 委員長が俺達の心の声を代表してくれた。


「まずは、上の卵黄から召し上がってください。下の卵焼きは、御心のままに」


 と、水野さんが言ってくれたので、まずは、卵黄から、


「「「「「「「!」」」」」」」


 またも、七人の心がシンクロした。なんというか、濃い。しかも、味が尋常でない浸み方である。多分カツオ出汁の味だろうが、香りと相まって何とも言えない癖になる味だ。一人一つが恨めしい。そして、下の卵焼きであるが、これも、驚愕の味わいであった。


「烏骨鶏の卵焼きでございます。卵黄の方は、割る前に凍らせた物を流水で黄身だけ残し鰹節で巻いたあと、塩窯にして、再度、凍らせます。一昼夜置いたあと、再度取り出した卵黄を沸騰した塩水で八分間煮込み、完成です。下の卵焼きは、生クリームとゼラチンを加え、先程の出汁醤油とざらめで味付けしました。焼き方については、秘密です」


 ? 今日は秘密が多いな?


 メインディッシュは、肉だ。ポークソテーだと思うのだが、ここに来て普通の一皿? そう思ってナイフを入れると、


 じゅわっ!


 肉汁があふれ出す。やばい! と思って、一口、口の中に放り込んだ。


 じゅわっ!


 噛んだだけで肉汁が口一杯に広がる。なんだ? これ? こんな美味い肉食った事ない。豚だよな?


 いくつも、いくつも? が連なる。何でこんなに旨い。そう、思っているうちに肉自体が口の中から消失した。


「イタリア産のイベリコ豚のオイル焼きです。肉本体は、ブイヨンで味を調えたオリーブオイルに浸け、58.1℃で調理しました。そして、豚の脂身だけを香ばしく焼き、最後にバーナーで焼きながら肉と脂身を合体させたものです。付け合わせのジャガイモは、糖度が高い新品種で、まだ名前もついておりません。知人のご厚意で頂いたものが本日届きましたので、急遽メニューを差し替えました」


 そう、言われてマッシュポテトを口にしてみる。甘い。チョー甘い。その中にさっき零れた肉汁が浸みこみ何とも言えぬ味わいであった。この肉汁ポテトだけでもいいっ! そう思わせてしまうほど魅力ある一品であった。


(それにしても、今日のメニューはこれ見よがしに驚かせようとしてるような。いつも控えめな水野さんらしくないな?)


 最後がまた、圧巻の驚きであった。


「「「「「「「うわーお!」」」」」」」


 なんというか、烏賊である。デザートとして、烏賊がまるごと一匹出てきた。それも、沖漬したような色で。アイストッピングして。俺達は慣れているものの、それでもデザートとして食べる準備は出来ていない訳で。

 ん? 


「あ、これいかじゃな~い」


 まりの声に、漸く正体を取り戻した一同は、添えられた黒文字を使って烏賊を切って口の中へ入れてみる。

 あまーい。なんと、正体は羊羹である。


「函館やなぎやからお取り寄せしました。いかようかんでございます。姿がそっくりなので、見た目のインパクトがありますが、羊羹としてはオーソドックスな味で食べやすいかと存じます。今日は、バニラアイスを添えてみました」


「あの~」


 さなえねぇが、とうとう我慢できなくなったようだ。


「今日の御料理も、とてもおいしいものばかりでした。でも、なんか、いつものあきらさんの感じがしなかったのはどうしてでしょうか? なんか、小学生の悪戯みたいな邪気をメニューから感じたのは気のせいでしょうか?」


 さすが、体は大人、心は子供っ! のさなえねぇ。ズバリ聞いちゃった。


「そこまでは言いませんが、確かになんかいつものあきらさんと違うような?」

 

 璃々まりも、首をひねっている。


「ふむ、説明してあげたらどうかね?」


 弥弦氏の発言に、水野さんが口を開いた。


「本日のメニューは、確かに意図的に悪戯を仕掛けたものでございます」


 ええええっ!


「これから、ビジネスをなさる皆様に、驚きという感情に慣れて頂きたかったことが理由の一つです。実際のビジネスの世界では、毎日のように驚くことが起きます。それも、悪意による悪事、だけでなく、善意からくる悪事。なにもない所から湧き出る悪事。悪意から来るチャンスなども、ありきたりにございます。そういったものに一々驚いていると、商機を失うことも、ままあります。ですから、驚きは驚きとして、それに対処する方法は、常に備えておくように心がけて欲しいと私は思います」


 ああ、やっぱり、俺達に大事な事を伝えようとしてたんだ。


「それから、もう一つ。今日のメニューは、現在の料理界の最先端技術が使われたものばかりです。

鈴廣の蒲鉾にしろ、最後のいかようかんにしろ、最先端の工場の生産品であり、ここまでのことが出来ますよというモデルケースです。二皿目の卵も、漸く復刻した烏骨鶏の卵を最先端の火入れ技術を駆使して作っていますし、メインの肉の火入れも同様で、最先端の検証実験の成果が本日の一皿でありました。従来からの調理法に限らず、調理の方法は、常に進化しているのだと、御理解いただければ、幸いです。

 あ、あと最後にひとつ、もちろん茶目っ気も忘れてはいませんよ♡」


 バチッ! とウインクした水野さん。俺達七人の意見は、集約された。曰く、


「「「「「「「大人なのにかわええ~っ!」」」」」」」




 ともあれ、美味い料理に舌鼓をうち、明日への英気を養わせてもらった。


 いよいよ、明日からは俺達のスタートだ! 絶対達成してやるからな!



 余談だが、委員長が、いつの間にか水野さんから、余った卵といかようかんをお土産にもらっていった。俺達だって、そこまでしたことないのに。流石、あの村長の孫娘。おみそれしました。



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