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第1話 早期退職したおっさん、異世界旅行に当選

ある日、人事から呼び出されリストラ対象になったことを知らされる山波

だが、それはとある組織の陰謀であった?

それを知らずに好条件で会社を退職する山波。

運命の歯車が今動き出す。かもしれない。




 まだ真新しいキャンピングカーが未舗装の道を走っている。

 ここしばらく雨が降った様子がないからであろうか、車はわずかに土煙を後ろにばら撒いている。

 だが、誰も迷惑そうにしていない、なぜなら走っている道には人の姿が無いからである。


 ここは日本ではない、さらにいえば地球上でもない。

 地球で言えば2車線よりも広い道ではあるが、両サイドは木が生い茂った森となっている。

 雰囲気としては地球にも同じような道は存在するであろう。

 地球上ではなければどこか?ということになるが、詳細は分かっていない、俗にいう異世界というあやふやな世界である。


 車を運転している山波吾郎ヤマナミゴロウは一週間の講習を受けてようやくこの世界での自由行動が許された。

 講習の中身は、この世界の常識、動植物の体系などの座学。そして身を守るための体力、剣技、魔法の訓練などであった。

 50歳をとうに超えている山波には座学よりも訓練の方が身に堪えていた。


 山波がなぜキャンピングカーでしかもいわゆる異世界と呼ばれるこの世界の未舗装の道を走っているかというと……。




------




「山波君、今日の話というのは早期退職についてなんだが」


 山波に話かけてきたのは人事部の兼松である。


「会社として、50人に早期退職を呼びかけることにしたのだが、山波君受けてもらえないだろうか?」


 会社から早期退職を持ちかけられた山波は既に52歳を越えている。

 年齢だけなら、あきらかにおっさんである。年齢で判断すればだ。

 しかし、見た目は髪に白髪がわずかに混じるものの、見た目では40歳以下で通用する容姿をしている。

 身長は173cm、体重は73kg。妻とは死別し子供もおらず、現在一人で生活している。一人で生活しているおっさんだが、その割には健康体である。最近老眼が気になってはいるようではあるのだが。

 自宅は戸建てを購入し既にローンも支払終わっている。東京郊外であるもののちょっとした土地もあり農業をすることも可能だ。


 そんな山波に兼松は早期退職の条件として、いまなら退職金にプラス5000万円が上乗せされるといった。

 山波は退職に関する条件の書かれた資料を見ながら、兼松の話を聞いていた。

 結論は来週までにしてくれれば良いという。


 だが、山波は


「わかりました、この話受けましょう」と即答していた。



 山波は普通に退職するだけでも4000万円以上は確実に貰えるが、さらに+αである。+αの方が大きい。

 貯金もあるのでこれから働かなくても、それなりの生活は可能である。

 個人年金を受け取れるまで8年。年金を受け取れるようになるまでさらに+α年。個人年金は60歳から年間360万円もらえる。遅らせればさらにアップする。受け取りを5年遅らせると100万アップする。

 退職金と年間でもらえる個人年金だけでも十分生活は可能であろう。さらに厚生年金や国民年金なども入ってくるのである。





「ほんとうか。いや~ありがとう」


 兼松は山波の言葉を聞いてほっとしたように言った。



 こうして山波は世間一般から一流企業と呼ばれる会社を退職した。世間一般はリストラというだろう。だが、仕事一筋であった人間にしてみれは好条件で自由を手に入れたようなものだ。




※作者注:実際に早期退職したのは山波氏のみであることが日記後半で判明しています。また、兼松氏について言及されている部分も書かれていますが、それは今は伏せておくことにします。





 山波は定年退職後はキャンピングカーで日本を廻り写真撮影旅行をしたいと考えていた。それが10年近く早まったことになる。

 早期退職話はそんなことを考えていた山波にとって、金銭的な心配も不要になる上に、自由時間が大幅に増えることなる。僥倖に巡り合ったのである。



 暫くして、退職金は問題なく山波の口座に入金された。山波は早速キャンピングカー専門店に行き車を物色した。

 山波はその専門店の従業員と話をしながら、PHEVでソーラーパネルを搭載した3~5人が寝泊まり可能な四駆のキャンピングカーを1200万円で購入する。キッチンはもちろん冷蔵庫、トイレ、シャワーなどがついている。収納も多い。一人で1ヶ月程度なら問題なく生活は可能と説明を受けた。

 さらに車についていくつかの改装も行ってもらうようにした。改装のため納期は3週間後となっている。

 主な改装はカラーリングである。

 キャンピングカーというとほぼ白い外装を思い出すであろう。もちろんこの車も例外ではなかったが、改装によってまるで丸太小屋のようなカラーリングに変えてもらうようにした。遠くから見ると丸太小屋が走っていると勘違いするであろう。

