第63話:その魔王は進化を凌駕する。~禁断の魔導鎧(パワードスーツ)~
【前回までのあらすじ】
水の都にて、女王ディネルースに帝国と一時的な休戦の約束を取り付けたマクマリス。
彼は出発の間際、側近であるララノアにも接触し、前の世界でで得た「秘密の日記」の知識を活用(悪用)して彼女の心を掌握する。
予算問題の解決とコーヒー豆のプレゼントで「氷の秘書官」を味方につけた一行は、いよいよ覇王の待つ帝国城へ――。
覇王の居城、アンドレア城。
長らく続いた帝国と連邦の戦争に終止符を打ち、人類総力戦へと舵を切るための歴史的な会議が始まろうとしていた。
広間には帝国、連邦の幹部、そしてエスペル島の使節団員たちが続々と集まり始めている。
その喧騒から離れた別室。
マクマリスは、ドワーフ鉄鋼共和国のボス、ヘギルを呼び出し、極秘の打ち合わせを行っていた。
「何っ!? 鎧に魔導義体の技術を組み込むだぁっ!?」
ヘギルの大声が室内に響く。
マクマリスは人差し指を唇に当て、たしなめた。
「声が大きいぞ。……未完ではあるが、ディネルースが進めていた極秘の研究技術だ。私たちがそのデータを持っていることが奴にバレれば、機嫌を損ねかねん」
ヘギルは慌てて口元を押さえ、マクマリスから渡された実験データに目を通した。
「あ、ああ、すまねぇ。……しかし、こんな複雑な回路を鎧に組み込むとなると、魔力伝達のロスもデカいし、何より重量が相当増すぞ。ただの鉄塊を着て戦うようなもんだ」
技術屋としての顔で、ヘギルは即座に問題点を指摘する。
「動力源だが、未来の貴様が考えた特注の斧の原理ならどうだ?」
マクマリスは提案した。
「周囲の魔力を吸収し、取り込んだ魔力を補助バッテリーのように使い、身体能力を強制的に引き上げる」
ヘギルは葉巻を噛みながら思案する。
「なるほどな……。外部魔力駆動か。それなら確かに重量は相殺できるし、出力も上がる。……だが、一瞬のインパクトで済む斧を振るうのとは訳が違うぞ。全身を駆動させ続けるとなれば、魔力の消費が激しすぎる。長時間の稼働は恐らく無理だ」
「推定でいい。どのくらい持ちそうだ?」
「組み込んでみないことには分からねえけどよ……フル出力なら、二、三時間動ければ御の字だろうな」
「十分だ」
マクマリスは頷いた。
「短期決戦で勝負をつけるつもりだ。そのくらい稼働できれば問題はない。……ヘギル、貴様がこの案を会議で提示してくれ」
「ああん? 俺がかよ!?」
ヘギルが嫌そうな顔をする。
「いいか、俺は仮にも連邦側の幹部だぞ。あんたと裏でこんなことしてるとディネルースに知られたら、立場がヤバいんだよ。消されるぞ」
「そこは私が上手く誘導する」
マクマリスは涼しい顔で言った。
「『魔導義体』という言葉は使うな。あくまで考案中の装甲に、出力強化の新技術を導入予定だと説明しろ。……技術屋の貴様が独自に考えた案としてな」
「マジかよ……。もしディネルースの怒りを買ったら、そん時はお前が俺をしっかり守ってくれるんだろうな?」
「安心しろ。今、貴様に死なれるのは面白くない。機械生命体を倒すまでは、この命に代えても守ってやる」
「いやいや、倒した後もずっと守れよ!」
ヘギルは渋々といった様子で納得したが、すぐに疑念の目を向けた。
「……しかし、なんで俺に言わせるんだ? あんたが言えばいいだろ」
「私が言うよりも、貴様が話した方がディネルースは警戒しないはずだ」
マクマリスは狙いを明かした。
「奴は魔導義体の研究に行き詰まっている。貴様が装甲強化の案を出し、それに『協力する』という形で私が技術提供を申し出る。……そうすれば、行き詰まった研究の解決の糸口が見つかると奴は思うはずだ」
「……その心は?」
「勝ち筋を作るためだ」
マクマリスの目が鋭く光る。
「ディネルースに、ララノアの協力を確約させたい」
「ララノアかよ」
ヘギルが呆れる。
「あんな氷みたいな女のどこがいいんだ?」
「ララノアは有能だ。ディネルースの秘書官にしておくのは勿体ないくらいのな。今回の共同研究で距離を縮めて、私の陣営に引き込む算段だ」
