第九話 怪人物とメイドさん
その夜、久しぶりに、温泉で集合した俺たちは、力丸氏の話題で盛り上がっていた。
「そんな、おいしい人とだったら会いたかったわー」
と、さなえねぇが、まりのおっぱいを洗いながら言っていた。そんな、生易しい人でもないんだがな。
「ひゃ~ん。さなえちゃん、らめぇ~」
よかった、通常運転に戻ってる。
「いや、かなり強烈な男なんで、出きれば合わずに済ませた方が無難よ」
と、璃々が、控えめなトーンで言う。まるはんでの話をしたところ、少々態度が軟化していた。
前から思っていたのだが、璃々は、チョロイン適正高いんじゃないか? と、心配になる。うん、そういえば、温泉にも最近は、俺たちと一緒にまっぱで入るようになった。うん。やっぱりチョロい。気を付けねば。
「ほんとに、こわかったんだよ~。さなえちゃんなんか、たべられちゃうよ~」
話口調に騙されるが、まりの、野生のカンは、かなり確かである。ロリ巨乳のまりは、氏からすると、素晴らしいご褒美かもしれない。最後に一緒にいたまりの事を聞かれたしなぁ。
実は、俺は、それほど心配していない。力丸氏からすると、最近大人の体になってきているさなえねぇは、対象外なんじゃないかなと思う。むしろ、意気投合して、相乗効果があった時の方がおっかない。
「私は、まりに乗り換えてくれるのであれば、大歓迎なんだけどね」
と、璃々が言うと、まりは、しんじられない! と、いう顔で俺の方に助けを求める視線を送ってきた。
なので、俺は、ニヒルににやりと笑みを浮かべると、まりは、orzのポーズで、神を呪う。その姿は、正に、生贄にささげられる乙女。なんてこった。ここには、まりの味方は一人もいなかったのだ。
「ここに、力丸氏が乱入してきたら、地獄絵図だろうなぁ」
ポツリと口から出た言葉に三人娘は、びくぅっ! とすると、一目散に脱衣所へ逃げて行った。
あれ? 俺最後? せっかくなので、湯船を独占し、じっくりと温まった。
とはいえ、たった一泊では大きな波乱などなく、翌日力丸氏は、予定通り書類を受け取ると、帰路の船に乗るため、港に来ていた。
本日の氏の恰好は、黒一色のスーツ黒いシャツに赤いネクタイである。昨日より幾分ましではあるが、やはり似合わない。
見送りには、ばあちゃんに言われて渋々ながらの璃々と俺、そして、なぜかさなえねぇは、まりを首輪で繋いで連れてきた。力丸氏が微妙に興奮していたのは、まぁ、見なかったことにしよう。
案の定、氏と、さなえねぇは、意気投合してまりの話題で盛り上がっていた。やはりさなえねぇは、守備範囲からは若干離れるらしい。乗船時間までは一時間と少々。退屈しないですむなら何よりである。
さなえねぇは、まりを膝の上に座らせてまりへのセクハラについて講義していた。興奮状態の力丸氏によって、さなえねぇは師匠として崇められることとなったが、まりの方はさなえねぇの膝の上で死んでいた。
「いや、この様な島で同好の士にめぐりあえるとは、それにしても、まり殿に首輪とは……末恐ろしい」
やがて、船が着岸し、別れの時間が近づいていた。乗り換え時間には二十分程。まずは、下船が先である。この時期は平日のためもあって、そう多くの上陸者がいるわけでもない。
船からは、妙齢の女性が先ず下船してきた。ショートカットを丁寧に揃えている彼女は、クラシックタイプのメイド服に身を包み、赤いキャリングバッグを転がして俺達の方へと近づいてくる。
「おや、あの方は?」
と、力丸氏が言うと、メイドさんは、こちらに来て、力丸氏に挨拶をする。
「お久しぶりでございます。力丸様」
すると、氏は
「おおっ、水野女史ではないですか。この様な所で奇遇ですな!」
と、嬉しそうに返礼する。最近、東京にできたという〈未確認情報〉メイド喫茶の常連なのだろうか? このおっさん? と訝る俺達に、氏は、
「彼女は、鎌倉在住の富豪、弥弦 創造氏の秘書兼侍従である水野 あきら女史だ」
と、俺たちに紹介してくれた。
「水野 あきら、と申します。この度、主人の弥玄がこの島に金融ネットワークのサーバー施設を設置することになりまして、主人に先駆けて折衝のため参りました。皆様、こちらの島の方とお見受けします。何卒良しなにお願いいたします」
一息に、丁寧過ぎる挨拶を、俺達のような子供にまでしてくれた。
「時に、力丸様は、これから?」
「ああ、これから、この船に乗船する予定ですぞ」
と、そこでぴろぴろぴろぴろ、と電子音が鳴る。
「む、ちょっと失礼」
力丸氏は懐より携帯電話を取り出し、通話する。
「も~し~、摂者でござる」
それでだれだか通じるなら凄いな。
「ふむふむ、成程、うむ、そうか!でかした!」
ぴっ、と電話を切る。
「朗報である。拙者の会社の上場が決まったとのことでござる!」
じょーじょー? JoJo?
