第126話:その魔王は深淵の心臓に星を砕く雷光を放つ。~聖者が紡いだ命を懸けた絶対の盾~
【前回までのあらすじ】
船外上空では、海割りを維持し無防備になったディネルースへ特攻を仕掛ける敵に対し、因縁の相手である覇王アンドレアが壁となって立ちはだかる!
一方、船内では老魔導師ザルティムが放った規格外の禁術『終末の赤』により、ついに敵の頭脳『マザーコンピューター』が空間ごと蒸発! 魔力を使い果たしたザルティムを抱え、ウルスヌスたちは溶けた天井の大穴から弾丸のごとく船外への脱出を果たす。
目標破壊と仲間の生還の報告を受けたマクマリスは、いよいよ一国サイズの巨大な心臓『動力炉』の爆破――メインディッシュへと静かに手をかける……!
禍々しい赤い光を脈打つ、巨大な動力炉の足元。
マクマリス、クリアの長老、源流、アルフィリオンの四名は、暗がりの中で身を潜めていた。
依然として、周囲の広大な空間に敵の気配は全くない。すべての戦力は、マザーコンピューター側や船外の迎撃に回っているようだ。
ズズズンッ……!!
突然、遠くで発生したくぐもった爆発音と共に、一国サイズを誇る母船の船体が大きく傾いた。
「なんだ? 地震か……」
アルフィリオンがよろけながら床に手をつく。
「いや……カーラたちが、目標であるマザーコンピューターを破壊したのかもしれないな……」
マクマリスが、遥か上層の暗闇を見上げながら推測した。
「いよいよか」
源流が、鋭い呼気を吐いて刀を正眼に構え直す。
マクマリスは、三人を振り返り、これからの過酷な脱出計画を告げた。
「動力炉を破壊後は、下降に利用した巨大リフトは衝撃で崩落し、恐らく使えなくなる。ここから西へ『二百キロメートル』先に、船を隔てる分厚い内壁がある。……我々はその壁を魔法と物理で突き破り、直接船外へと脱出する」
「二百キロメートルだと? 正気か!?」
アルフィリオンが目を見開いた。
「この空間には幸い、遮るような壁や障害物がない。見通せる範囲までなら、私の『転移魔法』で一瞬で移動できる。転移を連続して繰り返せば、そんなに時間をかけずに内壁まで行けるはずだ」
「おいおい……。動力炉を破壊されたことに気づいた何百万という敵が、殺意を剥き出しにしてわんさか押し寄せてくる中、呑気に転移を繰り返せるのか?」
アルフィリオンが顔を引きつらせる。
「転移魔法の詠唱中は、私は全く動けず戦えない。……貴様らが私の『壁』になって、敵を寄せ付けさえしなければ、大丈夫だ」
「無茶を言う……。ちなみに、一回の転移で、どのくらい距離を移動できるんだ?」
「明るくひらけた場所であれば、数キロから十キロは問題なく移動できる。……ただ、こうも暗いとな。見通しが利かず、座標の固定が難しい」
「だったら、私の魔法でこの空間一帯を真昼のように明るくすればいい。貴様ができないなら、私がやってやるぞ」
アルフィリオンが手に魔力を集めようとする。
「愚か者」
マクマリスが冷たく一蹴した。
「暗闇の中で光を灯せば、敵に『我々はここにいます』と居場所を教えるようなものだぞ。……数百の敵を闇に紛れてやり過ごすのと、数万の敵が光に群がって殺到するのと、どちらがいい? 好きな方を選べ」
「ぐっ……」
アルフィリオンは忌々しげに舌打ちをし、魔力を霧散させた。
その時、マクマリスのイヤーカフに、カーラからの思念が飛び込んできた。
『魔王様。マザーコンピューターを、ザルティムの魔法で遠距離から破壊しました。完全に破壊できたかは未確認ですが、私たちは天井を突き破って、無事に船外に脱出しました!』
マクマリスは、フッと安堵の息を吐き、労いの思念を返す。
『……よくやった。怪我がないなら、そのまま船外での掃討戦に加われ。こちらも、メインディッシュを片付ける』
◇
「……長老。準備はいいか?」
通信を終えたマクマリスは、隣に立つ老エルフに静かに問いかけた。
クリアの長老は、これから眼前で『半径二キロメートルを木っ端微塵にする』というデタラメな雷爆弾を起動するとは思えないほど、穏やかな顔をしていた。
「ふぉっふぉ。ああ、いつでも構わんよ」
「起動したらすぐに転移させるが、先ほども言った通り、この薄暗い空間ではそこまで距離は稼げない。安全圏までは到底飛べないだろう。……爆発の瞬間、長老の『結界』だけが頼りだ。我々の命、預けるぞ」
「うむ。……これからの時代を生きる若者の未来を守るのが、年寄りの役目じゃからの」
長老は、慈愛に満ちた目でマクマリスを見つめ、深く頷いた。
マクマリスは、亜空間収納の魔法陣を開き、ヘギル作の凶悪な兵器『雷爆弾』を重々しく取り出した。直径一メートルの金属球が、床にゴトリと置かれる。
そして、マクマリスは即座に転移魔法の詠唱を開始した。
「みんな、私に手を置け。絶対に離すな」
源流が左手を、アルフィリオンと長老がそれぞれ手をマクマリスの肩や背に触れる。
三人の手が触れていることを確認し、マクマリスは一切の躊躇いなく、金属球の中心にある『赤いボタン』を強く押し込んだ。
そして、起動した爆弾を、巨大な動力炉の基部へと向かって力強く転がす。
ヒュウウウウゥゥゥゥンッ……!!