「……おっかねえこと考えやがる」
ヘギルは身震いした。
「ディネルースは裏切りを許さんタイプだぞ? そんなことして大丈夫なのかよ?」
「機械生命体さえ倒せれば、後のことはどうとでもなる」
「どうなっても知らねえからな……」
マクマリスは念を押した。
「いいか、今回の会議で、協力しあえば機械生命体を倒せると思わせられるだけの『具体的な根拠』を提示したい。協定が破談したら、元も子もないからな」
「分かったよ。複合装甲服の出力強化案を言えばいいんだな」
「他にも新型魔導砲や武器があったはずだ。それも全部出せ」
「はぁ……ドワーフ使いが荒いやつだな」
ヘギルはため息をついた。
「カートリッジ式の魔導砲に、魔導突撃銃、高周波振動剣……全部提示してやるよ。これでいいか?」
「ああ、それで問題ない」
◇
打ち合わせが終わり、ヘギルが立ち上がりかけた時、ふと何かを思い出したように足を止めた。
「……なぁ、魔王殿。気になってることがあるんだけどよ」
「改まってどうした?」
ヘギルの表情から、商売人の色が消え、シリアスな職人の顔になっていた。
「あんた、エスペル島で戦った時は……完敗だったんだよな?」
「……ああ」
マクマリスは苦々しく認めた。
「何万と倒しはしたが、戦略的には完敗と言えるだろうな」
「つまりだ」
ヘギルが指を立てる。
「奴らは、圧倒的な戦力差があった『勝ち戦』にも関わらず、この大陸に来るまでに自分たちの武装をアップデートしたことになる。……しなくても勝てるのによ」
マクマリスは沈黙した。
確かにその通りだ。エスペル島を蹂躙した時点で、奴らの戦力は十分すぎるほどだった。わざわざ水流カッターや物理無効のための水晶化装甲を追加する必要などなかったはずだ。
「要は、あいつらは抜かりがねえんだよ」
ヘギルは静かに、しかし恐ろしい推論を口にした。
「勝ち戦だろうと、一切の手を抜かない。常に最適解を選び、進化し続ける。……そんな奴らが、今回の戦いで俺たちに追い込まれてみろ。どうなると思う?」
マクマリスの背筋に冷たいものが走った。
「っ……!? 進化、か!」
「そうだ」
ヘギルは重々しく頷いた。
「短期決戦だろうがなんだろうが、窮地に陥れば強制アップデートみたいなもので、何かしらの対策をしてくると考えた方がいい」
「我々の攻撃や戦術を上回る進化……」
「下手すれば、装甲は水晶どころの硬さじゃなくなるぞ。物理法則すら無視してくるかもしれん」
それは、マクマリスの想定をも超える悪夢のシナリオだった。
未来の知識があるから勝てる、という慢心が、足元から崩れていくような感覚。
「……そのことは、今回の会議では伏せておけ」
マクマリスは低い声で言った。
「徒に不安を煽るだけだ。まずは協定の締結と、戦力の確保が優先だ」
「あいよ。言われなくても黙っとくさ」
ヘギルは図面を抱えて立ち上がった。
「じゃ、俺は部屋に戻る。会議でな、魔王殿」
扉が閉まり、マクマリスは一人残された。
彼は窓の外、赤く染まり始めた空を見上げた。
ヘギルから聞かされた恐ろしい仮説。
機械生命体は、こちらの戦術に合わせてリアルタイムで進化する可能性がある。
だが、ここで退くわけにはいかない。
「……上等だ」
マクマリスは戦慄きをねじ伏せるように、窓枠を強く握りしめた。
「貴様らがどんな進化を遂げようが、私は更にその上を行ってみせる。……貴様らに、二度は負けん」
魔王の瞳に、不屈の炎が灯った。
【次回の予告】
「貴様も、私も、一度死んでいる。」
ついに始まった歴史的な円卓会議。
だが、覇王アンドレアと議長ディネルースの溝は深く、会議は開始数秒で決裂寸前の殺し合いへ。
仲裁に入ったマクマリスが、黙らせるために突きつけた「証拠」。
それは、燃え盛る大陸で、彼ら自身が無残に殺される「未来の処刑映像」だった。
円卓の地獄絵図。
第64話は、明日の21時40分更新です!
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