 目立つカラーリングと言えばカラーリングではあるが、目立たないと言えば目立たない。

 山などに溶け込むのはこれだと以前から山波は考えていた。


 納車されるまでの間山波はネットと大型ショッピングセンターで旅行に必要なものを購入した。

 購入の参考にしたのは、TV番組の水曜どんなもんだ!(旧版)や敏腕ドーンという番組などである。

 テントを担いで登山をするわけではないので、キャンプとはまた違う。生活基盤の家がそのまま移動するのであるから。



 そして3週間後、車の納期日を迎える。

 専門店の担当者が車を家まで納車しにきた。

 カラーリングや内部を確認した山波は十分満足していた。

 納品書にサインした時、担当者が山波にとあるキャンペーンに大当たりしたことを告げた。


「山波さん、ご当選おめでとうございます」

「は、はあ?」


 山波は担当者(名前は吉田と言った。)から当選した内容が記されたパンフレットを受け取った。

 パンフレットには『異世界旅行1年間無料キャンペーン当選者様宛』と書かれてた。吉田氏はその内容を説明する。

 山波は元々日本を旅行して回ることを考えていた。

 そこに異世界旅行などという明らかに怪しげな内容。旅行のために100万円必要です。などと言われていたら詐欺として警察に向かっていたであろう。しかし、違和感なくその内容について聞いていた。


 その内容は主に以下のようなものである

・指定する異世界に1年間無料で招待されるというもの。宿代(基本は購入したキャンピングカーで宿泊)、食費、最低限必要なものの費用は専門店が出してくれる。

・移動には購入したキャンピングカーを使用する。ガソリン代も経費として精算可能。

・特に決まった日程はない。ほぼ全て自由行動。


 ただし、いくつかの条件が存在した。

・旅行終了後購入したキャンピングカーについて簡単なアンケートに答える。

・1週間簡単な訓練と講習を現地で受けてもらう。

・こちらに一時的に帰ることもできる。但し、2週間に1度のみ、滞在可能な時間は最大2日間。その際経費などの精算も可能。

・同行者は不可。一人での旅行になるが向こうで同行者を作ることは可能。(ペットは可)

・宿泊は極力キャンピングカーで行う。初めて訪れる村や町などは1泊まで宿での宿泊は可能。街は最大3泊、王都では1週間までなら宿泊費を精算可能。それを超える場合は自腹。宿以外での食事も昼は精算可能。それ以外は自腹(宿泊時の朝食夕食を除く)

・こちらのものはある程度持ち込み可能、ただし向こうの品は此方に持ち込めない。例外有

・言葉は通じる、パスポート(身分証明書)は担当者が手配する。日本国のパスポートは不要

・向こうでどのようなことが起こっても全て自己責任(死の危険も多少ある)

・1年経過後、異世界に永住したい場合永住可能(要相談)


 そして、1冊の小冊子を渡される。

 その題名も『猿でもわかる異世界旅行』


 キャンペーンの有効期限は1ヶ月で、これまで当選しても全て辞退されているという。


 山波はその怪しげな話を聞いていたが、有効期限が1ヶ月あるということで、考えさせてくれとだけ吉田氏に伝えた。


 翌日、山波は早速キャンピングカーを走らせ、東北某所の道の駅に向かい、そこで1泊していた。

 近くの渓流や山を散策したが、そこにあったのはTV番組などで紹介された尽くした風景。

 さらに同じような道、同じガードレール、同じ建物、同じ自動販売機……。

 よくよく観察すると、日本は土地・地域ごとの個性が無くなっている。

 山波は家に帰ってきて、撮影した写真を眺めながら、目新しさが何もないことに改めて気が付いた。

 では、海外に行けばよいかというとなかなかそれも難しい。一度も日本から出たことのない山波にとって最初の壁は言葉であろう。


 山波は机の上に放り投げていた小冊子を手に取り、ぱらぱらと頁をめくっていた。

 小冊子なので頁数はさほどないが、それでも50頁弱はあった。

 そこには向こうの生活で必要な知識などが書かれていた。


 次の日、キャンピングカー会社に連絡し、キャンペーンを受けると伝えた山波だったが、会社はそんなキャンペーンはやっていないと電話越しに伝えてきた。

 山波は車を持ってきた時に貰った吉田氏の名刺を見て、そこにある電話番号に連絡した。

 すると、吉田氏が30分ほどで家に訪れてきた。


「山波さんは受けてくださると思ってました。受けてくださりありがとうございます」

「いえいえ、ところで吉田さんはキャンピングカー会社の人ではないのですか? 先ほど会社に連絡したらこんなキャンペーン知らないって言われましたが」

「ああ、そうですね、私は車配送の業務を請け負っている会社です。車の改装や出来上がった車をお届けしたり、クレーム処理などが主な仕事になっています」

「そうなんですか、ということは、この車の改装も吉田さんの会社で? でもキャンペーンを知らないって言われたのは?」

「ええ、改装はうちの会社で行わせていただきました。またキャンペーン自体は別の会社で行われているものです」

「改装はいいとして、ややこしい話というか、怪しいキャンペーンって聞こえますが」

「いえいえ、条件に合致した人達から厳選な抽選でキャンペーン当選が確定しますから、怪しいことは何もありません」

「……」

「そ、それで、向こうにはいつ向かわれますか?」

「……。再来週の月曜日を予定していますが問題ないですか?」

「わかりました。それでは、再来週の月曜日のこのくらいの時間に御迎えに参りますのでそれまでに必要なものを準備していただければと思います。それと、これは参考になるかわかりませんがこちらから向こうに持っていくと役立つものが載っている冊子です」


