第44話:その四天王は背中を預ける。~空の談笑と地の覚悟~
【前回までのあらすじ】
孤立したオウカの里では、アンデッドとなった源流がたった一人で敵の群れに立ち向かい、娘(実の娘ではないが、娘のように想っていた存在)・暁月を逃がして散った。
一方、主戦場の湖では、覇王と水竜による「雷の檻」作戦が炸裂。
湖を沸騰させるほどの雷撃で敵本隊を壊滅させるも、水平線の向こうからは新たな銀色の波が押し寄せる。
勝機は見えた。だが、終わりは見えない。
全軍突撃の号令と共に、泥沼の総力戦が幕を開ける。
指揮所の後方。
「雷の檻」作戦が決行される少し前。
帝国最強の四天王とロイ、そしてガイアス王国の生き残りたちが乗り込む『アルゴス』級三隻が、エンジン音を響かせて待機していた。
そこに、覇王アンドレアからの通信が入る。
『……ガエサル、準備しろ。間もなくだ』
隻眼の将軍ガエサルが、海竜ティアマトの背で短く返答する。
「いつでも行けます」
通信が切れると、重苦しい沈黙が流れた。
それを破ったのは、地竜リントヴルムを駆る剛力の戦士、ウルスヌスだった。
「……いよいよかー。なぁ、爺さん。どう思うよ、今回の戦いは?」
話を振られた老練の魔導師ザルティムは、蛇竜ブリトラの上で髭を撫でた。
「『楽勝じゃ』……とでも言ってほしいのかの? 若造が」
「……そうだな。そう言ってほしかったのかもしれねぇ」
ウルスヌスは珍しく弱気に、曇った空を見上げた。
ザルティムは冗談めかして言ったつもりだったが、いつもなら「うるせえ!」と返すはずのウルスヌスの反応が鈍い。
第一次防衛ラインの壊滅、オウカからの通信途絶。歴戦の猛者である彼らだからこそ、今回の敵の異常さと戦況の深刻さを肌で感じ取っていたのだ。
沈みかけた空気を変えようと、カーラが口を開いた。
「らしくないわね、ウルスヌス。ビビってるの?」
「ビビってんじゃねえよ。ただ……」
ウルスヌスは視線を落とす。
「第一次防衛ラインの連中……多分、みんなやられただろ? きっとオウカも……だよな?」
「……だの」
ザルティムも静かに肯定する。
「今回ばかりは、マジでヤバそうな気がしてよ……」
ウルスヌスは、隣にいる白竜シャヴォンヌの背に声をかけた。
「おいロイ! お前はどう思うよ?」
突然話を振られたロイは、きょとんとして顔を上げた。
「えっ、僕ですか!?」
彼は少し考えて、真剣な顔で答えた。
「僕は……四天王のみんなは仲良くて、凄くいいチームだなって思います」
その場違いなほど純粋な答えに、ウルスヌスがずっこけた。
「いや、俺が聞いてるのはそういうことじゃねえよ! 戦況の話だよ!」
プッ、とカーラが吹き出し、ワイバーンの背でお腹を抱えて笑った。
「あはは! もう、最高ね。私はあんたのそういうところ、好きよ」
「えっ……!?」
ロイの顔が一瞬で真っ赤に染まる。
「す、好き……!?」
「何赤くなってんだよ!」
ウルスヌスが突っ込む。
「ねぇロイ、どういう人がタイプ?」
カーラは面白がってさらに身を乗り出した。
「いや……えっ……あっ……そ、その……」
しどろもどろになるロイに、カーラは悪戯っぽい笑みを向ける。
「たとえば……私なんてどう?」
ロイはチラリと横目でカーラを見た。
ハーフエルフの美貌と、勝気だが頼もしい笑顔。
「か、カーラさんは……す、素敵だと……思います」
「かーっ! お前、見る目ねえな!」
ウルスヌスが大げさに呆れてみせる。
「何よそれ! 失礼ね!」
カーラが柳眉を吊り上げる。
「これでも私、兵士たちから人気なんだからね!」
「フォフォフォ。兵士たちは、お転婆娘だということは知らんのだろうて」
「もう! ザルティムまで酷い!」
空に、明るい笑い声が響いた。先ほどまでの重苦しい空気は霧散していた。
