第7話 ひたすら階段を登る作業と、道中のドロップ品回収
「……いや、どんだけ深いんだよここ」
最下層で骸骨の王を倒してから、俺はひたすら上へと続く螺旋階段を登り続けていた。
道中、定期的に巨大な広間があり、その度に『中ボス』らしき強大な魔物が待ち構えていた。四つ首の巨大な蛇、全身がマグマでできた巨人、空を飛ぶ一つ目の悪魔――どれもこれも、無人島にいたドラゴンクラスかそれ以上のバケモノばかりだ。
だが、15年鍛え上げた我流剣術と、覚えたての『魔力』を纏わせた漆黒の剣の前では、どれも一太刀か二太刀で沈んでいく。
「よし、この魔石も収納、っと。お、この宝箱にはなんか高そうな宝石が入ってるな。これも収納」
倒した中ボスの素材や、部屋に置かれている宝箱のお宝は、端から全て【時空間魔法】の亜空間に放り込んでいく。時間が停止する無制限のアイテムボックス。本当に便利だ。ブラック企業時代の俺が見たら、泣いて喜んで書類の山をぶち込んでいただろう。
自分が今どのくらい地下深くにいるのかは分からない。
ただ、階層を数えながら登ってきて、すでに270階層分ほどの階段を上がっていた。
不思議なことに、上に登れば登るほど、出現する魔物が目に見えて弱くなっている。最下層付近の緊張感が嘘のように、最近では剣に魔力を通すまでもなく、ただの物理攻撃で蹴散らせるレベルの魔物しか出なくなっていた。
「上に行くほど弱くなるってことは、地上に近づいてる証拠だよな」
そんなことを考えながら、俺が第30階層(下から数えて271番目のフロア)の広間に足を踏み入れた時のことだ。
『ガアアアアアアアッ!!』
「――っ、シールドッ!!」
金属が激しく打ち合う音と、魔物の咆哮。そして、高く澄んだ人間の声。
15年ぶりに聞く、俺以外の「誰か」の声だった。
広間の奥を覗き込むと、そこでは血みどろの激戦が繰り広げられていた。
群がっているのは、筋骨隆々で巨大な戦斧を持った黒い牛頭の魔物の群れ。ざっと20体はいる。
そして、その群れの中央で孤軍奮闘しているのが――燃えるような赤髪をポニーテールに結んだ、スレンダーな体つきの女剣士だった。
【鑑定】でステータスがチラリと見える。
【名前】レイア・スカーレット
【年齢】20歳
【職業】魔法剣士(冒険者ランクA)
【称号】孤高の天才、男避けの強気
【状態】魔力枯渇・重傷
「へえ、Aランクってことはかなり強いのか。動きにも無駄がないな」
俺は感心しながら見つめていた。
彼女の剣術は、俺の泥臭い我流とは違う、洗練された鋭く美しい太刀筋だった。炎の魔法を剣に纏わせ、次々とミノタウロスを切り伏せていく。
だが、いかんせん数が多すぎる。彼女の息はすでに限界まで上がり、体に纏う魔力も弱々しく明滅していた。
『ブモオオオオオッ!!』
「くっ……!」
背後からの死角を突いたミノタウロスの戦斧が、彼女の華奢な体を吹き飛ばす。
壁に激突し、地に伏した彼女――レイアの前に、巨大な牛頭の魔物たちがトドメを刺そうと一斉に群がっていく。
「あー、こりゃ見てらんないな」
俺にとって、ミノタウロスなど無人島のチュートリアルで倒していた巨大ムカデ以下の雑魚だ。
俺は、新品の万能服のポケットに手を突っ込んだまま、呆然と死を覚悟している赤髪の女剣士の前に、ゆっくりと歩み出た。




