第21話 再びガクルックスに
目覚めて泣き出すアークトゥルス。母親の呪か?
一体、彼女に何があったのか?
全てはライエとともに?
目覚まし時計が鳴った。その瞬間に目覚ましを止める。
会社勤めの間続いていた、目覚まし時計とのバトルである。
鶏の形をしたこの目覚ましが「コケッ、コケッ、コケコッコ~~」と鳴き、朝を知らせる。学生の頃から使っている相棒である。塗料は薄くなり、白かった体も黄色に変色している。
大抵は「コ」で止めるのが山波で、時折目覚ましよりも早く時計を止めている。
根本的に目覚ましが先に鳴る。目覚ましよりも早く目覚めたことは1割無いであろう。
確か6時にセットしていたはずだ。
目覚めるとそこには、いつもの天井があるはずもなく、壁であったはずなのだが……。
壁であるはずなのだが、両脇にはメンカとリナンがいて、布団の上にライエがいた。
「重いぞ、ライエ」
山波はライエに抗議の一声を発してから、
「おはよう」
とライエにいった。
『がうう(おはうっす)』
折角起きたので、メンカとリナンも起こす。
その時、どたたたたたと階段を上がってくる音がして、ドアが勢いよく開けられる。
「こ、ここにいたぁ~~」
アークトゥルスが部屋に飛び込んできて、山波の両脇にいるメンカとリナンを見てほっとする。
「私だけこの世界に残されたのかと思ったよぉ~」
泣き顔である。まあ、朝起きて布団から2人とライエがいないのだ。不安になるのも仕方があるまい。
「「おはよ」」
「起きたか、おはよう。アークもおはよう。泣くな」
「おあ゛ようございまふ」
「ほら、みんな布団から出て。一体どうやってここが分かったんだ?」
その問いかけに、ライエを指さすメンカとリナン。
「ライエが教えたのか」
『がううう(2人が悲しそうだったっす)』
「そっか、一緒に寝てあげればよかったのだが、寝られる場所もなかったしな。ほらほらアークもいつまでも泣いてないで、顔を洗いに行くぞ」
皆で1階に降りて洗面所に向かう。
山波はそれぞれに歯ブラシを出してあげ、歯を磨くように言う。
歯ブラシの使い方を山波が実践しながら説明する。
見よう見まねで子供たちは歯を磨いていった。
山波は布団を上げて、箒で畳の上を掃除する。雑巾で畳を拭いて、座卓を置き、座布団を置いていく。
その最中、洗面所で『がううん(やめて~)』「ライエも磨くの」「くの」という声が聞こえるが助け船は出さずに、そのやり取りをBGM代わりにする。
それから朝食の準備をする。もちろん冷蔵庫には昨日の夜朝食に必要と思われる物を入れて置いてある。
卵、ベーコン、食パン、フランスパン、バターにチーズ、ジャム、レタスに牛乳、紅茶、コーヒーなどで、卵はベーコンとともにスクランブルエッグにする。そこにレタスを添える。
人数分のカップを用意し、それぞれの皿にスクランブルベーコンレタスを、ポットのお湯も沸いている。
テーブルに配膳していく。
「朝食できたぞ」
~~~~~
朝食を済ませたものの、日本では朝の8時に開店する店は殆どない。
1時間程、時間を朝のワイドショーを見ながら潰すことにした。
言葉が分からなくても、退屈していないなと思ったら、メンカが「こっちの世界も子供は攫われちゃうのね」「こわいねぇ~」と言っていた。
「ん? なあ、アーク。もしかしてメンカとリナンってこっちの言葉がわかるのか?」
「そうですね、私もわかりますよ」
「な、なんだって!! 本当か?」
「ええ、文字は分からないけど、言葉はわかるわ」
これは驚きだ、山波はてっきりこちらの言葉は分からないと思っていた。
「それっていつからだ?」
「昨日の映画を見るときには気づいていたけど?」
「それじゃ、映画の内容もわかったのか」
「うん」
いったいどういうことだろうか。最初からわかるようになっていたのか?それともそれもこれも仕込だろうか?
