第100話 決戦は四角いジャングルで
敵味方とも……盤上に悲しみが広がる。コミュ障の僕に初めてパーティー仲間という喜びを教えてくれたメンバー。その相次ぐ喪失に心が耐えられそうになかった。盤上の空気は重く、誰もが言葉を失っていた。先ほどまで確かにそこにいた仲間たちの存在が、あまりにもあっけなく消えてしまった現実が、胸を締め付ける。
「トラ子さん……アシュレイさん……」
自分でも驚くほど声が震えていた。戦いを指示しているのは自分だというのに、守ることもできない無力感が、じわじわと心を蝕んでいく。
光陣営も中心メンバーであり良き姉御だったセリアが力尽きて倒れる姿を見て、残された大平とミランダは膝をついてただただ手を合わせるだけだった。大平さんの肩は小刻みに震え、ミランダも唇を強く噛みしめている。敵味方であっても、同じ戦場に立った者の最期は重い。
光の女神が嬉しそうに口を開く。
《クスクスクス……よくやったわよセリア。最後は残念だったけどゲームはまた五分に戻ったわ》
《やはり聖堂騎士団長は強かったのうー。だがこの段階で王国が誇る二大巨頭を葬り去ったのは上出来じゃ》
二柱の神の声音は、まるで娯楽を語る観客のそれだった。その温度差に、背筋が冷たくなる。
《ディスフィア? あなたもしかして自分が有利と思っているの?》
《それはその通りであろう。ユリシアとミランダでは勝負になるまい》
軽く言い放たれた言葉に、僕は思わず拳を握りしめる。仲間の命が、ただの駒の評価で語られている。僕は涙をこらえながら二柱の神の会話に割って入る。
「ディスフィア様! トラ子とアシュレイの亡骸をあのままにしておくのは可哀そうです。僕が勝って復活させますから……何とかなりませんか?」
必死だった。せめて、彼女たちの最期くらいは、雑に扱われてほしくなかった。
《そうじゃな……わしもあ奴らを失うのは寂しい》
闇の女神はそう言うと指をパチンと鳴らす。乾いた音が空間に響いた瞬間、戦場の景色が歪む。戦いのフィールドからトラ子とアシュレイの姿が消えたかと思うと、盤上の外……奪った駒を置くようなスペースに二本の巨大な氷柱が現れる。そこには落命したばかりの二人がそれぞれ氷漬けになっている。静止したその姿は、まるで眠っているかのようで……逆に現実感がなかった。
《これでどうじゃ? 肉体が痛まぬようにしておいた》
「ありがとうございます!」
思わず深く頭を下げる。こんな状況で感謝するのもおかしいが、それでも何もないよりはずっといい。その光景を見ていた光の女神も同様に指を鳴らす。負けじとばかりに、冷ややかな笑みを浮かべながら。すると光陣営にも同様の氷柱が立ち、そこにセリアの遺体が安置される。側にアイオワの大剣が立てかけられ、シャルルだった塩の塊も転がっている。勝者も敗者も、結局は同じ場所に並べられる――その光景は、妙に皮肉だった。
《わたしも使徒の蘇生はやぶさかではないわ。ここまでは五分五分かしら? さあ続きを始めましょう》
《そうじゃな……良一郎! ユリシアをミランダへぶつけろ》
「まだ血を流すんですか? もう止めてくださいようー」
声は情けないほど弱かった。だが、それが本音だった。
《魔王アズマ。遠慮は無用よ。さあ掛かってきなさい》
逃げ道はない。結局、僕はまた指示を出すしかないのだ。
***
僕の指示もそこそこに再びユリシアが盤上を跳躍しミランダのマスに降り立つ。二人の姿が頂上のバトルフィールドへ飛んでいく。軽やかな動きとは裏腹に、その一歩一歩が命を賭けた選択だ。
「ホーッホッホッホッ。ああぁー勝利が私を呼んでますわ。良一郎様……貴方に最高の爆発を捧げますわ」
ユリシアは高らかに笑う。その声音には、どこか高揚と狂気が混じっていた。