 吉田はさらなる冊子「猿でもわかる異世界必需品一覧」を山波に渡した。



 出発までの間、その冊子を参考にした山波はネットで必要なものを注文し、アウトドア用品店や業務スーパーなどで食材などを購入していった。


------



そして異世界に行く当日、吉田が家までやってきた。



「それでは、まずこちらが向こうでの身分証明書になります。無くさないようにしてください」


 吉田はテーブルに三日月上の金属板を置いた。

 その金属板は両端に穴が開いており、何やら文字のようなものが刻まれている。

 裏を見るとさらに複雑な文字が螺旋のように周回して複雑に刻み込まれている文様が見て取れた。


「首にかけておけばいいのかな」

「ええ、その方がいいと思います。それとこれは向こうの貨幣です。キャンペーンに含まれます。」


 テーブルに3種類の貨幣のようなものが置かれた。それらは日本の硬貨のように綺麗な丸い円をしていなかった。


「金貨20枚、銀貨50枚、銅貨100枚を初期費用としてお渡します。さらに必要であれば、こちらに戻った際、お渡しいたします。それと、こちらを飲んでいただけますか?」


 吉田は山波に栄養ドリンクのようなもの渡した。


「これは?」

「向こう環境に慣れるための栄養ドリンクのようなものです」



 吉田の言い回しが気になったものの、環境に慣れるとなると、一種のワクチンのようなものを想像した山波であった。戸惑いはあったが、行くと決めた以上後には引けないのでその場で一気に飲んだ。



「ふぅ~」

「それでは、向こうにつながるゲートを設置します、この家の駐車場でよろしいですね?」

ゲートを設置するのですか?」

「はい、ゲートと言っても見えないものですし、起動魔石が無ければ起動もしません」


「それと、こちらの車で行かれますよね?」

「ええ」

「それではこの車の運転席に転送魔石と帰還魔石、魔力電力変換器を設置いたしますね。転送魔石はこちらから向こうに行くためのスイッチで、帰還魔石は向こうからこちらに戻るためのスイッチとお考えください。魔力電力変換器は魔力を電力として変換し充電する物です」

「は、はぁ」

(転送魔石?帰還魔石?魔力電力変換器? 意味は分かるが理解できない)


「あ、あと必要なものは講習中に向こうの担当者が設置しますのでご了承ください」

「そ、そうですか、わかりました」


 吉田は魔石というものを運転席に設置した。


「使い方の詳細は向こうの世界の担当者の山田からお聞きください。行く準備が終わりましたら、運転席に座ってください。初回のみ私が転送します」


 家のブレーカーを落とし、戸締りをして運転席に座る。


「準備できました」

「はい、では良い旅を」


 吉田がそういうと、一瞬空間がぶれ周りの景色が変化した。



------




「ここが異世界なのだろうか?」


 山波は周りを見て、公園の一角の広場にいるような場所で一人ごちた。左側には木造の大きめの家が建っていた。

 家は3階建ての山小屋のホテルに見える。1階はエントランス、2階と3階が客室のようである。


「こんにちは」


 挨拶と同時に運転席のドアをコンコンとノックされたので、山波はそちらを振り返る。


「あ、ども」


 と1人の男性が頭を掻きながら言ってきた。


「えっと、どちら様でしょうか?」


 山波は運転席側の窓ガラスを下げて挨拶した。



「あ、申し遅れました、私は山田と申します。1週間、山波さんの訓練担当と異世界の具体的な講習を担当します」

「ああ、あの条件の担当者の方ですか?」

「ええそうです」


 運転席から降りた山波は山田氏と握手をした。


「1週間よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「山波さんの車は、あちらに移動していただけますか?」


 山田が指示した場所は、屋根つきの駐車場のようであったので、そこまで車を移動させた。


 車を移動させたあと、山田とともに木造の家に向かった。


「さて、山波さんはこれから一週間の間、ここでこの世界についての講習を受けていただきます」

「はい」

「まあ、講習と言いましても簡単な知識を覚えていただくだけでですのでご安心ください」

「わかりました」

「まずは泊まっていただくお部屋に御案内します」

「ありがとうございます」


 エントランスから中に入ると、受付、そして喫茶室のようなテーブルとソファーがあった。




 こうして講習の一週間は始まったのである。

 簡単な講習と聞いて山波は気持ちを楽にしていたが、山波はこれまで受けたことのないブートキャンプにキャンペーンを受けたことを後悔するのであった。



初めての投稿になります。

前書きについては、こんなことやってみたいなと思って書いています。

鬱陶しいかもしれませんがご了承ください。

内容のチェックは行っていますが、未熟者故ミスがあるかもしれません。

異世界感が不足?ぶち壊し?している気がしないでもないです。


他の作者様の全ての作品を読破していませんので、似たような作品が既にあるかもしれません。


7月22日から本投稿になります。それまではテスト投稿です。


修正

ゴロウ→山波


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