第20話 サスペンス?劇場
映画を観終わって風呂に入った異世界人一同。風呂から上がって起こる惨状。
一体何が起こったのか?
山波の一言が要因とはいえ、こんな結果になろうとは。
精算も終わり、必要事項の打ち合わせをして吉田氏とは帰って行った。
映画はまだ中盤である。山波はその隙に風呂に入ろうと考えた。
湯船にお湯を張り、ゆったりと湯につかり、風呂から上がると丁度映画も終わったようだ。
より一層メンカ&リナンとライエが仲良くなったようである。
そして、メンカ&リナンに風呂に入れようとした。
「メンカとリナンも風呂に入るか?まあ是非入って欲しいのだが、そういえば2人の年齢は?」
「7歳」
「え? 7歳? とてもそんな年には」
「獣人は成長が早いですよ」
アークトゥルスが教えてくれた。
「へえ。そうなのか」
「ついでにアークトゥルスも入って2人を見てやってほしいのだが?」
「入る、入りま~す」
「お湯も張ってあるし、皆に入り方を教えるから」
お風呂の入り方を3人に教え、入ってもらった。ライエは嫌がったがライエの事も3人に任せた。
その間に子供用のこちらの服とバスタオルを用意する。服は元妻の物だ。上下スエットを用意し、後で選ばせよう。
風呂ではきゃっきゃと楽しげな声。
何この石鹸、これがシャンプー? という声。
さらに風呂場に広がるライエの悲しげな声。
風呂から上がって服を着たところ、一人ずつドライヤーで1人ずつ乾かしていく。獣人といえど全身毛むくじゃらというわけではない。普通の人のように髪の毛として頭に多く毛がある。
小さくなった分ライエも乾かしやすかった。
アークトゥルスはドライヤーの使い方、ブラシなどを説明し自分で乾かしてもらった。
アークトゥルスが髪を乾かし終わってから、元妻の部屋に連れていきそれぞれが着る服を選んでもらった。
流石にスエット上下では外出できない。下着などは子供らには大きいが仕方あるまい。
子供たちは短めの丈のジーンズが丁度足首が見えるくらいの長さになり、それに長袖のシャツを着ている。
アークトゥルスは若草色のワンピースを腰部分で軽く紐で結んでいる。
流石に『冷やし中華始めました』と『きつねうどん』のTシャツよりはいい。まあ、服選びの時に着替えてはいる、本人たちはそれを気にいってしまって返してはくれなかった。
アークトゥルスもどこぞのお嬢さんという出で立ちになった。もともと王女であるのだ、馬子にも衣装とは言えない。
「ゴロウさん」
「なんだ?」
「どうですか?」
「似合っているな。うん。本当に」
「ありがとう」
アークトゥルスが褒められて嬉しそうだ。根は女の子である。111歳だが。
2人の子供もこちらを見ている。こちらも女の子だ。
「メンカとリナンも似合っているぞ。な。ライエ」
『がうがう(ほんとっす)』
「「ありがと」」
「あのう、ゴロウさん」
「なんだい」
「こちらにある服なんですが、持って帰ってはダメでしょうか?」
「ん~そうだな。和服は着せ方を知らないが、それ以外なら問題ないか。いつまでもこのままにできないしな」
山波は死別した妻の遺品を処分することができなかったが、これを期に使ってもらえるのであれば持って行ってもらった方が服の為、そして亡き妻もその方がうれしいだろうと考えた。
「良し!それじゃ。欲しい服をここに出しておいてくれ、袋を探してくる」
山波は2階の物置になっている部屋から圧縮袋をもってきて、掃除機も取り出してきた。
車の中にも掃除機はあるが充電式の掃除機であるので吸引力は落ちないと謳っているものの、稼働時間が短い。
家で使うものはコード式で多少うるさいが長時間使えるのである。
2階から降りてきた山波がその現場を見て驚いた。正に事件現場。そこに遺体がないだけサスペンスではないが、まるで賊が入ったような空間がそこにはあった。
「少しだけ外しただけなのに凄いことになってるな」
その惨状をみて山波は笑うしかなかった。
「お~い、どうなっているんだ?」
「ゴロウさん、ここにあるのが私が欲しい服で、そっちのがメンカとリナンのです。そしてこの山がママへのお土産。こちらがイリスさん達のです。だめでしょうか?」
「まあ、ダメということではないが。これは昔着ていた浴衣だな。着方知らないだろう?」
「いえ、何となくわかります。大丈夫です。問題ありません!」
何が大丈夫で、何が問題ないのか分からないが、アークトゥルスらしいと言えばらしい。
「わかったそれじゃ。決まったものからこの袋に入れてくれ」
「「「は~い」」」
