第42話:その亡霊は民を守る。~戦慄の進化と魔王が認めた矜持~
【前回までのあらすじ】
ついに始まった機械生命体による大陸侵攻。
ヘギルとゴンドラ王が築いた「雷撃魔導砲」は緒戦で猛威を振るうも、水平線を埋め尽くす圧倒的な物量の前に第一防衛ラインは決壊。
ゴンドラ王からの通信は途絶え、敵の濁流は二手に分かれる。
本隊は湖へ、そして別動隊は暁月の守るオウカの里へ。
孤立無援の里に、銀色の絶望が到達しようとしていた。
▼迎撃する主要キャラクターの配置図です。
オウカの里の入り口。
暁月は、生き残りのサムライたちと、マクマリスが残したアンデッド兵団と共に、敵を待ち構えていた。
地響きが近づいてくる。銀色の影が視界に入った。
「来ました……!」
暁月が叫ぶ。
「私たちの後ろには、多くの民がいます。絶対にここを突破させてはなりません! 弓矢、構えッ! 引けッ!」
サムライたちが一斉に弓を引き絞る。
敵の先頭集団が射程距離内に入った瞬間、暁月が軍配を振り下ろした。
「射てッ!」
ヒュンヒュンヒュンッ!
無数の矢が雨のように降り注ぎ、寸分違わず機械生命体に突き刺さる――はずだった。
カカンッ! キンッ!
乾いた音が響き、矢が弾け飛ぶ。
施設長を務めていた大柄なサムライが驚愕する。
「な、なぜだ……矢が刺さらねえ……!」
放たれた矢は確かに命中していた。だが、敵の装甲に傷一つ付けることなく、全て弾かれていたのだ。
暁月は瞬時に判断を切り替えた。
「近接戦に移行します! アンデッドと対になり、胸部にある赤いコアを狙いなさい! 抜刀!」
「ウオオオオオッ!!」
サムライたちが雄叫びを上げ、アンデッドと共に突撃する。
機械生命体の鋭利なブレードを、痛覚のないアンデッドが身を挺して受け止める。その隙に、サムライが懐に飛び込み、正確無比な突きをコアに見舞う。
ガギィッ!!
硬質な手応えと共に、刀が止まった。
「なっ……!?」
サムライが叫ぶ。
「コアが……硬質のベールに覆われていて、突けぬ!」
赤く光る弱点だと思われたコアの表面に、ガラスのような透明なカバーが展開されていたのだ。
隙を見せたサムライに、機械の裏拳が迫る。
「ぐああっ!!」
戦場は瞬く間にサムライたちの悲鳴に包まれた。
施設長が、血まみれになりながら暁月のもとに駆け寄る。
「暁月殿! ダメだ、刃が通らねえ! ここはそんなに長くは持たねえ! 姫だけでもお逃げくだせえ!」
暁月の顔色が蒼白になる。
「敵の特徴が……会議でマクマリス様から聞いていた話と違います。この情報を覇王やマクマリス様にお伝えせねば……!」
彼女は唇を噛み締め、決断した。
「一緒に来てください! 里の司令室へ!」
◇
白亜の巨塔東の前線指揮所。
地平線を埋め尽くすほどの機械の群れが、水飛沫を上げて湖へと殺到していた。
兵士の一人が、震える声で口ずさむ。
「来た……。何万いりゃあがるんだ……」
そこに、オウカより緊急通信が入る。
『オウカの暁月です。聞こえますか?』
覇王が応じる。
「聞こえている。首尾はどうだ?」
『会議にてマクマリス様がおっしゃっていた話と異なり、敵の全身は鋼鉄どころの硬さではなく、水晶のような物質に覆われていると言っても過言ではありません! 私たちの武器は一切通じません……!』
マクマリスが割って入る。
「弱点のコアはどうした? そこを破壊しろ」
『弱点のコアも硬いベールに保護されていて、刀では貫けませんでした!』
マクマリスが目を見開く。
「……進化している」
「機械が進化だと?」
覇王が問う。
「ああ。エスペル島での戦闘データを共有し、この大陸に来るまでの間に、自己防衛機能をアップデートしたのだろう。奴らは学習している」
マクマリスの推測に、戦慄が走る。
覇王がサイロスに通信を繋ぐ。
「サイロス! 聞こえるか? オウカと第一次防衛ラインの武器に『雷属性付与』はしていたか?」
サイロスが苦しげに応答する。
『……いえ。第二次防衛ラインの守備隊にエンチャントするのが手一杯でした。申し訳ありません……』
覇王は歯噛みした。
「わかった……。雷属性の武器が通じることを願うしかないな……」
彼は決断を下し、暁月に伝えた。
「暁月。武器が通じないのなら、そこを放棄するしかない。民と共に撤退しろ」
だが、通信の向こうで沈黙が流れた。
『……お言葉ですが。マクマリス様、まだそこにいらっしゃいますか?』
「ああ、聞いている」
『マクマリス様。源流様なら……この状況でどうすると思われますか?』
その問いに、マクマリスは一瞬言葉を詰まらせた。
源流という男の生き様。武士としての矜持。
彼は嘘をつけなかった。
「……命を賭して、民を逃がすための時間を稼ぐだろう」
覇王がマクマリスの胸ぐらを掴む。
「魔王! 貴様、暁月を殺す気か!」
しかし、通信機からは暁月の晴れやかな声が返ってきた。
『ですよね。……私も、そう思っていました。覇王様、逃げ延びた民がいれば、どうかよろしくお願いします』
「待て暁月! 早まるな!」
止めようとする覇王の手を、マクマリスが掴んで制止した。
その目は冷徹だったが、奥底には深い哀悼の色があった。
「……献身に感謝する。貴様から得た知識は、絶対に活かす!」
『ありがとうございます。……どうか、世界をお救いください……』
プツン。
オウカからの通信が途絶えた。
「魔王! 貴様!!」
覇王が激昂する。
だが、マクマリスは冷たく告げた。
「ここにも敵の主力が迫っている。感傷に浸っている暇はない。……この大陸に、もう逃げ場などないのだ」
覇王はマクマリスをしばらく睨みつけていたが、やがて乱暴に手を離し、ガエサルに通信した。
「……ガエサル、準備しろ。間もなくだ」
『いつでも行けます』
覇王は、暁月がいるはずの南の空を一度だけ見つめ、そして前方の湖へと視線を戻した。
その時を、静かに待つために。
【次回の予告】
「父の背中は、語らずして娘を守る。」
絶望のオウカに現れた、死してなお強き武人・源流。
サムライの武器を弾いた水晶の装甲を、アンデッドとなった剣聖が一刀両断する。
たった一人で敵の群れに立ちはだかる父と慕った男の背中。
それは娘として育てた暁月を逃がすための、最後の輝きだった――。
一方、主戦場の湖では、覇王と水竜による「雷の檻」がついに発動する。
水面を奔る数億ボルトの閃光。沸騰する湖。
雷属性の有効性が証明された今、覇王アンドレアが全軍突撃の号令を放つ!
沈黙の守護者、散る。そして反撃の雷鳴。
第43話は、明日の21時40分更新です!
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