考えるだけ無駄と思った山波は日本人らしく問題の先送りをした。それは言葉がわかるのは悪いことではないからである。
「そろそろ出かけるよ」
「「「は~い」」」
昨日袋に入れた服も車に積み込んで、出かけることにした。大型ペットショップは山波がスマホで調べたところ、9時半からやっている。
車を走らせること30分強、大型ペットショップの駐車場に車を止め、中に入る。
ペットの種類で区画分けされており、鳥の中にはダチョウ用品まである。
いつも以上に、しっぽがせわしなく動くライエ、よく見るとメンカとリナンもきょろきょろ見渡している。
ライエにはリードをつけているが、2人にはリードをつけていない、心配である。
だが、きょろきょろしているものの、初めての場所なのでしっかりと山波の手を握っている。
「さて、犬用はどこだ」
「ゴロウこっち」
「お、そっちか?」
メンカに引っ張られるように山波は歩いていく。
たどり着いた先は、猫用品が揃っている場所であった。
「ライエは犬用なのだが?」
だが?と言う時にメンカとリナンの顔を見たら2人ともお日様のように輝いていた。
山波はそれ以上言えずに、ライエに「後で犬用も行くから」と小さな声で言った。
欲しそうな物――主に食べ物とおもちゃ――をかごに入れていく。
「これは?」「これは何?」「これも」と聞かれたが殆ど説明できないものが多かったので、途中で店員さんにバトンタッチし、籠をアークトゥルスに持たせて後を任せ、ライエのリードを片手にぼうっと立ち、その様子を眺めていた。
さわやかな汗をかきながら満足したように戻ってきた2人、アークトゥルスが持つ籠には3分の2が既に埋まっていた。
「それじゃ、次は犬用に行こう」
先ほどの店員に犬用を案内してもらい、陳列されている商品を見渡す。
「よし、それじゃライエも選んでいいぞ」
『がううが(やったっす)』
山波自身も選びながら、ライエも選んでいく。
山波が選んだのは、シャンプーやブラシ、ジャーキー、デンタルボーン、フリスビー、袋に入った乾燥タイプの餌などである。なんだかんだと結局、籠2つ分になった。
会計を済ませて店を出る。
次に向かうのは郊外型業務スーパーである。大量に物を買うのであれば安いし酒も、米も置いてある。
だが、山波はまずそこから近くのドラッグストアに向かった。
「みんなはちょっとここで待っていてくれ」
そういうと山波はドラッグストアに入っていった。
「おまたせ。それじゃ次にいこう」
再び車は業務スーパーに向けて走り出した。
業務スーパーで買うものは主に酒。青ドラゴンことヘラトリックス氏の頼みでもある。
ドラッグストアから向かうこと30分弱、郊外で30分は意外と遠い。
「ここで買い物を済ませたらガクルックスに戻る予定だから、ここでの買い物が最後になる。ライエは申し訳ないがここでは車で留守番してくれ」
『がううがう(わかったっす)』
「なんだ、やけに素直だな」
『がうう(さっきいろいろ買ってもらったすから)』
「そっか、すまんな」
ライエを留守番にして4人で店に向かう。カートを借りて目的の物を買っていく。
先に酒を選んでいく。というか山波の自身用としては利き酒セットの4本入りセットなどの小さめの物を多種類。
ヘラトリックス氏には1升の日本酒を数本。洋酒も同じように買っていく。
ワインなどは瓶の物も買うが、ボックスの大容量を3箱。後は焼酎、ウィスキー、ビールなど。
それだけでカート2台分になる。
買いすぎだと思うだろうが、結果としてこれがよかった。
一旦精算し車に運ぶが買い物は続く。
お酒の次には主食系。米やパスタ、パン、そうめん、うどんなどである。
車にもまだ米やパスタなどは残っているのだが、何しろ人数が増えた。一人なら1ヶ月は余裕であるが、今では心もとない。特にライエがいるので。
カレーペーストや牛丼の元、ハンバーグなども買っていく。封さえ開けなければ日持ちする物ばかり。
