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9.アッタクボア

 藪から顔を出したのは、この辺近在で魔物以外で出会っちゃいけない獣、ブラウンベアの次に出会っちゃいけないのに!


 出会っちゃいけない獣ナンバーツー、アタックボアが既に前足を搔いて、攻撃態勢に入っている。


 俺は調子に乗ってたのかもしれない。素早く弓を構えて前足で地面を搔いているアタックボアに第1射を放つ。


 矢は真っ直ぐとまでは行かないけど、そこそこ狙い通りにアタックボアに命中するもびよーんってな感じで毛皮に弾かれてしまった。


 矢が当たった瞬間、アタックボアもこちら目掛けて突進を開始した。失敗した。失敗した。俺はクルリと向きを変えて一目散に逃げ出した。


 本当なら奴を見つけたら直ぐにでも逃げ出さなきゃいけなかった。一手損をしたんだ。弓なんか射ってる場合じゃなかった。


 全然逃げ切れない。奴の方が早い! 地球でも猪って時速40キロくらいで走るんだった。今現地仕様で俺だってかなり速く走れてるのに、追いつかれる!


 半ば俺がパニックを起こしている状態なのもあるが、既に真後ろに居る。2本の角に2本の牙、これが無かったら槍を構えて対抗したかもしれない。もしくはもう少し小さかったたら、あるいは……。


 でも無理! 結構大きい角。20センチくらい? 牙、15センチくらい? あれが突き刺さったら、牙で切り裂かれたら……。


 木、木だよ! 猪は木に登れない! 半ば反射的に木に飛びついて、スルッと登れた。敏捷性に優れたエルフならではかもしれない。木登りもエルフならお手の物だろう。


 1.5メートルほどを登ったところで、ズドンと直ぐ足の下で衝撃と共に音が鳴った。もちろん俺が避難した木も大層揺れた。落ちなかったのは現地仕様、エルフ特性かもしれない。


 その後、物凄く木が揺れまくっている。木の根元でアタックボアが暴れまくっているんだ。俺は木にしがみ付いているのでやっとだ。


 暫く暴れ回っていたアタックボアだけど、やっと落ち着いてきた。木の揺れが収まったので下を覗いてみるとまだ居る。木の根元でフーフー言ってる。


 やっと揺れが無くなったので安全のためもう少し上に登って木の枝に座り込めた。やっと安心出来たけどどうするよ? 下にはアタックボア、木を伝って逃げる? 追いかけてくるまま村に戻る訳にはいかないよね?


 あれ? アタックボアがさっきからフーフー言ってるだけで木の根元でおとなしいな? 良く観察してみると。角が木にめり込んで、牙が木を挟み込んでいる。


 ……ひょっとしてだけど抜けない!? だからあんなに暴れてた? 木の根元から移動しないのも不自然だよな?


 ……これなら上から槍で突いたら斃せるかも? ……でも攻撃したら抜けるかもしれない。そうしたらまた木の上に逃げれば大丈夫?


 どうしよう? 結構おっかなかったからな。槍を下向きに持って体ごと落ちれば、体重で突き刺さるかも?


 欲しい。獲物としては欲しいんだけど、斃せるのか? 槍は刺さる? 矢は刺さらなかったんだよな~。たぶん木の上から手で突いただけじゃ刺さらないよな。


 やるなら体重を利用して一気に突き刺すだよな。あれの上に落ちるのか……。さっきまでの暴れっぷりからすると怖い!


 あれ持って帰ったら姉さん喜ぶよな……。そしたらあんな事とかこんな事とこしてくれるかもしれない。……ナース。無いな。……――っ!!! エプロン! あれなら……。


 よーし。やってやるよ。エプロンのためならやれる気がする。背中から木槍(改)を外して下向きに構える。狙いは首元。ちょっとでも傷が付けば頸動脈があるから失血死してくれるかもしれない。


 俺はエプロン……げふんげふん。獲物を狩るために木槍(改)にしがみ付く様にして狙いを定めて飛び降りた。狙うは、アタックボアの首!


 ゾックッ! 目を瞑っちゃったから、感触だけが体全体に伝わって来た。途端に下から物凄い突き上げが来て、そのまま俺は空中に投げ飛ばされた。


 地面に投げ出されたけど、慌てて起き上がる。直ぐにアタックボアを探すと、首に木槍(改)が刺さったままでこちらを向いている。


 やっぱりーーー。木槍(改)が刺さった勢いで木から解放されちゃってる~。アタックボアは四肢を踏ん張って、こちらを睥睨しているが、徐々にその瞳から光が失われ、ドゥッと倒れた。


 俺は尻餅を着いたままの状態でその一部始終を眺めるだけだった。体は小刻みに震え、漏らさなかっただけでも褒めてほしい。


 アタックボアの下に血溜まりが出来始めてやっと斃せたことが実感できた。ノロノロと立ち上がって、アタックボアの元に向かう。足で蹴ってもアタックボアが反応する事は無かった。


 木槍(改)はアタックボアの首を貫通して地面に突き刺さる手前で止まっていた。倒れているアタックボアから木槍(改)を引き抜くのに全身の力を使う必要があったほどだ。


 血抜きのために、アタックボアの首を切り裂いて、後ろ脚を蔓で縛って木に吊り下げる。ここまでやってやっと落ち着いてきた。


 仕留めたアタックボアはまだ若い個体だったようで、体重4、50キロ程だろう。何とか担いで持ち帰れそうだ。

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