それに対して、流石に水野さんの反応が俺達よりずっと早かった。
「それはそれは、おめでとうございます。ご苦労のかいがありましたね」
「うむ。かたじけない。おお、そうだ、この際ここにいるみな、わが社の株主になっていただけないだろうか、なに、ほんの百株ずつだが、拙者の持ち分からぜひ気持ちだけ、受け取って下され!」
と、俺たちに向けて、凄いこと言い出した。
「それは、良い考えですね。子供の頃からそういった仕組みに触れることで学ぶことは多いかと存じます。力丸様の会社なら、ここしばらくは、良い業績を残すことでしょう」
と、水野さんまで後押ししだした。
すると、ここまでの間無口だった璃々が、
「それなら、力丸さん、私、自分のお金で、その株もう少し買い増したいの。お願いできますかしら?」
と、上目づかいに尋ねる。凶悪だなぁ。その視線。
「ふ、ふぉーっ! もちろん大歓迎でござる。なんならいっそ代表権でも、いや、いっそ罵ってくれたら拙者全てをかなぐり捨てても、ふぉーーーっ!!」
と、大興奮! 大丈夫か、この人。
~五分経過~
ようやく、落ち着いてきた。
「実際の手続きなんかも色々必要だが、まあ、一八氏に聞いてもいいし、氏のご母堂に窺っても良かろう。さて、名残りも惜しいが、こうして、することも出来たので、拙者はそろそろ行くとするでござる」
すると、水野さんが、
「お祝い代わりに一言だけ、こうして上場会社の取締役となるのですから、容姿はともかく、服装だけはもっとすっきりとした、一般の人のような小奇麗で清潔感のあるものを着用されるのが良いですよ。服装などは、世間の常識に法ったものを常に着用すべきだと、そうしないと侮られる、と、かの不動産王、ドナルド=トランプも言っております」
「む、肝に銘じよう。それではみなさん、おさらばでございます」
それって、死ぬ時のセリフ回し……
こうして、嵐のような珍客は、帰路に着いた。
のちに璃々は、ばあちゃんと相談して、以前振り込まれたお金の中から三百万を使って六万株の買い増しをすることにした。意外なことに、ばあちゃんも、世話になった人の力になれるからと、この件については賛成してくれた。
そして、俺や、まり、さなえねぇにも、本当に百株ずつくれた。わざわざ証券会社に口座まで作ってくれて。そのために何枚も書類を書いたが、大人の世界に足を踏み入れるみたいで気分がよかった。
そして、港であった水野さんは、役所近辺で、毎日なにかしらの折衝をしているらしい。
この出会いも、後に大きな意味をもつことになるのだが、それはまた、後日の話である。
この物語は、皆さんの愛情の提供でお送りいたしております。
ちなみに、璃々が買った株は、額面一株50円で×六万株で三百万円です。
つまり、他のみんながもらった百株は、合計五千円程度です。
しかし、この株、この先どんな風に化けるでしょうか?
その辺もお楽しみに。
See you next time.