「爆弾令嬢ユリシア……私の暗殺術で息の根を止めてやるんだから」
対するミランダの視線は鋭い。感情を押し殺し、任務として相手を見据えている。
その時、光の勇者大平がバットを何度も素振りして意を決したかのように叫ぶ。乾いた空気を切り裂くスイング音が、妙に現実的だった。
「ここからはもう少しゲームらしくしませんか? 殺伐としたルール無用の殺し合いばかりじゃ僕はもう動きませんよ!」
その言葉は、場の空気を一瞬だけ止めた。
《大平くん……ここまで来てストライキは無いわー。萎えちゃうなぁ》
《ふっふっふ……勇者のリタイアで我らの勝ちであるな》
《ダメよーダメダメ! わかったわ。今回はルールアリの試合にしましょう。ミランダとユリシア……お前たちは共に格闘術に長けてるわよね? プロレスルールの格闘試合をしなさい》
《まてまて……それでは面白くない。お互いに初級魔法と鈍器程度の凶器ありで。ただし、勝負はフォールかノックアウト……場外のみじゃ。魔法、凶器で致命傷を負わせたら反則負けにする。どうじゃ?》
《私に異論はないわ》
神々の気まぐれで、戦場のルールが書き換えられる。その軽さに、もはや怒る気力もなかった。その言葉によって頂上のバトルフィールドが変化する。空間が歪み、景色が塗り替えられていく。
そこは……かつて格闘技のメッカと呼ばれた場所……後楽園ホールだった。無数の観客席は空席のままなのに、不思議と熱気だけが満ちている。中央に白いマットのリングがある。
(異世界人にプロレスの概念はわかるのだろうか? あとレフェリーはどうする?)
そんな場違いな疑問が頭をよぎる。
***
プロレスのリングの赤と青のコーナーにそれぞれミランダとユリシアが立つ。衣装もフォームチェンジしていてお互いが動きやすいプロレスのコスチュームになっている。突然の変化に、二人とも一瞬固まっていた。
ユリシアは白地に派手な赤色で魔法陣のイラストが前面にある。 「な……なんですの? 破廉恥では!?」 顔を真っ赤にしながら、必死にスカートの丈を確認している。
ミランダはカーキ色に迷彩模様の思い切りミリタリーなもの。二人とも身体の線が出ているピチピチだ! 「ななな……なんなんですかぁー!」 普段冷静なミランダまで動揺しているのが少し面白い。
二人とも恥ずかしさに悶えながらも、『どうせ見てる人は誰もいないしねー』と開き直る。そして二人の頭の中には女神からそれぞれ競技の概念やルールがインストールされたみたいだ。戸惑いが、すぐに戦士の顔へと切り替わる。ユリシアがミランダを指さして挑発する。
「ホーッホッホッホッ。私を只の魔法使いと思わないことね。トラ子さんと切磋琢磨して練り上げた格闘術をお見せしましょう」
「ルールアリの格闘戦なら負けません。我々諜報騎士団の別名をご存じないですか? 徒手格闘騎士団です。諜報活動の過程で武器を身に着けられない場面は常にある。そのため団員は全員が格闘戦のプロなんです!」
二人の間に張り詰めた緊張が走る。今度の戦いは、純粋な“技”のぶつかり合いになる。互いの言葉の応酬が続く中……リング上に新たな影が現れる。謎のレフェリーが登場だ。日本のどこかから強制召喚されたみたいだ。(可哀想に)
唐突な召喚に、きょとんとしていたが……カァーンと言うゴングの音で我に返る。状況は理解できていないはずなのに、身体だけが反応しているのがプロっぽい。彼は夢の中で試合を裁いているつもりなのだろう……ここでは現実なんだけど。
「ファイト!!」
その掛け声とともに、光と闇の美少女レスラー?がリングの中央で相まみえる!
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