金属球が即座に耳障りな高音を発し、表面の魔導回路から眩い青白い光を激しく放ち始めた。
「飛ぶぞッ!!」
マクマリスは、自身の体内の魔力回路を限界まで焼き切るような勢いで魔力を暴走させ、転移魔法を強制発動させた。
シュンッ。
しかし、暗がりのため目標を定めにくく、一キロメートル先の西側の床にしか転移できなかった。爆心地の有効範囲内だ。
転移を終え、四人の足が床についたその瞬間。
クリアの長老が、凄まじい気迫と共に両手で杖を床に突き立てた。
「大地の精霊よ……絶対の盾となれ! 『結界』ッ!!!」
ドォン!という音と共に、長老の全魔力と生命力を編み込んだ、分厚く、幾重にも重なる緑色の光の壁が、半球状に四人をスッポリと包み込んだ。
その、次の瞬間。
カッッッ!!!!
視界が、完全に白一色に染まった。
音すらも置き去りにする、次元の違う衝撃。極限まで圧縮された莫大な雷魔力が炸裂し、分厚い装甲に覆われた閉鎖空間の中で逃げ場を失った破壊のエネルギーが、荒れ狂う嵐となって四面八方に暴れ回る。
「ぐおおおおおおおおおっ!!!」
光の壁を支える長老が、血を吐くような悲鳴を上げた。
メキッ、ミシィィッ!!
数十重に張られた強固な結界が、超高温のプラズマと衝撃波を浴びて、外側から次々とガラスのように割れ、悲鳴を上げていく。
結界越しでさえ、床の強固な装甲に無数の亀裂が走り、肌をジリジリと焼くような殺人的な熱波が押し寄せてくる。
そして、その直後だった。
ズゴオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!
雷爆弾の直撃を受けた巨大な『動力炉』が、ついに限界を迎え、内包していた莫大なエネルギーを撒き散らしながら『大誘爆』を起こした。
世界が、ひっくり返った。
都市一つを覆うほどの分厚い隔壁がひしゃげ、母船という空間全体が、星の終わりを思わせるような尋常ではない激震に見舞われる。
「うおっ!?」
激しい揺れに立っていられず、四人が硬い床に叩きつけられる。
長老の結界が最後の数枚まで削られながらも、凄まじい爆風と鉄の破片が頭上を駆け抜け、至る所の装甲にさらに深く、巨大な亀裂を走らせていく。
ウウウウウウウウウウウウッ!!!
やがて、網膜を焼く光が収まり、船体を揺らす激震が少しずつおさまっていくと……。
暗闇に戻った最深部には、崩落していく残骸の音と誘爆音、そして母船の死を告げるかのような、けたたましい非常事態のサイレンだけが、虚しく鳴り響いていた。
【次回の予告】
「『何度、私を助ければ気が済むのか……』長老の尊き犠牲と、決死の連続転移!」
動力炉の大誘爆からマクマリスたちを守るため、全生命力を結界に注ぎ込んだクリアの長老。
ひび割れた肌と消えゆく命の中、長老がマクマリスに遺した最期の言葉は……かつて前回の世界で彼を庇って死んだ時と、全く同じものだった!
時間軸を超えて繰り返された長老の自己犠牲と深い慈愛に、マクマリスは血が滲むほどの悲痛な思いを噛み締める。
しかし悲しむ間もなく、母船の崩壊が始まる! ララノアの助言を受け、敵に居場所を知らせるリスクを承知で光の魔法を放ち、連続転移による一気脱出を試みるマクマリスたち。
だが、暗闇を照らしたその瞬間、無数の『赤い眼』が彼らを見下ろしていた……!
託された未来と、崩壊する母船からの脱出。
第127話は、明日の21時40分更新です!
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