第64話:その魔王は地獄を映す。~全滅の記録~
【前回までのあらすじ】
水の都にて、女王ディネルースを「未来の敗北」と「時間逆行の印」で陥落させ、協力を取り付けたマクマリス。
彼は裏でボス・ヘギルと魔導義体技術を応用した禁断の魔導鎧の開発案を進める一方、敵が「勝ち戦ですら進化する」という悪夢のような学習能力を持っていることを知る。
すべての布石を打ち、いよいよ覇王アンドレアの待つ帝国城の大会議室へ――。
覇王の居城、アンドレア城。
その最奥にある大会議室には、歴史上あり得ない光景が広がっていた。
大陸を二分して争う帝国と連邦、そしてエスペル島から来た使節団の一行。錚々たる顔ぶれが、巨大な円卓を囲んでいる。
赤のタペストリーを背にするのは、覇王アンドレアと帝国四天王。そしてエルフ部隊を率いるサイロスと長老スーリンディア。
対面に座すのは、青の軍服を纏った連邦議長ディネルースと、側近ララノア。
その脇を固めるのは、オウカの長・源流、ネクロゴンドの長・アルフィリオン、そしてドワーフ鉄鋼共和国のボス・ヘギル。
そして、両者の中央、仲介役として席につく魔王マクマリスと、ロイたち使節団。
空気は張り詰め、衣擦れの音さえ躊躇われるほどの重圧が場を支配していた。
その沈黙を破ったのは、覇王アンドレアだった。
「ディネルース。……よくぬけぬけと顔を出せたものだな」
地を這うような低い声には、隠しきれない殺気が滲んでいた。
対するディネルースは、優雅に肩をすくめ、扇子で口元を隠した。
「仕方ないでしょ? 共通の敵に立ち向かうためなんだから。私だって、こんな汗臭くてむさ苦しい場所には来たくなかったわ」
ダンッ!!
アンドレアが勢いよく立ち上がり、拳をテーブルに叩きつけた。円卓が悲鳴を上げ、ヒビが入る。
「貴様ッ! エレノアを殺した張本人が、俺と手を組めるとでも思っているのか!」
会議室の温度が一気に氷点下まで下がる。
四天王が一斉に武器に手をかけ、対するララノアは懐の魔導銃に、源流は鯉口に手を走らせる。殺気が火花を散らし、今にも全面戦争が始まりそうだ。
だが、ディネルースは微笑みを絶やさず、涼しい顔で返した。
「殺した証拠でもあるの? 被害妄想も大概になさい、覇王」
「そこまでだ」
低い、だがよく通る声が響いた。マクマリスだった。
彼は静かに立ち上がり、覇王と議長を、射抜くような鋭い視線で制した。
「落ち着け。まずは私に、なぜ休戦する必要があるのかを説明させてくれ。その上で、受け入れ難ければ、休戦条約に署名する必要はない。戦争を継続しろ」
マクマリスはディネルースを一瞥した。
「ディネルースは休戦の必要性を理解して、ここにいるのだ。……聞く耳くらいは持て」
アンドレアはマクマリスを睨みつけたが、やがて大きく息を吐き、ドカッと椅子に座り直した。
「……話せ。納得できなければ、即座にここを戦場にする」
◇
マクマリスは頷き、一同を見渡した。
「信じられないかもしれないが……この星には、すでに『機械生命体』という、宇宙からの侵略者が来ている」
覇王が眉をひそめて聞き直す。
「機械生命体?」
「ああ。我々は肉体を捨て、機械と同化した生物だと推測している」
「その機械生命体とやらの目的は?」
「分からん。話した者は誰もいないからだ。ただの殺人衝動か、生物を栄養源とするためか……どちらにしろ、奴らはまずここにいる使節団の祖国、エスペル島に上陸し、全ての国を滅ぼした」
会議室にざわめきが起こるが、マクマリスは平然と言葉を継いだ。
「その後、魔界を、そして最後はこの大陸を蹂躙する」
マクマリスは、アンドレアを真っ直ぐに見据えた。
「私と貴様、そしてエスペル島の生き残りたちは共闘し、大陸の防衛にあたった。……しかし、全員殺された」
アンドレアが片眉を上げる。
「……は?」
「貴様と私は背中合わせに、最後の最後まで足掻いた。たった二人で何千、何万という敵を倒したが……結局は押し切られ、死んだ」
「待て、言っている意味が分からん」
アンドレアが手を挙げて遮った。
「我々が死んだ? なら、どうして今ここにいる?」
「私は過去に戻ってきたのだ」
マクマリスは静かに、しかし確信を持って告げた。
「術者の死がトリガーとなり発動する『時間逆行の印』によってな。……証拠を見せよう」
マクマリスは懐から魔導具を取り出し、テーブルの中央に置いた。
空中にホログラムのようなビジョンが投影される。
そこに映し出されたのは、地獄絵図だった。
海を埋め尽くす銀色の波。燃え盛るオウカ。四天王のドラゴンが次々と撃ち落とされる瞬間。そして、無数の刃に貫かれ、血の海に沈む覇王と魔王の最期。
「なっ……あれは、俺か……?」
アンドレアが目を見開く。
「バハムートが……墜ちた……?」
四天王たちが信じがたい光景に絶句する。
【次回の予告】
「敵は数日で『進化』する。」
機械生命体の恐るべき学習能力を説くマクマリス。
だが、会議は踊るどころか殺し合いへ。
「未来で負けたのは弱かったからだろ?」
帝国四天王の挑発が、氷の女王の逆鱗に触れる。
放たれる【絶対零度】。
対するマクマリスの【時間停止魔法】。
円卓を制するのは誰だ!
絶対零度 vs 時間停止。
第65話は、明日の21時40分更新です!
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