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第25話 黄金の天秤商会と、漆黒のVIPカード

迷宮都市バベルの中央区。立ち並ぶ高級店の中でも、一際巨大で城のような威容を誇る白亜の建物。


それが、大陸最大規模の流通を牛耳る『黄金の天秤商会』のバベル支店だ。


「うわぁ……何度見てもすごい建物ですね」


「ご主人様、私たちのような者が入ってもいいのでしょうか……?」


気後れしているレイアと、狼の耳をペタンと寝かせるセツナ。


俺は「平気だよ」と笑って、堂々と商会のエントランスをくぐった。


中に入ると、大理石の床に高級な魔道具や宝石がズラリと並んでいた。


俺たちがキョロキョロと店内を見渡していると、恰幅の良い、いかにも神経質そうな男がツカツカと歩み寄ってきた。


胸元には『副店長』という豪奢なネームプレートが輝いている。


「おや……冒険者の方々。何かお迷いですか?」


副店長の男は、俺たちを値踏みするように頭から爪先までジロリと見つめ、鼻で笑った。


「申し訳ありませんが、ここは日雇い稼ぎの冒険者が冷やかしで入るような安売り店ではありません。泥や血の匂いが商品に移ると困りますので、お引き取り願えますかな?」


見事なまでに見下した態度だ。セツナがスッと双剣に手をかけようとするのを手で制し、俺はため息をついた。


「別に冷やかしじゃない。家のキッチン周りや、風呂場に使う魔道具を買いに来たんだが……まあ、いい。じゃあこれを使わせてもらう」


俺は【時空間魔法】のインベントリから、一枚の『漆黒のプレート』を取り出し、副店長の目の前に突きつけた。


以前、レイアと一緒に護衛任務をこなした際、商会の会長から直々に手渡された超VIPの証――『ブラックカード』だ。


「……は? なんですか、その黒い板は。まさか、当商会の最上級優待証だとでも? 冒険者風情が、見え透いた偽造品を――!」


副店長が顔を真っ赤にして喚き、警備の者を呼ぼうとした、その時だった。


「ば、ばばばば馬鹿者おおおおおおおおおぉぉぉッ!!!」


商会の奥の階段から、ものすごい勢いで転がり落ちてきた初老の男が、そのままの勢いで大理石の床を滑り、俺たちの目の前で完璧なスライディング土下座を決めた。


「て、店長!? なぜ貴方がそんな泥臭い冒険者に土下座など……っ!」


「黙れぇっ!! この節穴が!! その御方がお持ちのカードは本物だ! 会長が直々にその実力と功績を認め、生涯に数枚しか発行されない伝説のブラックカード所有者様だぞ!!」


「え……? ぶ、ブラック、カード……? この、薄汚い冒険者が……?」


滝のような冷や汗を流す店長の言葉に、副店長の顔からスッと血の気が引いていく。


店長はすぐさま立ち上がり、副店長の胸ぐらを掴み上げた。


「貴様のような目は肥えていても人を見る目のない人間に、当商会の看板は任せておけん! 貴様はたった今から副店長を解任! 裏の倉庫番へ降格だ! つまみ出せ!!」


「そ、そんな……っ! 私が倉庫番などと……離せ! 離してくれぇっ!」


警備員に引きずられていく元・副店長。そのすれ違いざま、男は俺とレイアたちを、ドロドロとした怨念の籠もった憎悪の目で睨みつけていった。……まあ、自業自得だろう。


「クロウ様、レイア様! 当店の愚か者が、誠に、誠に申し訳ございませんでしたぁっ!」


「いや、いいですよ。買い物さえさせてもらえれば」


「ははぁっ! すぐに最上級のVIPルームへご案内いたします!」


通された豪華なVIPルームで、店長自らが揉み手でカタログを広げてくれた。


「本日はお詫びとして、店にある魔道具を『原価スレスレの特別価格』にてご提供させていただきます! 何なりとお申し付けください!」


「助かる。じゃあ、この『火精霊の魔力コンロ』と、台所の水回りに使う『清流の無限浄水器』。それから風呂場用の『水竜の無限温水器』、あと魔力で冷える冷蔵庫を頼む」


どれも普通の貴族ですら手が出ない一級品の魔道具だが、ブラックカードの割引と今回のお詫び価格が合わさり、俺の財布でも十分にお釣りがくる破格の値段になっていた。


「かしこまりました! すぐに手配いたします。……しかしクロウ様、これだけの大型魔道具となると、商会の専用馬車でご自宅まで配送手配をする必要がありますが……」


「いや、持って帰るから大丈夫だ」


数分後、部屋に運び込まれてきた巨大な魔道具の数々。


俺がそれに手を触れ、【時空間魔法】で一瞬にして異次元のインベントリへ収納すると、店長は白目を剥いて卒倒しかけた。


「じ、時空間魔法……っ!? 伝説のアイテムボックスまでお使いになられるとは……! どこまで底知れぬ御方なのだ……!」


驚愕する店長に見送られながら、俺たちはホクホク顔で商会を後にした。


その日の夜。バベルのマイホーム。


「よし、設置完了だ。二人とも、入っていいぞ」


「「わぁぁっ……!」」


浴室のドアを開けたレイアとセツナが、目を輝かせて歓声を上げた。


俺が深層の魔樹(ヒノキのような強いリラックス効果と魔力回復効果がある香木)を削って作った巨大な浴槽に、今日買ってきた『水竜の無限温水器』から、いつでも完璧な温度のお湯がなみなみと注がれている。


もちろん、キッチンの流し台にも魔力浄水器を完備し、料理のための完璧な水回りも完成した。


「すごい……! こんな最高級のお風呂が自宅にあるなんて……!」


さっそく一番風呂を譲られた二人は、服を脱ぎ捨てて湯船へと身を沈めた。


「ふにゃぁぁ……っ」


「あはぁ……極楽、ですぅ……」


深層の香木が放つ魔力回復効果と、最高級の温水器のお湯。

そのあまりの心地よさに、仙桃を食べて共に『Sランク級』へと至った赤髪の剣士と銀狼の暗殺者は、あっという間に骨抜きになって湯船でだらしなくとろけてしまっていた。


(……これで、ようやく生活の基盤は整ったな)


リビングで湯上がりの冷たい果実水を準備しながら、俺はふうっと息を吐く。


こうして、バベルでの俺たちの『マイホーム生活』は、これ以上ないほど快適なスタートを切ったのだった。


――だが、この時の俺たちはまだ知らなかった。


商会で降格されたあの元・副店長が、暗い復讐の炎を燃やし、裏社会の連中と結託して俺たちの『大切な仲間』に牙を剥こうとしていることに。


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