10.運搬
10話まで来たので1日2話更新を止め通常の1話更新に戻します。
もんだいはこいつをどうやって運ぶかだが……担いで行くしかないんだろうな。異世界仕様で全体的に強化されている身体能力でも特に筋力は強化が低い気がする。
アタックボアの血抜きが済んだので、木から降ろした。アタックボアの四肢を蔓で縛り、担ぎ上げる。ずっしりと両肩から背中に掛けてアタックボアの体重が掛ってくる。
「本当は、川とかの水に漬けて冷やした方が良いんだけど、近くに無いよな」
木槍(改)と壊れてしまった弓、撥ね飛ばされたときに壊れてしまったみたいだ。真ん中辺りでポッキリと折れてしまっている―を持って、一歩一歩村に戻る。
100メートルほど進んだが既に全身から汗が噴き出している。良く考えたら人一人担いで森の中を進んでいるのと変わらないんだ。アタックボアの体重はおよそ50キロくらいだと思う。
既に息が上がり始めている。こりゃあ、戻るまでに相当時間がかかりそうだ。その間に変なのに会わなきゃいいけど。
100メートルおきに休んでは進んでを繰り返している。3回目の休憩を終えて、またアタックボアを担ぎあげる。まださっきアタックボアを斃したところが見える程度しか進んでいない。
これはきっついな。腰には野鳥もぶら下がってるし、槍や弓(壊)も持ってる。さらにはズタ袋に採取した薬草類などもあって総重量で言えば60キロ以上かな。
米一俵か。そりゃきついよね。平地でもきついのに森の中だもん。起伏にとんでるよ。成人女性よりはやや力がある程度かな~。鍛えたら筋力付くかな~。
うん。他のこと考えながらじゃないと心が折れそうなんだよ。色々工夫はしてみたんだけど、一番良いのは完全に肩の上に担ぎ上げちゃうのが良い。
200メートルくらいなら行けるようになったからね。それでも村までが遠いよ。まだ坂道じゃないのが救いと言えば救いかな。山なんかだと上り下りも激しいだろうからね。
ああ、もう。益体も無いこと考えてても重いな! 半分くらいは来たかな~。くっそ。まだ半分もあるのかよ。
「しゃべる気力も尽きて来たな。エプロンももう効果ないよ」
アタックボアを斃してから2刻、漸く村の外れの開墾地まで戻ってきた。夕方になりかけている頃だ。まだ村の衆はそこいらでカコーンとか音を鳴らして木を切っている。
俺が森から姿を現すと村の衆が気が付いたようだ。ざわざわっとして、村長が汗まみれのまま俺に近づいてきた。
「おお、やったじゃないか。大物を仕留めて来たな!」
当然俺は返事を返す事など出来ない。腰からカラカラと借りていたナイフを外して突き出す。
「か、借り、賃だ。羽は、返して、くれ。矢、羽に、使う、から」
とぎれとぎれにやっとこ言った言葉を村長がびっくりしたようにして聞いていた。
「いいのか? 冗談だったんだが……。よし。なら頂いておく。ここからは俺が運んでやるし解体もしてやろう。その様子じゃいつ解体できるか分からんみたいだからな。はっはっは」
そいつは助かると言いたいけど、ゼ~ゼ~呼吸を繰り返すのがやっとだ。村長はひょいってな感じでアタックボアを担ぎ上げるとそのまま村に向かって歩いて行った。
俺は他の村の衆の肩を借りて、何とか付いて行った。どうやら村の衆も今日は上がるらしく、みんなが付いて来る。
村に着くと村長宅の前では解体の準備が進められていた。俺は傍に転がされていまだに荒い息を付いている。
どうやら噂を聞きつけて村の衆ばかりか女衆も集まってきている。久しぶりの肉だ。みんな期待しているのだろう。俺はさらに腰に付いているドゥードゥーも持ち上げて村長に頼む。
ズーズーしい野郎だとか言われたが、こちとら動けないんだよ。それでも受け取って、奥さん(?)に渡して何やら指示を出している。
カラカラと合わせて羽を毟り出している。処理してくれるようだ。今だに大の字になって地面に横たわっている俺をそっと起こして口に水の入ったコップを宛がってくれたのはオルタ姉さんだ。
どうやらオルタ姉さんの処まで噂が広まって、駆けつけてくれたらしい。普段オルタ姉さんは屋内での仕事がメインであまり外に出て来ない。
「ほら、しっかりしな。本当にエルフは非力なんだね~。でも大金星じゃないか!」
そう言って褒めてくれた。俺もにっこり笑って、力無く腕を持ち上げて見せる。
「姉さん、今日はご馳走作ってくれよ」
オルタ姉さんはドンと胸を叩いて、任せときな。と言いカラカラと笑った。おっとこ前!
村長の手際は良いようで順調に解体が進んで行く。野鳥の方はすでに解体が終わって内臓も分離している。砂肝とかハツとか串焼にしたら美味しそうだ。
村長の解体が終わったところで即売会の始まりだ。どうやら村長が仕切ってくれるようなので任せることにした。
「村長。内臓は日持ちしないから安くても売り払ってくれよ」
「おう、任せときな」
何やら四角い小箱が持ち出されて、肉の前に置かれた。そうか、集金箱だな。
「それじゃあ始めるぞ。まずは牙と角だ。欲しい奴はいるか? 磨いて行商に売ればそれなりの値段になるぞ」
牙や角は、村の若い衆が欲しがったようだ。ついで毛皮だ。こちらは女衆が勝ち取った様子。鞣してキレイにしてから売ればこちらも結構な値が付く。
お待ちかねの肉も即売が始まった。ようやく俺も動けるようになったので村長に前足を1本切り取って貰う。不思議そうにしながらも、俺が食べる分かと納得したようだ。
「サナちゃん! こいつはこの間のお礼だよ。たくさん食べさせて貰いな」
そう言って傍でこの時ならぬお祭り騒ぎを見ていたサナに、前足1本をプレゼントした。サナにとって前足でも大きかったようで、びっくり眼のまま真っ赤な顔をしながら肉を持ち上げて母親らしき人に見せている。
「村長、怒らないでやってくれよ。サナには初日にイモと塩を分けて貰ったんだよ」
「いいのか? それじゃあ、割に合わないだろう?」
「ああ、問題無い。あの時のイモと塩は値千金だったからな」
その後も即売会は続いて行った。内臓は安くしたこともあって早々に完売し、貴重部位の頬肉やタンも売れて行った。