流石にライエは返事をせずに、この惨状にかかわらないようにしている。
山波も自分の古着(もう着ることはない物)を袋に入れていく。
それは古いTシャツ(例えばベイシティローラーズの絵柄。父親からのお古である)、タートルネックのセーター、シースルーの海辺で羽織るカーディガン、皮のジャンバー等とても今では恥ずかしくて着ることが憚られるものばかりである。
「すこし寂しくなるな」
当時の事を思い出して懐かしくも、それらが無くなることで寂寥感を覚えた。
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暫くすると全て袋に入れられていた。
何故か、もう服を買いに行かなくてもいいような気がしてきた山波だった。
「よし。続いての出番がこれだ」
「「なに~」」
「これは、この穴に挿して、スイッチを入れると……」
中の空気が抜けていき段々と袋が押しつぶされていく。
「わあ、すごい~」
こうして空気が抜かれた袋が合計で5袋できた。
「これでよし。それぞれわかるようにマジックで一筆入れてくれ」
アークトゥルスにマジックを渡すと、その匂いで一瞬顔をしかめたものの、書く道具であることを説明すると、袋にそれぞれ文字? を書いていった。
「良し、それじゃ。それはそこに並べてみんなで食事に行こう」
「「「おー」」」
『をーん(おー)』
時間は11時少し前、ここから車で行くと1時間半ほどのアウトレットパークに行くことにする。
ライエ用のリードはないが、普通のロープにカラビナをつけそれをリードにしておく。犬用のグッズでいいものがあればそれも購入する予定だ。
子供たちも古着ばかりでは申し訳ないので、新しい服を買ってあげたい。
再び、戸締りをして車に乗り込む。
車を走らせること1時間強。9月の平日を言うこともあり、道はそれなりにすいていて思ったよりも早く到着した。
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駐車場に車を停め、ライエにリードをつけ、アークトゥルスの耳を確認し、メンカとリナンの服もみる。
うん、とても異世界から来たとは思えない。美人の姉妹たちという感じだ。
「それじゃ行こうか、みんな逸れないように」
皆で歩きながらフードコートのある場所まで歩いていく、思ったよりも人の数は少なかった。
フードコートにはテラス席もあり取り敢えずそこを確保し、メンカとリナンにライエと一緒にいてもらい、山波とアークトゥルスで食事を選んでいく。
折角こちらの世界に来たので向こうの世界にはない物を選んで買っていく。
選ぶのはアークトゥルスに任せて、お金だけ払っていく。
最初に持っていったのはラーメンで、味噌ラーメン、中華そば、つけ麺などを選んでテラス席まで運んでいった。
それぞれに取り皿を貰いそれぞれを分けていった。ライエ用は紙のボウルを持ってきているのでそれに取り分けた。
「どうだ? うまいか?」
「おいしぃ~」
「おいしい」
『がうう(おまいっす)』
「食べながら話すな、ライエ」
「おいしい。なにこれ?」
「そっか、うまいか。よかった」
食事が終わり、食器を返却するついでにデザートのソフトクリームを買ってきた。
「はいみんなデザートどうぞ」
「「「ありがとう」」」
「ほら、ライエも」
『がうう(これもおいしいっす)』
食事を終え次は皆の買い物をする。
まずは子供たちの服だが地図を見るとあちらこちらにばらけているようだ。
「お~い。アーク置いていくぞ」
アークトゥルスも女の子? だけのことはある、ウィンドウにならんでいる服を見る目が真剣だ。
「アークの金貨や銀貨じゃ買えないからな」
「えっ?買えないの」
「ああ、こういうお金がここでは必要だ。あるいはカードだな」
「ああ、紙のお金!ママから聞いたことがある」
「アークの服も1~2着なら買ってもいいけど、まずは子供たちだ」
アークトゥルスの顔が輝きだした。
「ほんとう?」
「ああ、でもさっきも言ったがまずは子供たちだから」
アウトレットというだけあって流石に広く、どこに子供服があるのかわかりにくい。
スマホでパークのHPを開きよさそうな店があったのでそこに向かう。
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子供たちの服は動きやすそうなものを数着、アークトゥルスの服を2着購入した。
「すまんな、ライエ。犬用の服は売っていないようだ」
『がうがう(服はいらないっす)』