フリーズドライのインスタントの味噌汁も忘れない。味噌もあるがフリーズドライは具がいろいろあるのが良い。
後は冷凍食品の鳥の竜田揚げ、野菜など。納豆、梅干し、海苔、鮭フレーク、なめこなど。
紅茶、コーヒーは車にあったが紅茶についてはハーブティーを主体に数種類買っていく。もちろん水やジュースも忘れない。
結局、こちらもカート2台になった。
最後に昼食用に焼き立てのピザを2枚買っていく。
全てを車に乗せて、車でピザを食べてから自宅に戻る。
~~~~~
自宅の駐車場に車を停め、皆に帰る準備をするようにいう。
その間、山波は吉田氏に電話をする。
やはり30分くらいしてから吉田氏がやってくる。
「吉田さん、今日はこれでガクルックスに戻ろうかと思います」
「そうですか、わかりました」
「いろいろ連れてきてしまって申し訳ありません」
「いや、そんなことは。特にあの2人については女王様も心を痛められていました」
「そうですか。で、アークの事は?」
「まあ、怒り心頭です。なぜ私を連れて行かないのかと。もしかしたら山波さんにも流れ弾が……」
「それは困った」
ハハハと乾いた笑いをする山波。
「まあ、冗談です。それとは別でいろいろ言われるかもしれませんが」
「私が?でも女王様に面識はないですけどね。まあ、アークのお母さんというのは知りましたが」
「まあ、そのうちにわかると思いますよ」
「教えてはもらえないんですよね?」
「ええ。ここまでは出かかっているのですが、女王様の顔が目の前に浮かんで」
吉田氏は手で喉を差しながら言った。
(なんだか怖がられているなぁ)
「ゴロウ準備できたよ~」「できたよ」
「ゴロウさん準備できました」
「わかった、それじゃみんな車に乗ってくれ。吉田さんそれじゃ戻りますので」
「はい」
「あ、吉田さんってここから近くに住んでいるってことはありますか?」
「いえいえ、遠いですね」
「そうですか」
「どうしました?」
「いえね。戸締りするとはいえ、私はスマホの電波も届かない世界に行っているじゃないですか。誰かに家の事を見てもらおうかなって」
「あれ?スマホ電波きていませんか?車の中なら電波届くようにしてったはずですが?」
「え?そんなことが」
「何かあった時に連絡つかないとまずいですからね。向こうで確認してみてください」
「そうですか、わかりました」
元々山波はスマホ中毒ではないのでスマホを常に見ていることが無かった。よって気が付かなかったのである。
ブレーカーを落として戸締りをして再び車に乗り込む。
「それでは吉田さん……。また2週間後」
「はい、山波さんお気をつけて」
山波が車のゲートスイッチを押すと、ガクルックスの同じような時間に車は実体として現れた。
「戻ってきたぞ」
山波はその場でスマホを取り出す。確かに電波が入っている。
「どんな技術だ?」
それよりも先にやっておくことがある。
山波はジョルジュとスミレンの宿に行きそれぞれの部屋で挨拶した。この街にもう1日滞在することを土産のワインとともに伝えた。
しかし、宿屋に行ったときに既に山波は宿を引き払っているにも関わらず車が止めていたので、駐車代を取られそうになったがアークトゥルスの女王特権と元ギルド職員特権、そして特Sという3つの悪(アーク)の組織並みの権力乱用によって、その場は丸く収められた。さらにジョルジュとスミレンが延長で1泊することを理由に駐車所を確保した軍団である。
トラブルをうまく収めた? アークトゥルスは自分の宿に戻って行った。
山波とメンカ&リナンさらにライエは車の中で1泊することにしている。
どこか遠くで、「なんでそんなところに泊まるのよ!」と言う嘆きの声をライエが聞いたとか聞かなかったとか。
申し訳ありません。なんだかサクサクと書けてしまい。1週間かからなかったという。(テヘ
一応これで2章が終わります。閑話が書けなかったので登場人物紹介などを乗せたいと思います。
そして3章の開始の前に閑話が入るか入らないか。




