第19話:夢の迷宮リフォーム計画
「……はっ! そういうことだったのね!」
私はサロンのソファから弾かれたように飛び起きたわ。
危うく、手にしていた蜜キノコのジュレをひっくり返すところだったけれど、そこは私の反射神経。優雅にくるりと回転して回避したわ。完璧。
「どうした、急に。顔が妙に晴れやかだが」
「気づいちゃったのよ、ピップ! 大問題の原因が!」
私はびしっと足を立て、得意げに胸を張る。
「なんであのお客様(冒険者)たちが入口で帰っちゃったのか――その理由、完全に理解したわ! あれよ。『本日休園』だと思われたのよ!」
「……は?」
間の抜けた声を出すピップをよそに、私は続けたわ。
「だってそうでしょ? あんなに素敵なレース・ゲートがあって、中はふわっと幻想的なトンネル……なのに誰もいないのよ!? キャストゼロよ!? そりゃ気を使って帰るわよね! 『あ、まだ準備中なんだな』って!」
「……なるほどな」
ピップは腕を組んで頷いたわ。
「確かに“何もいない空間”は警戒を招く。……賑やかさが必要か」
「でしょ!? テーマパークは入った瞬間に『楽しい!』って思わせないとダメなの。静かすぎるのはNGよ!」
でも、求人募集を出すわけにもいかないし……。私が唸っていると、ピップが呆れたように助言をくれたわ。
「何を悩んでいる。足りないなら作ればいいだろう。ダンジョンコアでお前がイメージすれば、形にできるぞ」
「え?マジ?――うひょぉおおおおお!!!!!」
私はソファから跳ね上がったわ! なんでそれ早く言わないの!? 神機能じゃん!
テンションが天井を突き抜けた私は、即座にコアへ意識を潜らせたわ。
「二階層、リフォーム開始よ!」
魔力を流し込むと、ごつごつした岩肌がじわじわとほどけていく。
「見てピップ! この『ふかふかエリア』! 足音も吸収するし、寝転がっても最高なのよ!」
一面に広がる、パステルグリーンの絨毯。苔と糸が融合した、やわらかな床。
「……確かに、音が消えるな。ストレスフリーか」
「でしょう? そしてぇ~ここからが本番よ! 究極のグルメ空間、いっけぇえええ!!」
光が弾け、ふかふかの床から奇妙な植物が次々と芽吹いた。
「……え? なんだ、これは」
「『ミート・苗』よ! 引っこ抜いて割ると、中からお肉が出てくるの! で、こっちは『調味料の木』! 振るとね――ほら、カレー味の塩コショウ!」
二階層はあっという間に、食べてよし、持って帰ってよしの“食の楽園”へ変貌したわ。
「……なるほど。餌付け(囲い込み)か」とピップ。
「よし、次の一階層は“可愛さ”重視よ!」
ぽよん、と。生まれたのは、ふわふわの綿毛みたいな魔物たち。空中をゆらゆら漂いながら、虹色のシャボン玉を吐いているわ。
「どう!? メルヘンでしょ! ふわふわでシャボン玉を吐くだけの癒やしキャラよ!」
……まあ、実際は「攻撃されると破裂して仲間を呼び、集団で蒸し上げる」という優しさ(物理)仕様の防衛機構が備わっているのだけど、私は当然気づいていない。
「そして二階層には『ふれあい農園』! ちび蜘蛛たちが収穫をお手伝いしてくれるの。かわいいでしょ~!」
ピップは「完全に統率(餌付け)されているな……」と感心しているみたい。そこへ、影がすっと揺れたわ。
「……はたけ。……あらすやつ、だめ」
クロ丸が、静かに、けれど温度のない声で呟いたわ。
「……うんうん、そうね! マナーを守らないお客様はダメよね!」
(※侵入者排除の意思、強固……。あるじへの忠誠心が凄まじいな)
ピップが内心で戦慄していることにも、私は気づかない。
「よーし! これで“楽しいダンジョン”完成に一歩前進ね!」
私はすぐさま糸を紡ぎ、きらきらした文字の看板を作ったわ。
『ようこそ! たのしいグルメ迷宮へ!』
「完璧だわ! これなら絶対にお客様も喜んでくれるよね!」
私の笑顔はどこまでも無邪気。
けれどその背後では、優しさと捕食が綺麗に折り重なり、一度踏み込めば二度と戻れない「依存の檻」が着々と組み上がっていたのだった