ガエサルが、フッと口元を緩めて会話に入ってきた。
「……ロイのおかげで、緊張が解れたようだな」
ウルスヌスは頭をかき、ニカっと笑った。
「ああ。なんかウジウジしてんのも馬鹿らしくなっちまったよ」
カーラが自信たっぷりにウインクする。
「なるようになるって。私たちは帝国最強の四天王だよ? それに、白竜の騎士もいる」
「いつも通り、やるだけじゃな」
ザルティムも杖を握り直す。
ガエサルはティアマトの首を撫で、全員を見渡した。
「俺たちは、互いに背中を任せ合う限り、誰にも負けない」
「またそれかよ!」
ウルスヌスが笑いながら突っ込む。
「事実だ」
ガエサルは真顔で返し、そして前方を向いた。
「俺は先に上空で待機する。お前たちは覇王様の合図を待て」
「「「「了解!」」」」
四天王とロイ、そしてアルゴス級の乗組員たちの心が一つになった。
恐怖は消えた。あるのは、仲間と共に戦う勇気だけだ。
◇
白亜の巨塔の南。
「雷の檻」作戦が決行される少し前。
スーリンディア率いる紅葉の森のエルフ部隊と、元連邦の獣人部隊は、草むらに身を潜め、覇王の合図を待っていた。
遠くオウカの方角から、爆発音と黒煙が上がっているのが見える。
エルフの一人が、焦燥しきった顔でスーリンディアに進言した。
「長老! オウカの里に一番近いのは我々です。煙が上がっています……救助に行かなくてよろしいのですか?」
スーリンディアは、煙を見つめたまま首を横に振った。
「覇王から指示がない限り、我々は動けん」
「命令がなければ、友軍を見捨てるというのですか!」
若いエルフが声を荒げる。
スーリンディアは苦悶の表情を浮かべた。彼とて、胸が張り裂けそうな思いなのだ。
「戦いを有利に進めるには、大局的に見ることが欠かせない。我々が勝手に動けば、敵を包囲する三方向からの挟撃陣形が崩れる。それだけは避けねばならんのだ」
「だとしても! 今ならまだ救える命があるはずです!」
食い下がる若者に、スーリンディアは静かに、しかし厳格に告げた。
「……覇王は会議にて、ハーフリングの民と共に、オウカの民も疎開することを勧めていた。あの地に残る決断をしたのは、他ならぬ暁月殿だ」
彼はオウカの方角を見据えた。
「我々が向かったとして、暁月殿が民を置いて逃げると思うのか?」
「それは……」
エルフが言葉を詰まらせる。暁月という女性の気高さを、彼らも知っているからだ。
「サムライには、サムライの美学がある。我々がすべきは、彼らの覚悟を無駄にしないことだ」
スーリンディアは杖を強く握りしめた。
「この戦争に勝利することが、散りゆくサムライたちへの最大の手向けとなろう」
「……はい」
エルフが涙を堪えて下を向く。
その時、唐突に通信機が鳴った。覇王からの突撃命令だ。
『総員、突撃ッ!! 命ある限り、この地を死守せよ!!』
迷いは消えた。スーリンディアは目を見開き、全軍に号令した。
「獣人部隊、進軍せよ! エルフ隊は後方より魔法で援護する! オウカの無念を晴らすのだ! 獣人部隊の後に続け!」
「「「オオオオオッ!!」」」
獣人たちが大地を震わせる雄叫びを上げ、進撃を開始した。
【次回の予告】
「愛を叫び、死地へ。魔王と老王の奇妙な信頼。」
自責の念に駆られるサイロスを救ったのは、シルフの愛と未来への約束。
「私にとっての大切な人、それはシルフだ!」
戦場のど真ん中で愛を叫び、雷光を纏って突撃する魔法剣士たち。
一方、マクマリスは老王アレフドリアに冷徹に告げる。
「安心して死んでこい」
その言葉を「勝利への確約」と受け取った老王の号令が、全軍を鼓舞する!
戦場で愛を叫ぶ獣。魔王のいる陣営は負けない。
第45話は、明日の21時40分更新です!
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