侍女と手紙の主
「シア、悪いけどそこの書類とってくれる?」
私は王女としての公務、という名の事務処理に追われていた。
そんな私にお茶を出してくれたシアに、ついでに、と少し離れた机に置いていた書類をとってくれるように頼んだ。けれど、私の手元に書類はなかなか届かず、不思議に思って振り向くと、シアが固まっていた。
「姫様、この書類・・・」
「王都の流通に関する報告書?」
シアがこういった質問をしてくるのは珍しい。
私の身の回りのことには気を配って心配してくれるけれど、私のやっていることには基本的に口を出さないからだ。
「これ・・・どなたが作成されたんでしょうか」
シアの持っている書類を見て、答える。
「お兄様」
「えっ!?」
私の答えにシアがぎょっとしたような声をあげる。
まあ、お兄様が書いた文字を見ることなんて文官でもなければそうないだろう。けど、この反応はどういうこと?
「どうしたの? シア、大丈夫?」
「だ・・・大丈夫で・・・!」
言いながらふらふらと後退して、机の脚にかかとをぶつけていた。
「どう見ても大丈夫じゃないんだけど・・・今日は休む?」
具合が悪いのなら無理はさせたくない。体調というか、お兄様のせいみたいだけど。
「い、いえ・・・」
「でも、顔色悪いわよ?」
ちょっとというか、かなり心配になってしまう。
そんな私を見て、理由を話してくれる気になったらしく、シアがたどたどしく口を開いた。
「あの・・・この間、お話しした手紙の方・・・」
「ああ。シアが会ってみたいって言ってた?」
「その、手紙と筆跡がとても似ていて・・・」
「え」
「に、似ているだけだと思うんですが・・・!」
シアの取り乱しっぷりはともかくとして、彼女の疑問を解決してあげることなら、出来る。
「その手紙って、ちょっと見せてもらうことは出来るかしら?」
人の私信を覗き見る趣味はないが、兄が書いたものなら多少筆跡を変えていようと分かる。
人から貰った手紙を見せることにためらいもあったようだけど、混乱したシアを言い含めることは割と簡単で、そもそも私に他意がないのは分かっているから、シアは部屋から手紙を持ってきてくれた。
「・・・お兄様の字だわ」
「わわわわわ私・・・!」
私の言葉にシアが卒倒しそうになっている。
だめだ。大混乱だわ。無理もないけれど。
私もショックだわ。別の意味で。
お兄様があんなに甘ったるい文章を・・・!
お兄様だって私に読まれることなど想定していなかっただろうが、それにしても・・・
いったいどんな顔で書いてるのか。想像するだにお腹がよじれる。