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桜狼伝  作者: 水鳥川 陸
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初めて投稿します。

この作品にちょっとでもお立ち寄りいただいてありがとうございます。

投稿方法がよく分からなくて、長々と書いてしまいました。

読みづらくてすみませんが、どうぞよろしくお願いします。

※話を区切ってみました。少し読みやすくなったかと思います。


その村にはこんな童歌が伝わっている。


老いも若きも業なすな

為さば桜狼の眠りが覚める

桜の嵐が全てをさらう

あ、恐ろしや 恐ろしや


今では知る者こそ少ないものの、かつてはき子供達が大人から繰り返し聞かされていた。

彼らは何に怯えていたのか、かつて何を見たのかー。


【1日目】


都心から車で3時間程。

山伝いに長く続く国道から外れ、一台の白い軽自動車が、とある村への細道へと入り込んだ。

「一応、ちゃんと舗装はされてるんだな」

少し感じ入った様子で運転手がひとりごちるが、返す声はない。

彼は1人、この村にやってきたのだ。名を南亮介と言う。


地方紙の記者として3年目。彼の勤める新聞社には代々決まりごとがあった。

3年目の記者は、自分で選んだネタを自分一人で調べ上げ、記事にすることを許される。

無論、一面記事ではなく生活欄の隅の小さな一コマではある。

それでも、きつく厳しい新聞社の下積みを丸2年、乗り越えた者たちには価値あるご褒美である。


そんな中で、南は少し特殊な存在ではあった。

記者に強い憧れがあったわけでもなく、だからといって自分の仕事を疎かにもしたくはない。

彼の教育係である少し歳の離れた先輩は、南を評してよくこう言った。

「お前は欲が無さすぎる。仕事だけじゃない、私生活もどうせそんな感じだろ。

俺、お前の能力は同期入社の中で一番だと思ってるんだけどさ。今のままじゃ勿体ねぇよ」

だから今回の件は、本当にやりたいものを探してとことん突き詰めてみろ、というのだ。


言われていることはよく分かる。でも、同時にどこか冷めた自分もいて。

それでも、面倒見の良い先輩の励ましには何とか応えたくて、南は連日書庫でネタを探した。

そして見つけたのが、この村にかつて伝わっていた桜狼伝説だった。


両側に長く続く畑を見やると、作業中の村人たちがちらほらと見える。

幾人かは作業の手を止めこちらを眺めていた。物珍しいのだろう。

まあ、あとで取材に回る時に挨拶に来よう。そう考え、そのまま車を走らせる。


と、助手席に無造作に置き放していた携帯が音を立てた。

圏外でもないらしい。再び感嘆し、ちらりと画面表示を見やり、次の瞬間ため息が漏れる。

西山春奈-南の彼女の名だ。いや、今も彼女と呼べるのかどうか、実際には自信がなかった。 

なんだ、やっぱり私生活も仕事と一緒じゃないか、という先輩の笑い声が聞こえてきそうだ。

いつからかすれ違いが当たり前になって、結局今回も、何も言わずに出てきてしまった。

「あとで・・・かな」

あとでどうするのか。答えは出ていないが、とりあえず今は目的地に急ぎたい。

確か前方にある橋を越えて、それほどかからないと聞いていた。



その時、ふと橋が渡る川の河川敷に目がいった。

子供達が集まって遊んでいる。その中に、明らかに子供ではない人間が一人。

別に先生か、誰かの親か兄か、いずれにしても気にするほどではない。

そう思って一度前方に視線を戻したが、思い直して、橋を渡って開けた場所で車を停めた。

何故か一瞬、彼と目があった気がした。河川敷までは高さも距離もあり、そんなはずもないのに。


近づいていくと、その場にいた10人ほどの子供達が駆け寄ってきて口々に質問を浴びせてきた。

見かけない人、誰、どこから来たの、怪しい人?悪い人?

一つ一つ答えようとするが、こちらの答えを聞かずに話し出す子もいて収拾がつかない。

見かねたように、苦笑交じりの声が割って入った。

「ちょっと、みんな!お兄さんめっちゃ困ってるから」

予想以上に若い声に驚いて顔を上げると、子供達の後ろに、先程の人物が立っていた。

小さな子を一人肩車している。

遠目には自分より年上に見えた気もしたが、明らかに26の自分より若い。

ともすると未成年のようだった。

少し長めの黒い髪が風に揺れる。

整った顔立ちが親しげに笑みを浮かべた。

「はじめまして。俺、結城尚って言います。多分だけど・・・取材に来た南さん、でしょ?」

「あ、そうです。じゃあ、あなたが村長さんのところの・・・」

言いかけた自分より早く、周りの子供達が声を揃えた。

「居候!」

「・・・言い方!!」

お笑いのノリツッコミのようなやりとりの後、全体が笑い出す。

南もつられて笑ってしまう。

この結城という人間は、かなりこの辺りの子供に懐かれているらしい。

「ま、言い返せないんですけどね、実際。村長さんには本当に、何から何まで頼りっきりですので」

そして視線を、先程南が車を止めたあたりに流し、こう続けた。

「村長さんちに行くんなら、俺も戻りますのでご一緒させてください」


この村にはホテルはもちろん、民宿や旅館といったものも存在しないのだという。

基本的には訪れるものがいないためだが、何かあった時には、村長宅や寺がその引受先になるそうだ。

物騒だな、と思う自分がこの村では異端なだけなのだろう。

きっと今でも日本のあちこちにはこんな村もあるはずだ。

それは羨ましいことなのか、南には分からなかった。

少なくとも自分は今の暮らしに慣れすぎてしまった、良くも悪くも。


「この辺、分かりやすそうで分かりにくいんですよね。特に車だと」

それもそもそも、車で来る訪問者というものをあまり想定していないためかもしれない。

「結城さんは」

「さんは不要ですよ、若輩者ですから。呼び捨てでもあだ名でも」

なんなら居候でも結構です、というあたり、先ほどの件はそれなりに気にしているようだ。

「じゃあ・・・結城君、はよくここにたどり着いたね。何か伝手でも?」

村長から聞いていた話では、大学を休学し、ここ2年ほどこの村で農作業等を手伝っているという。

だが自分も実際、今回の件で調べもしない限り知る機会もない小さな村だと思い、不思議に思っていた。


そんな南の発言を聞いて、結城はふわふわと笑った。

「いわゆる自分探しですかねぇ。俺、今19歳なんですけど、大学で勉強してて、このままでいいのかなって突然不安になっちゃって。とりあえず身の回りのものだけ持って飛び出しちゃいました。ふらふら全国回って、で、正直言うとここで資金が切れちゃった、と」

淀みなく話すあたり、何度も村人から聞かれ慣れているように見えた。

「でも、いいところですよ。ここ。行き倒れたのがここで本当によかったと思ってます」

楽しそうに笑って、前方に指さしをした。

「あ、そこ右です」



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