「あ、それもそうだな」
『がうう(つかれているっすね)』
「この世界では犬に服を着せて歩く人もいるんだよ」
などと山波は照れを隠すように言ったものの、ライエの言い分も一理ある。
そう、今は既に17時近くなっており、アウトレットパークは薄暮に染まっているのである。
食事をしてから随分と歩き回った。流石に50過ぎなので足に来る。
「さて、帰るか。夜の食事は家で出前を取ろう」
「出前ってなに?」
「ああ、出前っていうのは、電話で店に食べたいものを注文して、店が注文されたものを家まで届けてくれるんだよ」
山波はメンカの頭を撫でながら答えた。
「へぇ。便利なものね。何でも頼めるの?」
アークトゥルスの問いに、
「出前を行っている店は限られているからな、しかも専門の店が多い。何でもってわけじゃないが楽しみにしていてくれ」
「ふ~ん」
そんなことを話しながら車まで歩き、車は山波の自宅に向かって走り出した。
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自宅に付いた山波は、子供たちとアークトゥルスに再び風呂に入るように言った。今回ライエは除いて。
そして、みんなが風呂に入っている間に、寿司の注文を頼んでおいた。もちろんさびは別につけてもらっている。
丁度、風呂から出るころに出前が届き、それを座卓において、お茶やジュース、小皿、醤油などの準備をした。味噌汁も出前でフリーズドライのタイプがそろっている。
ライエはおとなしくその様子を見ている。
やがて皆がパジャマに着替えて和室に集まってきた。
「これはなに?」
「寿司だよ。魚介類の切り身をシャリ、まあお米の上に乗せたものだ。準備は出来でいるから。みんな座ってくれ」
皆がそれぞれ座布団に座る。ライエは山波の隣に座った。
「それじゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
「まずはこの醤油を小皿に入れて、寿司を取り醤油に付けて食べるんだ」
山波は見本を見せて、手で寿司をつかみ醤油に付けて食べる。
「この緑色は辛いから、食べちゃダメだからな」
という前にアークトゥルスが手に取って口に入れた。
「●×※%&~~~$#」
お約束である。
「ほら、水」
山波の差し出したコップを奪うようにして、水を飲む。
「なにこれ、ツ~ンってした」
涙目になりながら言う。
「これはわさびというものだ。おしゃれに言うと涙だな。そんなに取って食べるものではなく、ちょっと寿司の上に乗せて寿司を食べるんだ」
「ねえ、ゴロウこの黄色いのは?」
メンカが初めてゴロウの名前を呼んだ。
「それは卵焼きだな。出汁で卵を美味しく味付けして作るんだ。醤油に付けないでそのまま食べてごらん」
「うん」
卵焼きがメンカの可愛い口の中に入ったとたん、ぱあぁと笑顔が広がった。
「ほら、リナンも」
手で卵焼きを取りリナンも食べる。
2人の笑顔がその場を明るくした。その笑顔を見れただけで山波は幸せになれた。
『がうう(ほしいっす)』
「おお、忘れていないからな」
紙の皿にライエ用でそこにある全種類を取り分ける。握り寿司は4人前ではなく6人前頼んだので余るだろう。他に巻きずしと稲荷寿司も2人前ある。
余ったらライエに食べさせればいい。
「ねえ、ゴロウさん、これは?」
アークトゥルスがガリを指さす。
「ああ、それはガリと言って生姜を薄く切って甘酢で漬けたものだ。口直しに食べるものだが少し食べてごらん」
アークトゥルスがガリを食べる。
「すこし辛いけど、甘くておいしい」
「それは、メインで食べるものじゃないからな」
山波はイクラやウニ、かっぱ巻きに鉄火巻、甘エビ、ホタテさらに、トロ、えんがわ、サーモンなど手に取った物の説明を求められた。
山波は日本で久しぶりな、本当に久しぶりな楽しい夕餉であった。
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こうして食事を終えると、うつらうつらし始めた2人をみて、座卓の片付けをして、布団を敷いた。
「アークもこっちで寝るか?」
「うん」
既に2人は布団の中だ。ライエは2人の真ん中にいる。アークトゥルスが端の布団に入った。
「それじゃお休み」
山波はそういって電気を消した。
その後、洗い物を済ませた山波は入浴剤を入れた風呂に入ってから、車から持ってきた朝食の食材を冷蔵庫に入れ、眠りについた。
次話は少しだけ間をいただきます。何とか1週間以内には。




