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第35話 国境の関所と、身分証明

牧畜の街ファルを出発して数日。


タロウ(Sランク地竜)が引く魔改造馬車は、荒野を難なく駆け抜け、ついに巨大な活火山の麓――ドワーフの国『ガルド』の国境へと辿り着いた。


高い石壁で囲まれた巨大な関所が見えてくる。


だが、俺たちの馬車が近づくにつれて、関所の物見櫓からけたたましい鐘の音が鳴り響き始めた。


「と、止まれぇぇぇっ!! き、巨大な地竜だ!! 総員、武器を構えろ!!」


「弓兵、急げ! バリスタの準備をしろ!!」


数十人の国境警備隊のドワーフたちが、顔を真っ青にしながら長槍や巨大なクロスボウをこちらへ向けてくる。


無理もない。本来なら、こんなSランクの災害級魔物が関所に歩いてくれば、それは即ち『国境防衛戦』の始まりを意味するからだ。


「タロウ、止まれ。……ちょっと説明してくる」


「ガウッ」


俺は大人しくお座りをしたタロウの背中から飛び降り、両手を上げて敵意がないことを示しながら、関所の門番たちの元へと歩み寄った。


「待ってくれ、攻撃しないでいい! こいつは俺の『従魔』だ。決して人は襲わない」


「じゅ、従魔だと!? ふざけるな、暴君地竜が人に懐くわけが……!」


怒鳴る門番のドワーフに、俺はバベルのギルド長から発行してもらったばかりの『従魔登録証』をスッと差し出した。


厳重な魔法印章が押された本物のギルド書類を見て、門番の隊長らしき男は目をひん剥いて固まった。


「ほ、本物の登録証……。信じられん、本当にこのバケモノをテイムしているのか……っ」


「これで、タロウの安全性は証明できたか?」


「あ、ああ……書類が本物なら、馬車ごと通すことは規則上可能だ。だが……!」


隊長はゴクリと唾を飲み込み、俺と、馬車から降りてきたレイアたち三人を鋭い目で見据えた。


「これだけ危険な魔物を国内に入れるんだ。お前たち自身の『確かな身分証明』を出してもらおう! 怪しい身分の者を、簡単に国へ入れるわけにはいかないからな!」


威圧するように胸を張る隊長。


俺は「そうだよな」と納得して頷き、懐から自分の『Aランク冒険者カード』を取り出した。それに続いて、レイアたちもそれぞれのカードを提示する。


レイアは元々バベルでも名の知れたAランク冒険者だが、実は俺の冒険者ランクも、つい数日前に『A』へと特例昇格したばかりだった。


ブラッド・ワイバーンの群れを無傷で殲滅した報告を聞いたバベルのギルド長が、「お前みたいなバケモノを低ランクに置いといたら、ギルドの威厳が崩壊する!」と胃薬を噛み砕きながら、半ば強引にランクを引き上げたのだ。


「これでいいか? 俺とレイアがAランク。セツナは特例のCランクだが……こっちのシルヴィアはSランクだ」


「なっ……!?」


差し出された四枚のカード、特に燦然と輝く『A』と『S』の文字を見た瞬間。


隊長を含む門番たちの顔色から、一瞬にしてスッと血の気が引いた。


Sランクなど、世界に数えるほどしかいない生ける伝説。Aランクでさえ、一国を揺るがすほどのトップ層の強者である。そんなバケモノ揃いのパーティであれば、暴君地竜をテイムしているという異常な事実にも、嫌でも納得せざるを得ない。


「え、Sランク……!? そ、それにAランクが二人も……っ!?」


「ひぃっ、お、俺たち、とんでもない方々に槍を向けて……」


門番たちの態度が、一瞬にして直立不動の敬礼へと変わる。

だが、この巨大な馬車とSランクの地竜をドワーフの国内に持ち込むにあたって、後から面倒な手続きやいざこざが起きるのも煩わしい。


俺は少し頭を掻きながら、もう一つ、懐から金属のプレートを取り出した。


「一応、こういうものもあるんだが……。この馬車とタロウを連れて入国するのに、役に立つか?」


俺が謙遜気味に、決して自慢するような素振りは見せずにそっと差し出したのは、王都でアルバート伯爵から受け取っていた『大貴族の家紋証(最上級の賓客の証)』だった。


それを見た隊長のドワーフは、ビクッと肩を震わせ、ついに膝から崩れ落ちそうになった。


「あ、アルカディア王国の、大貴族の家紋証……!? しかも最上級の……っ!」


「別に、権力を振りかざして無理を通りたいわけじゃないんだ。ただ、面倒な審査や止め立てをされると、少し旅の予定が狂うんでね」


「め、滅相もございません!! Sランク様とAランク様、それに大貴族の特使様となれば、我が国にとって最上級の国賓に値します!!」


隊長は慌てて立ち上がり、これ以上ないほど深いお辞儀をした。


「ど、どうぞお通りください! ガルド王国は、皆様の訪問を心より歓迎いたします!!」


「ありがとう。助かるよ」


俺が軽く手を上げて馬車へと戻ると、シルヴィアが呆れたように、しかし楽しそうに笑っていた。


「クロウったら。あんなの、権力で殴りつけているのと同じじゃない」


「そうか? 実力で勝ち取った冒険者カードを見せただけだぞ。家紋証はおまけだ」


俺が肩をすくめると、レイアとセツナもクスクスと笑い声を上げた。


こうして、国境警備隊の最敬礼に見送られながら。


俺たちを乗せた魔改造キャンピングカーは、いよいよ職人と火山の国『ガルド』の領内へと、堂々と足を踏み入れるのだった。


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