第43話:その姫君は涙を振り切る。~無言の背中と雷の号令~
【前回までのあらすじ】
圧倒的な物量と、「水晶の装甲」という驚異の進化を遂げた機械生命体。
オウカの里ではサムライたちの刃が通用せず、暁月は民を逃がすための捨て石となる覚悟を決める。
マクマリスへの感謝と別れを告げ、通信は途絶えた。
孤立無援の里に銀色の絶望が迫る中、敵本隊が待ち受ける湖での決戦の時も刻一刻と迫っていた。
オウカの里。
暁月は施設長と別れ、手分けして民の避難誘導を行っていた。
通りは静まり返っている。
「……この辺りの住民は、避難できたようね」
次の地区へ行こうとした時、瓦礫の陰から子供の泣き声が聞こえた。
暁月は必死にその子を探し回り、崩れた家屋のそばでうずくまっている幼い女の子を発見した。
暁月は膝をつき、優しく話しかける。
「大丈夫? お父さん、お母さんは?」
「うぅ……いなく……なっちゃったぁー」
「そっか……逸れちゃったのかな。ここは危ないから、お姉さんと早く行こう」
暁月は女の子の手を取り、抱き起こした。
その時。
背後から、機械的な駆動音が迫った。
振り返ると、機械生命体の一機が、猛スピードでこちらへ滑走してくるところだった。鋭利なブレードが振り上げられる。
「ッ!」
暁月は女の子を背に隠し、刀を構える。だが、あの硬い装甲を斬れるはずがない。
(ごめんね……守ってあげられなくて……)
死を覚悟し、目を閉じた瞬間。
風が吹いた。
ザシュッ!!
豪快な斬撃音と共に、目の前の機械生命体が両断され、爆散した。
水晶のように硬い装甲ごと、一刀のもとに斬り捨てられていた。
「え……?」
暁月が目を開けると、そこには一人の武士が立っていた。
土気色の肌、虚ろな目。だが、その背中と、携えている愛刀『桜花』は、見間違うはずもなかった。
「源流……様……?」
マクマリスの死霊術で蘇った、アンデッドとなった源流。
彼は何も答えない。ただ、暁月と少女を守るように、油断なく刀を構えている。
その姿は、生前と変わらぬ頼もしさだった。
「守って……くださるのですか」
源流が、わずかに頷いたように見えた。
源流に守られながら、暁月は女の子の手を引いて里の出口を目指して走る。
だが、角を曲がった先で、絶望が待っていた。
七機の機械生命体が、退路を塞ぐように待ち構えていたのだ。
源流が前に出る。
生前の彼なら、物の数ではなかっただろう。だが、今の彼は全盛期の力を出せないアンデッド。しかも敵は進化している。
それでも、源流は一歩も退かなかった。
たった一人で、七機の怪物たちに立ちはだかり、壁となる。
アンデッド化した源流が言葉を発することはない。
だが、その背中は、暁月に語りかけていた。
――逃げよ。生きよ。
「……っ、はい……!」
暁月は涙をこらえ、女の子の手を引いて走り出した。
背後で、激しい剣戟の音が響き始める。それが、父と慕った人の、最後の戦いの音だった。
暁月の目から涙が溢れ落ち、桜舞う地面に吸い込まれていく。
その日、オウカの里は陥落した。
そして、暁月と女の子の生還を確認した者は、誰もいない。
◇
指揮所のアンドレアは、拳を握りしめ、その時を待っていた。
眼下の湖が、押し寄せる機械生命体の銀色で埋め尽くされ、敵の主力が完全に水に浸かった、その瞬間。
「ガエサルッ!!」
「承知しましたッ!!」
上空で旋回待機していた隻眼の将軍ガエサルと、海竜ティアマトが呼応した。
ティアマトが厚い雲を切り裂き、湖面すれすれまで急降下する。その多頭の口全てに、直視できないほど眩い雷光が収束していく。
「消え失せろ、化け物どもォォォッ!!」
ズドォォォォォンッ!!
最大出力の雷ブレスが、湖の中央に着弾した。
水は最強の伝導体だ。数億ボルトの電流が、蜘蛛の巣のように湖全体を一瞬で駆け巡り、水に浸かっていた数万の機械生命体を貫いた。
バチバチバチッ! ドォン!
無数のショート音と爆発音。
波打っていた銀色の軍勢が、一瞬にして動きを止め、黒煙を上げる鉄屑の山へと変わっていく。水面が感電した敵の熱で沸騰し、白い蒸気が立ち上る。
「やった……!」
「一網打尽だ!」
指揮所の兵士たちが湧き立ち、歓声を上げる。第二次防衛ライン、「雷の檻」作戦は成功したかに見えた。
だが、覇王アンドレアの目は笑っていなかった。
湖を埋め尽くす残骸の向こうから、まだ途切れることなく、新たな銀色の波が押し寄せてきているのが見えたからだ。
「……まだだ。ここからが本当の地獄だ」
アンドレアは腰の大剣を抜き放ち、通信機を掴んで全軍に向けて叫んだ。
『敵はこの数日で驚異的な進化を遂げた! しかし、恐れることはない! 今しがたの『雷の檻』作戦により、雷属性が極めて有効であることが実証された!』
覇王の声が、戦場全体に響き渡る。
『我々の手に持つ物はなんだ! その手には、仲間たちが魂を込めてエンチャントした、雷属性の武器がある! 総員、突撃ッ!! 命ある限り、この地を死守せよ!!』
【次回の予告】
「笑って、戦って、生き残ろう。」
湖での決戦前、帝国最強の四天王とロイの間には、意外にも明るい笑い声が響いていた。
「カーラさんって素敵だと思います」
「見る目ねえな!」
恐怖に支配されかけた彼らの心を救ったのは、ロイのあまりに純粋な一言だった。
絆を確かめ合った彼らは、迷いなく空へと飛び立つ。
一方、オウカを見捨てる判断を下したスーリンディアの苦悩。
「サムライの覚悟を無駄にするな」
その悲痛な決意と共に、全軍突撃の号令が下る!
笑い合える仲間がいる。背負うべき覚悟がある。
第44話は、明日の21時40分更新です!
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